【完結】嵐を呼ぶうたわれるものとケツだけ星人(うたわれるもの 二人の白皇×クレヨンしんちゃん)   作:アニッキーブラッザー

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第2話 ハクとーちゃんは追いかけられているぞ

 大封印。

 突如として、オンカミヤムカイの周囲に巨大な結界が張られた。

 体が重い。力が押さえつけられる感覚。

 どうしてこうなった? 

 

「主様。さっそくバレた」

「しんのすけが、偶然この国に訪れていたクオンさんたちに遭遇しました」

 

 思わず、「えっ?」と言ってしまった。

 

「神狩り」

「オンカミヤムカイの術士たちが国を挙げて巨大な結界を張りました。そして、トゥスクルとヤマトの兵たちが街中を駆け巡っています」

 

 待て待て待て待て。何で、オンカミヤムカイにトゥスクルとヤマト? しかもクオン……たち? 

 

「偶然会談」

「皆さん、おそろいのようです。いかがいたしましょうか?」

 

 いや、どうするもこうするも……逃げないと……

 

「逃げるには結界を解除する必要があります」

「私たちだけでは無理」

「術を解いてもらう必要があります」

「術士は一人じゃない」

「術士の周りには護衛の兵たちがついております」

「死角なし」

 

 でも、逃げられない! まずい……まずいことになった……

 

「ととと、とにかくだ! 今、自分がクオンたちに会うわけにはいかない! ほら、神様が気軽にホイホイとヒトの前に現れると力が段々失われるからな……」

 

 この世のタタリに救いを……かつて同じ時代に生きた者たちを……

 

「そのためにも、と、とにかく逃げよう。そんで、隠れるぞ! クオンたちには会えない!」

 

 やるべきことがある。そして、自分はもう死んだ人間。

 だからあの時、あいつらに今生の別れの意味も込めて、最後の言葉を贈って別れた。

 そんな奴がホイホイと現れて「神様になって復活したぞ♪」なんて……なんか……恥ずかしいだろ……

 

「おやおや、随分と聞き捨てならないことを口にしますね」

「お嬢をこれ以上泣かせるってんなら、多少の怪我ぐらい覚悟してんだろうな?」

 

 その時、なにやら聞き覚えのある声が聞こえた。

 そして、この空気。その場に存在するだけで感じ取ることが出来る、圧倒的な「武」の匂いを発した武士たち。

 

「えっ……?」

 

 振り返るとそこには、トゥスクル兵たち数十名を引き連れた、トゥスクルが誇る二大戦力。

 

「女皇の言葉を聞いたときは半信半疑でしたが……この国にいらっしゃったのですね……オシュトル殿……いや、ハク……でしたね?」

 

 トゥスクルの侍大将ベナウィ! 

 

「さあ、捕まってもらうぜ。抵抗したって構わねーぜ? あんたとは前々からやりあってみたいと思ってたからな」

 

 戦狂いのクロウ! いや、待て待て待て! いきなりこんな奴らがどうして? 

 誤魔化す? オシュトルの時みたいに顔を仮面で隠しているし、ここは……

 

「な、なんにゃもか? ち、朕はそんな名前じゃないにゃも!」

 

 誤魔化せるか? と思ったら、ベナウィとクロウから明らかな殺気みたいなのが! 

 

「我らが魂魄を捧げし主が、その仮面をあなたに授けたということは既に聞いております」

「つか、その喋り方にはぶった斬りたくなるような縁があるから、逆効果だぜ?」

 

 ハクオロの奴、告げ口しやがったな! 

 いや、待て待て! 今の自分は術によって力が全然使えなくて……待てええええええええ! 

 

「はああああああああっ!」

「ずおりゃああああああ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──―十秒後……

 

「私たちも術が使えない」

「申し訳ありません、主様」

 

 アッサリと捕まった。

 自分とウルゥルとサラァナの三人は両手を縄で縛られ、両足首も縄で縛られて、立って歩くことが出来ない状態だった。

 

「随分と楽でしたね」

「つか、術で力が抑えつけられてるんだったな」

 

 くそ! ベナウィとクロウが哀れんだ目で自分を見下ろしている。神なのに! 神なのに! 

 

「とりあえず、お嬢を呼びますかい。久々、感動の対面ってことで」

「ええ、それがよいでしょう。ただし、ハク殿……数発は殴られる覚悟をされた方がよいでしょう。みなさん、色々と思うところがあるようですので」

 

 まずい! それに、この騒ぎで民衆も様子を伺うように集り出して、周りが人垣で覆われている。

 おまけに、手足も縄で縛られて、力も封印された状態でこの二人やトゥスクル兵から逃げることなんて……

 

「で、大将。ちなみに、お嬢にこいつを会わせた後はどうすんですかい?」

「どうするも何も……決まっています。トゥスクルに連れ帰ります。女皇はこれまで縁談を片っ端から断ってきましたが、これでお世継ぎの心配もなくなるでしょう」

「ああ、そういうことですかい。しかし複雑になりやすね。これまで総大将からお預けくらっていた姉さん方たちが、獣のように総大将を襲って、もうしばらくすりゃあ、お嬢に弟か妹がって時に、お嬢の御子ができるかもしれねーってことですからねえ」

「ええ、これで我がトゥスクルも安泰ということです」

「こいつなら、お嬢どころか、総大将や若大将からも文句は言われねえ」

「おまけに、頭も回り、政務にも問題なく対応できるでしょうから、よき皇となるでしょう」

 

 いやいや待て待て。随分とサラっとこの二人はとんでもないことを話していないか? 

 クオンたちに会わせるために自分を捕まえたのは分かるが、その後にトゥスクルに連れていくって……

 

「ま、待て! 自分はそんなこと────」

「「ギロリ!」」

「ひっ!」

 

 強烈な殺気に睨まれて、全身が震え上がった。なんてことだ! ブライやミカズチとだって勇敢に戦ったのに、娘のためなら羅刹のごとき鬼にもなろうという二人の気迫がどうしようもない! 

 

「ヤマトの総大将を、勝手な引き抜きなど許されると思っているのか! トゥスクルよ!」

 

 その時だった! 

 空気が震えている。

 肌にバチバチと弾けた空気が当たる。

 その声、その空気、そしてその存在感は、かつて何度も死闘を繰り広げた……

 

 

「ようやく見つけたぞ! オシュトルゥ!」

 

 

 閃光が目の前で弾けた。

 気づけば、横たわる自分の目の前にはあの男が居た。

 

「ミ……ミカヅチ!」

 

 ヤマト八柱将が一人。左近衛大将。ミカヅチ! 

 稲妻のごとく鋭い眼光と、大戦が終わろうとも些かも衰えを見せないその武の香り。

 相変わらず……

 

「これはこれは……ミカヅチ殿……ご無沙汰しております」

「ふっ、トゥスクルよ。先にこやつを捕まえたことは実に大儀であった。しかし、我らヤマトに断りも無く、随分と不届きなことを企んでいるようだな」

 

 ミカヅチが相対するようにベナウィとクロウの前に立つ。

 その好戦的な睨みと、弾ける空気を浴びながら、ベナウィは静かに、クロウはニタリと笑みを浮かべる。

 

「不届き? 彼はもはやオシュトルの役目を終え、我らが女皇と共にトゥスクルの永劫の繁栄をもたらすための役目を新たに請け負うことは既に決定事項なのですが?」

「そうだぜい、ミカヅチの旦那よお。人の恋路を邪魔する奴は、ウォプタルに蹴られることになるぜ?」

「笑止! オシュトルであれ、ハクであれ、大いなる父であれ、大神であれ、この者は我がヤマトの帝の半身! それを引き剥がす等、貴様ら、我らヤマトと戦を始める気かッ!」

 

 ヤバイ! なんか、一触即発に! 下手なことをしたら、こいつら、いきなり戦いだすんじゃないだろうな! 

 こんなことでヤマトとトゥスクルが戦争に……いや、でも、……今……こいつらの視線は自分から外れている……この隙にどうにか……

 

「おお、ハクとーちゃん、そんなとこで何やってんだ?」

 

 その時、群がる民衆や兵たちの視線を掻い潜って、小さな子供が自分の前に……しんのすけ! 

 

「しんのすけ! お前!」

「それより、ハクとーちゃん。何だか恐いおねーさんたちが、ハクとーちゃんの場所を教えろって追いかけてくるんだ。なんかしたのか? オラ、逃げて来ちゃったぞ」

「な、なにいっ! って、恐いお姉さんって……」

 

 間違いない。クオンたちだ! 

 このままここに居たら、せっかく和睦を結んだこのニ国だって大変なことになる。

 何とかして逃げないと……

 

「おい、しんのすけ! なんとか、この縄を外せないか? 動けないんだ!」

「え~、なんか硬そうで難しそ────―」

 

 急いで、しんのすけに、自分とウルゥルとサラァナの縄を解かせようとした瞬間……

 

「「「何をやってんだ(されているのですか)?」」」

 

 一触即発だった、ベナウィとクロウとミカズチが、青筋浮かべて剣と槍を自分たちの前に突き刺してきた! バレた! 

 

「ちっ、く、くそお!」

「逃げられると思っているのですか?」

「あんまり手荒なことさせるんじゃねえよ?」

「貴様ともあろうものが、あまり失望させるなよな? ……というより、何だ、この小僧は?」

 

 流石に目の前に三人の屈強な男が殺気と真剣をむき出しにしては、子供のしんのすけも顔を青ざめさせている。

 

「……ねえ、ハクとーちゃん、おら、なんかこの国恐くてやだぞ。早く逃げるぞ」

「いや、だからしんのすけ、自分もウルゥルもサラァナも手足を縛られて逃げられな……」

「え~? それなら、手も足も使わないで動けばいいぞ?」

「な……なに?」

 

 手も足も使わないで……? どういうことだ? ウルゥルとサラァナも理解できていないのか小首をかしげている。

 すると……

 

「こうするんだぞ。うんしょ、うんしょ……」

 

 しんのすけが腰を地面に下ろして座った。尻を地面につけながらも、両足だけ浮かせて……

 

 

「秘技! ケツだけ歩き~!」

 

「「「「「な、なにいいいいいいいいいいいい!?」」」」」

 

 

 それは、正に目から鱗だった。あまりの驚愕の事態にベナウィたちも、周りの民衆たちも驚きの声を上げている。

 そうか! 手も足も使えないなら、ケツで歩けばよかったんだ! 

 

「そうか、その手があった! って、できるかああああ!」

「え~、じゃあ、おいてっちゃうぞ?」

 

 ぐっ、くそ、ケツで歩けだと? 一体この世界でその発想ができる奴が何人いる? でも、しんのすけはできているし…… 

 

「ええい、もうやけだ! 自分たちも行くぞ! しんのすけに続け! ケツで道を切り開く」

「主様は私たちの臀部の開発をご所望」

「主様が開けというのであれば、臀部を主様に開きます」

 

 ウルゥルとサラァナに視線を送る。すると二人も自分に「了解」と頷き返してきた。変な意味で理解しているようだが、無視だ。

 そして今、しんのすけの存在のおかげで、今、回りは混乱状態。

 今なら、いける! 

 

「きゃあああああ!」

「いやあああ、な、なにこれ、お、恐ろしい!」

「新たな禍日神!」

 

 しんのすけに続く自分たち。

 

「う、お、い、意外にできるものだな」

「私たちもできた」

「私たちのお尻にも主様のため以外に使い道がありました」

 

 それは未だかつて見たことのない行進だったのだろう。その不気味な行進に驚きと恐怖を抱いた民衆たちが道を開ける。

 逃げられる! 

 

「ッ、しまった! 追いますッ!」

「な、に、に、逃がすかァ!」

「ッ、なんてやつらだ! だが、逃がすと思っているのか! 雷駆ッ!」

 

 だが、あの三人だけは、驚いたまま自分たちを見逃すほど甘くは無い。

 ベナウィ、クロウ、ミカヅチの三人だけは直ぐに自分たちの後を追いかけて走ってくる。

 だが、この好機は逃さない、必ず逃げ切る! 

 

 

「このまま突っ切るぞ! 我こそ、うたわれるもの! 神様なめんな!」

 

「ほっほほーい、ハクとーちゃん気合入ってるぞー! じゃあ、ご一緒するぞ! うたわれ一家ファイヤーっ!」

 

「「「ファイヤーッ!」」」

 

 

 そうだ、行くぞ! ファイヤーッ! 

 

 

 

 


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