TS少女のラブライブ!   作:水羊羹

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第二十二話 小泉と星空

 あれからそろそろ時間も遅くなったので、俺達は西木野の家をお暇する事にした。

 そして現在、俺達は西木野母娘に玄関前まで見送られ、帰りの挨拶を交えている最中だ。

 

「では、お邪魔しました」

「えと、ありがとうございました!」

「まあ、今日は良い気分転換になったわ」

 

 頭を下げた俺達に、言葉に詰まりながらもそう告げた西木野。

 その声に頭を上げてみれば、西木野は照れくさそうにそっぽを向き、指に髪の毛を巻いていた。

 すると、相変わらず素直になれないそんな様子を見たからか、小泉はどこか優しげに微笑む。

 

「私も楽しかったよ」

「そ、そう? ま、まあ私も貴女と色々と話せてその、悪い気はしなかったわよ」

「つまり、小泉との会話が楽しかったという事かな?」

「ち、違うわ──」

「そう、なんだ」

 

 からかい混じりに俺がそう告げると、西木野は反射的といった様子で言葉を返す。

 しかし、否定されたからか悲しそうに俯く小泉を目に入れた西木野は、途中で口を閉ざして視線を泳がせていく。

 

「──ち、違わなくもない事もないわ」

「はっきりしないなあ。結局、どっちなんだい?」

「ぐっ! ……ええ、貴女と話すのは楽しかったわ。凄く楽しめたわよ」

「西木野さん……!」

「ゔぇぇっ!?」

 

 俺をジト目で一瞥した後、腕を組んで小泉へと自分の気持ちを吐露した西木野。

 それを聞いて、小泉は感激したように瞳を潤ませて西木野の手を握る。

 

「また遊びに来てちょうだい」

「わざわざ遅くまですみませんでした」

「いいのよ。あの子の楽しそうな笑顔も見られたから」

「それは、小泉と西木野の相性が良かったのでしょう。きっと二人は良い友達になれると思いますよ」

「まあ! それはいい事を聞いたわ、近いうちにお赤飯を炊かなきゃ」

「ちょっとそこは何を話しているのよ!」

 

 小泉達を尻目に西木野母と会話をしていると、眉尻を吊り上げた西木野がこちらに指を突きつけた。

 このまま西木野の怒りを買うのは面倒……怖いので、目を白黒させている小泉の手を取り、西木野母へと口を開く。

 

「ははは。では、そろそろこの辺で失礼します。行こうか、小泉」

「え、えぇっ!?」

「またいらっしゃいー」

「ま、待ちなさい! また私から逃げるつもり──」

 

 小泉の手を引っ張り、西木野の家を後にする。

 途中で西木野の叫びが聴こえた気がするが、恐らく気のせいだろう。

 うん、明日西木野に何か言われたら上手くはぐらかなきゃな。

 ともかく、暫くしてから歩いていた足を止め、小泉へと向き直って頭を下げる。

 

「すまない、いきなり連れていくような事をして」

「その、私は気にしていないから大丈夫です」

「ありがとう」

 

 改めて小泉にお礼を告げてから、俺達は再び足を動かしていく。

 ふと天を仰げば、日が沈む直前で辺りに茜色の光が降り注いでいた。

 幾らかの星達も顔を覗かせており、自分を淡く光らせている。

 

「あの、雨宮先輩?」

「ん? なんだい?」

「雨宮先輩はμ'sのお手伝いをしているんですよね?」

「まあ、そうだね。それがどうしたのかな?」

「その、どうして雨宮先輩はステージに立たなかったんですか?」

「──」

「私は雨宮先輩も輝けると思うんです! 雨宮先輩ならスクールアイドルとして凄く……雨宮先輩?」

 

 心配そうな声色で尋ねられ、我に返る。

 そして、不思議そうに首を傾げている小泉に、俺はゆっくりと深呼吸してから笑みを向ける。

 

「……すまない、突然な事で少しびっくりしていた。それで、私がμ'sに入らない理由だったね。それには理由があるんだ」

「理由、ですか?」

「うん、理由……いや、正確には私のエゴかな」

「エゴ?」

 

 うん。これは俺の自分勝手な思いだろう。

 まあ、穂乃果達にとっては意味がわからないだろうが、俺がμ'sに入る事は万が一にもありえない。そういう結論に至った。

 今更だけど、小泉のような質問が来る事を想定しておくべきだったな。

 ともかく、益々困惑気味な表情を浮かべている小泉に、俺は首を横に振って口を開く。

 

「とりあえず、私がμ'sに入る事はないと思ってくれて良いよ。それより、私としては小泉がμ'sに入ってくれると嬉しい」

「わ、私ですかぁ!? 私なんて無理ですよぉ」

「そんな事ないよ。小泉は可愛い顔立ちだし、スタイルも良い。声だって凄く綺麗だからアイドルに向いていると思う」

「あわわわわ……」

 

 勢いよく首を振って否定の声を上げる小泉。

 そのまま俺が小泉の良い所を挙げていけば、よほど恥ずかしかったのだろうか。

 小泉は耳まで真っ赤にして目を回しはじめ、口から言葉にならない声を漏らす。

 うーん、少し急ぎすぎたな。小泉がオーバーヒートを起こしたロボットみたいな表情になっている。

 

「まずは落ち着こう。ほら、深呼吸」

「は、はぃ……ひっひっふー。ひっひっふー」

「それは違う深呼吸だと思うけど」

 

 お約束のボケをしてくれたのが、それほど小泉は混乱していたのだろう。

 ともかく、今の深呼吸である程度落ち着いたようで、小泉は頬を赤らめたまま俺の方へと顔を向ける。

 

「も、もう大丈夫でしゅ」

「でしゅ?」

「……あ、あそこに和菓子屋がありますよ! お母さんのお土産に買っていきますね!」

 

 噛んだ事実をなかった事にしたいのか、小泉は再び顔を赤面させると、いつの間にか近くにあった穂むらを指差す。

 そして、驚くほど素早い動作で店の中に入っていく。

 

「なんか、今の小泉を見てると和むな。まあいいや、俺も店に行こう」

 

 小泉の愛らしい行動に思わず笑みが漏れつつ、俺も彼女の後を追うべく穂むらへと入店するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後、穂むらが穂乃果の家だった事に小泉が驚いたり、海未が一人でライブの練習をしているのを目撃してしまったり。

 色々とあったが、穂乃果達に改めてスクールアイドルの勧誘をされて、小泉はどこか迷うような表情を浮かべていた。

 

 そんな出来事があった次の日。

 現在、俺は学校の廊下で星空と偶然にも出会っていた。

 

「こんにちは、雨宮先輩!」

「こんにちは。今日は小泉と一緒じゃないみたいだね」

「あ、そうだった! かよちんを探しているんだった」

「小泉をか……ふむ、私も小泉を探すのを手伝ってもいいだろうか?」

「え?  別にいいですけど、なんで先輩が?」

 

 不思議そうに問いかけてくる星空に、俺は苦笑いを返す。

 

「小泉には少し用があってね。それより、星空は本当に小泉と仲が良いな」

「当然にゃ! 凛はかよちんと一番仲良しだよ!」

「にゃ?」

「あっ……」

 

 満面の笑みで頷いていた星空は、自分が猫の語尾を言った事に気が付いたようで、思わずといった様子で口許に両手を当てる。

 それから頬をやや紅潮させ、どこか窺うように俺を見上げる星空。

 そんな彼女の可愛らしい動作に笑みが浮かびつつ、俺は星空へと返事をするために口を開く。

 

「そんなに堅苦しくしなくてもいいよ。私は先輩とか気にしていないから」

「よ、良かったー。怒られるんじゃないかって不安だったにゃ」

「流石に言葉遣いだけで私は怒らないさ。とりあえず、小泉を探しに行こうか」

「じゃあ、まずは中庭に行ってみましょう!」

 

 そう告げると星空は俺の手を引っ張り、軽快な足取りで駆けだした。

 突然腕を引かれて脚がもつれそうになるが、なんとかバランスを取って俺も続いて足を進めていく。

 

「おっとと……それで、どうして初めは中庭に行こうと?」

「えっ? うーん、かよちんがそこにいるような気がしたんです」

「なるほど、小泉が中庭にか」

 

 中庭……中庭か。

 物語の中で、中庭で何か大事な場面があったような気がしなくもない。

 あれから昨日に記憶を掘り返したりした結果、物語の知識は殆ど忘れている事がわかったのだ。

 今まで覚えていた事がおかしいのは理解しているが、これで本格的に手探りでμ'sのサポートをする事になるだろう。

 まあ、ことりの留学等といった重要な場面は大まかに覚えているので、その事は不幸中の幸いだった。

 そんな事を考えつつ、俺は星空と言葉を交えていく。

 

「そういえば、雨宮先輩ってスクールアイドルのお手伝いをしているんですよね?」

「そうだよ。星空も加入するかい? 私は大歓迎だけど」

「えっ!? むむむ無理ですよ凛がスクールアイドルになるなんて!」

「どうして?」

「だって凛は可愛くないし、髪だって短いし……」

「星空……」

 

 足を止めた星空の方へと顔を向ければ、彼女は俯き気味に目を伏せていた。

 そして、星空は諦観が充分に篭った笑みを俺へと向ける。

 

「雨宮先輩だってそう思いますよね? 凛にアイドルは似合わないって。それに、凛じゃなくてかよちんがアイドルに──」

「そんな事ない!」

「──えっ?」

 

 俺が大声を出したからか、素っ頓狂な声を上げた星空。

 そのまま不思議そうな顔でこちらを見つめる星空に、俺は彼女の元へ近づいて両肩に手を乗せる。

 

「そんな事ないよ、星空。君はとても魅力的だ」

「そんな嘘を言わないでください」

「嘘じゃない。星空はとっても可愛いし、髪の短さだって君の明るいイメージと凄く合っている」

「う、うぅ……」

「君の笑顔は見ているこっちまで笑顔にしてくれるし、一つ一つの仕草が凄く可愛らしい。君と知り合って間もない私ですらそう思ったんだ。だから君は可愛い、少なくとも私はそう思う」

 

 そう告げてからゆっくりと離れると、動揺するように視線を揺らしていた星空は、やがて俺へと目を向けて口を開く。

 

「本当に……本当に、凛が可愛いと思ってるんですか?」

「思ってる」

「でも……でも、やっぱり信じられないよ!」

「何度だって言うよ。星空、君はとても可愛い」

 

 俺の言葉を聞いて、星空は迷うように目を泳がせた。

 その様子を黙って見守っていると、やがて星空は(かぶり)を振り、笑みを浮かべる。

 

「ありがとうございます、雨宮先輩。少し自信がつきました」

「星空……」

「さあ、早くかよちんを探しましょう!」

 

 そう一方的に告げ、俺の横を駆け抜けていく星空。

 それに慌てて振り向けば、離れた場所で星空が俺へと手招きしていた。

 

「どうにかして星空達もμ'sに入ってくれないだろうか」

 

 今後の展開に憂い、思わずため息をついてしまう。

 先ほど話した時に思ったのだが、やはり星空はμ'sに必要なメンバーだ。

 星空なら……いや、西木野や小泉達一年生なら、今のμ'sを更に輝かせてくれるはず。そう俺は確信した。

 まあ、俺が何もしなくても穂乃果達がなんとかしそうだけど、星空達をμ'sにいれるために足掻いてみよう。

 そんな事を考えつつ、俺は星空の元へ駆け寄っていくのだった。


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