新訳:ペルソナ4~迷いの先に光あれ~   作:四季の夢

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デビルサバイバー2は神ゲー。男女共にキャラクターが嫌いになれない。――だが、序盤のロナルド。テメェは駄目だ。


日常
第十話:変化する町


 

 4月22日(金)晴→曇

 

 雪子救出から、早いモノで数日が経過していた。

 あの後、雪子は一応大事をとって病院へ行き、数日入院する事になった事を洸夜はバイト中の噂で聞いた。

 

 そして雪子が発見された日から三日後、雪子の母親がお土産を持って洸夜を訪ねにやって来たのだ。

 話を聞いて見ると、案の定それは雪子についての事だった。体調が悪い中で、雪子は母親に自分の気持ちを話をしたとの事。

 洸夜は一瞬、自分が雪子の相談に乗ったことで自分が雪子をたぶらかしたと思われたのではないかと息を呑んだが、洸夜の想像とは違った。

 洸夜を訪ねた理由なのだが、雪子が気を失う前に洸夜の事を話したからだどうだ。

 帰りに雪子の母である女将は洸夜に向かってこう言った。

 

『貴方のお陰であの子と正面から向き合う事が出来ました。……本当にありがとうございます』

 

 そう言った時に見せた、女将の笑顔は今だに印象に残っている。やはり母親が娘を思っていない訳がなかったのだ。

 洸夜も雪子が前に進んだことを知る事ができ、雪子の母に頭を下げて見送った。

 

▼▼▼

 

 そして、現在洸夜は……。

 

 現在:商店街

 

「ゴクゴク……フゥー」

 

 洸夜は商店街の道の端にバイクを止め、その上で飲み物を飲んでいた。既に今日のバイトは終わり、後は家に帰るだけなので少し休憩中。

 そんな休憩の中で洸夜はある事を考えている。それは、バイトの帰り際に豆腐屋のお婆さんに言われた言葉だった。

 

『実は今度、孫が家に来る事になっているのよ』

 

 別にこの言葉に問題は無いが、問題があるのはその孫にだった。

 その孫と言うのが……。

 

「まさか、あの“久慈川りせ”とはね……」

 

 久慈川りせと言う人物を簡単に言うならば”アイドル”だ。しかも、子供からお年寄りまで幅広い年代にファンがいる大人気アイドル。

 

(そんなアイドルがお婆さんのお孫さんとは……だが、そんなアイドルが何でこんな田舎町に?)

 

 洸夜は、人気アイドルがこの町に来る理由が今一つ分からなかった。ただ祖母の家に遊びに来るだけとも思われるが、忙しい人気アイドルがこの田舎町に来る時間があると思えない。

 何か問題事の気がしてならない洸夜だったが……。

 

(考え込んでも仕方ない。……アイドルだろうが来たら来たらで普通に接すれば良いだけだ)

 

 実は久慈川りせの顔を洸夜は思い出せない程、洸夜はアイドル等に興味がない。それはアイドルだけではなく俳優・女優も該当する。

 興味がない為、映画やドラマで”今人気の”等がついて宣伝されても全く知らないので困惑する事も少なくないのだ。

 そんな性格もあり、洸夜は久慈川りせが来る事となっても簡単に割り切れる。

 

「……帰るか」 

 

 洸夜は落ち着くことができ、飲み終わった空き缶を近くのごみ箱にその場から投げたのだが、空き缶はごみ箱の口の周りにぶつかり、普通に落ちて転がった。

 

「……器用さが足りないってか?」

 

 缶を見て洸夜は苦笑しながらバイクから下りて拾いに行くが……。

 

「ん……?」

 

 突如、洸夜の前に青い帽子を被った少年が現れた。その少年はチラッと洸夜の方を見て、先程落とした空き缶を拾い上げて言った。

 

「ゴミを投げ捨てるのは余り関心出来ませんね」

 

 そう言って空き缶をごみ箱に入れる帽子の少年。

 

(なんだ、この少年は? 不思議な雰囲気だ……)

 

 謎の少年の登場に警戒する洸夜。この少年からは年相応の雰囲気が感じない。その少年の独自の雰囲気が洸夜を警戒させるのだ。

 すると、そんな洸夜を察したのか少年は帽子を被り直して再び口を開いた。

 

「ああ、突然すいません。自己紹介も何もしていませんでしたね。……僕の名前は“白鐘 直斗”と言います。どうぞ宜しく」

 

 そう言って帽子の少年、直斗に手を差し出された洸夜は自分が挨拶された事に気付き、直斗の握手に応じる。

 

「……あ、あぁ。すまない、俺は……」

 

「鳴上 洸夜さん。ですよね?」

 

「!……君は一体……?」

 

 直斗が自分の名前を知っている事に驚き、洸夜は直斗から視線を外せない。

 本来ならばこの町は小さい為、自分達みたいな存在はすぐに町に広がり、知らない人が自分を知っていても不思議ではない。

 だが、名前まで知る事は余りない筈だ。しかも、この少年は普通の者達とは何かが違う。

 そして、洸夜は無意識に握手していた手に力を入れてしまった。

 

「何で俺の名前を知っている?……少なくとも君とは初対面だが?」

 

 少し、口調を固くし直斗を見詰め続ける洸夜。 だが直斗はそれに一切怯まずに、軽く笑うと話を続けた。

 

「簡単に言えば調べたからですよ。堂島刑事の甥っ子であり、尚且つ貴方はこの町の事件が起こり始めた時期に町にやって来た。僕から見たら十分貴方は疑うに価する人物なんですよ」

 

「……疑う? 初対面にしては物騒だ。それに理由になっていないぞ? 何故、君が俺の名前を調べる事ができ……その事件を調べている理由にはな――!」

 

 話をごまかす直斗に、洸夜は掴んでいた手を離し、距離を取ろうとした。しかし、その行動によっては洸夜にも予想外の事が起きた。

 

「わっ!?」

 

「なっ!?」

 

 直斗が洸夜の手を放さなかったのだ。しかも直斗の身体はあまりにも軽く、距離を取ろうとした洸夜に引っ張られる形になってしまった。

 それもその筈、直斗の重さは明らかに年相応の男子の重さではない。それに気付いた直斗の腕はとても細かったのだ。

 しかも、手に関しては傷一つ無い綺麗な手。男と言っても誰も信じないほどに。

 

「あッ!」

 

「まずいッ!」

 

 そして結果的に洸夜に引っ張られた直斗はバランスを崩し、洸夜側に倒れそうになる。それに気付いた洸夜は直斗の身体を押さえたのだが……。

 

 むにゅ……。

 

「ッ!?」

 

「ん? 何だこの感触……?」

 

洸夜は直斗の身体を押さえた瞬間に、明らかにおかしい感触を感じたがそれは不快な感触ではない。寧ろ、柔らかく心地の良いものだ。

 一体何の感触だと洸夜は想い、その部分を良く確認するとその場所は胸。

 

(何故、男子である筈の彼からそんな感触が……?)

 

 そう思いながらも、洸夜はつい腕に力を入れてしまった。

 むにゅ、むにゅと確かに分かる形が変わる膨らみの存在。

 

「ひゃあッ!」

 

 直斗が変な声を上げているが、洸夜は気付かずに考えていた。

 

(何だ、このまるで何かで抑えている様なこの変な感触は。だが、確かに分かるこの膨らみは……?)

 

 そう思いながら洸夜は、フッと直斗の顔を見てみると……。

 

「ッ……!」

 

「うっ……うっ……」

 

 そこには先程の冷静な表情は無く、顔を真っ赤にして涙目で睨む直斗と目が合うと、洸夜はようやく意味を理解する。

 

「ま、まさか……いや、ちょっと待て! これは不可抗力……!」

 

 しかし、洸夜が口を開いた瞬間……。

 

「うわぁぁぁぁぁッ!!」

 

パァァァンッ!

 

 渇いた音が商店街に響き渡った。

 

▼▼▼

 

 現在:神社

 

「少しは落ち着いたか……?」

 

「す、すいません……」

 

 あの後、洸夜と直斗は神社の階段に座っていた。……が、洸夜の顔には生々と平手の跡が残っている。男の勲章だと思えば誇らしいが、ジンジンと痛みが自己主張して中々に痛い勲章だ。

 

「まあ、これで詫びじゃないが……とりあえずは貰ってくれ」

 

 洸夜は座っている直斗に買ってきたジュースを渡し、直斗はそれを受け取った。気まずいの直斗も同じであり、少しでも良いから気分を紛らわせたい様だ。

 そしてその様子を見た洸夜も隣に座り、気まずそうに口を開いた。

 

「それにしても、探偵の一族。その五代目か……」

 

 洸夜はあの後、直斗から自分は『白鐘家』と言う探偵の一族の五代目である事を聞いた。

 そして、今回は警察から直々に稲羽の事件の調査を依頼された事も教えられた。元々、不可解な事が多過ぎる今回の事件に流石の警察も自分達だけでは事件解決は不可能と判断したのだろう。

 だが、だからと言って先程の事が解決した訳では無い。

 

「ところで直斗。何でわざわざ男装なんかしていたんだ? 男装なんかしていなければ、あんな事は……」

 

洸夜は先程の事を自分で言って恥ずかしくなり、顔を片手で覆う。勿論、それを聞いた直斗も顔を赤くし、恥ずかしそうにジュースに口を付けた。

 

「そ、それに関しては言いたくありません」

 

(まあ、何となくは予想がつくがな)

 

 ただでさえ年齢的にも子供の直斗。女性だとバレたら周りから嘗められてしまい、ロクに捜査は疎か事件解決なんて無理だろう。

 ただでさえ警察は女性軽視の部分の事もあるのだろうと、洸夜は内心そう思いながらも話を変えた。

 

「まあ、この話はここまでで良い。……それで結局、お前は何で俺に接触して来た? この町に来たのは俺だけじゃないだろう?」

 

 洸夜の言葉に直斗は表情を最初の時に戻し、帽子を被り直すと目だけこちらに向けて口を開いた。

 

「僕なりに、事件が起き始めた時期にこの町に来た人を調べたんです。そして、その人達に話を聞こうとしていた時に丁度よく貴方に会った。……コレが理由です」

 

「簡単に言えば偶然か……」

 

 そう言って洸夜は直斗に視線を戻す。つい直斗の雰囲気が気になってしまったからだ。

 先程は気付かなかったが、直斗の雰囲気は何処か無理をしている様な感じに思えた。今思えば、何故こんな年齢の直斗が殺人事件の調査に来たのかが不思議でならない。

 未成年で、しかも隠しているが女性。外見や年齢と違い、中身は探偵としてかなりの力が合ったとしても、やはり普通ならば考えられない。

 

「……直斗。はっきり聞くが、お前が事件に関わるのは危険なんじゃないのか?」

 

「……どう言う意味ですか?」

 

 直斗の言葉は落ち着いているが、明らかに目には怒りが混じっている。まるで、親の仇でも見るかの様に洸夜を睨む直斗。

 洸夜自身もまさか、今の言葉でここまで直斗が怒りを表すとは思ってはいなかった。

 

「そう睨むな。お前の様な年齢で、しかも女だ。言い方は良くないが、普通なら何でお前みたいな奴が殺人事件の調査をするのか疑問に思わない訳が無い」

 

「回りくどいですね。ハッキリ言えば良いじゃないですか。子供の癖に、女の癖にでしゃばって事件に首を突っ込むなってッ!」

 

 洸夜から視線を外し、突然声を上げる直斗に洸夜は一瞬驚く。だが、直斗のその姿は余りにもか弱く見えた。

 見た目では強がって見せているが、直斗の目には恐怖や悲しみが映されていて、それが強がりだと言う事が洸夜は理解した。

 

「……直斗。さっきの言葉が気にしたのならすまなかった。だが、この町の事件は何処か異質なモノである事はお前も何処かで理解している筈だ。一体何がお前をそこまで駆り立てる?」

 

 今回の事件には、シャドウやテレビの世界等と言った非現実的なモノが関係している。ハッキリ言って、ペルソナ使いではない一般人の直斗が解決出来る事件では無いと洸夜は判断していた。

 最悪、下手に犯人を刺激してしまい、誘拐の標的にされてしまう可能性だって無い訳ではない。そんな洸夜の考えを知ってか知らずか、直斗は拳を握り絞めると口を開いた。

 

「……言いたくありません」

 

「……そうか」

 

 洸夜も今回の会話だけで、全て話してくれるとは思っていない。性別を偽ったり、この年齢で今回の様な凶悪事件を調査してるのだ、恐らくは直斗にしか分からない何かがあるのだろう。

 すると、洸夜がそう思っていると、直斗は立ち上がり洸夜を見て再び口を開いた。

 

「ですが、既に覚悟は出来ていますよ。必ず僕は今回の事件を解決まで導きます……必ず」

 

 そう言った直斗の目には先程の怒りは無く、文字通り覚悟が映っていた。自分身に何が起ころう共必ず事件は解決させる。

 そんな覚悟が映った目を見てしまったら、洸夜はもう何も言えない。

 

「……それ程の覚悟を持ってこの事件に挑むのか。……子供扱いして悪かった。頑張れよ直斗」

 

 そう言って洸夜は直斗の頭を帽子の上から置き、バイクに跨がる。

 

「えっ? あ、あの……」

 

 洸夜の突然の反応に、やや困惑気味の直斗。そして洸夜は、そんな直斗の様子を見ていると、まるで何かを思い出した様にヘルメットを被ると直斗に向かって口を開く。

 

「ああ、そうだ。直斗、情報と言う訳じゃないが……少し気になる事がある。被害者なんだが……事件の報道前に何故かよく見た気がする……」

 

「……どういうことですか?」

 

 直斗は聞き返した。目は真剣なものだが、洸夜は既にヘルメットを被っている為、彼の表情は分からない。

 これから洸夜が話す事が嘘かも知れないが、それは聞いてから自分が決めれば良いことだと直斗は思っている故に気にはしなかった。

 

「俺にもよくは分からない。……だが、何故かニュースで被害者達が出た時、最初はまたか……そう思ってしまった。何回も言われた様な……聞かされた様な感じだった。なんでだろうな?」

 

 それはこちらの台詞だと直斗は思ったが、同時に何か自分にも引っ掛かりを覚えた。

 

(洸夜さんは何故、そんな事を思ったんだ?……山野真由美は不倫で騒がれていたし、小西早紀も目撃者で報道されていたからそう思ったのか?)

 

 この町に来る前に報道されていたニュースは直斗なりに調べていた。最近のニュースはこの事件の事ばかりで、被害者達の報道が多かった。

 そう思うと、この町にいる洸夜が被害者達の報道を見る度、無意識にでもそう思ってしまうだろう。

 直斗はそんな事を考えた瞬間、脳裏に電流が走った。

 

(――ッ! まさか……!)

 

 直斗は目を大きく開いた。自分の中で当たり前の事になってしまった事で気付かなかった可能性に気付き、直斗は洸夜へ問いかける。

 

「洸夜さん。……あなたがそう思ったのはもしかして、被害者の方々が殺害される前にメディアに映ったからですか?」

 

「……あぁ、そう言われればそうだな。……やはり()()()テレビに……」

 

(……三人?)

 

 後半になるにつれ、考える様に呟く洸夜の言葉を直斗は聞き逃さなかった。

 

「洸夜さん……今――」

 

「そろそろ菜々子が帰ってくる。――じゃあな」

 

 直斗が止めに入ったが洸夜はスパッと言い切り、そのまま止まらずに走り去ってしまう。

 自分の後ろで直斗が何か言っているのに気付いたが、家事をやるものとして時間は貴重なのだ。

 やがて、走っている内にそれは聞こえなくなると洸夜はヘルメットの中で小さく微笑んでいた。

 

「アイドルに探偵か……。この町も大分騒がしくなるな」

 

 暇を潰すものと言えばジュネスぐらいしかなく、少しお洒落な買い物などがしたい場合は電車で隣町に行かなければならない程の田舎町。

 そんな田舎町にアイドル、そして探偵までもやってくるのだ。下手な祭りよりは騒がしくなる事は想像に容易いものだった。

 

(……まあ、どこまで調査出来るか分からないが、負けるなよ直斗……)

 

 心の中でその人物を激励している洸夜の表情はどこか楽しそうなものだった。

 そして洸夜は、久しぶりにちゃんとした覚悟を持った者との出会いを喜びながら、バイクを家まで走らせたのだった。

 

▼▼▼

 

 現在:直斗宅

 

 帰宅した直斗はテーブルの上に新聞紙、その中でテレビ覧の部分を引いて、一枚一枚メディアの部分を読んでいる。

 理由は今日出会った洸夜が去り際に言った言葉が気になり、至急、家に戻って古新聞を集めたのだ。そしてその結果、直斗は亡くなった二人と行方不明になっていた雪子との共通点を予想から確信へと変える。

 

「……メディア。三人共、事件が起こる前にテレビで報道されている……!」

 

 洸夜が言っていた事はこの事か、と自分の目で確認して理解する直斗だったが、それと同時に直斗の頭の中にある疑問が過った。それは……。

 

「何故、洸夜さんは天城 雪子さんの一件を知っていたんだ?」

 

 直斗は、何故事件として扱われていないかった天城 雪子が行方不明になっていた事を洸夜が知っているのか疑問に感じていた。

 商店街にいれば色々と聞こえては来るだろうが、雪子の一件は少し違う。

 本来ならば事件として扱われておらず、明らかに今回の事件の被害者に彼女の存在はない。

 事実、直斗もこの事を知ったの警官達の世間話を立ち聞きした為であり、洸夜の”三人”という言葉によって一連の事件と天城 雪子の失踪が関係していると判断したのだ。

 

「堂島刑事が話したのか? いや、あの人は仕事とプライベートを分けている様な人に感じた。それにあくまで家出の件になっている案件に関わる程、あの人は暇じゃない。……一体、貴方は何者なんですか? 洸夜さん……」

 

自分しかいない部屋で直斗はそう呟くが、誰も答える者はいなかった。

 

END




夢を馬鹿にする大人。それは既に夢を諦めた大人であり、夢を諦めないあなたに嫉妬しているのです。

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