君の名は。〜After Story is wish〜 作:恋紫心実
君の名は。ブームに乗ってゆっくりと書いていきます。
気長にゆっくりとお待ちください。
朝、目が覚めると、なぜか泣いている。
そういう事が時々ある。
見ていたはずの夢は、いつも思い出せない。
ただ──。
ただ、なにかが消えしまったという感覚が、
目覚めてからも長く残る。
ずっとなにかを、誰かを探している。
そういう気持ちにとりつかれたのは、
たぶんあの日から。
あの日。星が降った日。
それはまるで──。
まるで夢の景色のように。ただひたすらに、
美しい眺めだった。
◇ ◇ ◇
「瀧くん、瀧くん、覚えてない?」
「わたし、ちょっと東京行ってくる」
『……会えっこ、ない。でも、確かなことが、
ひとつだけある』
『わたしたちは、会えばぜったい、すぐにわかる』
『わたしに入っていたのは、きみなんだって。
きみに入っていたのは、わたしなんだって』
「覚えて、ない……?」
「誰、おまえ?」
「あんたの名前!」
「みつは! 名前は、三葉!」
『3年前、お前はあのとき、俺に、
会いに来たんだ……!』
◇ ◇ ◇
「「カタワレ時だ……」」
「お前に、会いに来たんだ」
「目が覚めてもお互い忘れないようにさ。
名前書いておこうぜ、ほら」
「……うん!」
言おうと思ったんだ。お前が世界のどこにいても、
俺が必ず、もう一度逢いに行くって。
三葉、大丈夫、覚えてる。
三葉、みつは、みつは、君の名前は、みつは!
名前が、分からない。誰なんだ。
俺は、何でここにいる。
あいつに逢うために来た! 助けるために来た!
生きていて欲しかった!
なのに、名前が、思い出せない。
「大事な人。忘れたくない人。忘れちゃダメな人。
誰だ、誰だ、誰だ? 名前は……!」
瀧くん、瀧くん、瀧くん、大丈夫、覚えてる。
君の名前は、瀧くん!
名前が、思い出せんの。誰なの。
あなたは、誰。逢いたい! もっと話がしたい!
生きていたい!
なのに、名前が、思い出せんの。
「大事な人。忘れちゃダメな人。忘れたくなかった人。
誰、誰……きみの名前は!」
彗星が割れて、幾つもの流星が空を流れる。
もうダメだと、諦めかけた私の脳裏に、
あの人の言葉が浮かぶ。
『目が覚めても、お互い忘れないようにさ。
名前書いておうこぜ』
あの人が私の右手に書いた名前をみる。
そこには、たった三文字の言葉があった。
あの人の字で、しっかりとか、書かれていた。
『すきだ』
「これじゃあ、名前、わかんないよ……」
「──それは、まるで夢の景色のように、
ただひたすらに、美しい眺めだった」
◇ ◇ ◇
「……ずっと何かを、誰かを、
探しているような気がする」
俺は、雪の降る帰り道、歩道橋を歩いていると、
懐かしい感覚が、体を引っ張る。振り返って見るも、
そこには、傘を差して歩いている女性がいた。
気に留めることもなく、再び前を向いて、歩き出す。
私は、雪の降る帰り道、傘を差して
歩道橋を歩いていると、懐かしい感覚に体を引っ張られた。
振り返って見るも、そこには、傘をささずに歩く男性がいた。
気にすることもなく、前を向いて歩き出す。
「今はもうない町の風景に、なぜこれほど、
心を締めつけられるのだろう」
◇ ◇ ◇
いつからだろうか。朝、目が覚めると、
泣いていることがあるのは。
いつからだろうか。気が付けば、右手を
見るようになっていたのは。
いつからだろうか。鏡を見る度に、誰かの面影を
探すようになったのは。
いつからだろう。朝、目が覚めると、
泣いているのは。
いつからだろう。気が付くと、右手を
見るようになったのは。
いつからだろう。鏡を見る度に、誰かの面影を
探すようになっていたのは。
いつもと同じ時刻。いつもと同じ電車。
いつもと変わらない日に、なると思っていた。
いつもと同じ時刻。いつもと同じ電車。
いつもと変わらない日に、なると思ってた。
もう少しだけでいい。
あと少しだけでいい。
もう少しだけでいいから。
もう少しだけでいい。
あと少しだけでいい。
あと少しだけ──。
私は、電車のドアに寄りかかり、ずっと、
何かを、誰かを。
俺は、電車のドアに寄りかかり、ずっと、
何かを、誰かを。
唐突に、私は、「あの人」とすれ違う。
逆方面に向かう電車に乗っていた「あの人」に。
唐突に、俺は、「あの人」とすれ違った。
逆方面に向かう電車に乗っていた「あの人」と。
「ずっと、誰かを……探していた!」
俺は、次の駅のホームに着くと、弾かれるように、
車内から飛び出していく。改札を通り抜け、速く速く、
走って「あの人」と会うために。
私は、次の駅のホームに着くと、弾かれるように、
車内から飛び出す。改札を通り抜け、速く速く、
走って「あの人」に会うために。
どれだけ走ったんだろう。どこまで走ったんだろう。
「あの人」に会いたい。会って伝えたい。
ずっと、あなたを探していたって。
どれだけ走ったんだろうか。どこまで走ったんだろうか。
「あの人」と会いたい。会って伝えないと。
ずっと、おまえを探していたって。
雨上がりの道を、走って、走って、走る。
「あの人」も同じように走っているはずだから。
雨上がりの道を、走って、走って、走る。
「あの人」も同じように走っていると思うから。
走って、走って、走って、辿り着く。
階段の下に「あの人」が、「彼」がいる。
走って、走って、走って、辿り着いた。
階段の上に「あの人」が、「彼女」がいた。
彼は、ゆっくりと、階段登って来る。
それにつられる様に私は、階段を降りる。
彼女は、俺が、階段を登るのにつられて、
ゆっくりと階段を降りてくる。
ちょうど真ん中の踊り場ですれ違うけど、
私も彼も声を掛けられず、通り過ぎてしまう。
このままじゃ、ダメなんだ。何か、何か、言わないと。
ちょうど真ん中の踊り場ですれ違ったけど、
俺も彼女も声を掛けられず、通り過ぎる。
このままじゃ、ダメだ。何か、何か、言わなければ。
だから、俺は振り向いた。
「……あの! 俺、きみをどこかで!」
背中越しに、彼の声が聞こえる。
だから、私も振り向く。
「私も!」
彼も私も涙を流していた。
その涙を見てわかった。
嬉しくて泣くのは、悲しくて笑うのは。
彼女も俺も涙を流していた。
その涙を見てわかった。
嬉しくて泣くのは、悲しくて笑うのは。
私たちは。
俺たちは。
声を揃え、同時に問いかける。
「きみの、名前は……?」