辻さんの人には言えない事情   作:忍者小僧

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お疲れ様です。
いつも読んでくださってありがとうございます!
謝らなければならないことがございます。
前話第43話で書いたことについては、この数日で国家公務員の方と話す機会があり、せっかくの機会なのでと法案提出や委員会審議のやり方に関していろいろと教えてもらいましたところ、地方自治体とはかなり違うことが判明しましたので、おかしいところは直しました。
具体的には、地方自治体の委員会のように委員長は発言権がなくあまり主導権を握れないわけではなく、むしろ強い権限を持つ。与野党議論対決というよりも、与野党の数で決まるので、会派で動く地方自治体とはパワーバランスの在り方が違う。なので、与党内をしっかりと納得させられて議案としてあげることができるのかが重要になる。
この二点を踏まえて、修正いたしました。
ご迷惑をおかけいたしまして、申し訳ありません。


44 検証 ①統廃合の背景

 

 

その日から、さっそく資料制作と調査が始まった。

資料に関しては、各委員に説明に回る際に問いかけられるであろう疑問・質問をしっかりと想定して制作しなくてはならない。

そのたたき台を自ら作ることにした。

説得力のある資料にするためには、「学園艦を統合しなければならない背景」「学園艦の統合は可能なのか」「それによってどのような効果がもたらされるのか」をしっかりと記す必要がある。

と同時に、「統廃合した場合のデメリット」も、記載はしないが、考えておかなくてはならない。

向こうから「こういうデメリットは考えていなかったのか?」と突っ込まれたときに即座に答えることができるようにだ。

まず、統合しなければならない理由だが、これは容易に理由が付く。

というか、なんとでもなる。

とりあえず、テキストファイルに仮でタイトルを打ち込む。

 

『学園艦数・適正化計画(案)』

 

統廃合とせず、適正化としたのは、廃するという文字を使うよりも、正しくするという文字を使うほうが、印象が良いからだ。

さと。

まずは簡単に、背景から考えていこうか。

 

○背景

・人口の減少傾向

・学園艦の維持管理費

・陸の学校との維持費の比較

・海外での先進事例はあるか?

・陸の学校と学園艦の実績比較

・各学園艦の就学人口の推移

・施設規模と就学人口

 

と箇条書きを作った。

 

『人口の減少傾向』は簡単だ。

減少傾向にあるのは間違いなく、データを貼りつければよい。

 

『学園艦の維持管理費』については、予算・決算を見れば大まかな数字はわかるし、探せば、各艦の数値もおそらくは出てくるであろう。

 

『陸の学校との維持費の比較』。

これも、おそらくはある程度の大まかなデータであれば出てくるはずだ。

学園艦と陸の学校の比較の場合の規模をどう揃えるかは少し考える余地があるだろう。

生徒数で単純に揃えてもいいが、学園艦の場合は、それそのものが一つの都市核のようになっている。

経済規模で考えるならば、単純に「学校」と「学園艦」を比較することはおかしい。

むしろ、「同規模人口の小都市」と「学園艦」で比較する方が正しいだろう。

だが、これをやってしまうと、学園艦がお荷物であるという「答えありきの作文」をすることは難しくなってしまう可能性がある。

少し考えどころだ。

「学校」と「学園艦」を比較するデータを作成すれば、目に見えて「学園艦」の方が維持管理費がコスト高だ。

「こんなにお金がかかるんです」

と言うことができる。

だがもしも、しっかりとした委員がいて

「ちょっと待ってくれ。学園艦はそれだけで一つの都市機能を持っている。学校と比較するのはおかしい」

と突っ込まれたら逆にこちらが不利になる。

さて、どうするか……。

とりあえず、僕は、『保留』と書く。

 

次に、『海外の先進事例』だ。

実際には全く状況や経済構造が違ったりして、単純な参照にするには危なかったりするのだが、他人を説得させるときに非常に「使える」手段だ。

今は世界的な不況だから、おそらく他国にしても様々な歳出カット策の中で学園艦の統廃合も辞令があるのではないだろうか。

これは後でしっかりとチェックして、データを手に入れればよい。

 

では、『陸の学校との実績比較』はどうか。

実績を何に絞るかにもよるだろうが、とりあえず学力とスポーツ・文化活動で良いだろう。

もしも、これが陸の学校と大差が見受けられなければ、大きな説得力を持つ。

高コストに対して教育上の効果が認められないと言うことができるからだ。

だがどうだろうか。

学園艦は古くからあるものではあるが、先進的な教育法を取り入れている校もある。

データが出てこないと何とも言えない。

むしろ、学園艦の方がむしろ実績として秀でていた場合、逆に突っ込まれる要素となってしまう。

そこをどう切り抜けるかだ。

また、海の上と言うある種の制限された空間で育てられることによって、非認知能力の分野で、子供たちに何らかの影響があることは間違いない。

もしかして、学園艦で育った子供たちと陸の学校で育った子供たちの、将来の年収などの後追い比較をすれば、有意な差が認められるかもしれない。

そういったデータや研究がないか調べてみよう。

ただ、いずれにせよ二つとも、むしろ学園艦の方が優れている場合がある。

その場合は、データ自体載せないか、何らかの改ざんをする必要があるかもしれない。

 

『各学園艦の就学人口の推移』

これは簡単だ。

人口減少により、当然のごとく学園艦の就学人口も減ってきている。

減少傾向にあるというはっきりした数値が出てくるはずだ。

ただ、この推移が、陸の学校よりも緩やかな傾向であれば、むしろ陸の学校よりも優れているということになってしまう。

 

とりあえずは、最後に『施設規模と就学人口』だ。

各学園艦の学校施設規模と、それに対する就学人口の比較。

これは教室の広さや数と人口推移で比べればいいだけだ。

データは簡単に出てくる。

 

ここまでテキストを打ち込んで、一息をついてコーヒーを口に運んだ。

陸の学校と比べた場合に「学園艦が劣っている」と証明することは難しいかもしれない。

学園艦の統廃合は、単純に『コストが高すぎる』という一点に帰結させる方が良いのかもしれない。

陸の学校との比較ではなく、「陸の学校は統廃合の流れはある。むしろ、さらに金がかかる学園艦も、統廃合すべきではないか」という論調の方が良いだろうか。

そのためには、『学園艦の維持管理コスト』と、『設規模に対する就学人口』のデータは必須だ。

次に、学園艦の教育上のデメリットも調べておく必要があるだろうか。

もともと、先進的な教育のために導入された制度であるので、デメリットの強調されたデータや論文があるのかどうか。

学園艦に乗って生活しているというのは、子供たちにとってはある種の寮生活のようなものかもしれない。

学園艦から出ることは寄港時以外は容易ではないのだから。

だが、都心部で暮らすよりも不便な状況で暮らすということが、子供たちの教育上のデメリットかと言えば、むしろそうではない。

実際、全国学力テストの順位は、都道府県で並べれば、都心部よりも、田舎の方が優れている場合が多々ある。

さて、明白なデメリットは出てくるだろうか……。

 

次に、学園艦の統廃合は可能かについて考えてみることにしよう。

 

続け

 


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