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それでは今回もよろしくお願いします。
「小町ちゃん!私、たこ焼き食べてみたい!」
「了解であります!それと、綿菓子なんてどう?」
「ハラショー……綿を食べるなんて……」
亜里沙と小町が、カラカラと景気よく下駄の鳴る音に合わせるように、出店の方へと早歩きで進んでいく。周りには似たような歩き方をしている奴が結構いる。きっとこういう忙しない流れも、祭りを華やかに盛り上げる要素の一つなのだろう。
そして、そのすぐ後ろを雪穂が見守るように歩き、左斜め後ろを俺がつかず離れずの距離を保って歩く。殿は任せてくれ。『ここは俺に任せて先に行け』という準備はできているからな。
「八幡さん、行きますよ?」
「べ、別にこっそりいなくなろうとかしてねーし……」
「何も言ってませんよ……もう……」
「っ!」
いきなり手首に何かがまとわりつき、はっとする。
すると、雪穂がこちらを躊躇いがちに見ながら、それでもしっかりと自分の左手で俺の右手首を掴んでいた。
彼女のひんやりした白い指先の不意打ちに、鼓動が跳ね上がる。
「お、おい……」
「仕方ないじゃないですか。だ、だってこうしないとはぐれちゃうし……あんまり間を空けるのは効率が悪いというかなんというか……」
「…………」
そう言われては何も言い返せない。
俺は前を歩く二人に見つからないように祈りながら、雪穂と並んで人混みをゆっくり進んだ。
夏と祭りの匂いに混じり、隣からは鼻腔をくすぐるのは、最近覚えた控え目の甘い香りだった。
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「おかしい……絶対におかしい」
「…………」
あんなに注意していたはずなのに、ちょっと目を離した隙に、小町と亜里沙はいなくなってしまった。何だ、この予定調和のような流れは……つーかやっぱり、迷子の心配をしなくていいボッチ最高かよ。
「もう……亜里沙ったら、また変な気を……」
雪穂は何やらブツブツと呟いている。二人とはぐれたことに、責任を感じているのだろうか。
そこでスマホが震えた。
「……おい、これ……」
「はい……え?」
雪穂にスマホの画面を見せる。
そこに書かれていたのは……
『迷子になったと思ったら、μ'sの皆さんに遭遇!花火が終わってから合流ね♪亜里沙&小町』
「……そうきたか」
「…………」
どうやら俺達は変に気を遣われているらしい。さっきのを見られたのだろうか。
「……雪穂」
「あ、はい」
「小町達にはメールで集合時間と集合場所伝えて、あとはしばらくこの辺りぶらぶら歩くか」
「え?でも……」
「どうせ合流すんのも難しいだろ。しばらくしたら花火始まるから人も増えるし……その……この際だから、楽しんだ方が、いいと思う……」
自分でも何が言いたいのか、何を言ったのかもわからずに、言い訳するように頬をかいていると、雪穂は小さく微笑んだ。
「……ふふっ、そうですね。じゃあ、楽しんじゃいましょう!」
「まあ、あれだ……焼きそばくらいなら奢ってやる」
「う~ん、りんご飴を追加してくれたら、ほむまん新作の試食の権利が八幡さんに!」
「……わかった。追加しよう」
手首を握られるという少し変わった状態のまま、俺達は焼きそばの屋台を目指し、さっきより弾んだ歩幅で歩き出した。
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