【完結】嵐を呼ぶうたわれるものとケツだけ星人(うたわれるもの 二人の白皇×クレヨンしんちゃん)   作:アニッキーブラッザー

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第8話 おじさんは忙しかったぞ

 そこには、大自然を思わせる緑一色に覆われた謎の巨大な人型兵機が居た。

 アベルカムルではない。大型作業用のものではなく、もっと戦闘に特化した……いや、待て! アレはどこかで見たことがあるぞ!

 記憶……遥か昔の……まだ自分が地下に住んでいた頃……静止画像を取り込んだコマ送りの動画技術……確か、『アニメ』って呼ばれたものを好きだった奴が、保管庫から持ち出したデータを空き時間に見せてくれたが……そうたしか……ダンガ……ガンダム? いや、違う……確か! そうだ、思い出した!

 

「おおおお、カンタムだぞーッ!」

「あれは、超電導カンタムロボではないか!」

「そうだ、アレは、カンタムロボだッ!」

 

 カンタムロボ。遥か昔、かつてまだ地下の世界に大いなる父たちが住む時代よりも遥か昔、地上の世界で娯楽として作られたという、作品。

 ……えっ?

 

「おお、おじさんも、ハクとーちゃんもカンタムを知ってるのか~、子供ですな~」

 

 アレをカンタムロボと理解してその名を叫んだのは、自分、そしてしんのすけとハクオロだった。

 自分もハクオロも思わず顔を見合わせて言葉を失ってしまった。

 

「しんのすけ、父様、ハク、アレを知っているの?」

「なんなのです、アレは! 仮面の者? それとも、トゥスクルの兵器ですか?」

「アヴゥ・カムウではなさそうですね……アレは……」

「カンタ……なんとかというのは存じませんが、ですがそれどころではなさそうですわ、主様」

「聖上、クオン、某の後ろに」

「ふん、しかしどこのどいつかは知らぬが、余に対して何たる無礼! ミカさん、ムネさん、懲らしめてやりなさい!」

 

 そして、案の定自分たち以外は目の前の巨大な物体の正体を誰も知らないようだ。

 まあ、当然だ。自分とて、大昔に知り合いが見せてくれなければ分からなかったぐらいだ。

 しかし、何で、しんのすけもハクオロも、アレを知っているんだ?

 だが、問題はそれだけではなさそうだ。

 

「待ってください。それよりも、先ほどの声……ハクオロさん……」

「うむ」

 

 エルルゥさんとハクオロがカンタムを見上げながら何かを話している。

 そして、ハクオロがどんどんと顔を青ざめさせている。

 一体あの声に何かあるのか? そう思ったとき、カンタムからまた声が聞こえてきた。

 

「久しぶりだな……ハクオロよ……余のことを覚えているか?」

「ひっぐ、ハクオロ様~……ハクオロ様~……」

 

 なんだ? 皇女さんみたいに、随分と偉そうな喋り方をする女? そして、もう一人は、泣いているかのような声を発する女。

 二人の女の声がカンタムから聞こえてきたが……

 

「おい、ハクオロ」

「…………」

「ハクオロオオオオオオ! お、お、お前、まだ他にも居たのか!」

 

 ハクオロの名前を呼ぶ二人の女。その時点で確定だ!

 待たせていた女的なものが、ハクオロにはまだ居たのか! 自分がそう問い詰めると、ハクオロは言葉を失ったまま顔を俯かせている。

 やっぱりな。こいつ、どんだけ封印される前に女と関係を……

 

「く……クーヤお母様…………サクヤお母様……その声、そうなんでしょ? ねえ、お母様!」

 

 その時、クオンが叫んだ。

 

「お、お母様? クオン、お前、母親がまだ居たのか?」

「う、うん。間違いない。さっきの声は、クーヤお母様とサクヤお母様だよ。ほかのお母様たちと違って、あまり会う機会は無かったけど、間違いないんだから!」

 

 本当にまだ居たのか。ハクオロ、この女の敵ッ! 

っていうか、お前、長らく封印されて外に出なかったのって、こういうゴタゴタが嫌になったからじゃないだろうな?

 

「大きくなったな、クオン。余もお前の成長を母として嬉しく思う。しかし、今はしばし待て……」

「クオン様~、私なんかもお母様って呼んでくださるの、本当にいつも嬉しいですけど……今はちょっと待っててくださいね」

 

 カンタムから聞こえる二人の声。クーヤとサクヤって人みたいだが、聞いたことはないな。

 

 

「カンタムロボ……また、随分と物騒なものを持ち出したものだな……既にほとんど思い出せぬ過去……私が……アイスマンになる前の頃……記憶の片隅にある子供向けの人気アニメ……。アイスマンとして目覚めた頃も……そうだ、ミズシマさんが太古に関するコレクションなどといって、ムツミとミコトと一緒に見せてもらったな……有志で集まった研究者たちで余暇を利用して実物大を作っているという話も聞いたな」

 

 

 そんなハクオロは、自分にも聞き覚えのある単語をつらつらと並べて、切なそうにカンタムを見上げている。

 にしても、ミズシマ……ミズシマ……この名前はどこかで……

 

 

「だが、今はそれはよい。とにかく……久しいな、クーヤ……サクヤ……お前たちのことを忘れたことなど、片時もない。あの、ゲンジマルが命をとして私に託したお前たち二人を、なぜ忘れることができる」

 

 

 力強い言葉でカンタムに向かって語りかけるハクオロ……ん?

 

「おい、クオン。ついさっき、ハクオロは二人のことをすっかり忘れてたって……」

「しっ、ハク! 静かにしているかな!」

 

 慌てて自分の口を尻尾で押さえつけてくるクオン。

 あっ、よく見たらハクオロの後頭部から汗がダラダラと流れている。

 やっぱ、忘れてたんだな!

 

「私が眠りについてからのお前たちのことは、エルルゥから聞いていた。クーヤはゆっくりと時間をかけて、壊れた心を修復することができたと。その後、亡国となったクンネカムンに残された民たちをまとめ上げ、彼らをトゥスクルの民へとなるよう働きかけてくれていたと。その補佐をサクヤも尽力していたと」

 

 こいつ、本当に話を聞いていた「だけ」なんだろうな。

 なぜなら、色々なことをこれまで口八丁で誤魔化してきた自分だからこそ分かる。

 ハクオロは今、思い出しながら喋っているということを。

すると、カンタムからは不貞腐れた声が聞こえてきた。

 

「で? 帰還してから、なぜ、余にもサクヤにも一度も会いに来んのだ?」

「そうですよ~、ハクオロ様の記憶では、アマテラスに焼き尽くされた状態のままの旧クンネカムン。それがどれだけ復興したかをお見せしたかったのに~」

 

 そこつっこまれちゃったよ~……

 まあ、この人が誰で、ハクオロと過去にどういう経緯があったかは知らないけどさ、一度も会いに来ないのはまずいだろ。……ってか、アマテラスで焼き尽くされたとか、すごい言葉がサラッと出てきてないか?

 

「よし、しんのすけ、風呂でも入るか」

「待つんだぞ、ハクとーちゃん! カンタムロボだぞ、カンタムロボ! おら、カンタムと遊びたいぞー!」

「おお、ハクオロの奴が話終わったら頼んでやるよ」

「ほーほー、ん~、おじさんは、カンタムから聞こえるお姉さんとも、いけない関係だったのか?」

「ああ、いけない関係だったみたいだ。ささ、自分たちはお邪魔だからどっかに行こう」

 

 付き合ってられるか。そう思った自分はしんのすけの頭を撫でながら、この場を後にしようとした。

 

「兄様、しんのすけに構い過ぎなのです。それよりも神代文字を教えてくださるという約束を、さっさと果たすのです」

「そういえば、おにーさん、神様になって、えらいつよーなったんやろ? うちと一回死合わへん?」

「そうだ、ハクよ。せっかくだから、花札をしないか? あれから鍛えた私の実力を見せてやるぞ!」

「む~~~、ハク様! 私と一緒にお菓子作りしませんか?」

「むむむ、それは重畳! ハクよ、さっさと菓子を作るのじゃ! 余に献上せい!」

「聖上、あまりハク殿を困らせてはなりませんよ?」

「そういえば、貴様の菓子を俺もあまり食ってはいないな。この、サコンの飴細工とどっちが上かのう?」

「兄上、お風呂に行かれるのでしたら、僕も。背中をお流しします」

「なら、キウルのせなかはシノノンがながしてやるぞ」

「おーっと、それはまだ、俺の眼が黒いうちは許さないじゃなーい」

「では、僕たちは宴会の続きといきますか」

「主様、お風呂でろーしょん」

「まっとぷれい、なるものでご奉仕させていただきます」

 

 とまあ、ヤマト勢は「あっ、じゃあ、トゥスクルの方たちは勝手にやっててください」とそそくさと壊れた宴会場へ戻ろうとした。

 

「あの~、みなさん、どちらへ?」

「ちょ、待つかなー、ハクもみんなも!」

 

 トゥスクルの民であるフミルィルとクオンは慌てて自分たちを止めようとするが、正直我らとしては「バカらしいから関わりたくない」という気持ちでいっぱいだった。

 

「ま、まま、待つんだ、クーヤ、サクヤ。私は会いに行かなかったわけではない。会いにいけなかったのだ。戻ったばかりの私には、トゥスクルの始祖皇としてやるべきことが山済みであった」

 

 いや、ないだろ。だって、クオンが皇位を引き継いだんだから。

 

「そーだぞー! おじさんは、やることがいっぱいあったんだぞーっ!」

 

 その時、自分の脇に抱えられていたしんのすけが声を上げた。

 思わぬフォローに一同の視線が一気にしんのすけに集まる。

 

「お、おい、しんのすけ」

 

 しんのすけは鼻息荒くして、目をキラキラさせながらカンタムを見上げている。

 そうか……ハクオロの話が終わったらカンタムで遊べると思ってこいつ……

 

「しんのすけくん……君は、私を助けるために……」

「ほう、見たこともない童だな。おい、そこのモロロ頭の小僧よ。ハクオロがやるべきことがあったとはどういうことだ?」

 

 しんのすけの思わぬフォローにハクオロは少し感動し、クーヤという女からは不機嫌な声が漏れる。

 そして、ハクオロのやることがいっぱいあったとはどういうことだ?

 その問いに、しんのすけは……

 

 

「えっと、えっと、……おじさんは、ウルトおば……ウルトおねーさんのお胸モミモミで忙しかったんだぞーッ!」

 

「そう、クーヤ。私はウルトのお胸を……オヴェエエエエ?」

 

 

 ああ、自分もなんとなく、しんのすけ的にこんなことになるのではないかと思っていた。

 

「まあ、しんのすけったら……うふふふ、分かっているのね」

「ウルト、何を勝ち誇った顔をしていますの! しんのすけ、ウルトだけではないと教えてやりなさいな!」

 

 そして、ニコニコのウルトリィさんに、便乗するカルラさん。すると……

 

「えっと、そ、そうだぞー! おじさんは、きれいなおば……おねーさんといっぱい仲良くしてて大変だったんだぞーっ! カルラおねーさんのお胸モミモミ♪ 着やせだけどボンっと大きいトウカおねーさんのお胸もモミモミ♪ カミュちゃんのお胸もモミモミ♪ う~ん、ダメよ~、ダメダメ~♪ えへ~、うらやましいぞ、おじさん!」

 

 …………

 

「しんのすけくん?」

「ひうっ!」

 

 その時、笑顔が凄い怖いエルルゥさんが、しんのすけの頭を鷲掴みにした。

 

 

「どうして、私の名前は出てこないの?」

 

「えっ、だって、……エルルゥお姉さん……おらのかーちゃんと同じで…………揉むほど、おむねないから」

 

「……あ゛ん?」

 

 

 あれ、本当にエルルゥさんだよな! 社に居た、あの優しい微笑みを見せてくれた、エルルゥさんだよな?

 そんな時、アルルゥは呟いた……

 

「アルルゥは……エルンガーより大きいから大丈夫」

 

 と。

 すると、悪鬼羅刹となったエルルゥさんの怒号が飛ぶかと思った次の瞬間。

 

 

「もう……よい……」

 

 

 カンタムから、深い闇と憎しみを孕んだ声がきこえてきた。

 

 

「く、クーヤ、違うんだ。この子はまだ何も分かっていない子供で……」

 

「……ハクオロ…………ハ~~~~~~ク~~~~~オ~~~~~~ロォォォォォォォォォッ!」

 

 

 洒落にならん怒りの風が全てを吹き飛ばすかのように、吹き荒れた。

 

 

「余を裏切った罪! この憎しみを晴らしてくれる! 立てーッ、カン・タムゥ! 正義の戦士~♪」

 

 

 カンタムの目が光り、クーヤの気持ちを表すかのように唸りを上げた。

 これは……強い!

 

 

「さあ、サクヤ。其方も存分に戦うがよい。かつて、ディーが開発したものの実戦投入されなかった……青き仮面の力を使ってな……足の腱が切られて歩くこともままならなかった其方が……ゲンジマルを超えた力を身に着けることができたことを、ハクオロに思い知らせてやるのだ!」

 

「御意です!」

 

「さあ、行くのだ、サクヤ! クンネカムンに伝わりし、カン・タムゥと並ぶ三大禁忌の一つを、見せてみよッ!」

 

 

 

 さらに、戦闘モードに入ったカンタムから一つの影が飛び出した。

 その影は、月夜を背に……

 

 

「わーっはっはっはっはっは! わーっはっはっはっはっは!」

 

 

 あれ? さっきまで泣き声で話していた……サクヤって人か?

 

「さ、サクヤお母様?」

「どうしたのだ、サクヤ。お前らしくもない!」

 

 突如盛大に笑いながら、サクヤという人が飛び出した。

 暗くてその姿がイマイチよく見えないが、サクヤという人は……

 

 

「この世に悪がある限り、命を懸けて戦うッ!」

 

 

 まっ、自分には関係ないか。さっさと風呂入るか。

 とりあえず、ハクオロ……死ぬなよな。じゃ、そういうことで。

 


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