捻くれた少年としっかり者の少女   作:ローリング・ビートル

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LOVE

 

「助かったわ~。ありがとう、比企谷君」

 お母さんが、自分より目線が高いお兄さんの頭をぽんぽん叩く。だから近いって。お兄さん照れてるじゃんか。

「亜里沙ちゃんもありがとね」

 亜里沙の頭も同じようにぽんぽん叩く。目を細める親友に、どこかほっこりした気持ちになった。

「じゃ、失礼します」

 帰り仕度を整え、伸びをしたお兄さんが気だるげな足取りで帰ろうとする。

「あ、比企谷君!亜里沙ちゃんも!お給料払うから待って!」

「いや、金貰う程の事は…………」

「私も…………」

「他人様の子をただ働きなんてさせられないわよ」

「…………」

 お母さんの言葉にお父さんも大きく頷く。

「ね、二人共。ここは親戚のお店を手伝ってお小遣いをもらったと思えば…………」

「確かに雪穂が比企谷君と結婚すれば親戚ね♪」

「…………!」

「ゆ、雪穂!や、やっぱり雪穂も!」

 あぁ~もう!また何か始まった!違うって言ってるのに!お父さんもまた餡子握りつぶしてるし…………。

「い、いや…………俺は…………」

「照れなくていいのよ~」

「だ、ダメですよ!比企谷さんが困ってるじゃないですか!」

「…………!!」

「たっだいま~!あっ!亜里沙ちゃんに比企谷君だ!やっほ~!」

 この状況でお姉ちゃんが帰ってきた!

「あ、穂乃果さん!」

「おう」

「亜里沙ちゃんはいつも可愛いね~!それに引き換え、比企谷君は元気なさすぎ!」

 お姉ちゃんはお兄さんの背中を、手の平でバンッと力強く叩く。

「って!!つーか、絢瀬が可愛いのと俺が元気がないのは関係ねーだろ」

「あるよ!周りの空気とか!」

「…………」

 お兄さんはお姉ちゃんの言葉に絶句しながら、その距離の近さを意識して目をそらす。

「あらあら、これはこれで…………ね、雪穂♪」

「これは…………強敵かも」

「…………!!!」

「だぁ~~!もう、比企谷さんが困ってるでしょ~!」

「あ、雪穂。今、比企谷さんって!」

「い、今はそんな事はどうでもいいでしょ!」

「…………は、入り込めん」

 

 やっとのことで給料の受け渡しが終わり、私は二人を見送る為に玄関にいる。…………仕事よりさっきのやり取りの方が疲れたんだけど…………。

 お兄さ…………比企谷さんと目が合い、つい逸らしてしまった。何を意識してんだろ、私。いきなり呼び方変えたり…………。

「雪穂」

 亜里沙が小声で話しかけてくる。心なしか顔が赤い。

「どうしたの?チャンスじゃん」

「雪穂も一緒に来ない?」

「な、何で?」

「…………」

 この表情で理由を察してしまった。私は小さな溜息をつき、玄関の戸を開ける。雨はもう上がっていた。






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