時間が巻き戻ったっぽいので今度は妹と仲良くしてみようと思う。   作:筆休め!

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明日奈のお兄ちゃんを使ってハッピーエンドを目指すありきたりな小説。
しかし、彼女に「お兄ちゃん」と呼ばれたい人生だったので書いた。後悔はしていない。


原因不明のタイムトラベル(精神のみ)に巻き込まれたんだが

 結城浩一郎は度々既視感に襲われた。俗に言うデジャブである。

 

 例えば家族旅行、例えば勉強、例えば厳しい教育の息抜きとして与えられていたテレビゲーム……体験する様々事が経験済みだと感じるのだ。

 

 ここまで来れば既視感と言うよりも知識と言うべきではないだろうか。そのおかげで親が浩一郎に課す課題や習い事の対処に困る事はない。面倒だとは思うが、何でもこなす事ができた。そんな息子を両親は誇りに思っている様だった。それを当然の事と受け止める自分がいる……そんな浩一郎が自身が感じる既視感に決定的なものを感じたのは八歳の時。新しく妹が生まれ、彼女の名前が決まった時だった。

 

 

「明日奈……?」

 

 

 初めて聞いた名前のはずだった。それなのに確実に聞き覚えがあった。間違えるはずもない。浩一郎は間違いなく、母親が幸せそうに抱いてる赤ん坊を知っていたのだ。その時に気付いた……と言うよりも、悟ったのだった。

 

「俺……あの頃に戻ってる、のか?」

 

 

 

 

△△△△△

 

 

 

 

「まさか、本当に?」

 

 そうとしか考えられない。今の俺は確かに、結城浩一郎で。一度その人生を全うした……はずだった。

 

「生き返ってまさか……時間まで戻ってるなんて嘘だろ?」

 

 物語やゲームじゃないんだから普通にあり得ないだろ常識的に考えて。だがこれはゲームではない。目の前で妹が、明日奈が元気に泣いているのは紛れもなく現実の出来事だ。

 

 突然ブツブツと喋った俺に母さんが訝し気な表情を向けたので「何でもないよ。赤ちゃんって可愛いね」と返しておいた。確かに赤ちゃんは可愛い。成長したらもっと可愛くなる。これは確定事項だ。異論は認めん。

 

「ちょっとトイレ」

 

 考え事をしたかったので母さんがいる病室を出て適当に座れる所を探した。

 

 途中で慌てた様子の父さんとすれ違った。俺に一声かけてそのまま走って行った。恐らく仕事を抜け出して駆けつけてきたんだろう。しかし父さん、病院は走っては行けませんよ。気持ちは痛い程分かるので俺から注意はしない。遠くで看護婦さんに怒られている父さんの姿が何だか可笑しい。

 

 可笑しいと同時に懐かしいとも思った。

 

ーー本当に巻き戻っているーー

 

 そう結論付けた。これは確かに俺が一度経験した出来事だ。そしてこれからの人生において待ち受けているであろう未来も想像できた。

 

“SAO事件”

 

 一万人もの人間を電脳世界に閉じ込め、その半分近くの人間の命が奪われた人類史上屈指の大規模殺人事件。

 

 そして俺の妹の明日奈が解決に関わっていた事件なのだ。

 

 巻き込まれた明日奈はゲームクリアの攻略組と言われる集団の主力として活躍し、生きて帰ってきた人々から英雄と謳われている……と聞いた。

 

 何故見た、ではなく聞いたのかと言えば、俺はSAOというゲームに関わっていない。正確に言えば、ゲームソフト自体を購入したのは俺でそれを明日奈に貸してしまった為に彼女が巻き込まれてしまった形だからだ。俺はその事実を出張先で聞いてソフトを貸した事を死ぬ程後悔した。

 

 明日奈や他のゲームクリアに多大な貢献をした人間達はその後も度々起こったVRゲーム関連の事件の解決に大なり小なり貢献したそうだ。ちなみに俺はこういった事にも関わっていない。俺自身は本当に命の危機など最期に病気で倒れるまで感じたことも無いくらいに、平穏な毎日を過ごしていたのだ。今考えても妹やその旦那が死にかける冒険を何度も潜り抜けていたというのに……情けなさ過ぎて涙が出てくるぜ。

 

 この話だって明日奈が結婚してその旦那と俺が一緒に飲んでいる時に酒の肴として彼から提供されるまで何も知らなかった。事件から十年以上経ってからの話だ。その理由は俺が明日奈と疎遠だったからに他ならない。

 

 俺は今と同じ様に親から厳しい教育を受け、その期待に応えようと躍起になっていた。そんな俺が明日奈に対して必要以上に背伸びをして接してしまった。俺はお前より頑張っているんだぞ。優れているんだぞ、と。そんな事をしていたものだから明日奈が中学校に通い出す頃には必要以上の会話をしなくなっていた。年がかなり離れていた事も悪い方向に働いたらしい。険悪だったわけではないがとても仲良し兄妹とは言えなかった。

 

 俺は歳をとってからその事を本気で後悔したりした。もう少しだけでも、幼い時から明日奈と仲良くしておくべきだったと。

 

「……いや、だからこそ。今回は」

 

 心に決めた。理由は全くもって不明だが、折角時を遡ったのだ。今回は明日奈と今から仲良くしよう。忙しい親に代わって世話を焼こう。滅茶苦茶に可愛がってやろう。

 

 シスコンだって? 上等さ。あんなに可愛くなる事を知っているんだ。こればかりは仕方がないね。

 

 とりあえず混乱から回復した俺は、両親と妹がいる病室に戻った。速攻で妹を滅茶苦茶可愛がった。これが俺の妹か……明日奈ちゃんマジ天使。

 

 その後調子に乗っていたら明日奈に泣かれてしまって母さんに滅茶苦茶怒られた。久しぶりの母さんの説教は余りに恐ろしく感じた。

 

 

 

 でも何故だかそれは、俺の心に染みた。

 

 

 

 

 

 

 

 




人物紹介。

結城浩一郎……今作の主人公。圧倒的な主人公力(笑)を持って世界を救おうと画策する。ちなみに前回の時よりもシスコン。明日奈との年齢差がよく分からなかったので八歳差という設定にされたという噂がある。

結城明日奈……妹にして天使。明日奈ちゃんまじえんじぇー。

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