新訳:ペルソナ4~迷いの先に光あれ~   作:四季の夢

21 / 43
久しぶりにランキング7位入り♪
登録数も増えて本当に皆さん、ありがとうございます!



P,S:ロックマンゼロ5……作ってくれ……だれ……か……(´;ω;`)


本当の自分~りせ・クマ編~
第二十話:りせ登場! そして愚者の選択……


 6月20日(月)晴

 

 現在:堂島宅

 

 エリザベスとの会話から数日、洸夜は悩んでいた。理由は単純に、自分のペルソナ能力の弱体化についてだ。

 原因が分かっている。同時に日々日々弱体化が進行している事も。

 この所、再び見出した悪夢、犯人について分からないと言う焦り、自分の存在価値と言っても過言では無いペルソナ能力の弱体化の不安。

 顔には出さないが、洸夜の中に色々な感情が渦巻いていた。そんな風に洸夜が悩んでいると……。

 

「お兄ちゃん……?」

 

「!……どうしたんだ菜々子?」

 

 洸夜は自分が居間で皆とテレビを見ていた事を思い出し、自分を見る菜々子の頭を撫でた。それに対して菜々子は、気持ち良さそうな顔をしながらもテレビを指す。

 

「りせちゃん出てるよ」

 

「りせちゃん……?」

 

「“久慈川りせ”だよ……兄さん」

 

「久慈川りせ……? あっ……あのアイドルか」

 

 その名を聞いた瞬間、一瞬誰だか良く分からなかった洸夜だが豆腐屋のお婆さんの話を思い出した。

 

(確か、近々この町に来る予定だったな)

 

 お婆さんからの言葉を思い出し、町が騒がしくなると思い出しながら洸夜は悠の方へ首を向ける。

 

「それで、その子がどうしたんだ?」

 

「会見だって。何か、少しの間だけど休業するらしい」

 

「休業……?」

 

 その言葉を聞いて、洸夜はテレビの方を向くと、りせらしき女の子ととマネージャーらしき人の数人が座っていた。

 また、会見事態は既に終わっていたらしく今から質問の様だ。

 

『……以上、当プロ“久慈川りせ”休業に関します本人よりのコメントでした。……えー、時間が押しておりますので質問等は手短に……』

 

 進行役の人の言葉に一人の男が手を挙げる。

 

『失礼、えー《女性ビュウ》の石岡です。静養と言う事は何か体調に問題でも?』

 

『いえ、別に体を壊してるって訳じゃ……』

 

『とすると、やっぱり心のほうですか?』

 

『え……?』

 

『休業後は親族の家で静養との噂ですが確か稲羽市ですよね! 連続殺人の! 老舗の豆腐店だと聞いてますがそちらを手伝わ――』

 

 記者がそこまで言った瞬間、洸夜はチャンネルを変えた。

 

「ん? どうしたんだ洸夜?」

 

 チャンネルを変えた事に疑問に思ったのか、堂島が読んでいた新聞を畳んで洸夜へと聞く。

 

「いや、ただ少しイラっとね……」

 

「イラっと来たか?」

 

「ああ、何かいくらアイドルだからって、人の事をまるで物見たいに扱う様な様子が……それに、表情が余りにも辛そうだった」

 

 そう言って洸夜はテーブルに置いてあるお茶を飲み、それを聞いた堂島も少し考える。

 

「まあ、お前の気持ちも分からなくはないが……芸能界はそんなモノ何だろう……」

 

「まあ、そういう事なのか……」

 

 洸夜は納得は出来るが、理解したくない自分がいる自分の想いにまだまだ子供だと感じ、心の中で自分の事を笑った。

 そして、その会話で何を勘違いしたのか、菜々子は首を傾げながら洸夜に聞いた。

 

「げいのうかい? りせちゃんの事? お兄ちゃんはアイドルになりたいの?」

 

 自分と堂島の言葉に真っ直ぐな反応をする菜々子に、洸夜は軽く笑いながら再び菜々子の頭を撫でた。

 

「ハハ……違う、違う。別にアイドルにはカケラも興味がないな。……まあ、少しは羨ましいとは思うがな」

 

「何で?」

 

 悠が聞き返すと、悠は笑みを浮かべた。

 

「……彼女が“二色”だからだ」

 

 笑みを浮かべる洸夜の言葉にその場の全員が首を傾げるのだった。

 

▼▼▼

 

6月21日(火)曇→雨

 

現在:商店街の豆腐屋

 

昨日のりせの会見のニュースから翌日。洸夜はバイト先の豆腐屋に来ていた。

実はあのニュースの後、洸夜の携帯に豆腐屋のお婆さんから連絡がきた、本来ならば休みの筈の今日の午後に、誰にも言わずにお店に来て欲しいとの事。

 詳しい事はその時に話すと言われた為、洸夜は何も知らずに此処にいる。

 

「お婆さん、何かありましたか?」

 

 そう言いながら店の中に入った洸夜を待っていたのは椅子に座っているお婆さんの姿。

 そして、お婆さんは洸夜に気付き椅子から立ち上がる。

 

「あら、洸夜さん。ごめんなさいね、お休みの日に突然お呼び出しちゃって……」

 

「まあ、俺は何も問題無いのですが……何かありましたか?」

 

 何か問題が発生したのではないのかと心配していた洸夜だが……。

 

「いやね、実は洸夜さんに駅まで迎えに行ってもらいたい子がいるのよ」

 

「迎えに……? 俺は構いませんけど、一体誰を迎えに行けば良いんですか?」

 

 迎えに行くのは構わないが、迎えに行く相手が分からなければどうする事も出来ない。そう思い、洸夜はお婆さんに聞くのだが……。

 

▼▼▼

 

 現在:稲羽駅

 

「見れば分かると言われてもな……」

 

 そう呟きながら洸夜はバイクを駅前で止め、それらしい人物が来るのを待っていた。

 あの後、お婆さんから言われた言葉は……。

 

『見たら直ぐに分かるわ。連絡もしているから安心して』

 

……と、ニコニコ笑いながらそう言ったお婆さんの言葉により、洸夜は駅前で待ち続けているが、それらしい人物は今だに姿を見ない。

 基本的に此処は田舎町、いくら駅とは言っても人の出入りは少なく、出て来る人は数える程度しかいない。現に、今も駅から出て来たのはスーツ姿の男性が三人と、サングラスっぽい眼鏡をかけ、帽子を深く被った女の子。

その他にも数人いたが、それらしい人物は居ない。

 

(キャリー持ちじゃないと言っていた。だからそのままバイクで来たんだが……)

 

 洸夜が退屈そうに自分のバイクを弄っていた時だった。

 

「……あの~」

 

「ん?……何か?」

 

 誰かに声をかけられた洸夜が後ろを振り向くと、そこには先程駅から出て来た帽子を深く被り、サングラスを付けている少女がいた。

 その少女は最初は戸惑った感じだったが、意を決した様なそぶりをし、静かに口を開いた。

 

「あ、あの……鳴上洸夜さん……ですか? 商店街の豆腐屋さんでバイトをしている……?」

 

「確かに俺がその洸夜だ。君は……」

 

 何故、見ず知らずの少女が自分の名前を知っているのか疑問に思った洸夜だが、該当する人物がすぐに思いつくことが出来た。

 同時にその少女は、自分が話し掛けた相手が洸夜だと分かると安心した様な感じで口を開く。

 

「おばあちゃんから話を聞いてませんか? 駅に迎えに行って欲しい人が要るとかって?」

 

「おばあちゃん……? それじゃあ、迎えに行って欲しいってのはお孫さんだったのか……」

 

 少女のその言葉を聞いた洸夜は、少し疑問に感じたが、あの天下のアイドルが記者会見の翌日に稲羽に来るとは思えなかった。

 更に言えば事前通りキャリーも持っておらず、手軽なハンドバッグ呑みを持っている事もりせじゃないという判断が出来た。

 そして、この少女がその目的の人物だと言う事が分かり、その少女を乗せて豆腐屋へと向かい始めた。

 

▼▼▼

 

 現在:道路

 

 洸夜は先程の少女をバイクに乗せて豆腐屋へと向かっており、暫く走っているとその少女が口を開いた。

 

「あ、あの……鳴上さん」

 

「洸夜で構わない。鳴上だと……まあ、言いにくいだろ?」

 

「えっ? じ、じゃあ洸夜さんで……」

 

「ああ、それで構わない。……で、何かあったか?」

 

 安全運転の為に後ろを見る事が出来ない洸夜だが、その少女が困惑した様子な感じなのは分かった。

 

「その……私がこう言うのも何ですけど……何とも思わないんですか?」

 

「……何をだ?」

 

 今一意味が分からない洸夜は、周りと後ろに注意しながら少女の言葉に集中するのだが……。

 

「いや、だって……私“久慈川りせ”ですよ?」

 

「へぇ……そうなのか。久慈川りせ、か……って、なっ!」

 

 その少女“久慈川りせ”の言葉に驚いた洸夜は、一旦バイクを道路の端に止めた。

 

「久慈川りせ? 本当に……? いや、そういや孫だって……だが……」

 

 信じられない洸夜は混乱してしまい、驚いた表情のままでりせの事を見るが、りせも洸夜と同じ様な表情で洸夜の事を見ていた。

 

「気付いてなかったんですか!? 私、てっきりおばあちゃんから聞いていたのだとばかり……」

 

「確かに君がお孫さんなのは聞いていたが、誰をとは言われていない。簡単に見れば分かるとしか……それに記者会見は昨日だろ?」

 

「そんなの、後始末は基本的にマネージャーとかがやってくれるもん。だから、別に可笑しい事じゃないですよ。逆に洸夜さんが私に気付いてなかった事に驚きです」

 

「いや、その、俺は余り芸能人やアイドルには興味が無くてな……」

 

 アイドルのりせに対して、自分は失礼な事をしたんじゃないのかと思い、洸夜は少し冷や汗をかきながら困った様子だ。

 すると、それを見たりせは、少しイタズラを思い付いた子供の様な表情をし……。

 

「グスン……いくら、アイドルに興味が無いからって、女の子に向かってそんな風に言いますか?……グスングスン」

 

「えっ!? いやっ!? そのっ! 」

 

 昨日の記者会見で洸夜は、理由は知らないがりせが休業する事を知った。その為、休業目的で来たアイドルを傷付ける様な真似はしたくない洸夜。

 だが流石はりせであり、本気の泣き演技に本気で焦りながらどうにかしようとする洸夜だが……。

 

「ふふ、アハハハハ! もう、洸夜さん焦り過ぎだよ。大丈夫、私悲しんでないよ!」

 

「……謀ったな」

 

 りせの態度が嘘泣きと言う事が分かり、洸夜は安心と同時に本気で悩んだ自分が恥ずかしく思えた。りせはドラマもやっている為に演技が上手く、ハッキリ言って洒落ではない。

 そして焦りから解放された洸夜は、前にエリザベスにやった時の様にりせのオデコに指を押し付け、手加減しながらグリグリする。

 

「洒落にならん! こっちは真面目に焦ったんだぞ! そんな事を考えるのは、この頭か? この頭なのか?」

 

「うわわわ~~! ご、ごめんなさ~い!」

 

 りせが慌てた様子で、洸夜は指を放すが、やられたりせは頬を膨らませて洸夜に抗議した。

 

「洸夜さん大人げないですよ~! 軽い冗談じゃないですか。もう、オデコに指をグリグリされたのは初めてです……」

 

「君の場合は演技が冗談の領域を超えているからだ。それに、今はカメラも何も無い。君は……“りせちー”だっけ?……まあ、それは良いとしてだが、今の君は久慈川りせだ。だから、何も問題は無い」

 

 そう言いながらも内心では少しビク付いていた洸夜だが、りせはそんな洸夜の言葉に驚いた表情をしていた。

 

「りせちーじゃなく、久慈川りせ……?」

 

「……? 少なくとも今は休業中だろ。だからそうなんじゃないのか……?」

 

「……普通の人は、そんな風に割り切れないですよ。プライベートの時だって、皆が見ているのはりせちーとしての私。誰も本当の私を見てくれない……」

 

 そう呟くりせの姿は、先程洸夜にイタズラを仕掛けた様な姿では無く、何処か悲しく、そして弱々しく見えた。

 その姿を見た洸夜は雪子や完二の時の様にやはり無視できず、和えてそんなりせに背中を向けたまま口を開いた。

 

「……俺はアイドルじゃないし、君自身でも無いから君の苦しみを全て理解して上げる事は出来ない」

 

「……」

 

 洸夜の言葉にりせは、少し表情を暗くしながらも黙って聞いていた。

 

「だが、これだけは言える……君は君だろ?」

 

「……!」

 

「確かにアイドルと言う職柄上、皆はテレビ等に映るりせちーとしての君を本当の君としてみるだろう。だが、君の家族等と言った人は親しい人達は恐らく、りせちーとしての君を本当の君としては見ないだろう」

 

「でも、それじゃあ本当の私って一体……」

 

 洸夜の言葉に先程よりは楽になった感じのりせだが、全てを受け入れる事は出来ない様でりせは、再び顔を下に向けてしまう。

 それに対し洸夜は……。

 

「君の言う、本当の自分と言うのは俺には分からないが……それでも、君が本当の自分を求めるなら俺から言える事はこれぐらいだ……」

 

「……何ですか?」

 

「君は一色じゃない……」

 

「一色じゃない……?」

 

 洸夜の言葉にりせは、今一良く分からなかったらしいが、その顔には笑顔が生まれ始めた。

 

「……洸夜さん。洸夜さんの今の言葉の意味はまだ私には分からないけど、気持ちが少し楽に慣れた気がするの……不思議、意味は分かってないのに、こんなにも気持ちが落ち着くなんて」

 

「初対面の俺に対して隙を見せすぎじゃないか? 俺が悪い人だったらどうする?」

 

 先程の仕返しで軽い冗談で言った洸夜に、りせは満面の笑みで返した。

 

「大丈夫! だって私、人を見る目はあるもん!」

 

「じゃあ俺は……そんな君の才能を嘘には出来ないな」

 

 そう言って洸夜とりせは互いに笑いながら再びバイクを走らせ、そのまま豆腐屋へと向かうのだった。

 

▼▼▼

 

 同日

 

 現在:堂島宅

 悠は自室で悩んでいた。頭から離れなれないのは兄の事だ。

 兄である洸夜がテレビの世界、強いてはこの事件に関係しているのかどうかだ。

 

(天城はそう思っている……)

 

 雪子の言葉を悠は思い出す。自分は意識がなかったが、雪子の言葉によって悠はあれが兄であった気が強くなった。

 

「……どうなんだ」

 

 気のせいだと思い、この悩みの巡回から解放を選ぶか。

 やはり気になり、本当か嘘かも分からない疑問を兄へ問うか。

 選択を己で問う中、悠の中である記憶が蘇る。洸夜が一人暮らししていた高校から帰って来た二年前の事だ。

 

『兄……さん?』 

 

『……悠か』

 

 生気がない兄の顔。何があったか尋ねても決まって答えは一つだけ。

 

『なんでもない……何もなかったんだ……何も……』

 

「!」

 

 何故、今に思い出したのかが分からない。

 しかしこれは悠にとっては大きな記憶であり、この選択は大きな分かれ道の一つだ。そして、悠はやがて選択した。

 

「やはり気になる……」

 

 悠は立ち上がり、洸夜の部屋へと向かった。

 

 

▼▼▼

 

 悠は兄の部屋の前に立ち、扉を叩いた。

 

「……」

 

 しかし、反応はない。悠は何回か叩いてみたがやはり反応はなかった。 

 

「……いない」

 

 悠は扉を開けたがやはり洸夜はいなかった。このまま諦めるのも良いが、無断に入るのにも勇気がいるだろう。

 だが、今の悠の勇気ではそれは可能と言える事であり、悠は多少の罪悪感を胸に中へと入る。

 

「……兄さんの匂いだ」

 

 部屋に入った悠の第一声は無意識に放ったその言葉。どんな匂いかは説明できないが、兄の匂いだとは悠は直感的に言える。

 

(何かあるのか……)

 

 入っては見たものの、実際に部屋に何かがあるのかは悠にも分からない。最悪、ありもしない物を自分の妄想だけを根拠に探すことにもなる。

 机、押し入れ、本棚や棚。色々と探す場所は多くある。

 

(どうするか……)

 

 一応は後ろめたい事だと思っているらしく、静寂の中の部屋で悠の鼓動が早くなる。今にも兄が帰ってくるのではないかと思えてならない程に。

 既に迷う時間はない。悠は直感的に場所を選んだ。

 

「……本棚か」

 

 やはり探し物といえば本棚を調べるだろう。本に何か挟んでいるかも、色々と発想を浮かばせながら悠は洸夜の本棚を調べ始めた。

 

(漫画……辞書……辞典……参考書……小説……)

 

 何を見ても平凡なものしか本棚にはなかった。これが普通の本棚の姿であり、悠の方が異常を見つけようとしているのだから難易度は遥かに高い。

 悠は色々と見てみたが、本に異変はない。ケース入りの辞典も何冊かはあるが以外にも数は多い方だ。手早くしなければ洸夜が帰ってくるかもしれない。

 

(……)

 

 一冊、一冊、開ける時間が勿体ない。手に持って重さで判断するしかない。ここに何もなければ他の場所を探すためにも無駄な時間は省きたい。

 そんな事を思いながら悠が辞典の半分調べた時だ。とある時点のケースを持った悠の表情が変わる。

 

(……軽い?)

 

 そのケースだけ辞典とは思えない軽さだった。悠は反射的にケースを開けると、中に入っていたのは黒と白のノートが入っていた。辞典ではなかったのだ。

 

「なんだこれ……」

 

 奇妙な二冊のノート。再び悠は勇気を試されるが、迷いなく彼はノートを開いた。……黒いノートの方を。

 

『テレビの世界:基本的に霧に覆われており、視界は悪い。長居すると体調に影響を及ぼす等、影時間、タルタロスの様に人が本来は存在してはいけない世界だと思われる』

 

『シャドウ:この霧の世界の住人。他者の抑圧された内面と言われており、ニュクスとの関係性は不明。習性もタルタロスのシャドウは違い、謎多し。更に調べる必要あり』

 

(!?……これは……テレビの世界……!)

 

 そこにはテレビの世界、そしてシャドウについて詳しく書かれていた。今まで悠達が戦ってきたシャドウは勿論、そして陽介達の大型シャドウについてもだ。

 悠は急いで白いノートを開くと、そこには事件に詳しく記されていた。

 

『山野 真由美・小西 早紀・天城 雪子。三名が被害に遭っている。事件関係者、その中で女性だけ狙われている?……(メディアに関係があるのか?)』

 

『巽 完二がテレビの世界に入れられた。女性だけが標的ではない。マヨナカテレビ、メディアに事前に映っていた。だが、あの完二を何故、誘拐できた? (犯人もペルソナ使い? 別の存在?)』

 

 調べている内容の中、時折、赤ペン等で洸夜の考えが書かれていた。

 しかしこれを見る限り、兄が事件を追っていた事実は分かった。犯人としての関係者としてじゃないのが何よりの収穫。ありもしない不安からはまずは解放される。

 思わず、肩の力が抜けてしまったのだろう。悠の手から白いノートが落ちてしまった。

 

(……あっ) 

 

 その場に落ちると思ったが、角にぶつかって部屋の扉にまでいってしまった。悠はすぐに拾うとして手を伸ばしたが、その手を途中で止めた。

 

「……」

 

 その場で止まり、沈黙のまま固まる悠。そんな姿にそれを見ている()()が口を開いた。

 

「拾わないのか……悠?」

 

「兄さん……」

 

 無表情で自分を見つめる洸夜の姿に、悠は息を呑んだ。

 

 

 

END


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。