死にたくない凡人の物語   作:はないちもんめ

8 / 30
人気がすごい子の登場


0.7 ノリで行動しすぎると大抵ロクなことにならない

俺は、あの後なのはを家まで送って、いつもより大分遅くなったが、なのはのお母さん(知ってはいたが、この人もめちゃくちゃ美人だった)から貰ったシュークリームを食べながら、いつもとは違う帰宅の道を歩んでいた。その道でジュエルシードを発見した。

 

「嘘やん」

 

思わず口から思考が漏れてしまった。だって、考えてもみてほしい。なのはや管理局、フェイトたちがそれこそ血眼になって探しているジュエルシードを原作知識を多少持っているだけのジュエルシードを探す気もない凡人が一つどころか二つも見つけることができるなんて誰が思うだろうか。ここまでいくと何らかの世界の意思を感じざるを得ない。もしかして、世界は俺に何らかの役目を与えたのではないだろうか。それこそ、俺にしかできない何かを。

・・・・・・・・・・・・・・・・ただの運ですね、うん。

 

「さて、なのはに連絡をするか」

 

ジュエルシードに触ることもなく、俺はなのはに連絡をするために携帯を取り出す。一応言っておくが、俺にジュエルシードをなのはやクロノの所に持っていくという選択肢はない。下手に触ってまた何処か別の場所に飛ばされるのはごめんだ。なのはも言っていたが次も無事で済む保証はない。

ちなみに、念話ではなく携帯で連絡を取ろうと思ったのは、単純に先程携帯の番号を交換したばかりなので、その方がなのはが喜ぶのではないかと思ったからだ。

 

しかし、なのはの番号に電話をする直前に

 

 

 

「そのジュエルシードから離れて下さい」

 

 

 

俺の前に漆黒のデバイスを持ち、黒いマントに身を包んだ金髪ツインテールの黒い服の魔法少女が現れた。

てゆーか、ぶっちゃけ

 

「フェイト・テスタロッサ!?」

 

思わず食べていたシュークリームを口から吐き出してしまった。なんでこいつこんな所にいるんだよ!?

いや、冷静に考えてみればそんなにおかしい話じゃないか。フェイトもジュエルシードを探しているし、なのはたちや管理局が頑張ったおかげでフリーのジュエルシードはもうほとんどないはずだ。

ただ、どっちにしろ今日俺がいつも通りの道を通って帰っていればこんなことにはならなかった訳で。

ここ最近の俺の運の悪さを考えて、思わずため息が出る。マジで一度お払いに行ったほうが良いかもしれない。

 

「なんで私の名前を・・・?」

 

「なのはから聞いた」

 

「なのは・・・あぁ、あの茶色い髪の女の子」

 

なるほどといった顔のフェイト。良かったな、なのは。名前は憶えていてくれたみたいだぞ。

 

「なら、話は早い。事情は聞いているんでしょ?早くどいて」

 

バルディッシュを俺の方向に向けて命令してくるフェイト。こうして対峙してみると、改めて分かる。マジで圧倒的な力量の差がある。ゾウとアリの戦いなんて可愛いもんじゃない。しかし、ただ渡すのもなんだかなー。俺が考えていると、それをフェイトは無言の拒否と受け取ったのか、バルディッシュを構えると

 

「どかないの?なら、力ずくでいく」

 

ブンっとフェイトがバルディッシュを一振りするだけで、俺を強烈な向かい風が襲う。余りの風の強さに思わず尻餅を着く。無抵抗な一般ピーポーに攻撃なんかしてんじゃねぇっと思いつつ、立ち上がる。すると先ほどまで感じられた俺の手の中にあった感触が感じられないことに気付く。見てみると、俺の手の中にあったシュークリームがない。辺りを見渡すと俺の背後の壁で先ほどまで美味しそうな外見をしておられたシュークリームさんが見るも無残な姿を晒しておられた。

 

「あぁーーーー!!!!」

 

「なに!?どうしたの!?」

 

突然奇声を上げた俺に驚いたフェイトが俺に質問してくる。

 

「俺のシュークリームがーーー!!」

 

へなへなと如何にも私は傷つきました感を装ってその場に蹲る。自分でも何をやっているのか良く分からんが、幸か不幸かさっきまで感じられた緊張感は俺が仕掛けたこのコントによって上手い具合に霧散している。ならば、今はこの勢いのままに会話を続けよう。

 

「え?そんなこと?」

 

「そんなことだと!?あのシュークリームがどれだけ美味しかったかお前には分からないのか!?」

 

ずいっとフェイトに詰め寄る俺。傍から見たらただの不審者である。

 

「えと・・・ごめんなさい。弁償するから」

 

「弁償だと!?だめだ、俺はあのシュークリームが良かったんだよ」

 

「じゃあ、どうすれば良いの?」

 

「決まってるだろ」

 

ふふんと笑って俺は言う。

 

 

「罰として今からフェイトは俺と肉まんを食べるんだ」

 

・・・・・え?俺は何を言ってるんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほれ。買ってきたぞ。運が良かったみたいで、まだできたてのアツアツだぞ」

 

「・・・ありがとう。じゃあ、代金は私が」

 

「いいって。ここは男として俺に格好をつけさせてくれ」

 

「でもそれじゃあ、罰にならないんじゃ」

 

「そんなこと言ったか?まあ、いーじゃん。細かいことは気にすんな。」

 

その俺の言葉に、はぁーとため息をつくフェイト。何か呆れられてる気がする。最近こんなのばっかだな。

 

先程の俺の言葉によってフェイトと肉まんを食べることになった俺は、フェイトにジュエルシードを渡して近くの公園で待っていてもらっている間に肉まんを買ってきた。しかし、何でこんなことになったんだか。100%俺のせいですね。分かります。

 

「さあ、冷めないうちに早く食べちゃおうぜ。冷めたら美味しくないし」

 

「あ、うん」

 

あむ、と肉まんをかじる。うめぇ。肉汁が肉の間から染み出してくる。ちらりと横目でフェイトのことを見てみると心なしか若干幸せそうに肉まんを食べている。こうゆう所を見ると、やっぱりまだ9歳の女の子なんだなと感じる。

 

「ほれ。ジュースも買ってきたから良ければ飲め」

 

ポイっとフェイトにジュースを投げる。

 

「わ!?あ、ありがとう」

 

その後は暫く無言でお互い肉まんを食べ続けた。

 

「・・・何も聞かないの?」

 

「何を?」

 

「私の目的とか、ジュエルシードは何処にあるかとか」

 

あの茶色い髪の女の子は色々聞いてきたからとフェイトは聞く。まあ、ぶっちゃけ知ってるから聞かないだけなんだけど。こーなったのは、完全にノリの結果だし。

 

まあいいか。適当で。

 

「聞いたら答えるのか?」

 

「・・・」

 

「だろ?なら良いさ。食事に誘ったのは腹が減ってただけだしな」

 

それに俺はクロノたちみたいな管理局員じゃないし、なのはたちみたいな正義の味方でもないしなと言う。

 

「そーなの?」

 

意外という顔でフェイトは尋ねる。

 

「もち。俺はまず自分が第一の人間だよ。周りが危ないって分かっても自分に危害が及ぶ可能性があるなら真っ先に逃げ出すしな」

 

だからむしろ、なのはたちとは正反対と脳裏にティーダさんのことを思い浮かべながら言う。

そう。俺はあの人が死ぬと分かっているのに何もしないで見殺しにするつもりなのだ。良く見てるだけの奴が一番悪いと言うが、その論理でいくと俺は極悪人もいいところだろう。

 

「・・・そんなことないと思うけど」

 

「何で?」

 

「自分でそうゆう風に言う人はそんなことしないよ。それにさっき喋っている時の君は苦しそうな顔をしてたよ?」

 

マジか、自分ではそんなこと感じていなかったんだが。てか、9歳に慰められてる俺って一体・・・

 

「ど、どうしたの!?何で急にそんなに落ち込んだの!?」

 

「いや、少しこの状況が情けなさ過ぎてな・・」

 

「意味が分からないんだけど!?」

 

急に落ち込んだ俺に慌てるフェイト。まあいい、ここまで情けないんなら更に情けなくなっても一緒だと顔を上げてフェイトに質問する。

 

「フェイト。質問があるんだけどちょっといいか?答えられないなら答えないでいい」

 

「へ?う、うん。分かった」

 

「例えば、フェイトが絶対にサイコロで3が出したいとするだろ?そこでフェイトは絶対に3が出るサイコロを使うか?それとも3が出るかどうか分からないサイコロを使うか?」

 

「何その質問!?・・・多分、絶対に3が出るサイコロを使うと思うけど」

 

そりゃそうだよなと俺が頭を掻いていると、「ただ・・」とフェイトが続ける。

 

「場合にもよると思う。3以外が出たら絶対に死ぬとかなら3を選ぶしかないけど、もしそうじゃないなら、試してみる価値はあると思う」

 

もしかしたら5が出たら、3よりもいい結果が待っているかもしれないよとフェイトは言う。

 

・・・すげーな、こいつ。本当に9歳かよと俺が絶句しているとフェイトは更に続ける。

 

「サイコロに関係なく、1番大事なのは自分がどうしたいかじゃないかな?少なくとも私はそう思う」

 

だから私は・・とフェイトは言ったが、小さすぎて俺の耳には届いていなかった。

 

自分がどうしたいか・・・か・・・

 

「ありがとな、フェイト。少しスッキリしたわ」

 

「へ?ど、どういたしまして?」

 

今の質問は何だったんだろうと言うかのようにフェイトは顔をかしげている。悪いがそれは秘密だ。

 

「んじゃ、もう暗くなってきたし、そろそろ帰るか。フェイトも帰るだろ」

 

「う、うん。戻るけど」

 

じゃあ、また今度なと言って帰ろうとするとフェイトが呼び止める。

 

「何だよ?」

 

「・・・私は次に会ったらあの茶色い髪の女の子と戦うことになると思うけど、それでもいいの?」

 

知り合いなんでしょ?という言葉を言外に含ませてフェイトは聞く。

 

「まあ、そーなるだろな。俺は二人の無事を祈ってるよ」

 

そう言いながら俺は俺の胸の前で手を組む。

 

「・・・変な人」

 

「そーゆーことは本人の前で言うんじゃねえ」

 

そーゆーことは本人がいないところで言うもんだと言いながら俺はフェイトに背を向けて歩き出す。

・・・足取りは来る前よりも軽かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・本当に帰っちゃった。

訳の分からないことを言って、私を誘ったと思ったら先ほどのジュエルシードを取り返すこともなく、尋問するでもなく、ただ肉まんを食べて、変な質問をしただけであの少年は帰っていった。

フェイトには何をしたかったのかさっぱり分からない。だが、唯一分かっていることがある。

 

「変な人」

 

その変な人とこれから長い付き合いになっていくのだが、そんなことフェイトには知る由もない。




自分で書いといて何だが、この主人公戦闘しないなー

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。