TS少女のラブライブ!   作:水羊羹

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第三話 ファーストコンタクト

 ──俺がラブライブの世界に転生してから三年が経った。

 

 その三年間も、あっという間に過ぎた気がする。

 これは、自分の状況把握に精一杯だったからだろう。

 学校では当然、家でも家族がいる前では『雨宮 朝陽』として演じる……いや、朝陽としての意識を全面に出す。

 まあ、それも三年も経てば慣れてしまうもので、怪しい場面もあったが今の所は違和感を持たれていない。

 ただ、女の子らしい口調だけはできなかったので、意味深なよくわからない話し方になってしまった。

 

 ともかく、なんとか無難に小学校を卒業した俺は、無事に中学生となったのだ。

 そして現在、俺が何をしているかと言えば──

 

「ねぇ、お兄さん達と遊びに行こうよー」

 

 ──二人の男性にナンパをされていた。

 

 せっかくラブライブの世界に転生したので、アイドルショップを見てみたいと思い、俺は秋葉原へと赴いていたのだ。

 前世では殆ど行かなかった秋葉原の予想以上の活気に驚きつつ、さあアイドルショップへ行くぞと一歩踏みだした瞬間、知らない男性達に絡まれてしまったという……

 

「お嬢ちゃん聞いてるー?」

「お兄さん達いい所知ってるんだよ」

 

 人好きのする笑みを浮かべ、男達は俺にそう告げた。

 自分でも美少女の方だと思っていたが、まさか本当にナンパされるとは。

 俺は中学生だぞ。しかも、中学一年生。

 対して、男達は二十歳前後に見える。

 ……これって、通報されないか?

 

 チラリと周囲に目を向けてみれば、野次馬は遠くから俺達の様子を窺うだけで、警察等に通報する気配はない。

 気持ちはわかる。俺だって、こんな面倒くさい場面に関わりたくないし。

 しかし、それでも携帯で通報してくれるぐらい良いだろうに……。

 

 ため息をついて気持ちを切り替え、改めて男達に視線を戻す。

 俺に見つめられたからか、笑みを深めていく男達。

 とりあえず、ここは適当に言って誤魔化そう。

 そう思った俺が口を開こうとした瞬間──

 

「──待ちなさい!」

 

 ──女性の声が響き渡った。

 

 声のする方向へと目を向ければ、野次馬を掻きわけた一人の少女が、こちらに歩み寄ってくる所だった。

 ポニーテールにしている金髪を揺らしながら、少女は険しい目つきで男達を睨む。

 

「なんだお前?」

「オレ達の邪魔をすんじゃねぇよ」

「その人が困っているじゃない。しかも、彼女は貴方達と歳が離れすぎているわ。どう見ても、これは犯罪よ!」

「んだとぉ……?」

 

 そう告げ、男達に指を突きつけた少女。

 すると、自分より年下の小娘に犯罪と言われたからか、男達は剣呑な雰囲気を漂わせはじめる。

 にしても、この少女をどこかで見た事があるような?

 

「オレ達は善意で同行してもらうつもりだったぜ? 犯罪なんて人聞きの悪い」

「どちらにしても、褒められた行為でない事は確かよ。さあ、早くこの場を離れなさい!」

「調子乗るのもいい加減にしろよ……よく見たら、お前結構可愛いじゃねぇか」

「確かに! だったら四人で遊びに行こうぜ!」

「え、え?」

 

 笑顔でそう提案した男達は、ズンズンと少女の方へ近づいていく。

 すると、少女は話の雲行きがおかしくなった事に気が付いたようで、僅かに顔色を悪くしながらも、キッと男達を睨みつける。

 

「おうおう、随分と怖い顔をしちゃって」

「あ、貴方達! 私をどこに連れていくつもりなの!?」

「なぁに、楽しくカラオケでもしようと思ってるだけだぜ?」

「私は行かないわよ!」

 

 きっぱりとそう返すが、少女の声は震えていた。

 そのまま瞳に怯えの色を宿した少女を見て、男達は肩を竦めてゆっくりとにじり寄っていく。

 

「はぁ……俺のせいだしなあ」

 

 俺が男達に絡まれたせいで、少女が危険に陥ってしまった。

 そう考えると、この後始末は俺が取るべきだろう。

 一つため息を漏らしてから、俺はこちらに背を向けている男の尻目掛けて、脚を振り上げる。

 

「ぐぁっ!」

「お、おいどうした!?」

「誰かに蹴られたんだよ! お前が蹴ったのか!?」

「そんなわけねぇだろ! 後ろにいた女じゃねえの?」

「あいつか……おい、あいつはどこだ?」

「はっ? 俺が知るかよ?」

 

 先ほどまで俺がいた場所に顔を向け、困惑がちに言葉を交える男達。

 そんな彼等の様子を尻目に、俺は驚いたように目を見開く少女の手を取り、野次馬を掻きわけていく。

 

「ちょ、ちょっと!」

「いいから走って!」

「わ、わかったわよ……」

 

 暫く走ってこの場から充分離れた後、男達に追いかけられていない事を確認した俺は、少女の手を離す。

 少女は暫し繋がれていた自分の手を眺めていたが、やがてはっとするようにこちらへと顔を向ける。

 

「ここまでくれば多分平気だろう」

「えっと、助けてくれてありがとう」

「それはこちらの台詞だ。助けてくれてありがとう」

「そんな、私は結局何もできなかったし……」

「そんな事はないさ。君が彼等を引きつけたくれたお蔭で、不意をつく事ができたんだから」

「あ、ありがとう」

 

 改めてそう告げると、少女は照れたように頬を赤らめる。

 そんなどこか可愛らしい少女を見て、俺はようやくこの既視感の正体に気が付く。

 俺が知っている姿より幼いが、まさかこんな所で彼女と出会ってしまうとは……

 

「では、私はもう行くよ。お互いナンパには気をつけよう」

「ま、待って!」

「うん? どうしたのかな?」

 

 俺としては、物語を歪めないためにあまり関わりたくないのだが。

 穂乃果達の方も、できるだけ会わないように接触を減らしているし。

 俺だって、本当は穂乃果達ともっと仲良くしたい。

 だけど、それだと物語に歪みが生じてしまう。

 だから、これ以上物語の歪みを増やさないために、彼女とはここで別れるべきなのだが……

 

「私達って歳が近そうだし、私と一緒に遊びましょう!」

「いや、それはちょっとね」

「ね、ね? いいでしょ? お願い、私と遊びましょう?」

「お、落ち着いて!」

 

 必死な形相で詰め寄ってくる少女に、俺はたじろじながら疑問を感じていた。

 明らかに、少女の様子はどこかおかしい。

 言葉とは裏腹に少女の表情には悲壮感が漂っているし、瞳の奥からは深い諦観に、それと同等以上の羨望の色が垣間見える。

 なんだ、その孤独感を感じているような目は……これではまるで、少女がいつも独りでいるような──

 

「やっぱり駄目よね……ごめんなさい、急に変な事を言って」

「いや、大丈夫だよ」

「そう。それじゃあ、ここで私はもう行くわね、さようなら」

 

 痛々しい笑みを浮かべ、少女はそう告げた。

 対して、今にも壊れてしまいそうな少女の様子を見て、俺は何故かイライラしてしまう。

 その取り繕った笑顔を、何かを諦めたような姿を見ていると、俺は自分の苛立つ気持ちを抑えられない。

 くそっ……なんでだよ。なんで俺にそんな辛そうな笑顔を向けるんだよ。

 

 踵を返し、徐々に遠ざかっていく少女の背中。

 その酷く寂しそうな背中を見てしまったからか、はたまた何か言葉を返さなきゃいけないと思ったからか。

 

「ま、待って! やっぱり私と遊ぼう!」

「……えっ?」

 

 気が付けば、俺は少女へと叫んでいた。

 俺の声に振り向いた少女は、驚いたように目を瞬かせる。

 そして、信じられないといった表情を浮かべながら、少女は勢いよくこちらに駆け寄る。

 

「あ、遊び? 私と遊んでくれるの!?」

「その、君に助けてもらったお礼をまだしていなかったからね」

「ううん、いいのよ! それより、早く遊びに行きましょ!」

 

 俺の言葉に慌てたように答え、少女はそう告げると意気揚々と足を踏みだす。

 想像以上の食いつきだな。そんなに俺と遊びたかったのだろうか?

 ともかく、少女の横に並んで足を進めつつ、俺は自己紹介をするために口を開く。

 

「私の名前は雨宮 朝陽と言う。好きなように呼んでくれて構わないよ」

「あ、そういえば自己紹介がまだだったわね」

 

 薄らと頬を赤く染めた少女は、咳払いを一つ落とす。

 そして、俺の方へと満面の笑みを浮かべ──

 

「私は絵里、絢瀬 絵里よ。よろしく、雨宮さん!」

 

 ──そう告げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──楽しかったー!」

 

 心の底から満足そうな声を上げ、少女──絢瀬は伸びをした。

 現在、俺達は近場の喫茶店で休憩をしている所だ。

 絢瀬とは無難にゲームセンターで遊んでいたのだが、彼女の凄いはしゃぎようを見ていると、なんとも言えない気持ちになったが。

 

「私も楽しかったよ」

「本当!? 私だけが楽しんでいるかもしれないと思ってたけど、雨宮さんも楽しんだみたいで良かったわ」

「まあ、絢瀬がゲーム一つ一つにアタフタしている姿が一番面白かったんだけどね」

 

 笑みを浮かべてそう告げれば、絢瀬は不満げに頬を膨らませる。

 

「あ、あれは仕方なかったの! 初めてゲームセンターに来たから、どういう風に遊ぶか全然わからなかったのよ」

「ああ、だからレースゲームでは逆走したり、ゾンビゲームでは私を撃ったりしたんだ」

「ゾ、ゾンビは見た目が怖かったから……」

「レースゲームは?」

「ハンドルを動かしたら勝手に逆走したわ。きっとあれは壊れていたのね」

 

 腕を組み、重々しく頷いた絢瀬。

 しかし、気まずそうに絢瀬の視線が泳いでいる事から、自分の運転が下手なせいで逆走してしまったと理解しているらしい。

 まあ、レースゲームとかは人によって操作が難しいゲームだし……難しいか?

 俺だって数えるほどしかレースゲームで遊んだ記憶はないけど、今までで一度も逆走をした事がない。

 うん、あれだ。絢瀬にとって相性が悪かったゲームという事にしよう。

 

「そういえば、どうして私の事をさん付けなんだい? 自己紹介の時に私が歳下だと説明したはずだけど」

「えっと、今まで家族以外で呼び捨てにした事がなくて」

「つまり、私を呼び捨てにするのが恥ずかしいと」

 

 要点を纏めると、薄らと頬を赤らめて小さく頷いた絢瀬。

 絢瀬の気持ちはわからなくもない。誰だって初対面の人とは緊張してしまうだろう。

 いや、穂乃果のようなフレンドリーと言うか、高い社交性を持つ人ならあっさりと呼び捨てにできるのだろうが。

 

「で、でもせっかくだし呼び捨てで呼んでみるわ……あ、雨宮」

「おお、しっかり言えたじゃないか」

「うぅ、やっぱり恥ずかしいわ」

 

 呟きを漏らし、絢瀬は両手で顔を覆ってしまった。

 絢瀬の耳が赤くなっている事から、俺の想像以上に恥ずかしかったのがわかる。

 まあ、絢瀬もその内に慣れて呼び捨てにできるだろう。

 にしても、絢瀬の仕草が一々可愛らしい。これが噂に聞くポンコツチカ──

 

「今、失礼な事を考えなかったかしら?」

「そんな事ないさ」

「本当に?」

「本当に」

「……まあ、そういう事にしておくわ」

 

 いつの間にかジト目を送っていた絢瀬は、どうやら俺の言葉に納得してくれたらしい。

 ため息を一つ落とし、絢瀬はおもむろに携帯電話を取り出す。

 

「誰かに電話でも?」

「そ、そうじゃなくて……あの、私と番号を交換しない?」

「えっ?」

 

 不安げにこちらを窺う絢瀬。

 対して、俺は絢瀬から告げられた内容に、内心で酷く驚いていた。

 今日あった絢瀬の性格から、流石にここまでイケイケになるとは思わなかったのだ。

 だから、絢瀬とは今日だけの付き合いだと俺は思ったし、これならば物語の歪みを最小限に抑えられると考えていた。

 しかし、絢瀬は俺と携帯の番号を交換したいと要求している。

 つまり、絢瀬は今後とも俺との交流を望んでいるという事だ。

 

 正直、絢瀬の言葉は非常に嬉しい。

 憧れていた人に携帯電話の番号を教えてもらえるなんて、普通ならこちらから喜んでお願いしたいぐらいだ。

 ただ、それは物語となんの関係もなかった時の話。

 もしも俺が絢瀬と番号交換をしてしまうと、今後も交流が増え、やがて物語に大きな歪みができてしまうかもしれない。

 

「やっぱり、駄目よね……ごめんなさい。さっきの言葉は忘れて」

 

 俺がどう答えるか悩んでいると、絢瀬は呟きを漏らして、傍から見てもわかるほど痛々しい笑みを浮かべる。

 絢瀬の無理した言葉に、俺は即座に返事をする事ができなかった。

 

 

 

『──よろしく、雨宮さん!』

 

 

 

 ……どうして、このタイミングで絢瀬との自己紹介を思い出してしまったのだ。

 ああ、わかっている。絢瀬と今日一日遊んでいれば誰だってわかってしまう。

 遊びの一つ一つに全力で喜び、本気で楽しみ、全身で嬉しさを表現する。

 見ているこちらが笑顔になるほど、絢瀬は全身全霊で遊びを謳歌していた。

 

 ……恐らく、絢瀬には友達がいないのだろう。

 いつも独りで、孤独で、寂しくて。

 だから、偶然とは言え自分と話すきっかけができた俺を遊びに誘い、これからも俺と交流をしたいから番号交換を望む。

 俺にも気持ちが理解できる。誰にも自分の想いを相談できず、独りで何もかも抱え込んでしまうのは。

 

 俺はまだいい。前世としての精神が安定剤になってくれるし、何より穂乃果達との思い出が活力になっている。

 しかし絢瀬の場合、孤独を割り切れるほど精神が成熟しておらず、自分を励ませるような尊い思い出がない。

 

 ……いや。俺の自惚れでないのなら、今日は絢瀬にとって心強い思い出となっただろう。

 でもよく考えてみると、俺が絢瀬の心に止めを刺してしまった事がよくわかるのだ。

 

 例えば深い絶望に陥っていた人に、希望を見せるとする。

 すると、その人はその希望に一生懸命縋ろうとするだろう。

 しかし、希望はあっさりと消え失せ、また絶望だけが残る。

 結果、一度希望を知ってしまっただけに、その人はより深い絶望を味わってしまうだろう。

 

「……」

「ね、ねえ。ここのチョコケーキ美味しそうじゃない? せっかくだし、これを食べましょう、ね?」

 

 恐る恐るといった声色で、絢瀬は俺へと声を掛ける。

 その言葉にいつの間にか俯いていた顔を上げると、絢瀬は無理矢理な笑みを作って俺を見つめていた。

 俺は、選択肢を間違えたのか?

 あの時、絢瀬に声を掛けずに知らない振りをすれば良かったのか?

 寂しそうに微笑む絢瀬を無視するのが最善だったのか?

 俺と同じような孤独を抱えている少女を見捨てるのがベストだったのか?

 

 

 

 …………そんなわけがないだろう。

 

 

 

「絢瀬」

「あ、ごめんね? さっきは変な事を言って。怒ってる? そうよね、今日会ったばかりの人と連絡先を交換したく──」

「私も、絢瀬とは連絡先を交換したいな」

「──えっ?」

 

 矢継ぎ早に告げる絢瀬へと携帯電話を向ければ、彼女は呆然とした声を上げた。

 やがて、脳が理解を追いついたようで、絢瀬は震える声で告げる。

 

「今、連絡先を交換したいって言った?」

「うん、そうだよ。駄目、かな?」

「う、ううんっ! そんな事ないわ! とっても嬉しい……凄く嬉しい」

 

 慌てたように首を振った後、絢瀬は様々な感情が篭った言葉を落とす。

 泣き笑いのような笑顔をする絢瀬と番号を交換し、お互いに番号が入っている事を確認する。

 

「愚痴でもなんでも連絡していいから」

「ありがとう……本当にありがとう」

「そんな、大袈裟な」

「──ううん。私にとって、今日は一生の宝物よ」

 

 目尻に涙を滲ませながら、たおやかに微笑む絢瀬。

 窓から降り注ぐ夕陽に照らされ、その姿はどこかの名画のように酷く幻想的だった。

 絢瀬の笑顔に、俺は心から魅入ってしまう。

 だが、直ぐに我に返って(かぶり)を振り、

 

「さて、時間も遅いしそろそろ帰ろうか」

「そう、ね。改めて、今日はありがとう。とっても楽しかったわ」

「こちらこそ、絢瀬と遊べて楽しかったよ」

 

 会計を終えて店を出て、俺達は夕日を背に言葉を交わしていく。

 暫くして駅前にたどり着いた俺達は、ここで別れる事にした。

 

「じゃあ、私はこっちだから」

「途中で居眠りしないようにね」

「もうっ。大丈夫よ、それくらい。……えっと」

「ん? どうしたのかな?」

 

 モジモジとしている絢瀬を不思議に思っていると、彼女は俺へと微笑み──

 

「──またね、朝陽!」

 

 輝かんばかりの笑顔。

 キラキラと煌めくその笑みに再度見惚れている間に改札を抜けた絢瀬は、恥ずかしそうに顔を赤面させていた。

 辛うじて手を振ると、絢瀬は大きく手を振り返して駆け足でその場を離れていく。

 やがて、絢瀬の姿が俺の視界から消え去っていった。

 

「またね、か」

 

 なんとなく電車に乗る気になれず、俺は駅にあるトイレに入る。

 そのまま一番奥の個室の扉を開け、鍵を閉めて便座の上に座り込む。

 

「やってしまった……」

 

 絢瀬の姿が自分と重なってしまったのだろうか。

 気が付けば、絢瀬の心の中へと深く踏み込んでしまっていた。

 

「あの日に決意したはずなのに、結局俺の意思はこの程度か」

 

 思わず自嘲の笑みを漏らしていると、携帯電話が震えだす。

 携帯を開いて待ち受け画面を見てみると、どうやら絢瀬からのメールのようだ。

 

「『今日はありがとう。朝陽と色んな思い出を作って、これからも仲良くしたい』か……」

 

 絢瀬にとって、俺はもう友達の範疇なのだろうか。

 恐らく、絢瀬は俺を友達と思っている。

 友達でなければ、普通は連絡先を交換しようと思わないだろうし。

 

「俺は絢瀬をどう思っている?」

 

 絢瀬を表す言葉は色々ある。

 μ'sの一人、憧れのキャラクター、意外と抜けている、根が真面目……そして、孤独感を抱えている女の子。

 俺が穂乃果に救われただけに、あの状態の絢瀬を放っておく事がどうしてもできなかったのだ。

 

 

「……高校が違うなら物語に支障は出ない、か?」

 

 俺が考えた限り、物語に大まかな歪みは生じないと思う。

 ただ、バタフライエフェクトはどこから何が起こるかわからない現象だ。楽観視はできない。

 

「最悪、穂乃果達と疎遠になればμ'sはできるはず」

 

 μ'sが結成されるきっかけは、穂乃果達が廃校をなんとかしたいと思ったからだ。

 つまり、俺と絢瀬が仲良くなっても物語に大まかな支障はでない、多分。

 

「だから、絢瀬と友達になっても大丈夫……もっと仲良くなっても平気なはず」

 

 まるで、この絢瀬という繋がりを逃したくないように、自分の奥底に閉められた想いから目を背けるように。

 自分でも何を思っているのかわからないまま、俺は絢瀬のメールに返事をしていくのだった。


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