君の名は。〜After Story is wish〜   作:恋紫心実

1 / 2
初めまして、恋紫心実です。
君の名は。ブームに乗ってゆっくりと書いていきます。
気長にゆっくりとお待ちください。


君の心が、君を追い越したんだよ

 朝、目が覚めると、なぜか泣いている。

そういう事が時々ある。

 見ていたはずの夢は、いつも思い出せない。

ただ──。

 ただ、なにかが消えしまったという感覚が、

目覚めてからも長く残る。

 ずっとなにかを、誰かを探している。

 そういう気持ちにとりつかれたのは、

たぶんあの日から。

 あの日。星が降った日。

 それはまるで──。

 まるで夢の景色のように。ただひたすらに、

美しい眺めだった。

 

 ◇ ◇ ◇

「瀧くん、瀧くん、覚えてない?」

 

「わたし、ちょっと東京行ってくる」

 

『……会えっこ、ない。でも、確かなことが、

ひとつだけある』

『わたしたちは、会えばぜったい、すぐにわかる』

『わたしに入っていたのは、きみなんだって。

きみに入っていたのは、わたしなんだって』

 

「覚えて、ない……?」

「誰、おまえ?」

 

「あんたの名前!」

「みつは! 名前は、三葉!」

 

『3年前、お前はあのとき、俺に、

会いに来たんだ……!』

 

 ◇ ◇ ◇

「「カタワレ時だ……」」

 

「お前に、会いに来たんだ」

 

「目が覚めてもお互い忘れないようにさ。

名前書いておこうぜ、ほら」

「……うん!」

 

 言おうと思ったんだ。お前が世界のどこにいても、

俺が必ず、もう一度逢いに行くって。

三葉、大丈夫、覚えてる。

三葉、みつは、みつは、君の名前は、みつは!

 

 名前が、分からない。誰なんだ。

 俺は、何でここにいる。

あいつに逢うために来た! 助けるために来た!

生きていて欲しかった!

なのに、名前が、思い出せない。

 

「大事な人。忘れたくない人。忘れちゃダメな人。

誰だ、誰だ、誰だ? 名前は……!」

 

 瀧くん、瀧くん、瀧くん、大丈夫、覚えてる。

君の名前は、瀧くん!

 

 名前が、思い出せんの。誰なの。

あなたは、誰。逢いたい! もっと話がしたい!

生きていたい!

なのに、名前が、思い出せんの。

 

「大事な人。忘れちゃダメな人。忘れたくなかった人。

誰、誰……きみの名前は!」

 

 彗星が割れて、幾つもの流星が空を流れる。

もうダメだと、諦めかけた私の脳裏に、

あの人の言葉が浮かぶ。

『目が覚めても、お互い忘れないようにさ。

名前書いておうこぜ』

 あの人が私の右手に書いた名前をみる。

そこには、たった三文字の言葉があった。

あの人の字で、しっかりとか、書かれていた。

『すきだ』

 

「これじゃあ、名前、わかんないよ……」

 

「──それは、まるで夢の景色のように、

ただひたすらに、美しい眺めだった」

 

 ◇ ◇ ◇

 

「……ずっと何かを、誰かを、

探しているような気がする」

 

 俺は、雪の降る帰り道、歩道橋を歩いていると、

懐かしい感覚が、体を引っ張る。振り返って見るも、

そこには、傘を差して歩いている女性がいた。

気に留めることもなく、再び前を向いて、歩き出す。

 

 私は、雪の降る帰り道、傘を差して

歩道橋を歩いていると、懐かしい感覚に体を引っ張られた。

振り返って見るも、そこには、傘をささずに歩く男性がいた。

気にすることもなく、前を向いて歩き出す。

 

「今はもうない町の風景に、なぜこれほど、

心を締めつけられるのだろう」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 いつからだろうか。朝、目が覚めると、

泣いていることがあるのは。

 いつからだろうか。気が付けば、右手を

見るようになっていたのは。

 いつからだろうか。鏡を見る度に、誰かの面影を

探すようになったのは。

 

 いつからだろう。朝、目が覚めると、

泣いているのは。

 いつからだろう。気が付くと、右手を

見るようになったのは。

 いつからだろう。鏡を見る度に、誰かの面影を

探すようになっていたのは。

 

 いつもと同じ時刻。いつもと同じ電車。

いつもと変わらない日に、なると思っていた。

 

 いつもと同じ時刻。いつもと同じ電車。

いつもと変わらない日に、なると思ってた。

 

 もう少しだけでいい。

 あと少しだけでいい。

 もう少しだけでいいから。

 もう少しだけでいい。

 あと少しだけでいい。

 

 あと少しだけ──。

 

 私は、電車のドアに寄りかかり、ずっと、

何かを、誰かを。

 

 俺は、電車のドアに寄りかかり、ずっと、

何かを、誰かを。

 

 唐突に、私は、「あの人」とすれ違う。

逆方面に向かう電車に乗っていた「あの人」に。

 

 唐突に、俺は、「あの人」とすれ違った。

逆方面に向かう電車に乗っていた「あの人」と。

 

 「ずっと、誰かを……探していた!」

 

 俺は、次の駅のホームに着くと、弾かれるように、

車内から飛び出していく。改札を通り抜け、速く速く、

走って「あの人」と会うために。

 

 私は、次の駅のホームに着くと、弾かれるように、

車内から飛び出す。改札を通り抜け、速く速く、

走って「あの人」に会うために。

 

 どれだけ走ったんだろう。どこまで走ったんだろう。

「あの人」に会いたい。会って伝えたい。

ずっと、あなたを探していたって。

 

どれだけ走ったんだろうか。どこまで走ったんだろうか。

「あの人」と会いたい。会って伝えないと。

ずっと、おまえを探していたって。

 

 雨上がりの道を、走って、走って、走る。

「あの人」も同じように走っているはずだから。

 

 雨上がりの道を、走って、走って、走る。

「あの人」も同じように走っていると思うから。

 

 走って、走って、走って、辿り着く。

階段の下に「あの人」が、「彼」がいる。

 

 走って、走って、走って、辿り着いた。

階段の上に「あの人」が、「彼女」がいた。

 

 彼は、ゆっくりと、階段登って来る。

それにつられる様に私は、階段を降りる。

 

 彼女は、俺が、階段を登るのにつられて、

ゆっくりと階段を降りてくる。

 

 ちょうど真ん中の踊り場ですれ違うけど、

私も彼も声を掛けられず、通り過ぎてしまう。

このままじゃ、ダメなんだ。何か、何か、言わないと。

 

 ちょうど真ん中の踊り場ですれ違ったけど、

俺も彼女も声を掛けられず、通り過ぎる。

このままじゃ、ダメだ。何か、何か、言わなければ。

 だから、俺は振り向いた。

 

「……あの! 俺、きみをどこかで!」

 

 背中越しに、彼の声が聞こえる。

だから、私も振り向く。

 

「私も!」

 

 彼も私も涙を流していた。

その涙を見てわかった。

嬉しくて泣くのは、悲しくて笑うのは。

 

 彼女も俺も涙を流していた。

その涙を見てわかった。

嬉しくて泣くのは、悲しくて笑うのは。

 

 私たちは。

 

 俺たちは。

 

 声を揃え、同時に問いかける。

 

「きみの、名前は……?」

 

 ()の心が、()を追い越したんだよ


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。