捻くれた少年としっかり者の少女   作:ローリング・ビートル

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BLUE #2

 本当に寝ちゃった……相当お疲れだったんだなぁ。

 八幡さんは、片付けを終えると、いつの間にかソファーで寝息をたてていた。

 近くにいって、その寝顔を見てみると、何だかいつもより幼く見えて、これはこれで可愛く見えなくもない。

 ……そうだ。枕ないみたいだし、膝枕してあげよっかな。ほら、寝違えたりしたら大変だし!

 自分自身に言い訳しながら、私はなるべくそっと八幡さんの頭を抱え、自分の膝を滑り込ませた。

 

「よい、しょっと……ふぅ」

 

 お、重い……よし、何とか起こさずにすんだ……。

 すると、八幡さんの体温とクセのある髪の感触が太ももに広がり、なんだか不思議な気持ちになった。

 

「…………」

「…………」

 

 もしかして私は物凄く大胆な事をしているのでは!?

 ま、まあ……でも?膝枕くらい……いや、そんなにしないか。ああ、もうっ!考えるのやめよ。

 すると、八幡さんが寝返りをうち、私のお腹側に顔を向けた。

 

「ひゃうっ」

「…………」

 

 直に太ももに頭を乗っけたせいで、割とくすぐったい。あとなんか恥ずかしい……。

 どくん、どくんと胸を高鳴らせていると、「んん……?」と低めの声が響いた。

 あっ、これもう起きるやつだ。

 八幡さんはうっすらと目を開き、何度かまばたきをした。

 

「……は?」

「お、おはようございま~す……」

「……っ!!」

 

 八幡さんは数秒寝ぼけていたが、すぐに意識が覚醒し、私の膝から離れた。

 と、とりあえず……色々説明しなきゃ。ああ、でも……。

 

 *******

 

「…………」

「…………」

 

 気まずい沈黙がリビング内を満たしている。外では蝉がけたたましく鳴いているのに、音をたてることすら躊躇われた。

 何故雪穂に膝枕されていたかはわかったが、正直リアクションに困る。あと、頭に残った柔らかな感触がやばい。

 

「あっ、そういえば、ずっとリビングってのもあれだし、八幡さんの部屋行きません?」

「……そ、そうだな」

 

 とりあえず二人とも立ち上がり、階段を上がり始めた。

 ……何で自然な流れで俺の部屋に向かってるんですかね?

 寝ぼけていたという言い訳もできないくらいに、どうしようもない状況になっている気がする。

 いつものようにドアノブを回すと、見慣れた光景が目に飛び込んでくる。

 

「へえ、ここが八幡さんの部屋なんですね」

「……ああ」

 

 雪穂がキョロキョロと視線を動かすのを見ていると、こちらも何だか視線が泳いでしまう。変なもの、出しっぱなしにしてないよな?いや、別にないけどね!

 

「……じゃあ、そろそろリビングに戻るか」

「まだ入ったばかりですけど!?」

「いや、ほら……散らかってるから、ね?」

「じゃあ、そ、掃除してあげますよ」

 

 雪穂は頬を赤らめながら、ぽしょりと呟いた。大変ありがたい話ではあるが、変なスイッチが入ってるようにも見える。

 

「いや、ほら……ここ思春期男子の部屋だし」

「もしかして、見られたくない物があるんですか?」

「そう言われると、そうでもないんだが」

 

 まあ部屋に入られたところで、特にやばい物はないし、ラブコメ的なイベントが起こるわけでもないんだが。

 すると、雪穂が悪戯っぽい笑みを浮かべた。

 

「あ~、もしかして、エッチな本とかベッドの下に隠してるんですかぁ?」

「いや、ないから。ていうか、今時そんな奴いないから」

「そっかぁ、あっ、パソコン見ていいですか?」

「ああ、別に構わんけど」

 

 文明の利器に感謝。会話が続かなくとも、間を埋められるもんね!

 雪穂がパソコンの電源を入れると、スクールアイドルの動画サイトが画面に映し出された。

 

「あっ、これμ'sだ。八幡さん、観てくれてるんですね!」

「……まあ、一応な」

 

 姉を陰ながら応援していた事が嬉しかったのか、雪穂は笑顔でライブ動画を再生していた。まあ、なんだかんだいって、この子、お姉ちゃん大好きだからな。

 すると、雪穂が画面を観ながら「あれ?」と首を傾げた。

 

「高評価している動画に……東條希さんの動画が……あ、次はA-RISEの優木あんじゅさんだ。他にもプロのアイドルの動画がある……えっと、月岡恋鐘さん、豊川風花さん、三浦あずささん、あっ、さらに地方アイドルまで……フランシュシュのゆうぎりさん……ふぅ~ん」

「…………」

 

 何故だろうか。

 悪い事は一切してないし、やましい事もない。むしろ誰かを応援するという俺にしては微笑ましい行いなんだが……とにかくやばい!何がやばいかわからなすぎてやばい!!

 

「八幡さんって、こういう女の人がタイプなんですね」

「いや、タイプというか……」

「八幡さんって、こういう女の人がタイプなんですね」

 

 どうやら大事なことらしい。だって二回言ったもん!

 

「胸、おっきなほうがいいんですか?」

「……偶然だ。偶然。たまたま頑張ってるアイドルの動画を高評価して、お気に入りの登録しただけだ」

「それは素敵な偶然ですね~」

「……あ、ああ」

「……あの……もしも、の話ですけど」

「?」

「もしも……私がスクールアイドルとかやったりしたら……高評価して、お気に入り登録してくれるんですかね?」

「…………それは内容による、けど。まあ、再生数には貢献するんじゃないか?」

「そうですか……ふふっ、何聞いてるんだろ、私」

「さあ、な……」

 

 そのやわらかな笑みは、不意打ちのように胸を高鳴らせてくる。

 何てことのない夏の昼下がり。

 ささやかに響き合う声が、最近見慣れてきた笑顔が、くたびれた心をほんのり癒していくのを感じていた。

 


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