捻くれた少年としっかり者の少女   作:ローリング・ビートル

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虹の彼方へ

 

 ど、どうしたんだろう?こんな時間にメールじゃなくて電話なんて…………。

 亜里沙は先輩に電話したのかな?

 二つの考えで思考回路がごちゃ混ぜになりながらも、黙ってお兄さんの言葉を待つ。

「あー、そっちに小町が学生証忘れたかもしれないって言ってんだけど、どっか落ちてないか?」

「へ?」

 我ながら間の抜けた声が出た。

「いや、何故かわからんが小町が私服のポケットに突っ込んでたのを落としたらしくてな。今日行った所を当たってみようと思って…………」

「ちょっと待ってくださいね」

 茶の間に行って、室内を見渡す。

「あっ!」

 テーブルの上のお煎餅の隣に手帳らしきものが置いてある。

「ありましたよ!よかったですね」

「ああ、そうか。じゃあ明日取りに行くわ」

「わかりましたー…………って明日!?」

「あ、ああ…………忘れ物取りに行くだけだし」

「で、ですよね」

「もしかして都合が悪かったか?5分もかからないと思うけど」

「いえ、大丈夫ですよ!駅に着く頃に連絡してください」

「ああ、わかった」

「それじゃあ、失礼します!」

 お兄さんの返事が聞こえる前に電話を切ってしまう。

 …………失礼だったよね。

 何やってるんだろう、私。

 また自分の意識に深く入り込もうとしたところで、電話が鳴る。今度は誰だろう?

 自分の部屋に戻りながら確認すると、画面には『絢瀬亜里沙』と表示されている。

 少しだけギクッとする。何も後ろめたい事はないはずなのに。

「もしもし、どうしたの?」

「雪穂…………どうしよう」

 真剣な声音に、思わず緊張感が走る。あまり音を立てないように部屋のドアを閉め、先を促した。

「何があったの?」

「実は…………」

 ベッドに腰を下ろし、シーツをきゅっと握り締めた。

「比企谷さんにどんな話すればいいかわかんないの!」

「…………はい?」

「比企谷さんに電話しようとしたんだけど、何言えばいいのかわからなくて…………」

 思わずずっこけそうになった。さっきまでの緊張感を返して欲しいよ。

「まずお兄さんに好きな物聞いたりすればいいんじゃないかな?」

「うん…………」

「まだ亜里沙はお兄さんの事、何も知らないんでしょ?」

「…………」

「なら、まずお兄さんの事を知って、本当に好きかどうか確かめた方がいいんじゃない?」

「雪穂……大人だね」

「そんな事ないよ」

 少し恋愛に対してドライなのかもしれない。中学生なら対して話した事もない相手に告白するなんてよくある事だ。別に不誠実とも思わない。ただ私がそうしないだけ。

「わかった!そうしてみる!あ、それと明日は空いてるかな?」

「ごめん、明日は店番頼まれてて…………」

「そっか。じゃあ、またね!」

「うん、また…………」

 電話を終えた私は仰向けになり、天井を見ながら、明日の事を考えた。






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