辻さんの人には言えない事情   作:忍者小僧

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45 検証②

学園艦の統廃合は可能かどうか。

この問題に関して、学園艦で暮らす人々の陸での居住先や職業のあっせんがテーマになるだろう。

子供たちは、本籍地あるいは住民票のある地域の陸の学校へと再配分するのが妥当だ。

だが、子供たちもそれぞれ目的・目標があって学園艦の学校を志願したものと思われる。

となれば、学力、あるいは選択科目の有無など、さまざまに配力が必要になるかもしれない。

統廃合後も残される学園艦への移行という形も考えておく方が良いだろう。

また、学園艦で暮らしているわけだから、居住に関しても配慮が必要になってくる。

次に、学生以外の、学園艦で暮らす人々だ。

彼らに関しては、住居だけでなく、仕事も失うことになる。

それをどうするか。

恐らくは、学園艦統廃合案が世に出れば、「今の暮らしはどうなるんだ」という声が出てくる。

だが。国が職業のあっせんということは難しい。

あくまでハローワークという決まった窓口があるし、学園艦で暮らす人々にしても、職種は様々だ。

その一人ひとりの希望を聞いて、手厚いケアを施すとなると、莫大なお金が必要になってくる。

 

ふむ……。

 

僕は頭を掻いた。

これはなかなか難しいぞ。

はっきり言って、学園艦の統廃合というのは、学校の統廃合ではなく、都市を一つ潰して、他の都市へと人を移動させるというイメージに近い。

都市間の合併はよくある話だが、居住区域がごっそりとなくなるというような話は前例がない。

とりあえず、『課題あり・住環境と職の保証をどうするか』と、テキストを打つ。

 

次は、学園艦統廃合の効果だ。

○効果

と打つ。その下に、

・学園艦数が減ることにより、維持管理費の圧縮

・人口の再分配により、過疎化地域の活性化

と打ち込む。

…………ここまでは、篠崎代議士の言っていた通りのことだ。

しかし、課題が思ったよりも多い以上、たったこれだけで「確実なメリットがある」と大手を振って論じられるだろうか。

維持管理費用はもちろん、学園艦がある以上毎年計上させるものだから、数が減れば毎年予算に余裕が生まれる。

学園艦の人々が陸に上がれば、それだけ人口密度を上げることもできるだろう。

だが、それにしたって、居住区域の強引な指定はできない。

学園艦を統合して、新しい、より豪華な学園艦を作るとしたら、魅力的だが、それこそ建造コストがかかってくる。

はっきり言って問題だらけだ。

 

僕はテキストデータを保存し、プリントアウトをした。

簡単に流れを書いて、部下にデータ収集をさせるつもりだったが、少し難しいことになりそうだ。

庁内の知人に、すこし意見を伺った方が良いかもしれない。

だが慎重にやらねばならない。

これはまだ極秘のプロジェクトだ。

どのように意見を聞くのが良いだろうか……。

とりあえず僕は、都市整備課に電話をすることにした。

課長の上田は以前からよく知っている男だ。

 

「はい。都市整備課課長席です」

「学園艦教育局長の辻です。上田君はいますか」

「少しお待ちください」

 

30秒ほど待つと、上田君が出た。

 

「上田です。辻さん、お久しぶりです」

「少し、君に教えてほしいことがあるんです。今日、お手すきの時に局長室に来ていただけませんか」

「わかりました。今から会議があるので、そのあとにでも。2時間ほどのちに伺います」

「よろしくお願いします」

 

続く

 


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