捻くれた少年としっかり者の少女   作:ローリング・ビートル

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Monster

「…………」

 うっすらと目を開ける。

 あれ?俺、何で眠ってんだ?

 畳の感触に心地良さを感じながら、意識が徐々にはっきりしてくる。まず目に入ったのはテレビ台だ。時計を見ると、一時間くらい眠っていたらしい。続いて、口の中に妙な後味が残っている。何だこれ…………。

 数秒考えて思い出した。そういや、食後に絢瀬の持ってきたレインボーピロシキを食ってから…………。

 まじか。つーか、虹色に輝いてる時点でやばいとはおもっていたんだが。由比ヶ浜の木炭クッキーを凌ぐ大ダメージを負ってしまった。しかもこれは、本人がいい子すぎてツッコミにくいパターン。例えば姫路さんみたいな。

 目の前で右手を開いて閉じてを繰り返す。よし、何ともない。今ならこの幻想をぶっ壊せそうな気がする。

 まあ、人の家でがっつり熟睡するのも申し訳ない。それにそろそろ仕事に戻った方がいいだろう。

 そう思いながら寝返りを打つと、高坂の顔がそこにあった。

「…………」

「すぅ…………すぅ…………」

 鼻と鼻が触れ合いそうな距離に、驚きで目を見開く。

 普段の言動から大人びて見える高坂はそこにはいなくて、年相応のあどけない寝顔がそこにあった。

 規則的な寝息が、こちらの唇を熱くくすぐっているのに気づいて、ドキリと心臓が跳ね上がる。そのぐらい近い距離に赤みを帯びた高坂の唇があった。

 本来ならすぐに顔を背けるべきなのだろうが、体が上手く動かない。別にレインボーピロシキのせいではなく、どこか自分の意思が混じっているようにも思える。

「ん…………」

 ゆっくりと高坂の瞼が開き、瞳が俺を捕らえた。

「八幡さん……」

「は?」

 聞き慣れない呼び方に思わず聞き返してしまう。俺を名前で呼ぶ奴なんて片手で数えられる。

「…………え?」

 高坂の表情が固まる。ようやく目が覚めたようだ。そして、俺も冷や汗をかく。数秒前の俺をぶん殴りたい。

 そのまま見つめ合うこと数秒、次第に高坂の顔が赤くなる。

「~~!」

 その変わった呻き声を合図に、二人して寝返りを打った。

 

「お兄さん」

 呼び方が戻っている事に安堵しながら高坂を見ると、ジト目で睨まれていた。

「どした?」

 何事もなかったかのように訊ねる。

「私の寝顔見ました?」

「…………しゅこし」

 失礼、噛みました。

 だが、高坂はどうでもいいようで、恥ずかしそうに俯く。

「…………高坂も食べたのか?あれ」

 とりあえず話題を変える。お互いに気まずい思いをしても、仕方がない。

「あ、はい……」

 高坂は、レインボーピロシキだけに色々と思い出したのか、疲れた表情になる。

「何、使ったんだろうな…………」

「あはは…………」

 話していると、ガラリと戸が引かれた。

「あら、あなた達。やっと起きたの?」

「すいません…………」

「いいのよ!今日は暇そうだし」

 高坂母は笑いながらひらひら手を振る。

「あれ?亜里沙は…………」

「あ、雪穂、比企谷さん。おはよー!」

 高坂母の後ろから、ひょっこり出てきた絢瀬は穂むらの仕事着を着て、元気な挨拶をしてきた。

「びっくりしたよ~。ピロシキ食べ終わったら、二人共寝ちゃうんだもん」

「…………」

「…………」

 俺と高坂は苦笑いを返す事しかできなかった。





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