ボッチな美少女は孤高のボッチを見て育つ   作:Iタク

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とある友人の恋文(ラブレター) ①

「あ、そう言えば自己紹介まだだったねっ!」

 

 雪ノ下さんと比企谷くんが何やら言い合っているとき、私に話しかけてきたのは今日初めて会った女の子だった。

 

「あっ、うん。そうだったね、えっと…橙山冬華?です。よろしくお願いしますね。」

 

 またしても疑問形……、何回言っても慣れないなぁ。

 それにしても、入学や転校してからの数日間での自己紹介の機会の多さはさすがに参ってしまう。目立つことが苦手なタイプにとって自己紹介は学校イベントではトップレベルで嫌いなことだと思う。

 例えどんなに暗い人でも、どんなに地味な人でも、その瞬間は全員の視線が自分に集中するからだ。しかもその行為が、授業が始まると各教科担当の先生に1回必ずしないといけないから最低6.7回は皆の視線が集まるという事だ。

 ……全く、何故転校などしたのだろうか私は…

 

「私は由比ヶ浜結衣だよ、よろしくねっ冬華ちゃん!」

 

 由比ヶ浜さん、か。

 どうやらこの人は雪ノ下さんや比企谷くんとは違って普通の高校生といった印象だ。

 

「あの……由比ヶ浜さん、今日はなんで朝から集合したのかな?」

 

 比企谷くんと雪ノ下さんに聞こうとしたが、あの2人はまだ何か言い合っている。由比ヶ浜さんがそれにあまり触れないことから日常的にやっている事だと予想できる。少し羨ましい関係性だなぁ…

 

 

 …………羨ましい?

 

 

「あーそれ!なんかね、依頼があったとかで休みだけど部活あるってゆきのんからメールあって。そういえば冬華ちゃんの連絡先聞いてなかったね、交換しよっ!」

「え、あっ、うん。ちょっと待ってね…今携帯を…」

 

 この人は人付き合いに長けてるなぁ。

 私はあまり人と群れることは好まない。上辺だけの人付き合いなどまっぴら御免だからね。

 しかし、メールでのやり取りなどに関しては別に嫌いではない。情報の共有は大切だと思うし、何よりスルーしても何も問題ないからだ。そして恐らく…

 

「ねぇ、由比ヶ浜さんは、比企谷くんの連絡先も知ってるの?」

「ふぇ?ヒッキーの?うん、知ってるよ。でもその時ヒッキー、普通に私に携帯渡してきたんだよ!私ビックリしちゃった。」

 

 やっぱり、比企谷くんも同じ考えだったようだ。

 こんな唐突な質問でも笑顔で答えてくるあたり、雪ノ下さんと同じくらいモテてそうだね由比ヶ浜さんは。

 あと、さっきからあだ名のセンスが酷い……

 

「さて、挨拶はすんだかしら。」

 

 そう言った雪ノ下さんは何やら満足気な表情だった。

 あー…比企谷くん………お疲れ様。

 

「はぁ……つーか、俺なんも聞いてないんだけど。」

「ええ、だって言ってないもの。」

 

 流石は雪ノ下さん、ある意味抜かりないですね。

 

「あれ?私メールしたよねヒッキー。」

「え?ああ、あれお前だったのか。スパムメールの差出人かと思ってた。」

「何それヒッキー酷い!?」

 

 比企谷くんさすがに酷いよ……いくら何でも間違えるわけ…

 

  【♡✩∞♡ゆい♡✩∞♡】

 

 スパムメールの差出人にしか見えない?!

 

「おっ、集まってるな。もう橙山との挨拶はすんだかね?」

 

 そう言うとノックなしで平塚先生が入ってきた。

 案の定雪ノ下さんに「先生、ノックを…」と言われてきたが、すまんすまんと適当に流し、話を進めた。

 

「休日だと言うのにすまないね。橙山も、転校してきたばかりだと言うのに、来てもらって助かるよ。」

 

 今思えば、来なかった方が悪印象を与えることが出来たのではないかと少しばかり悔やんだが、まあここからいくらでもやりようはあるだろう。今は目先のことに集中しなければ。

 

「いえ、問題ありませんよ。部員揃って挨拶できるいい機会なので。それよりも、今回は依頼?があったようですが、、」

 

 そう言うと、先生は「入ってきたまえ」と恐らく依頼者であろう人をこの部屋に呼んだ。イマイチよく分からないところもあるが、一応ここは相談室のようなものだ、来る人もそれなりの悩みを持っていることだろう。現在進行形で自分のことで悩んでいる私には悩むことの辛さが嫌でもわかっていた。転校早々に休日出勤させられたとはいえ、こちらの事情で相手に不快な思いをさせるわけにはいかない。人付き合いが嫌いではあるが、それはそれ。部活動中なのだから、ここは切り替えて、相手に真摯な態度で────

 

 

 

「せんぱーい!お久しぶりです~♪」

 

 悩んで……辛いはず……だから…

 

「おっおお、なんだよ…一色か……はぁ…」

「なんですかその反応は!さすがに酷すぎませんか?!」

 

 依頼者はぷく~と頬をふくらませ比企谷くんに怒っていたが…

 さすがの私も比企谷くんの反応に賛同してしまった…。え、いやだって休日に相談しにくるってよっぽどのことだと思ったから……とりあえずさっきの私の良心返してくださいマジで。

 

「おっと、そちらの人は初めましてですね~、生徒会長の一色いろはですっ!よろしくお願いしますね♪」

「あ、うん。橙山冬華?です。よろしくね一色さん」

「転校生だそうで。分からないことがあればバンバン聞いてくださいねっ!先輩に!」

 

 とりあえずあなたが生徒会長になった経緯とかそのへんのことを聞きたいねホントに。

 

「いやお前が聞いてやれよ生徒会長。」

「え~、でもなったのは無理矢理っていうかぁ~、半ば、というか全般的に先輩のせいっていうかぁ~」

「橙山、なんでも聞いてくれ。」

 

 なんという脅し!?あの比企谷くんが後輩に負けるとは…

 

「そっ、それじゃあ、依頼について聞きたい、かな~?」

 

 とりあえず話を進めたかったので、少し強引に依頼の方へ話題を変えた。

 

 

「あ、そうですね。といっても、正確に言うと、私の依頼じゃないんですが……」

「え、お前のことじゃねぇのか?」

「はい、実はですね────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  * * * * * * *

 

 

 

「「「ラブレター?」」」

 

 

 私含め女子3人が声を揃えた。

 

「はい、私のクラスメイトがですね、好きな人ができたーって言ったので、じゃあ告白するの?とちょっと軽い感じで聞いたんですよ。まあ緊張しちゃうから無理って言ってましたけど…で、ラブレターでも書いたらいいんじゃない?って言ったらですね……」

「本当に書いてきちゃったんだね。その子。」

 

 段々と声が弱々しくなってきた一色さんに気づいて、由比ヶ浜さんが代わりに結論を言った。

 

「そのラブレターを代わりに渡してほしい、という依頼かしら?ごめんなさい、そういうことであれば協力は出来ないわ。」

「…………」

 

 比企谷くんは黙ったままだ。しかし、断ることには賛成なのだが、何か恋愛絡みであったのだろうか。由比ヶ浜さんもそれに反対することなく申し訳なさそうな顔をしていた。まあ、あまり深くは入るつもりは無いが少し気になる。

 

「あ、いえ。そうではなくてですね。ラブレターのことを言ったのは私ですし、代わりに私が出したんですよ。」

「へー!それでそれで!どうなったの!?」

 

 さっきまでとは急変して、由比ヶ浜さんが興味津々になっていた。やっぱり女子は好きなんですねこういう話。いや私も女子だけど。

 

「え~っと………それがですね………」

 

 ……どうやらここからが本題のようだ。それに気づいた由比ヶ浜さん以外の人は一色さんの話に集中した。

 

 

 

「……手紙が渡せてなかったんですよ。」

 

「「「え?」」」

 

 

 

 やっと問題点を知った時には、すでに紅茶が冷めてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 




今年最後の投稿です。

引き続き、ご閲覧ありがとうございます!
もっともっと評価が高くなるよう、これから面白くしていきますので、これからもよろしくお願いします。

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