新訳:ペルソナ4~迷いの先に光あれ~   作:四季の夢

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最近疲れているのか、あまり活力が湧かない時があります(´・ω・`)
無理をしないといけない世の中だけど、自身の休息も取らないとね。


第四十話:降格の運命

現在:黒の駅【第八フロア】

 

「タカヤ……!」

 

 電車から現れた青年――タカヤの姿に美鶴達の目を大きく開き、驚愕する。

 洸夜からは名前は聞かされていない故、初対面である悠とクマは目の前にいるタカヤが分からずとも、美鶴達の様子から察して警戒を見せていると明彦が前に出た。

 

「何故、お前がここにいる!!」

 

「待って下さい真田先輩! この人も今までのシャドウと同じです!」

 

 今にも食って掛かる勢いの明彦を風花が止めに入った。

 目の前のタカヤも先程までと同じで、黒き絆から出たシャドウだ。

 外見は同じでも、怒りをぶつけた所で相手は本物のタカヤではない。死んだ時の姿を見ていても、因縁がある者達はそう簡単に割り切れなかった。

 

「ストレガのタカヤ……!」

 

 乾もその一人。真次郎は、タカヤの攻撃から彼を庇って死んだのだ。

 いくらシャドウでもそんな男の姿をしていれば、心にもざわめきが起こるのは当たり前。

 それでもどうにか冷静を装い、乾はタカヤを見つめ続けながら疑問を抱く。

 

「なんでこの人がこのタイミングで出て来たんでしょうか……?」

 

「分からない。――でもあの駅名に記されてい『運命』のアルカナを見る限り、洸夜との黒き絆がある筈」

 

 乾の疑問に答えたのはチドリだ。

 彼女もストレガの中では考えて動くタイプ。既に今までの法則を理解しており、タカヤと洸夜の間には絆がある事を理解していた。

 だが、少なくとも彼女には心当たりはなかった。

 

「でもいつ洸夜と絆を? 私には心当たりがない」

 

「……あっても洸夜の事だ。何か問題でも起こしていたんだろう」

 

 美鶴は思い出しながら、呆れた様子でそう言った。

 仲間にも影響を及ぼすならば相談するだろうが、自分だけの事ならば何も言わないだろう。

 当時は自分もそうだったので何も言えないが、美鶴は自分と洸夜へため息しか出せなかった。

 

「あれがストレガ……」

 

 そして悠はと言うと、目の前にいるのが兄から聞いた人工ペルソナ使い『ストレガ』である事を知り、同時に雰囲気で危険と判断。

 肌に纏わりつくピリピリとした殺気。シャドウ特有の不気味さもあり、金色の瞳からも狂気がただ漏れていて思わず反射的に身構える。

 すると、それに気付いたゆかりが悠を気にかけてくれた。 

 

「悠くんは大丈夫? ……って言うかアイツの事は知ってるの?」

 

「はい。兄さんから大体の事を……人工のペルソナ使いで、嘗て戦ったと」

 

「それで正解だぜ……!」

 

 悠の言葉に順平も反応し、身構える。

 彼にとってもタカヤはギリギリ因縁があり、他の者達もどの道、戦闘になると身構えた時だった。

 タカヤが小さく笑い出すと、その瞳が大きく光り輝いた。

 

『……見せてあげましょう』

 

 その声を最後に悠と美鶴達は光に包まれた。

 

 

▼▼▼

  

 

 そこは影時間。辰巳ポートアイランドの駅裏で二人の若者がぶつかり合っていた。

 片方は刀を振るい、片方は拳銃を放つ。

 そんな両者を守護するモノ達がいた。黒き仮面と赤に染まった仮面だ。

 

 両者――洸夜とタカヤ。双方の武器をそれぞれのペルソナが受け止め、戦いは一進一退の攻防を演じる。

 だがやがて双方共に動きを止めて武器を下ろし、タカヤが話し始めた。

 

『まだ分かりませんか? あなたも私達と同じです。この世界でしか生きれない。その力が証明しているではないですか?』

 

『俺はお前達とは違う。この影時間を終わらせると美鶴達と約束した』

 

『約束……ですか。何の価値もない言葉ですね。実に下らない!! ――ヒュプノス!』

 

『――■■■!!』

 

 両者のペルソナが再度激突した。その余波で周りは抉れ、壊れ、洸夜とタカヤも微かなダメージを負う。

 

『くっ?! ――あなたは約束をしたと言う! ならば私達も救うと言った言葉はどうなのですか! 裏切るのですか!?』

 

『俺はペルソナと薬の副作用を消したいだけだ! そうすれば生きていける! 俺のペルソナの力なら、それが可能だ!』

 

『違う!! それは救いではない!! ただの穢れ、私達にとっての救いではない!!』

 

『ならチドリを開放しろ! 彼女は変わろうとしてる!!』

 

『違う……穢れただけですよ!!』

 

 両者は叫び、ぶつかり合い、そして()()()()

 洸夜の救い。タカヤの救い。それは文字は同じでも、中身は全く違うもの。

 互いに受け入れない。受け入れることが出来ない。

 その口調の激しさを、心の激情を具現化する様に両者の『メギドラ』がぶつかり合う。

 

『すれ違う!! 私達はすれ違い、別々の道を歩む……分かれる。――()()()運命の様ですね!!』

 

『それが俺達の繋がりなのか……チドリの様にならないかタカヤ!!』

 

 両者は何度も叫び、何度もぶつかり合った。

 

――その光景を最後に悠達の意識が覚醒する。

 

 

▼▼▼

 

 

「今のは……?」

 

「タカヤと……洸夜の黒き絆?」

 

 我に返った悠の呟きに、困惑しながらチドリも呟く。

 見た限りでは二年前の出来事だろう。だが互いに一人という珍しい状況の中での事。

 チドリは知っている。タカヤは洸夜に興味があったのを。洸夜がタカヤに興味があったのを。

 しかし両者が理解しあった様には見えなかった。その最後まで。

 

「あんなんでも絆なのかよ、鳴上先輩……」

 

 先程の光景を思い出した順平は納得できないと、辛そうな表情を浮かべた。

 チドリをタカヤの銃弾から庇った自分を、更に庇って助けたのが洸夜だ。だから順平は恩があり、だからこそ理解をしたくなかった。

 タカヤは狂っていたともいえる。それなのに、何故にあんな正面から向き合えるのか。

 

「らしいと言えばらしいんだけどな……」

 

「理解は出来ないけど、何となく分かるのよね……ああ、鳴上先輩らしいなあって」

 

 順平の言葉にゆかりも思い出すように言った。

 一体、どれだけの人が洸夜を理解できているのか。少なくとも自分は理解出来ていない。そうゆかりは思っている。

 優しさ、厳しさを感じさせ、まるで家族の様に接するのに引き離すときは一気に拒絶するのが洸夜だ。

 

(でも、そんなのを受け入れていたからこんな事になったんだろうなあ)

 

 懐かしみながらも後悔するゆかりだったが、そんな彼女等に自由時間は終わりだと美鶴が皆に声をかける。

 

「始まるぞ……!」

 

「あわわわ……! 凄い力を感じるクマよ!?」

 

「皆さん! すぐに警戒を!!」

 

 クマとアイギスが焦り、緊張する様に身構えて叫ぶ。

 三人の目の前ではタカヤ――『降格の運命』がその力を解放しようとしているのだ。

 身体のあちこちが向いてはいけない場所を向き、身体を闇が包み込む。

 そしてその姿を変異させた。

 

『さあ! 始めましょうか!』

 

 その姿はタカヤのペルソナであり、毛細血管の様な翼を持っていたヒュプノスを彷彿とさせる。

 こんな不気味で謎のいあつ威圧感を放つシャドウを悠は今まで見た事がない。  

 更に『降格の運命』の周辺からはシャドウも現れ、悠と美鶴達もペルソナを召喚した。

 

「イザナギッ!!」

 

 悠は素早く行動を起こし、周囲のシャドウ達をイザナギで薙ぎ払う。

 美鶴達も同様にシャドウ達を倒し、余裕が出来た者から『降格の運命』を標的とした。

 

『来なさい……相手をしてあげますよ! ――メギドラ!』

 

「行くよ――カーラ・ネミ!」

 

 最初に交戦したのは乾だ。カーラ・ネミは『ジオダイン』を放ち、メギドラと合わさって空中で大爆発を起こす。

 そこへ乾が槍で突撃するが、それを察知して『降格の運命』は空中へ逃亡。

 代わりの様にシャドウが現れ、次々と属性技を乾へと放った。

 

「いけない!」

 

 数の暴力に乾は迎撃しながら後退を選択。『降格の運命』からは離れたが、無理をするタイミングでもなかった。

 

「もう! 矢が足らないわよ!」

 

「シャドウの数と種類が多過ぎます……!」

 

 ゆかりとアイギスは次々とシャドウ達を撃ち抜いてゆくが、その数にジリ貧を強いられていた。

 ペルソナで広範囲に属性技も放つが、種類の多さを武器に生き残って突破してくるのもいる。 

 そんな状況だ。出来るだけ孤立しない様にするが、探知タイプの風花は一人だけであってサポートが間に合わないでいる。

 

「風花! こいつの弱点なんだっけ!?」

 

「はい! そのシャドウは物理に強く、炎が弱点です!」

 

 だが、それでも風花は頑張っていた。

 シャドウと戦っている順平をサポートし、今度は他の人にもすぐに手助けを行う。

 しかしその分、自分の身の危険も増す。

 

「風花さん!」

 

 そんな風花に迫っていたシャドウを悠が斬り捨て、イザナギもまとめて『ジオンガ』で周囲のシャドウを粉砕した。

 

「あっ、ありがとう悠くん……! 周りに気を取られて気付かなかったみたい」

 

「この数じゃ仕方ないです。大型シャドウも上空で様子見してますし……」

 

 そう言って悠と風花が上空を見上げると、そこでは『降格の運命』が皆を見下ろしながらシャドウへ力や指示を送っていた。

 時折、隙を突いたメンバーが攻撃を仕掛けるが、大型シャドウとして地力も強く、先程に己のシャドウと戦って疲労しているとはいえ明彦と美鶴ととも対等以上にやりあっている。

 

「タカヤ……!」

 

 そこではチドリも戦っており、己のペルソナであるメーディアで周囲のシャドウを殲滅し、そのまま『降格の運命』とも戦闘を開始した。

 『マリンカリン』で増えたシャドウを魅了し、その隙で『アギダイン』を放った。

 

『チドリ……あなたですか! ――ブフダイン!!』

 

 チドリの存在に気付き『降格の運命』も反撃。 

 両者の相対する属性技はぶつかり合い、そのまま相殺するが『降格の運命』は更に攻勢に出た。

 

『さあ! 死を受け入れましょう!!』

 

 そう叫ぶと『降格の運命』から蒼白い光が放出され、意識を集中し始めると風花がその意図に気付く。

 

「避けて! ――『コンセントレイト』です! 大きな攻撃が来ます!」

 

 風花が見破ったのは魔力攻撃の威力を大幅に上げる技『コンセントレイト』だった。

 更に別の大きな力も感じ、相手が何をしようとしたのかを理解。皆に危機を知らせ、それぞれが回避行動を取る中で『降格の運命』は力を解き放つ。

 

『受け入れなさい――メギドラオン!!』

 

 万物属性技の大技『メギドラオン』が放たれた。

 コンセントレイトで強化されており、その威力は通常時のメギドラオンよりも強力で広範囲。

 周りのシャドウを巻き込みながらの攻撃に美鶴達は回避を不可能と判断。全員はそれぞれその場で足を止め、メギドラオンへ迎撃技を一斉に放つ。

 

「地上に落とすな!! ――アルテミシア!」

 

「カエサル!!」

 

「お願いします――アテナ!」

 

「ええい! キントキドウジ!」

 

 美鶴達の攻撃が次々とメギドラオンへ呑み込まれ、落下していたメギドラオンはその場で停止と同時に大きな爆発を生んだ。

 

『ぐぅ!? ――なんと滑稽に抗う方々だ!!』

 

 爆発の余波に巻き込まれた『降格の運命』だが、少しのダメージとバランスを崩すだけで済み、再びメギドラオンを放とうと力を溜めた。

――が、それ故に周囲の注意を怠り、その背後から迫る巨体の一撃に気付けなかった。

 

『ガハッ!!』

 

 尋常ではない衝撃に襲われた『降格の運命』は隕石でも落ちたかの様に落下し、凄まじく地面へ叩き付けられるその光景に順平達も驚いた。

 

「おお!? ス、スゲェな……!」

 

「凄い力でした……!」

 

「ですが今のは……?」

 

 順平や乾が驚く中、アイギスは誰が攻撃をしたのかとその場所を向くと、一つの巨体が降り立った。

 その正体はミョルニルを持つ北欧の雷神『トール』であり、その隣には悠が立っていた。

 そう悠のペルソナだった。

 

「全く兄弟揃って大した奴だ」

 

「全くだな」

 

 悠の活躍に明彦と美鶴は笑みを浮かべ、どこか嬉しそうな様子。

 成長を喜ぶ兄や姉ではないが、思わずそう感じてしまう程に悠が頼もしく見えてしまったのだ。

 アイギスやゆかりも思わず笑みを浮かべており、悠の雰囲気から『彼』や洸夜を思い出しているのだろう。

 

『あなた……ですか……鳴上 悠!!?』

 

 しかしここで『降格の運命』が復活。

 地面から這い出て、再び浮かんで悠を向きながら一斉に攻撃を放った。

 

『ブフダイン! ――アギダイン!! ――さあ死を受け入れなさい!?』

 

「――断る。迎え撃てトール!」

 

 悠の声に応え、とートールはジオダインを纏ったミョルニルを振り回し、敵の攻撃とぶつかり合う。

 砕ける氷と火の粉が舞い散り、トールの剛腕が『降格の運命』を殴りつけるが向こうの動きは止まらない。

 

『あなたも鳴上 洸夜と同じだ!! 何も救えず、待っているのは破滅! 意味なき平和との別れが待っている!!』

 

「俺と兄さんは違う」

 

――だからこそ。

 

『なっ!?』

 

 悠は『降格の運命』の懐に入り込み、そのまま一気に刀を振り上げた。

 

「兄さんを助けられる」

 

『グァッ!』

 

 『降格の運命』は苦しむ声を出し、バランスを崩したところへトールが追撃。

 強烈な一撃を叩き込むと『降格の運命』は大きく吹き飛び、地面に叩き付けられるとその動きを止めた。

 そしてシャドウから再びタカヤの姿となり、そのまま腹ばいに倒れた状態となり、その周りに皆も集まる。

 

『滑稽だ……実にあなた方は滑稽ですね。救おうとしながらも、それはあの男――洸夜の思う救いではない。――クククッ……()()()にあなた方は傷付く姿……意味のない足掻きで――』

 

 長々と語ったタカヤだったが、そこまでで口を閉ざされた。――チドリの手によって。

 タカヤの頭部にナイフを突き刺し、弾ける様にタカヤは消滅すると順平が彼女の下へ寄った。

 

「チドリ……大丈夫なのか?」

 

「大丈夫……さっきのはタカヤじゃないのは分かってる。けど、ケジメを付けたかった……私は何も出来ていないから」

 

 そう呟くとチドリはゆっくりと上を見上げる。

 感傷に浸っている様ではなく、何かを誰かに伝えている様にも見えるが、彼女はそのままで小さく語り始める。

 

「順平……私は洸夜の事を理解できない。敵だった私を救ってくれた事は感謝してる。優しくて、順平達と繋ぎ合わせてくれた」

 

――だけど。

 

「ここが洸夜の世界なら、なんで洸夜は私を助けてくれたの? ――ずっと見てきたけど、洸夜は黒き絆を築いて生きてる。だったら私を助ける理由はない。何を想い、何を考えてるの? 順平達も傷付いて、洸夜本人も傷付いて……なんでこんな事になってるの? この駅に入った時にクマも言ってた。私達に敵意や殺意を向けてるって……洸夜は今、どうなってるの?」

 

 チドリの言葉に誰も応える者はいない。応えることが出来ない。

 ここまで来て徐々には分かってきていたが、それを確かな答えで出せる者はいない。

 だが悠はせめてもの言葉として呟いた。

 

「兄さんは……寂しかった」

 

「寂しい? ……ならどうしてこんな絆ばかり築いているの? どうして私達を殺そうとするの? 私には理解することが出来ない」

 

 チドリは本当に理解できなかった。

 最初、出会った時は本当に敵同士。何も理解する事などないと思っていた相手だ。

 だが順平が彼女を変え、切れそうになったその繋がりを洸夜が守った。

 しかしその洸夜が今、守った絆を含めて全てを壊そうとしている。

 彼女はそんな目の前の現実にショックもあり、そこにタカヤも現れて尚の事だった。

 

「チドリ……正直、オレも殆ど直感的にしか分かってねえ。けどそれでも鳴上先輩を助けたいんだ。確かに今まで見て来たのも鳴上先輩の心なんだろうけど、全部が全部こうだって思えねえんだ」

 

「どの道、まだ先はあるからクマ達はまだ全部を見てないよ? ……だから答えを急ぐのは大センセイに会ってからでも遅くはないクマよ?」

 

 悩むチドリに順平とクマが説得ではないが、自分の考えを口にする。

 他のメンバーも同じで、分かっていないこそ知りたく、先に進みたいと思う。

 その結果が辛い事になったとしても。

 

「……助ける為だったが、知る為にもなっていたな」

 

 美鶴は虚しそうに呟く。

 S.E.E.Sメンバーで長い付き合いの自分と明彦ですら理解してあげられなかった。それが辛く、そして寂しいものだと美鶴は感じた。

 

「皆で進もう。……例え辛い現実があったとしてもな」

 

 美鶴の言葉に皆は頷き、チドリも全てを知るためと考え、再びメンバー達は次のフロアへと足を進めた。

 しかし、彼女達は知る由もない。次のフロアが最大の難関である事を。

 

 

END

 


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