「よし、じゃあ部屋割りを……」
「いや、決める必要ねえだろ」
「あはは……」
どんな部屋割りにする気だよ。ハレンチは許しませんぞ!
小町は笑いながら、スーパーで買った物を台所に置いた。
「じゃあ、さっそく晩御飯作っちゃおうか」
「うんっ、今日のメインイベントだね!」
そうだったのか。まさか晩御飯を作るのがメインイベントだったとは……しれっと寝てようかと思ったが、それなら何か手伝ったほうが、無事に晩飯にありつけるだろう。
「……あー、なんかやろうか?」
「じゃ、雪穂ちゃんとこれお願い」
「おう……」
ディアマイシスターからありがたく仕事を授かると、雪穂が隣にやってきた。
「じゃ、やっちゃいましょうか」
「……ああ」
慣れない手つきで野菜の皮剥きを始めると、思いの外集中できそうだったが、すぐに沈黙が気になった。
先に口を開いたのは彼女だった。
「八幡さん、最近学校はどうですか?」
「……あー、まあ、いい感じだ」
なんだ、その母ちゃんみたいな質問。俺の返しも大概クソだが。
雪穂もそれに気づいたのか、何とも言えない笑みを浮かべた。
「あはは……わ、私、いきなり何聞いてんですかね。母親じゃあるまいし」
「いや、いい。そっちはどうだ?」
「わ、私ですか?えーと、もうだいぶ受験モードになってますね。勉強時間も増えました」
「ああ……まあ、そうだろうな」
「そうなんですよ」
「……音ノ木坂には行かないのか?」
「どうなんでしょうね。まだ自分が何をやりたいのかがわからなくて」
「そっか」
こういう時、ためになるアドバイスしてやれない自分がもどかしい。頼りない先輩ですまんな。
雪穂はちらりとこちらを見て、小さく呟いた。
「……総武高校もいいかなー、なんて」
「…………」
おい、いきなり変なこと言うんじゃねえよ。つい妄想……想像しちゃっただろうが。まあ、悪くないんじゃないですかね。うん。制服も似合わなくはない。
「もしかして、ちょっといいなとか思っちゃいました?」
「……べ、別に?そんなことないにょろよ」
「あははっ、噛んだ♪」
「…………」
ええい、しれっと距離を詰めてくんな。なんかいい匂いすんだろーが。
とりあえず作業に集中して、心を空白に。次の野菜を……。
「っ……」
「あっ……」
偶然手が重なり、慌てて手を離す。
目を向けると、さっきまでと違い、今度は彼女のほうが慌てていた。
「あはは、な、なんか暑いですよね!」
「……エアコン、温度下げるか」
「ですね!」
「もう下げてるよ~」
「暑くなりそうだったもんね~」
「「…………」」
何となく雪穂に目を向けると、彼女はすぐに目をそらした。