もう10月も終わりますね。
それでは今回もよろしくお願いします。
落ち着け。別に何も起こりはしない。
高度に訓練されたぼっちはこの程度の事では心は揺らがない。別に何の事はない。小町が偶然仲良くなった女子を遊びに誘っただけの事だ。そして俺は…………保護者みたいなもんか。二人を三歩後ろから見守るだけ。何なら背景みたいなもんだ。
「お兄ちゃん。そんな目しないの。せっかく雪穂ちゃんみたいな可愛い子もいるんだから」
「あ、ああ…………」
「…………」
おそらく可愛いという言葉に反応したのか、高坂は僅かに頬を赤く染め、軽く俯く。だが、それも数秒の事で、すぐに顔を上げた。
「そ、それよりさ、小町ちゃん達は行きたい所ある?」
「う~ん、スカイツリー!」
「よし、行こ!」
「お~♪」
「…………。行きましょう!」
「…………おう」
今、微かに名前を呼ばれた気がしたのは、きっと気のせいなのだろう。
6月の陽気は、生温く体を包み、自然と足の運びも速くなる。
それは小町も高坂も同じようだ。
今、私の事、可愛いって思ってくれたのかな…………。
「わ~♪」
「すげえな」
心の底からの感動の声が漏れてくる。
展望台から見える東京は、疑いようもない絶景だった。この街の中に幾通りもの暮らしがあると思うと…………うん、面倒くさい。そしてしばらくすれば、自分もあの面倒くさい街並みの中に紛れるのだろう。
「お兄ちゃん、雪穂ちゃん、ここ、ここ!」
小町はぴょんぴょん跳ねている。ああ、あれか。テレビで見た奴だ。床がガラスになってる奴だ。
「お兄ちゃんも!」
「あ、ああ…………」
正直かなり怖いが、まあ大丈夫だろう。…………大丈夫なはず。大丈夫だよね?
小町に手を引かれ、勢いよく透明な床の上に乗る。
…………おお、案外良い眺めじゃんか。
さすがに飛び跳ねたりはしないが、テンションはそれなりに上がる。っべーわ。…………何だ、このテンションは。
「ほら、雪穂ちゃんも!」
「いや、私はもう…………何回もやったし!」
こちらを全く見ようともせずに、はっきりと拒絶してくる。これはもしや…………
「あ、高い所苦手なのか…………」
「ち、違います!」
「いや無理しなくても…………」
「いいえ、怖くないですよ!ほら!」
決して挑発したつもりはないのだが、高坂はこちらに駆けよってくる。
「…………大丈夫か?」
「だ、だだ大丈夫ですうわぁ!」
震える足をもつれさせた高坂はこちらに倒れ込む。
腕に柔らかい温もりがしがみついてきて、それと同時に控えめな甘い香りがふわりと漂う。どくんと胸が高鳴った。
「す、すいません」
「いや、大丈夫だ」
高坂は足場を確かめるように、ゆっくりと離れる。
「ほら、大丈夫ですよ?」
「…………ああ、そだな」
「むー、疑ってますね」
頬を膨らます高坂の温もりが去っても、左腕に何か残っている気がした。
…………小町と同じ歳とは思えない大きさでした。
読んでくれた方々、ありがとうございます!