「急で悪いのだけれど、付き合ってもらえないかしら?」
うわぁ!同性から告白されちゃった☆
なんて考えは一瞬でなくなった。さすがの私でもそんなこと本気では思わない………
………いやホントだよ!?
学級委員とかそんな感じの役職なのだろう、転校生をサポートするように先生から言われたのかな?先生絡みなら断るのは流石に難しい。もしかしたらこの人も嫌々やっているだけでホントは面倒くさがっているだけなのでは?
もしそうなら尚更断れない。強制的にやらされていることを阻害するような行為は相手の反感を買う恐れがあるからだ。
「……いいですよ。どちらに行くのですか?」
なんか自然に敬語になってしまった……だってこの人なんか怖いんだもんっ!言葉といい、オーラといい、威圧感半端ないよ!
「平塚先…………生徒指導の先生からあなたを部室に連れてくるように言われているのよ。ここは大人しく従ってくれないかしら?」
あんた人にものを頼むの下手すぎるのでは………元気玉発動させるために地球人に手をあげるよう説得するサイヤ人の王子並に…
なんか一周まわって脅しに聞こえるというか脅されてるの私?今って尋問タイム?ここまでされたら色んな情報吐いちゃうよってだから記憶が無いんですって。
「わっ、分かりました。では放課後伺います。」
正直、会話を長く続かせるのはあまり好きではない。話せば話すほど相手に心を許しそうで怖い。記憶が無い今の状態でそう思うのだ。通常の私なら下手をすれば会話すらしなかったのかもしれない。
「ええ、ありがとう。では先に自己紹介を、私は雪ノ下雪乃です。」
……………
………………
………………………………あ、終わりなの?!
いや別にいいんだけど、なんかこう…〇〇部に入ってますとか、もうちょい情報くれてもいいと思うんだけど…。私だったらもっと…………うん、名前だけかな。ベストイズシンプル!雪ノ下さんいい自己紹介だZE☆
「あ、えっと……橙山冬華?です。ところで部室って、雪ノ下さんは何かの部活をやってるんですか?」
「まあ、それは来ればわかると思うわ。それと、自分の名前くらい堂々と言いなさい。」
「あっ、あはは………すいません…」
記憶が無いんですよ、なので自分の名前すら自信を持って言えません、なんて言っても変人扱いを受けそうで言わなかった。そもそも誰かに言う気すら起こらないんですけどね。
そんなことを思いながら、私は雪ノ下さんに放課後、部室まで同行したのだった。
一つ気づいたことがある………
この人絶壁なんだなぁ(どこが、とは言わない)………
そう思った瞬間寒気がしたのはただの気のせいだと思いたい……
* * * * * *
「おお雪ノ下、すまないな。急に頼み事をして。」
どうやら生徒指導の先生というのは、先ほど私を教室まで案内してくれた先生だったようだ。
「いえ、いつもここに来ているので何も問題ありませんが、橙山さんを呼んだ理由を聞かせてくれませんか?」
全くだよ…………何でこんな怖い人に連行されないといけなかったんですか……
「そのことなんだが、雪ノ下、一つ私から部長である君に依頼をしたいんだよ。」
……………依頼?
「……なるほど。で、その内容は?」
いやあのちょっと、え、何これ?部活で、依頼?
「転校生と言ってもただの転校生ではない。この学校始まって以来初めての転校で国際教養科へ入った生徒だ。彼女の優秀さは雪ノ下、君と肩を並べるほどと言ってもいい。しかし、特に勉学に力を入れているクラスだからな、あまり私からこのようなことを言いたくないのだが………」
「優秀ゆえに、橙山さんがクラスで孤立する可能性がある、ということですか?」
なんか急に話が進んでるんですけど……………なるほど。先生としてはそれを未然に阻止したいと…
それはそうと、私優秀なんですね。
「まあ、あくまで可能性の話なんだかな。用心するに越したことはないだろう。」
「なるほど、そういうことであればできる範囲で協力しましょう。」
「すまない雪ノ下、助かるよ。」
何となく話は掴めてきた。
恐らくこの部活はお手伝い屋みたいな感じなのだろう。だから先生から生徒へお願いをしている。
それと、部室の位置からしてあまり表には出ていない部活なのかもしれない。そう考えるとわざわざここまで連れてきたことにも納得がい…………いかないけど。
「そういうことだから橙山、何か困ったことがあれば雪ノ下…もとい、奉仕部を頼るといい。生徒同士の方が何かと相談しやすいだろう。」
生徒指導の先生なだけあって生徒のことを思っての事なんだろう。そして頼まれた雪ノ下さんも嫌な顔一つせずに協力してくれた。部活とは言え見知らぬ人の世話などめんどくさいに決まっているのに、凄い人だ。部長を任されるだけのことはある。
先生も、このようなケアをしてくれる教師なんてなかなかいないものだ。朝も、私のことを探してくれたしちゃんと注意するところはちゃんとする。教師の鏡のような人だ。
そんな2人からの提案を私は……
「いえ、そういうのいいので」
と、迷うことなく断った。
* * * * *
あ、まだ部室にいますよ。
「うむ…………どういうことかね?」
先生は怒っている表情を浮かべることもなく、私の意見を真剣な顔で伺ってきた。
「先ほど、クラスで孤立すると言ってましたが、私からすれば好都合なんですよ。友達とか、作れないわけじゃない。ただ作らないだけなんです。他人に合わせるだけの会話とか、いちいち相手の反応を気にしながら接しないといけない立場とか、色々がめんどくさいんです。なら普通に考えて一人でいることが1番効率がいいじゃないですか。なにをやっても自己責任だから他人の迷惑をかけずにすむし、休日とか一人で好きな様に過ごせる。だから友達なんてものは作らない。軽くイジメを受けて孤立するくらいが丁度いいのでさっきの依頼はなしということで。お気遣いどうもありがとうございました。」
言ってやった。しかしこれだけ適当なことをよく言えたね私。まあでもこれで完璧。邪魔されずに自分のことに集中できる。
そもそも自分の現状に今いっぱいいっぱいなんだから他人に構ってられないんだよね。良い人達だったけどこれだけ言ったらさすがに怒ってもう近づいてこないでしょ。これでおしまい、はいさいようなら…………
……ふと雪ノ下さんの方を見ると、「はぁ…」とため息をついていて、先生は眉間に手を当てて呆れた顔をしていた。
「………驚いたわ、彼以外にもこんなことを言う人がいたなんて……」
………彼?
「……いつかのあいつを見ているようだ…まさかここまで考え方が一緒とは…」
え、嘘。他にもそんな人いるの?!うわぁその人絶対同志だ。
「………雪ノ下、先ほどの依頼は破棄だ。」
「承知しました。」
「早速ですまないが、一つ依頼がしたいのだが。」
「……ええ、何でしょうか?」
先生は笑みを浮かべながら話し、部長さんは面倒くさそうに受け答えしている。この光景を見る限りろくな事が起きないことくらい私でも理解出来た。ちょっと、これって軽いイジメなんじゃない?ダメだよその人の目の前でひそひそ話しちゃ!気になっちゃうでしょ!?
「橙山冬華の、人格の矯正を依頼する。」
「はぁ…………二人目ですか…まあ、いいでしょう。承知しました。」
「という訳で橙山、君は今日から奉仕部に入ってもらう。異論は認めん。」
…………とてつもなくめんどくさいことになってしまった…
というか後半私喋ってないんですけど……
* * * * *
「はぁ………」
何故かわからないが、奉仕部とやらに強制入部させられてしまった……。簡単な説明しか聞いていませんが、私以外に雪ノ下さんを含め3人いるらしいです。
『ようこそ奉仕部へ、歓迎するわ。ちなみに私に以外にも部員がふた………1人と、備品が1ついるわ。転校初日からというのも酷な話だから、参加するのは明日からで構わないわよ。一応連絡先を交換したいのだけれど、いいかしら?』
おっと、3人じゃなくて2人と備品1つだったZE☆
その備品さんが私と同じって言ってた人かな?だとしたら今日で備品が1つ増えちゃったテヘッ♪…泣きそう。
などと思いながら連絡先を交換したあとすぐ教室にカバンを取りに戻り、下校することにした。
そういえば雪ノ下さんって割と昔の携帯使ってたなぁ。あまり気にしない人なのかな…まあ私も友達いないから別に買い換える必要が…あ、雪ノ下さんもってことですねわかります。
下校途中、小さな本屋を見つけた。そういえば今日、カバンに本が1冊もなく午後の休み時間とか寝たフリをしてたなぁ、とどうでもいいことを思い出し、明日以降休み時間を楽に過ごすために本を買っておこうと、とりあえず入ってみることにした。
記憶のあったときの自分はどうだったかは知らないが、今の私は本、特にラノベが好きらしい。1冊手に取って読んでみるとこれがまた面白い。これは休み時間が楽しみになってきましたよー!と、色んな本を読んでいると、何やら見覚えのある本を見つけた。
これは…何か懐かしさを感じる。私について有力な手がかりになるかもしれない!その本に手を伸ばすと
「「あっ……」」
まさかリアルでこんなシチュエーションにあうとは思ってなかった。これってここから恋が始まる展開に…!
………何を考えているのですか私は
とりあえず謝らないと…!そう思いその男性の顔を見ると……
「……あなたはゾンビですか?」
「え、なに俺チェーンソーで両断されるの?」
目が腐った男性がそこに立っていた。