捻くれた少年としっかり者の少女   作:ローリング・ビートル

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君の事以外何も考えられない

 

「比企谷さん…………」

 亜里沙が比企谷さんを注視している。まるで、現実のものか確かめようとしているみたいに。

 やがて、一歩二歩と距離を詰め、その肩に触れる。そして、その顔を覗き込んだ。

 一方、比企谷さんは少し頬を染め、されるがままになっている。ああ、もう、何やってんのよ!デレデレしちゃって。

「本当に比企谷さんだ!」

 ようやく本物と確信したのか、ピョンピョン飛び跳ねる。クラスの男子が見たら、嫉妬で震えるだろう。

「ど、どうした?」

 至近距離で跳ね回る亜里沙から目を逸らしながら、お兄さんが亜里沙に尋ねる。多分、本人も何を尋ねているのか分からないと思う。

「まさか、会えるなんて思ってなかったから!」

「そ、そうか…………」

「あ、亜里沙はどうしたの?いきなり…………」

「頑張ってる雪穂を応援しようと思って!!」

「あ、ありがとう…………」

 何やら紙袋を手渡される。

「これ何?」

「ふっふっふ…………」

 亜里沙は腰に手を当て、凄まじいドヤ顔をする。

「私の得意料理、ピロシキだよ!!」

「へえ~」

 素直に感心してしまう。親友に料理の趣味があるとは思わなかった。

「よかったら比企谷さんもどうぞ!」

「おお…………ありがとな」

 お兄さんの言葉に嬉しそうに身を捩る亜里沙。恋する乙女の初々しいリアクションが微笑ましい。

「あら、亜里沙ちゃん」

 お母さんがひょこっと顔を出す。

「こんにちわ!」

「こんにちわ。雪穂と比企谷君、休憩入っていいわよ。お昼ご飯用意してるから」

「あ、どうも…………」

「亜里沙ちゃんも食べてく?」

「あ、私は家で食べてきましたから」

「じゃ、二人共。お茶淹れるから」

 ちょうどいい機会だ。ここで二人が仲良くなればいい。

 突然の事とはいえ、亜里沙に教えようとしなかった自分とその事を責められたらどうしよう、なんて考えている自分に自己嫌悪を感じた。

 

「「いただきます」」

 高坂母が用意してくれた昼食は、焼き鯖を中心とした和食だった。久しぶりの労働で疲れた体に、大根の入った味噌汁の温もりが染みる。たまには労働も悪くないかもしれん。たまには。

「…………」

 絢瀬がさっきから、こちらをじぃ~っと見てくる。

 食事中に見られるのって、結構落ち着かないんだけど…………。とはいえ、そんな子犬みたいな目で見られたら、文句も言えないので、スルーしておくしかない。

「亜里沙、そんなに見ちゃ失礼でしょ?」

「あ、ごめんなさい」

 高坂、ナイスアシスト!中学時代の俺なら惚れてた。そんでフラれてた。

「よかったら、これも一緒に…………」

 絢瀬が紙袋から、いそいそとピロシキを取り出す…………ピロシキ?

 そこにあったのは、某アニメのパンのように、虹色に輝く何かだった。 






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