5月18日(水)曇
現在:テレビの世界【いつもの広場】
完二がテレビの世界に入れられてから翌日。洸夜は、現在テレビの世界に入り完二の救出に来ていた。
この間の番組の影響もあってか、完二の母親に疲労の色が出ていると商店街で話は聞いている。その為、コレ以上余計な心配を掛けさせる訳にはいかなかった。
何より、完二は態度や口調等はともかく、根は優しい少年。そんな彼の命を、この様な事で散らせる訳には行かない。
「相変わらずの霧……か。だが、まあいい。今は完二の場所を把握しないとな……ヘメラ!」
相変わらずの霧を一蹴し、洸夜は完二の探索の為にヘメラを召喚すると、ヘメラは瞳を閉じて探知に入ろうとしていた。
「ヘメラ。早速だが完二の――」
「分からないだッ!?」
洸夜がヘメラで探索しようとした矢先、下の方から遮る様な声が響き渡る。その声は若く、その声の主が該当するの悠達しかいなかった。
しかし、その声は何やら揉めている様にも聞こえる……。
「あいつ等は一体、テレビの中に来てまで何を揉めている……?」
そう思いながら洸夜は、悠達から見つからずに下を見てみると、そこには悠達とクマが話をしていたが、クマと陽介が何やら揉めていた。
「お前にも完二の居場所が分かんないと困んだよ! こんな世界、とても闇雲になんて進めないしよ……」
「ムムムム……“カンジクン”のヒントが欲しいクマよ。そしたらクマ、シューチュー出来る予感がひしめいてるクマ……たぶん」
クマの言葉に頭を悩ます悠達。どうやら今回は、いつもの様にすぐに場所が分からない様だ。
「……情報が無いとコレ以上は探索出来ない、か」
洸夜はクマの様子からして美鶴と同じで完全な探知タイプではないと判断した。
当時ですら、美鶴が探索やサポートをしていたのは単純に探索タイプの力を持つ者がいなかっただけの事。
だから、風花がメンバーに加入するまでは多少能力が低くとも当時、探索能力を唯一持っていた美鶴がサポート係をするしかなかったのだ。
ちなみに、洸夜がヘメラを誕生させたのは風花が加入した後の為、サポート係はしていない。
そして、クマが美鶴と同様のタイプだと判断した洸夜は、その場でため息を吐きながらヘメラに指示を出した。
「仕方ない……ヘメラ、完二の居場所を捜すぞ。恐らくは最近出来た筈だから、すぐに分かると思いたいが……」
『昼光の道標』
洸夜の指示にヘメラは瞳を開き、周囲に暖かな光を放つとその光が広がる度に洸夜の中に情報が入ってくる。
ヘメラの高い探知能力によって徐々に場所は絞られてゆき、やがて洸夜の中に完二の居場所が示された。
「見付けた。……お前にはいつも助かっている」
そう言って洸夜は、悠達にバレない様にヘメラから得た情報の場所へと向かった。
▼▼▼
現在:熱気立つ大浴場
「この場所か……」
いつもの広場から少し離れた場所に、その場所はあった。
その周りからはムシムシとした熱気、そして熱苦しい程の湯気が立ち込められている。一言で言うならばサウナが一番近いだろう。
「暑い……だが、そんな事を言っている場合では無いか。――アイテル!」
洸夜は、周りの暑さのせいで流れる額の汗を拭いながらアイテルを召喚すると、待っていましたと言わんばかりにズズ……と周囲に黒い水溜りが現れる。
「やはり出たか……」
アイテルの召喚と同時に出現するシャドウ達。それを確認した洸夜は、こちらも待っていたかの様なそぶりでシャドウ達を見据え、アイテルを前に出した。
「アイテル……」
『……!』
洸夜の呼び声と同時にアイテルの身体から電気が溢れ出し、アイテルは両手を握り絞めた。
今から洸夜が行うのはただのシャドウ退治ではなく、悠達に居場所を教え様としているのだ。どんなに探知タイプではないとはいえ、多少は能力があるなら大きな力等の反応には嫌でも気付ける筈。
つまり……。
「分からないならば、大きな力を放ち、嫌でも気付かせるまで……アイテル!!」
『真理の雷!』
『☆▲★○#ッ!?』
洸夜が指示を出した瞬間、周りが光ったと思った時にはアイテルの放った巨大な雷が轟音と共に辺り周辺に降り注ぎ、シャドウと辺りを一掃してしまっていた。
▼▼▼
「ドッヒャアッ!!!?」
「ど、どうしたッ!?」
「「クマくんッ!?」」
先程まで鼻に力を集中させていたクマが突如叫んだ事に驚く悠達は心配してクマの下に駆け寄ると、クマは何やら鼻を凄い勢いで動かしていた。
「かんじる……かんじるクマ! ものスゴイ力を、あっちの方からかんじたクマよ!――こっちクマ!」
「あっ! おいクマ! ちょっと待てって……行っちまった」
「呑気に言っている場合じゃないだろ。クマを追うぞ」
自分達の言葉も聞かずに行ってしまったクマに、悠達は呆気になってしまったがすぐに頭を切り替え、クマの後を追って行った。
▼▼▼
現在:熱気立つ大浴場
「此処クマ!」
「なッ!? 此処は……!」
「い、一体何があったの……?」
クマを追って来た悠達が見たモノは、完二が映っていた大浴場。しかし、その大浴場の入口辺りはとても巨大な焦げ跡が刻まれていた。
余りに巨大なその焦げ跡を見るだけでも、どれだけの威力だったかぐらいは予想出来る悠達。今も小さく辺りで放電しており、余りの事に呆然としてしまった。
「クマ……一体此処で何が?」
「クマにも分からないクマよ、センセイ。クマはただ、ここで強い力を感じただけクマ」
「つ、強い力って事は……誰かが?……いや、なにかが何かやったんだよね……?」
「何ビビってんだよ里中。誰かって、シャドウしかいねえだろ」
この状況を見て、内心では恐怖を覚えていた悠達に陽介は少し茶化す感じに千枝に言う。どうやら、まだ事の重大さに気付いてないらしい。
そ の陽介の態度に、千枝と雪子は注意を促す。
「……花村あんたさ、この状況を理解出来てる?」
「え? 何がだよ?」
「花村くん。少なくとも、この辺りにこんな事が出来る様なシャドウがいるかもって事なのよ。今の私達じゃあ、勝てるかどうか……」
雪子の言葉の通り、これ程の力を持つシャドウではいくら戦い慣れ始めた自分達でもどうなるか。……それに、コレをやったのが本当にシャドウなのかどうかも分からない。
そう思っていると……。
「なあに、辛気臭いなってんだよ。相棒も、らしくないぜ。相棒には、俺達とは違って他にもペルソナが使えるだろ? ほら! とっとと完二の奴を助けにいこうぜ!」
「あ、待て陽介!」
「待ってクマ!」
悠達はさっさと走って行ってしまった陽介を追う為に、完二がいるである熱気立つ大浴場へと入って行った。
そして、その後ろから悠達を見ていた人物が一人……。
「……やり過ぎたか」
弟達が大浴場の中に入ったのを確認すると洸夜は建物の影から姿を現し、自分がやってしまった周りを見て呟いていた。
(それにしても、人数が増えた事によってアイツ等に油断が生まれ始めたか……?)
基本的に人は沢山の人数がいる場合、無意識に他人任せにする場合がある。その為、悠達(主に花村だが)は正にこの状態に近く、人数の多さによって気が大きくなっている様だった。
(やれやれ……アイツ等の成長はまだまだ掛かりそうだ)
そう思いながら、悠達の行動に頭を悩ませる洸夜。ハッキリ言って、今の悠達に全て任せる事は難しいと悩んでしまうが此処でいつまでも考えている訳にも行かず洸夜は静かに大浴場へと足を進めた……その時。
ズズズ……と再び黒い水溜りが出現した。
「どうやら、俺は入れたくない様だな……」
洸夜の前に現れたのは、虫型シャドウ『死甲虫』。台座に乗っている『静寂のマリア』。球型のシャドウの付いた首輪を付ける獣型のシャドウ『ニザームアニマル』等のシャドウ達だった。
その中には、タルタロスではいなかったタイプのシャドウも存在している。
『シャシャ……!』
『……』
『グルルル……!』
シャドウ達はそれぞれが意味も無い声を発しながら敵意を剥き出しにして洸夜に牙を向けている。それに答える様に洸夜も刀を抜いた。
「掛かってくるなら相手をしなければな。――撃ち抜け! マゴイチ!!」
洸夜が目をカッと開き、顔の半分を烏をイメージさせる様な仮面を付けたペルソナが現れた。
そのペルソナは一つ一つが銃口で出来ている黒い羽の様な足まである長いマント。更に両手には火繩銃を持つが、その周りには沢山の銃が浮いている。
そしてマゴイチは召喚されると同時に全ての銃口をシャドウ達へ向けた。
「マゴイチ!」
『秋雨撃ち』
洸夜の指示に、マゴイチは銃を右から左に乱射してシャドウへ攻撃を放った。
『…!?』
『ジャ……!?』
それぞれの攻撃がシャドウを襲い、何体かのシャドウは撃ち抜かれて消滅したが、残りのシャドウ達は空中に逃げて攻撃を回避する。
「あれを避けたか……」
『シャシャシャシャッ!』
洸夜が喋っている間にも、『死甲虫』が洸夜目掛けて突っ込んで来る。シャドウ特有のアルカナを示す仮面が付いた角が洸夜を襲うが、洸夜はそれを横に跳んで攻撃を避けた
だが、その直後に洸夜は背中に衝撃を受けた。
「ぐッ! 後ろか……!」
突如、後ろから銃の様な鈍い衝撃を受けた洸夜だったが、物理耐性を持ったマゴイチののお陰でダメージは抑えられただけで服に傷がついただけで済んだ。
「アイツ等か……」
洸夜が攻撃の来た方に視線を向けると、明らかに他のシャドウとは大きさが違う、二体のシャドウがいた。それ等はレスラーの様な姿の『闘魂のギガス』と、銃と手錠を持った警官の姿をしたシャドウ『狭量の官』だった。
(大型シャドウか。…… 他の奴ら同様に今度は完二に影響された突然変異のシャドウ……)
毎回と言って良い程、影響されたシャドウにそう遇する洸夜。しかし、今回は二体同時に相手をしなければならないと判断した洸夜は新たなペルソナ呼んだ。
「立て……ベンケイ!!」
召喚されたのはそ巨大な姿で全身を鎧と武器を纏ったペルソナだった。頭巾を被り、顔まで隠れたているがそこから覗く赤い瞳がシャドウへと向けられた。
「ベンケイ!!」
『弁慶の七つ武具』
それはまさに一瞬、ベンケイが両手に様々な武器を持ち闘魂のギガスへそれらを叩き込んだ。万物属性のその攻撃に闘魂のギガスはそのまま壁にめり込み、そのまま消滅する。
その光景を目の当たりにした狭量の官はすぐさま、ベンケイを拳銃を向け迎撃しようとする。だが……。
「……!!」
洸夜はその隙を逃さず、助走をつけて刀を狭量の官の腹部へと突き刺した。
そして、その刀が突き刺さると同時、狭量の官はブルブルと痙攣を起こす。
『……!!?』
「生憎と特別製だ……!――マゴイチ!」
洸夜の命令を受け、マゴイチは銃口を未だに震えて動けない狭量の官へと向け、そして放った。その弾丸はそのまま狭量の官の額に命中し、顔が破裂しながら黒い水溜りとなって消滅した。
「ハァ……ハァ……!――ムラサキシキブ!」
膝をついて洸夜は息を乱し、額に汗を流しながら新たにペルソナを召喚した。
その青い長髪に青・黄・桃色の和服を身に着け、周りには金色と水色の羽衣を纏とい、手には“源”と書かれた大きな本を持っていた。
そしてムラサキシキブは洸夜にメディアをかけると、洸夜はペルソナ達を戻し、やがてゆっくりと立ち上がる。
(……やけに疲労が強い。……なんだこれは……?)
洸夜は今の先頭による自分の疲労に疑問を感じた。ペルソナを使えば体力・精神共に疲労するがここまで疲労することは今までなかった。
(……気のせいか?)
洸夜は自分の思い過ごしと思い、大浴場へと向かおうとした。……その時だ。洸夜は胸に急激に苦しみを覚えた。
「グゥッ!?……これ……は……?」
両膝をつき、洸夜は右手で胸を抑えながら苦しみを和らげようとするが効いてはこず、寧ろ苦しさは徐々に増大し始めた。
まるで首の縄を徐々に絞められている様な感覚に洸夜は戸惑ったが、同時に頭の中に声が響き渡った。
『許サなイ……認めナイ……黒キ絆……ヲ……認メ……ロ……受け入レろ……』
(こ、これは……!)
洸夜には身に覚えがあるのか、その謎の声に驚愕の表情を浮かべるが、やがてどこか納得したような虚ろな笑みを浮かべた。
(そうか……このまま何もないと思ったが、そんな訳はないな。今までの絆を拒絶する俺に……今まで通りにペルソナを……いや、ワイルドの力を使われるのは認めないか……)
洸夜がそんな笑みを浮かべていると、やがて苦しみは和らいでゆき、フラフラだが洸夜はゆっくりと立ち上がった。
「今だけは……もう少し待っていてくれ。悠の……弟の成長が実るまでは……せめて……」
洸夜は呟きながら、ゆっくりと完二の生み出した世界へ入って行くのだった。
END