それでは今回もよろしくお願いします。
『八幡さん』
隣に寄り添う小柄な女の子が、そっと指を絡めてくる。合わさる体温が、二人の気持ちの温度なのだろうか。
そのまま寄り添う体の柔らかさを意識しながら、ゆっくり見慣れた道を歩いていく。
「…………」
夢か。
いかんいかん。
見ず知らず(?)の女子で甘々な夢を見るなど…………。
いや、見ず知らずならいいのか。身近な奴ならうっかり意識しちゃうし。もし夢の中で戸塚に迫られたら、俺は間違いなく戸塚ルートに入っちゃう。
つーか、わんにゃんショー行ったの一週間前じゃねーか。
「…………」
私ってばなんであんな夢見たんだろ?
体を伸ばしながら、窓の外に目を向ける。
いつもと同じ風景が、新しい一日を迎え始めていた。
「お兄ちゃん!早く早く!」
「あんま走るなよ。転ぶぞ」
本日は小町に秋葉原まで連れて行かれております。受験勉強前の最後のリフレッシュだそうだが、本当に最後かは小町のみぞ知るところだ。あまり期待はしないでおこう。
まあ、兄としてできるのは、こうして息抜きに付き合ったり、願掛けするくらいだ。
ふと目に入った電柱に、案内がある。
「神田大明神…………」
たまには千葉以外のパワースポットの力を借りるのもいいだろう。もらえる幸運はどこからでもいただく。
もしかしたら、俺の専業主夫の夢への道が開けるかもしれん。
「小町、お参りしてこうぜ」
「うん、わかった!」
お参りを済ませ、専業主夫へと一歩近づいた事を実感する。
「ゴミぃちゃん、目が腐ってる」
「…………」
妹からの罵倒を傷つきながらも聞き流し、長い石段を降りると、風情ある建物が、視界に入ってきた。どうやら和菓子店のようだ。
「へえ~、なんか良い感じだね」
「なんか買ってくか」
小町を引き連れ、歩き出す。
「『穂むら』か…………」
「はやく入ろ!」
小町に背中を押されるように中へ入る。
「いらっしゃいませ!…………」
「…………」
笑顔で挨拶してきた店員の表情が心なしか強張る。
嘘だろ。
真っ先に頭にそんな言葉が浮かぶ。
左右の耳の辺りだけ伸ばしたショートカット。ぱっちりと大きな目。すっとした形のいい鼻、淡い桜色の唇。今朝、夢の中で見たまんまだ。
「…………」
小町から背中をはたかれる。
はっとして、適当なものを三つほど見繕って購入した。
「ありがとうございます」
「…………」
軽く会釈して、お釣りを受け取る。
僅かに触れた白く細い指先はひんやりして柔らかかった。
戸惑いを隠しながら、小町を連れて、店を出た。外の風がやけに涼しく感じられた。
「びっくりしたー…………」
あの独特な目つき。
それ以外は割と整った顔。
くたびれたような猫背。
「正夢…………かな」
手元に目をやると、ある事に気づく。
「あ、お釣り間違えちゃった…………」
まだその辺にいるかな?
読んでくれた方々、ありがとうございます!