ダンジョンに創世の魔法使いがいるのはまちがっているだろうか   作:魔法使い

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更新が遅くなってすみません。
とりあえず1巻が終わったらまたしばらく間が空くと思います。


5話 怪物祭 後編

「ヨ、ヨハンさん!!」

 

「あぁ、エイナさんこんにちは」

 

「こんにちは…ってそれどころじゃないんです。実は…」

 

クロエさんと闘技場まで戻ってきた僕を出迎えたのはギルドの役員であるエイナさんだった。

しかしその様子はどこか焦った様子で周りに人がいないのを確認すると僕の耳元で小さく話し始めた。

 

クロエさんがなんだか威嚇に似たようなことをしている気がする。

 

エイナさんが話した内容は確かに穏やかやものではなかった。

 

なんでも闘技場で調教のために用意されていたモンスターたちが突然としていなくなったらしい。

見張りについていた人たちはみんな立てなくなっていったり、気絶していたりしていて外部から攻撃があったのだとギルドは考えているようだ。

 

すでにこのことはガネーシャファミリアに伝わっており、神ガネーシャは迅速に対応してくれているらしい。

それでもまだモンスターを捕獲できてはいないようでエイナさん含めたギルド職員は手練れの冒険者に応援を頼んでいるようだ。

 

エイナさんが応援を頼んだのはロキファミリアの剣姫…アイズさんらしい。

 

アイズさんと神ロキはその申し出に快諾してくれたらしく、今は街を駆け回っているとのこと。

 

「ヨハン…この女誰ニャ」

 

「ん? 面識なかった? 彼女はギルド職員のエイナさん」

 

「こんにちは」

 

「ギルド…敵…じゃないニャ」

 

「…はい?」

 

なぜか納得し始めたクロエさんはエイナさんと握手すると今度は僕の方に向き直った。

 

その表情は呆れている。

 

まるで僕の言うことを予測しているかのようなその表情に苦笑いすると僕は口を開く。

 

「クロエさん。ちょっと僕行ってくるよ」

 

「あ〜ニャんか面倒事の予感がしてたニャ〜せっかく休みとったのにニャ〜」

 

この目…確実に何か企んでいる目だ。

ここでこうして僕に直接言うことによって罪悪感を出し、しかも自分が優位に立てるように話している。

 

…クロエさん、恐ろしい人!?

 

「…ごめんね。次何か必ず埋め合わせするから」

 

「一週間に一回」

 

「…ん?」

 

「一週間に一回、店に顔出すニャ。それでニャーは手を打つニャ」

 

「…わかりました」

 

『なんて抜け目ない人なんだ…』と内心で溜め息を吐くと満足そうに頷いたクロエさんに謝って背中にある杖を取り出して一度深呼吸を行いルフから魔力を集める。

 

「な、なにこの小さな鳥? 蝶?」

 

「これがヨハンがよく言ってたルフってやつニャ? 初めて見るニャ」

 

途方もない魔力はとても濃いもので、ルフそのものがみんなに見えるほど可視化し始める。

甲高い音を立てて騒めきたてるルフから魔力をいっぱいに集めると今度は魔法式を組み立てる。

 

「みんな…全力でやるよ! 定音集結(ハディーカ・ジャマエ)

 

溜まりきった魔力がルフとともにオラリオの至るところへと広がっていく。

 

《ビィィィィィィィッ!!!!》

 

「こ、これが特異点と呼ばれるヨハンさんの魔法!?」

 

前回のベルくんの時と同じく今回集める音は戦闘の音と破壊音。

 

もしかしたら誰かがモンスターと交戦している可能性があったからだ。

それが冒険者ならいいけれど一般市民がモンスターに追われているのであれば事態は一刻を争うことになる。

 

「見つけた!」

 

合計で4つの音を回収した僕は浮遊魔法で浮かぶと力を溜めてバネのように飛び立つ。

剣の音がまったくしなかった方向へ向かう。

 

今回は捕獲だが、その作戦次第は各個撃破。

 

オラリオはとても入り組んでいて陸地から行くとわかりづらいのだが、空から行くとその全貌はよくわかる。

それに空から行けばあっという間に目的地にたどり着く。

 

目標地点に近くに連れて聞こえる物が壊れる大きな音。そして地面を抉ったことで巻き起こる土埃を視界に捉える。

 

「このルフ…色が桃色… 」

 

見つけた姿は大型の巨大なモンスターと白い髪の冒険者。

モンスターの方は間違いなくシルバーバックと呼ばれるモンスターだ。

出現する層は確か11層。

そしてそのシルバーバックから逃げているのはヘスティア様を庇うベルくんだった。

 

すでにベルくんはボロボロで頭からは流血している。

 

なんど確認しても桃色のルフはシルバーバックから溢れている。

それがベルくんに対してなのかそれともヘスティア様に対してかはわからないがあのシルバーバックは確かに発情している。

 

「発情にしてはやりすぎなんじゃないかな!光線(フラーシュ)!」

 

遠距離から光の光線を放つ。

その光線は大きな音とともにシルバーバックの背中へと当たる。

シルバーバックは堪らず声を荒げるとその場から大きく後退する。

そのタイミングを見計らって僕は空から地面へと降り立つとベルくんの下へと駆け寄る。

 

「ヨハンさん!」

 

「シルバーバックから求愛されるなんて…ベルくん、君は一体何をしたんだい?」

 

「僕は何もしてないです…って求愛!? これ求愛なんですか!?」

 

ベルくんの言葉をよく考えて唸る。

確かに求愛行動と例えるにしてはどこかおかしい気がするが、このシルバーバックは発情していることは間違いない。

何度見てもシルバーバックの周りに飛ぶルフは桃色だ。

 

完全に誰かを求めている状態なのだ。

 

「厳密に言うとどこか違う気もするけどね。でもこれは間違いなく魅了からくる求愛だよ」

 

「実は狙われているのは僕じゃなくてヘスティア様なんです!」

 

シルバーバックは立ち直ると僕に向かって猛々しく吠える。

威嚇のつもりなのだろうけどたかだか11層クラスのモンスター。

僕からすれば怖くもなんともない。

 

「ヘスティア様の魅了ってそんな高かったっけ?」

 

「それ遠回しにボクの魅了がないって言ってないかい!?」

 

「そんなことはないですよ」

 

なるほど。

仮定するならばこのシルバーバックは檻から逃げた先でベルくんたちと遭遇。

それで一緒いたヘスティア様の魅了にやられて発情開始。

 

…とこんな感じになるわけか。

 

色々と疑問は残るけれど今はこれで納得するしかないようだ。

 

さてあの発情しまくりのシルバーバックをどうやって倒そうか。

ベルくんが行ったことある層といえば6階層。

1人で無茶をしたとはいえ、あの層までベルくんは辿り着くことができたのだ。

そして生きて帰ってきた。

 

ならば、一度くらい上層の終盤と呼ばれる11層のモンスターを経験させてもいいのではないだろうか。

 

シルバーバックが振り下ろす腕を防御魔法(ボルグ)によって防ぐ。

手首を回すように軽く杖を振るい名命令式を作ると生み出された風魔法(アスファル)によって大きく吹き飛ばす。

 

「「ベルくん。君が、あのモンスターを倒すんだ」」

 

「え!?」

 

ヘスティア様と声が重なったことに対してか、はたまたシルバーバックを倒せと言われたことに対してなのかはわからないが、ベルくんは戸惑っているようだった。

その気持ちは十分にわかるけれど、今回はそうしてもらう。

 

これからのためにもこれは必要な試練だ。

 

「意見が合いましたね。大丈夫、僕がちゃんとサポートするよ」

 

「わかってるじゃないかヨハンくん。今回は君もいる。それにボクには策がある」

 

「策?」

 

凛とした表情で話すヘスティア様に面白がっている様子はない。

どうやらしっかりと覚悟を決めて真面目にベルくんに戦えと言っているらしい。

 

「ここでステータスの更新をする」

 

「こ、ここでですか!?」

 

「なるほど」

 

確かにステータスを更新すれば少なからず強くはなれるだろう。

だけれどそれではシルバーバックには敵わないだろう。

シルバーバックの特徴は腕から繰り出される力強い攻撃と思われがちだが、厄介なのは硬い皮膚だ。

 

シルバーバックというモンスターはステータスが上がり強くなった(・・・・・)と過信し、装備を強化してこなかった冒険者を幾度となく屠ってきた。

 

「ベルくん、君にこれを送ろう」

 

ヘスティア様から手渡されたのは漆黒の短剣だった。

 

全てが真っ黒なその短剣からはどことなく神聖ななにか…いや、ルフの力が宿っている!?

 

「この短剣は?」

 

「ベルくん、君の目的はなんだい? ああそうさ、ちょっとムカつくけど君の目標はロキのところのヴァレン何某に真横にいる特異点っていう化け物さ」

 

「はい」

 

「ボクは君を信じてるぜ? 君はそんな化け物と肩を並べる存在になるんだ。英雄になるんだ。だったらシルバーバックなんてちょちょいのちょいさ。それに…」

 

ヘスティア様はベルくんの頭にポンと手を置くとニッコリと満面の笑みを浮かべた。

 

「君はボクの眷属(ファミリア)なんだから!!!」

 

その言葉でヘスティア様から綺麗な白い色をしたルフが一斉に飛び立った。

 

それはとても幻想的で綺麗な光景。

 

ヘスティア様から飛び立っていくルフは一斉に辺り一面を埋め尽くすとベルくんの周りを飛び回る。

 

この光景を見れているのは恐らく僕だけだろう。

だからこそわかる。

 

今ベルくんの中でなにかが変わった。

 

「はい!!」

 

泣きそうな声で返事をしたベルくんに満足そうに頷いたヘスティア様は僕と視線を合わせた。

なにをするべきか即座に理解した僕はヘスティア様に頷き返し、微笑む。

 

ヘスティア様が驚いたような顔をしたのを余所目に僕は浮遊魔法で浮くと吹き飛ばしたシルバーバックの下へと向かっていく。

結構遠くへ飛ばしたけれど、さすがに今の時間でノックバックは回復したはずだ。

 

すでにこちらは向かって来ていると考えていい。

 

今回の主役は僕じゃない。

僕は精一杯時間を掛けよう。

 

でもごめんね。

 

僕は今すごく気分がいいんだ。

少しくらいはしゃいでもいいよね。

 

遠くから轟音が聞こえてくる。

シルバーバックが走ってくる音だと認識した僕はルフたちに呼びかける。

集まったルフたちから魔力を受け取り、さらに自身の魔力も上乗せする。

 

シルバーバックは僕を見つけると怒るように吠える。

 

そしてまた走り出し、腕を振り上げる。

 

力魔法(ゾルフ)

 

杖を背中に戻し、指をクイッと曲げる。

途端に目の前に迫っていたはずのシルバーバックの姿がはるか彼方へと消えていく。

力魔法は名前の通り、事象に力を加えること。

それは物であったり、物質であったり、はたまた空間であったり…。

 

「重力魔法…重力球(クプラ・コラクラ)

 

さらに飛んで行ったシルバーバックと僕の間に重力でできた球体を作る。

 

力魔法(ゾルフ)

 

さらに球体から放出される重力の向きを力魔法によって直線上…ちょうどシルバーバックに当たるように設定する。

すると遥か遠くへと飛ばされたはずのシルバーバックがこちらへと戻ってくる。

 

やがて球体とぶつかり合うとシルバーバックはかんぜんに身動きが取れない状態になった。

 

シルバーバックは空中でどうにかして重力球から逃れようとしているが、この重力球から逃れることはできない。

 

重力とはもともと下の向きに働く力だ。

それは僕たちのような人間はもちろん物質などにも作用を及ぼす。

 

今回生み出したのはブラックホールのような全ての方向に対して吸い寄せる力を持つ球体だったのだが、それではここら辺一帯が吸い寄せられてしまう。

 

そこで力魔法で向きを変えたのだ。

 

その向きはシルバーバックに向かって伸ばしたためシルバーバックにのみ重力が横方向に働き吸い寄せられていく…とこんな感じだ。

 

「いい加減目を覚ましたらどうだい?」

 

『ヴァァァァァァァァァァァッ!!!』

 

相変わらずシルバーバックから桃色のルフが飛んでいる。

これはもう魅了というよりは狂化と言っていいかもしれない。

 

「終わりましたヨハンさん!」

 

「よし、じゃあシルバーバックを解放するけど準備はいいかい? シルバーバックは今までとは比べものにならないはずだ。それこそウォーシャドウが束になっても敵わないだろう。君に覚悟はあるかい?」

 

「僕は強くならなきゃいけないんです。ヘスティア様の言葉を聞いて思ったんです。あの人のいる場所まで行くのに…こんなところで立ち止まっていられないって!!」

 

駆けつけたベルくんの瞳は今までのような怯えたものではなく、希望に満ちていた。

その手にヘスティア様からもらった漆黒の短剣を握りしめ、ベルくんは力強く地を蹴った。

それと同時に僕はシルバーバックを縛り付けていた重力の球を消す。

 

拘束から逃れたシルバーバックは漆黒の短剣を握りしめ迫ってくるベルくんを敵と認めたのか足で地団駄を踏むかのような要領で地割れを起こす。

確かに陸から近づいてくる敵を対処するにはその行動を取るのが一番手取り早い。

 

このシルバーバック…知能が高い。

 

僕は浮遊魔法で地面から飛び立って回避。

ベルくんもジャンプしてなんとか避けたようだけれど空中では身動きがとれない。

 

「ベルくん君を一気にあそこまで飛ばすよ!狙う場所はわかってるね!?」

 

「はいッ!」

 

ベルくんは空中で割れた地面を足場にしてもう一度高く跳躍するが、それでもまだシルバーバックへの距離は遠い。

 

風魔法(アスファル)…」

 

拙いジャンプだったベルくんを風魔法で天高く飛ばす。

 

力魔法(ゾルフ)…」

 

最高高度まで到達したベルくんの力の向きを力魔法によって変更する。

 

風移動(アスファル・ワープ)!!!」

 

風魔法と力魔法を合わせ、風を推進力として使用する。

ベルくんからすれば追い風が吹いているような感覚だとは思うが、その速度は尋常ではない。

力魔法による付与はそれだけ影響を与えるということだ。

 

魔法とは幾多もの命令式を合わせて初めて真価を見せる。

 

まるで流星のようにシルバーバックに向かって突っ込んでいくベルくんは手の短剣を逆手に持ち替え、狙うべき箇所を狙う。

 

どんなモンスターにも共通して必ず弱点がある。

たった一撃、そこさえ貫いてしまえば確実に倒すことができるそんな場所がある。

 

それが魔石だ。

 

ベルくんの手に持った漆黒の短剣が淡い光を灯す。

シルバーバックは向かい打とうと右こぶしを握りしめて前に突き出す。

突進するベルくんのその様子は目標を目掛けて突こうする巨大な一本の槍。

シルバーバックの巨大な右拳とベルくんが轟音とともにぶつかり合う。

 

突撃槍(ペネトレイション)

 

ベルくんの漆黒の短剣がシルバーバックの腕を切り裂きながら進んでいく。

それでも風移動(アスファル・ワープ)は目標を貫くまで止むことなくベルくんを推し続ける。

 

誰かがベルくんの背中を押す。

今回はきっと僕ではなく、ヘスティア様なのだろう。

それがなんだかちょっと悔しいけれどヘスティア様はベルくんの主神なのだから仕方がない。

 

ベルくんはいつも誰かとともにある。

それはきっとベルくんの人柄故なのだろう。

そんなベルくんだからこそ、僕だってつい力を貸してあげたくなってしまう。

 

「ァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

腕を切り裂きながら突き進んでいくベルくんに対してかシルバーバックは状況に追いついていくことができずに固まるのみ。

やがで胸までたどり着いたベルくんの刃が埋め込まれていた硬い魔石を捉える。

 

それは決して柔らかいものではない。

 

しかし漆黒の刃は容易く魔石を貫いてみせた。

 

突っ込んでいったベルくんはと言えばあまりの勢いに地面と激突し、そのまま転がり続け壁へと激突することでようやく止まる。

 

固まっていたシルバーバックの両目が限界まで見開かれ、やがて白目を剥く。

 

「やっ…た…?」

 

最後に小さな呻き声を残してシルバーバックの肉体は消滅した。

 


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