時間が巻き戻ったっぽいので今度は妹と仲良くしてみようと思う。   作:筆休め!

7 / 9
前回のあらすじ!

・田舎でのんびり過ごした。
・妹に言質を取られた(無自覚)
・お久しぶりです。

※感想ありがとうございます。今更ですがこの作品は現実の世界の制度、法律等々とかけ離れた世界であると割り切って読んでいただいた方が楽しめるかと思います。ご了承下さい。


魔王の嫁とエンカウントした時の対処法

 季節は巡り、春。俺は高校三年生になっていよいよ大学受験まで一年もなくなった。勉強も更に気合を入れている。

 

 また学校生活では何故か去年の夏休み明けにあった生徒会の選挙で生徒会長に担ぎ上げられ見事当選してしまった。先生方、いくらなんでも生徒指導部のゴリラ+体育教師のゴリラ+柔道部の顧問のゴリラの三頭で囲むのはやりすぎですよ。あの状況で「生徒会長になれ」って言われて断れる人間はいないでしょうよ。

 

 ちなみに俺は前回の時もこの高校の生徒会長だった。これも運命か……生徒会長なんて面倒なだけだからやりたくなかったのに。勿論、選ばれたからにはそれなりの結果は出していきたいとは思っている。

 

 俺が通っている高校は『生徒の自主性を重んじる』とか言う立派なお題目を掲げているので生徒会の権限が強く、学校で起こった問題は生徒会が率先して解決していくのだ。学校祭の運営というどこの学校にもありそうな当たり前のものから生徒同士の恋のお悩み相談教室まで……もうウチの生徒会って学校の便利屋みたいな扱いになってるよな。報酬を求めても良いレベルの労働だよ、あれは。

 

 そんな事を考えながら、俺は目の前のインターフォンを押した。すぐさま家主であるノブさんが笑顔で出迎えてくれた。

 

「よく来たね。さぁさぁ上がって」

 

「お邪魔します」

 

 ここはノブさんが以前まで住んでいた実家ではなく、新たに借りたというマンションの一室だ。通っている東都工業大学に近いこの場所で一人暮らしをしている。

 

 俺は初めて訪れた彼の新居の中身をぐるっと見回して、

 

「一人で暮らすには広すぎませんか?」

 

「狭いよりは広い方が良いだろう? それにここにも研究として使う機材を入れるつもりなんだ」

 

 これでも狭かったかもしれない、なんて苦笑するノブさん。

 

 一人暮らしで無駄に広いなんて掃除などの管理が大変なだけではないかと思ったが、ちゃんとした理由があったらしい。

 

「親父が斡旋してくれた中から僕が選んだんだ。良い部屋だろう? とりあえず座ってもらおうかな」

 

 促されて一目で高級だと分かる椅子に座る。ノブさんはこういった高級なインテリアを好む。俺達の互いの実家ではこのような家具は珍しくないので大して気にならないが、普通の学生なら驚くだろうな。少なくともこの椅子もテーブルも一人暮らしのマンションに置かれるようなものでは無いのだから。

 

「……ま、俺以外にこの家に来る奴なんていないから関係ないか」

 

「いきなり酷い言い草だね? ま、事実だけどさ」

 

 割と失礼な事を言ったにも関わらず、ノブさんは笑いながら俺にコーヒー出してくれた。俺はそれに口を付けず、質問した。

 

「それで、何の用です? チャットや通話じゃなくて直接会って話したいなんて。余程の話があるんじゃないですか?」

 

「新しい家を君に見せびらかしたかった、では駄目かな?」

 

「駄目です。茶化さないでください」

 

「相変わらず厳しいな浩一郎君は。もう少しくらいお喋りしてくれても……とりあえず、最初にこれを見てくれるかな」

 

 ぶつぶつと文句の様なものを言いながらノブさんが俺に手渡してきたのはクリアファイル。その間にはそれなりの量のプリントが挟まれていた。ノブさんが真剣な表情に変わった事からそれなりの内容のものであるのだと俺に予感させた。

 

 中身を取り出し、目を通していく。

 

「……これは」

 

「まだ原案以下のもの、らしいけどね。僕が所属している研究室の先輩が考案したものだ」

 

 そのプリントに書かれていたのはまだこの時代では実現していない医療器具――コードネーム、メディキュボイドの構想案だった。

 

 羅列されている文字やグラフに目を通しながら思わず呟いてしまった。凄い、と。

 

 ノブさんに教えてもらいながらフルダイブ技術について学んでいる今だからこそ何となくではあるが理解できる。これを考えた人物は天才だ。

 

 原案以下のもの、という事でまだ様々な問題が残っているようだが、それを差し引いてもこの理論に辿り着ける研究者が世界に何人いるだろうか?

 

「コンセプトはレンズを組み合わせる事によってVR世界と現実環境を同期させて『拡張現実(AR)』を実現させる……か。これが実用化されるとなれば医療環境がガラリと変わりそうですね」

 

「実現には開発予算、電磁パルスの出力の弱さといった問題が山積みなんだけど、仮に実現すればほとんどの手術で麻酔が不要になるらしい。精神に問題がある患者とも脳に直接働きかける事によってコミュニケーションが取れるようになるとか」

 

 それは凄い。凄いとは思うのだが……

 

「どうして俺にこんなものを? これって外に出しちゃ不味い資料なんじゃないですか?」

 

「これを考えた人に『僕の後輩に医療関係のVR技術に興味がある面白い奴がいる』と言ったら喜々として渡してくれたよ。良かったら君の意見を聞かせてほしいとも言っていたな」

 

「うーん……」

 

 意見と言われてもなぁ。このレベルになると今の俺では技術的な意見を出す事はほとんどできない。プリントにまとめられている内容も何となくでしか理解できない。自分でも分かってはいたがまだまだ勉強不足のようだ。

 

「その先輩はVRゲームの開発よりも医療分野(こちら)の方に力を入れている人でね。うちの研究室には茅場先輩を筆頭にゲームにしか関心のない人間ばかりだから、自分と話ができる奴が欲しいらしい」

 

 なるほど。確かに研究の分野が同じ人間が身近にいないと議論を深める事もしづらいか。俺は名前も知らないその先輩に少しだけ同情した。

 

 それにしても分かってはいた事とは言え、ノブさんは凄い場所で研究しているんだな。茅場だけでなく、他の学生もこのレベルの知識を持っているとなると……ノブさんの研究室では理解不能な単語が飛び交う摩訶不思議な空間が広がっているに違いない。

 

「……俺、大学に入学できたとしてもやっていけますかね」

 

「浩一郎君なら大丈夫だろう」

 

「その根拠は?」

 

「君には僕がついているからさ」

 

 はい、本日一のノブさんのドヤ顔いただきました。言っておくがそんなものは根拠とは言わない。それはノブさんの勘だと思うのだが、本人は本心からそう信じているようだ。

 

 言い換えればそこまで信頼してもらっているという事だろうから、ノブさんとの仲を深めて将来、明日奈を拉致監禁するという暴挙を防ぐ目的は達成できそうである。まだ油断はできないが、そこは素直に喜んで良いと思う。

 

「ああ、そうそう。大事な事を言い忘れる所だった。来週の土曜日って空いているかい?」

 

 来週の土曜日? その日は確か午前中は学校で講習があるが、午後は暇だったはずだ。

 

「このレポートの製作者である彼女――神代凛子先輩が君に会いたいそうだ」

 

「え」

 

 どうして俺に会いたいのか? その理由を尋ねる前にノブさんが爆弾を投下した。

 

「ちなみにだけど彼女は君がリスペクトしている茅場先輩の恋人だよ」

 

「ふぁっ!?」

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

 

 

 いきなりラスボスの恋人とエンカウントするとは流石に予想外だった。しかしこれは願ってもなかったチャンスである。

 

 もしも神代凛子に気に入ってもらう事ができたのなら、彼女を介して茅場晶彦とコンタクトを取る事ができるようになるかもしれないからだ。ここでのミスは俺の計画において致命的なものになりかねない。俺は気を引き締めて事前に準備をしていた。

 

 そして約束の日になり、俺は東都工業大学を訪れた。そしてノブさん立ち合いの元、神代さんと会った。

 

 ちなみに彼女はなかなかの美人さんだった。茅場晶彦は天才的な頭脳だけではなく、恋愛面においても勝ち組のようだ。リア充は爆ぜろ。

 

 まあ別に悔しくなんてないし? 前回の人生ではちゃんと結婚できた(しかし親が決めた許嫁である)し、今回だって恋人はいなくても代わりに天使の様な妹がいるからな!

 

……自分で考えていて虚しくなってきたのでこの話は止めよう。考えている事がバレたのか、途中ノブさんがいやらしくニヤニヤしていたのでとりあえず殴っておいた。殴られてもノブさんは笑っていた。マゾか。そうなんだな? もう一発いっとくか?

 

「貴方、面白い人ね」

 

 それを見ていた神代さんも笑っていた。初対面で「面白い」と言われても反応に困る。なので早々に本題に入る事にした。俺は愛想笑いを浮かべて言葉を返した。

 

「先輩こそ面白い人ですよね。レポート見させてもらいましたけど」

 

 意図的に場の空気を切り替える。自身の雰囲気を変えると言うべきだろうか。威圧し過ぎず、舐められ過ぎず。前回の人生で務めていた会社の幹部として何度も重要な会議を切り抜けてきた俺である。この程度の腹芸はお手の物だ。

 

 俺は持って来ていた鞄から一つのファイルを取り出して、彼女に差し出す。

 

「貴女のレポートを参考にして俺なりの解釈をまとめてみました……率直に言って感服しました。これが実現すれば助からないと言われている重病人の患者も救う事ができるようになるでしょうね」

 

「これを貴方が?」

 

 ファイルにまとめられている資料に目を通しながら、神代さんが尋ねてきた。

 

「まだまだ空想の域を出ないものですけど」

 

「いいえ、充分よ。むしろ充分すぎるくらい」

 

 真剣に目を通している様子を見て、内心でホッとする。もう既に遥か彼方に存在するメディキュボイドの記憶を徹夜で手繰り寄せた甲斐があった。メディキュボイド関連の製品を営業で売った時の知識がこんな所で生きるとは思いもよらなかったが結果オーライという奴だ。

 

「確かに貴方の言う通り、この技術が実現すれば多くの病気で苦しむ人達を救う事ができるようになる……でもその為には研究もまだまだだし、何より資金が圧倒的に不足している」

 

 神代さんはファイルを目の前の机に置いてから大きく息を吐いた。確かに資金の問題はどんな研究にもついて回る問題だ。如何に彼女が優秀であると言ってもまだ大学生。研究を支援してくれるスポンサーなど中々見つかるものではないのだろう。

 

 俺の今回の目的は彼女の目に留まる事……つまり、俺が役に立つ人間であると思わせる事である。

 

 神代さんが進めているメディキュボイドの問題点は大きく二つ。一つは当然、資金面での援助。もう一つは臨床試験による実際の現場から採れるデータだ。医療分野には命に関わるリスクが付きまとうので試験によって得られるデータというものが重要視される。

 

 この二つがない現時点では神代さんの頭脳とコンピュータ上の計算、言ってしまえば机上の空論でしかない。

 

「金銭面では茅場さんに頼ってみては? 彼には学生とは思えないほどの莫大なお金があると思うんですが」

 

「茅場君には頼れないわ」

 

 神代さんはあっさりと言った。

 

「彼には彼のやるべき研究がある。お金だって無限にあるわけじゃない。限られた資源を余計な事に回す余裕なんてないわ」

 

 これは予想通りの回答だ。茅場を頼りにできるのならば、彼女の研究はもっと進んでいるはずなのだから。

 

 俺は如何にも悩んでいます、という感じで腕を組んで考え込む姿勢をとり、彼女の言葉を待った。

 

 しばらく誰も喋らなかったが、不意に神代さんが悩ましげに、

 

「資金面だけじゃなくて、実際のデータも足りないわ。まだまだVR技術を応用した治療に対する医師の理解も進んでいないのよ」

 

――やっと来たか。

 

 俺はその言葉を待っていたのだ。

 

「医師の理解……それなら何とかなるかもしれません」

 

「どういう事かしら?」

 

 神代さんは怪訝そうに俺を見た。その目には「何言ってんだコイツ」という色が宿っている。自分よりも年下の高校生に解決できる問題ではないだろうと思っているのだろう。実際、医師という存在とは無縁なのが普通の人間だ。

 

 しかし俺は残念ながら普通の人間には当てはまらない。持つべきものは人脈の広い優秀な義弟である。ありがとうノブさん。

 

「実は最近、あるお医者さんとお話する機会がありまして。その人は医療分野よりも先にゲーム関連のVR技術が発展していくのを嘆いていました。もしも医療関係に応用されて現場に導入されたら助かる命が増えるのに、と」

 

「まさか、その医者を私に紹介してくれるというの?」

 

「はい。実はもう軽く話は通してあります。お二人が予定を合わせられたらすぐにでもお話できる状態です」

 

 その時、スッと神代さんの目が細められた。こちらの腹を探ろうとしているのだろう。俺はなるべく表情を変えないように努めた。

 

「……どういった見返りを求めているのかしら」

 

「見返り?」

 

「分かっていると思うけれど貴方の行動に対する報酬として渡せるものは持ち合わせていないわ」

 

 彼女の問いに、俺は即答した。

 

「別に見返りなんていらないですよ?」

 

「え?」

 

 神代さんは驚きで目を大きく開いた。後ろでは一言も発していないノブさんが小さく笑っている。全く……人が真面目にやっているというのにニヤニヤするのは止めて頂けませんかね? こっちは表情を作るのにも精神を使っているというのに気楽な人だ。

 

「ちょ、ちょっと待って」

 

「ああ、強いて言うとすれば僕に知識を授けてほしいですね。ゲーム関連の知識はノブさん……じゃない。須郷さんが教えてくれるんですけど、医療関連だったら神代さんの方が専門でしょうし」

 

「こちらからすればその程度で協力してもらえるというなら願ってもない話だけれど……本当にいいのかしら」

 

 実際のところ、俺からすれば理解が深そうな医者を紹介するだけなのだ。そこから先は神代さん次第だからな。俺は黙って頷いた。

 

 しかし神代さん程の優秀な人と俺が紹介しようという医者――倉橋先生のコンビならば何かを成し遂げてくれそうな気がする。

 

 倉橋先生とは二、三度会って話をしただけだが、それだけで彼が医療現場の現状を嘆いている事とそれを何とかしたいと思っている熱い心を持っている事が分かった。

 

 あれだけ熱心な人だ。きっかけさえあれば行動を起こしてくれる。このままメディキュボイドの研究が国家事業にでもなれば最高なのだが、流石にいきなりそこまではいくまい。まだまだ俺の計画も課題が山積みである。

 

 思わずため息を吐きたくなったが、そこで目の前に座っている神代さんがニコニコしている事に気がついた。一瞬、呆気に取られてしまったがすぐに気を取り直して、

 

「えっと、何か?」

 

「いいえ、ただ本当に面白い人だと思って……ふふ」

 

「そうなんです。浩一郎君といると退屈しないんですよ」

 

「他人に心を開かない貴方が気に入る理由がよく分かったわ。須郷君」

 

「心外ですね。僕だって飲みに行く友人位いますよ」

 

「その友人って茅場君の事でしょう。というか貴方まだ未成年じゃなかったっけ?」

 

「おっと、これは口が滑ったかな」

 

 二人は楽しそうに笑い合っているが、俺は見事に取り残されている。てかノブさんや、さっきまで黙って見ていたくせに何を楽しそうに美女と談笑しているんですかね? 明日奈という可愛い許嫁がいるというのに浮気は許しませんよ! 明日奈はアンタには渡すつもりはないけれどそれはそれである。

 

「ノブさん、大学生になったからってはしゃぎ過ぎはいけないですよ。とりあえず神代さん……これを」

 

 舞い上がっているノブさんには馬の耳に念仏だろうが一応窘めてから、事前に許可をもらっておいた倉橋先生の電話番号を神代さんに渡した。彼女はそれを受け取ると満足そうに微笑んでポケットに仕舞った。

 

「結城君はこの大学を志望しているんだったわね。もしも入学できたらウチの研究室にいらっしゃい。貴方の様な優秀な人材なら大歓迎だわ」

 

「優秀って……僕はそんな大層なものじゃないですよ。ただ必死になってるだけですから」

 

「謙遜ね。まあ、いいわ。待ってるわよ。報酬もその時に、ね?」

 

「神代先輩はこう見えて厳しいんだ。覚悟しておくんだね」

 

「ははは……お手柔らかにお願いします」

 

 俺は差し出された手を握り返した。肩の荷が一つ降りた気分だった。一先ずの目的は果たせたし、神代さんに好印象を与える事ができただろう。

 

 ――しかしこの時、彼女が浮かべていた微笑みに何処か底知れないものを感じてしまったのは気のせいだと思いたいところである。

 

 

 

 

 

 

△△△△

 

 

 

 

 

 

「――なるほど、それでか。君がこの二週間を忙しそうにしていたのは」

 

「ええ。あの子のおかげで研究がかなり進んだわ。倉橋氏との打ち合わせも順調。上手くいけば私の在学中に資金面の問題も解決できるかも」

 

「ほう……」

 

 私は思わず感嘆の声を出してしまった。彼女がーー神代凛子がここまで上機嫌なのは久しぶりだ。それほどまでに順調に研究が進んでいるのだろう。

 

「それにしてもこうして顔を合わせるのも久しぶりね」

 

 そう言って彼女は目の前に置かれていたワインを一口含んだ。全く、実に優雅に飲む奴だ。顔が良いせいでやたらと絵になる。

 

「互いに忙しい身だ。仕方がないだろう」

 

「そちらは順調なの?」

 

「ああ。概ね予定通りといったところか」

 

「それは何よりね。だったらもっと私との時間を作ってくれても良いんじゃないかしら」

 

「思っても無い事を口にするのは止めたまえ。その程度で愛想を尽かすような女ならば私と関係を持っていないだろう」

 

「違いないわ」

 

 言ってもう一口、ワインを口に運んだ。先程も言ったが互いに忙しい身なのだ。世間一般で言う恋人同士がする行為をする時間すらも惜しい。

 

「それにしても彼……結城浩一郎君。本当に面白い子よ」

 

「……ほう」

 

 私が食事の手を止める程度には興味が引かれた。彼女が面白いと評する男はあの須郷君に続いて二人目だ。ちなみに彼は中々にイカれているので私も気に入っている唯一の後輩である。

 

「須郷君もよくその名前を口にするな……彼や君が面白いと評する。その理由を聞いてもいいかね」

 

「……瞳」

 

 少し間を空けて彼女はそう言った。

 

「私が考えている医療器具の原案を完璧に近づけたあの知識も魅力的だけど、私が面白いと思ったのは彼の瞳がね、貴方に似ていたからよ」

 

 私に似ている、か。首を振って一蹴する。

 

「過大評価、だな。私に及ぶ者などいるはずもない」

 

「その謎の自信は何処から来ているのかしらね。いいけれど、貴方も一度会ってみれば分かるわ」

 

「時間の無駄だろう」

 

「そう言わないで。来年、一緒に研究をする仲間になるかもしれないんだから。その時に嫌でも顔を合わせるわよ」

 

 時間の無駄だと言っておきながら私は気になっていた。二人がそこまで拘る結城浩一郎とはどの様な男なのか。他人に関心の薄い、私からすれば珍しい事だ。

 

 そして私は心の何処かで思っていた。私に似ている瞳をしているという男に出会えるのを楽しみにしている事を。私は久しぶりに口元が緩むのを自覚した。

 

「……悪い顔ね」

 

「なに、生まれつきさ」

 

 そう小さく笑うと、グラスに注がれていたワインを一気に飲み干した。

 

 

 

 

 




人物紹介

・浩一郎…いつの間にか生徒会長になっていた系主人公。いつの間にか倉橋さんとの顔合わせも済ませ、確実にハッピーエンド(幸せになれるとは言ってない)に向かって前進している。ラスボスにロックオンされた模様(無自覚)

・須郷…新たにマゾ疑惑が挙がった悲劇の妖精王。大学で浩一郎以来の友人ができたので舞い上がっている。なおその友人はラスボス。

・神代さん…ある意味今作で一番のキャラ崩壊を起こしてしまっている人物。喋り方やら性格やら何から何まで作者が分からなかったからね、仕方ないね。

・茅場さん…圧倒的ラスボス。数少ない身の回りにいる人間が揃って主人公を持ち上げるものだから彼に興味津々。

・倉橋さん…絶剣のあの子との遭遇フラグ。それ以下でもそれ以上でもない。無慈悲。

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