捻くれた少年としっかり者の少女   作:ローリング・ビートル

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my life

「え、今週の土曜日?」

「うん、またお店に行くね♪」

 どうやら小町ちゃんのご両親がうちの商品を気に入ってくれたようだ。うんうん、試食係を務めた甲斐があったなぁ。

「わかった、待ってるね!」

「お兄ちゃん引き連れてくから」

「ふぇ!?」

 思わず変な声が出る。

「ど、どうしたの?」

「な、何でもない!」

 言えない…………。夢の中でお兄さんとデートしてたとか。てゆーか、何て夢見てんのよ、私は!

 別の話題を振る事にする。

「あ、もしかしたら、お母さんかお姉ちゃんがカウンターにいるかもだけど…………」

「雪穂ちゃんのお姉ちゃんか~。見てみたいな~♪きっと綺麗なデキる女って感じの人なんだろうな~」

「あはは…………」

 見た目はいいし、運動神経もいいんだけど…………。おそらく小町ちゃんの期待は裏切ってしまいそうだ。

「あ、お兄ちゃんだ!代わるね!」

「へ?あ!ちょっ…………」

 

 梅雨のジメジメと雨にうんざりしながら、何とか家に辿り着く。無事に今日一日をやり過ごした達成感に胸が満たされた。

「ただいまっと」

「あ、お兄ちゃん!電話電話~♪」

「は?誰からだ?」

 俺に電話などここ数年かかってきた記憶などない。携帯とは暇つぶし機能がついた目覚まし時計の事である。あ、たまに家族からの連絡が来るか。

「雪穂ちゃん」

「高坂…………?」

「いいからほら!」

 無理やり携帯を渡される。いきなりすぎてイミワカンナイ。

 …………何の用だろうか。もし、「夢にまで出てこないでください!」なんて言われようものなら、うっかり死んでしまいそうだ。

「あー、もしもし…………」

「こ、こんにちは、お兄さん」

「高坂…………元気か?」

「は、はい…………お兄さんは?」

「まあ、ぼちぼち」

「…………」

「…………」

 とりあえず安心する。いや、ありえないってわかってるんだけどね。

「土曜日に来るんですよね」

「ああ」

「楽しみにしてます」

「わかった」

 お互いに気持ちを切り替える。高坂は店の手伝いをしているからか、こういう時の社交辞令的な対応は上手いように思える。その分、変な勘違いを起こす事もない。

「あの…………」

 小町に電話を戻そうかと耳から離そうとすると、高坂の声が僅かに漏れ聞こえたので、慌てて耳に近づける。

「お兄さんは…………どうでした?」

 何の事かと思い、胸が高鳴った気がしたが、すぐに内容に思い至る。

「ああ、美味かった」

「よかった~!試食係頑張った甲斐があった~!」

「食べてるだけだろ」

「あ~、言いましたねぇ?結構大変なんですよ!感想も細かく言わなきゃいけないし、体重も気になるし」

「す、すまん…………」

「前より沢山買ったら許してあげます」

「それなら任せろ。親父の金で買うからな。持って帰れる範囲なら幾らでも買ってやる」

「それは酷いような…………じゃあ、土曜日は気をつけて来てください」

「ああ」

 俺の言葉に少し呆れながらも、受話器の向こうで笑っているのが感じられた。

 通話を終え、小町に携帯を返すと、ニヤニヤと嫌な笑いを浮かべている。

「何だよ…………」

「別に~♪」

 

「ふふっ」

 土曜日の予定にほんの少し胸を弾ませていると、ドアが少し開いていて、そこにお母さんとお姉ちゃんがいた。

「な、何よ!」

「「別に~♪」」

「いや、おかしいから!普通に覗きだから!」

 この二人がいない時に来てくれますように…………。

 





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