ダンジョンに創世の魔法使いがいるのはまちがっているだろうか 作:魔法使い
びっくりです、ありがとうございます!
続いて誤字報告をしてくださった皆様、ありがとうございました!
さて主人公の外見ですが、成長したアラジンの姿を参考にしていただければなによりです。
浮遊魔法とは名前から想像できる通り、人や物体を宙に浮かず魔法のことでその方法は極めて難解だ。
人や物には最初から重力がかかっているためそれよりも多くの重力に対する浮力を付加魔法としてかけなければいけないからだ。
さて、みんなが知ってるかどうかはわからないけれどこの世界の魔法は全部で8つの型に分類することができる。
人間には生まれつき寄り添ってくれるルフがいるわけだが、そのルフにも相性という概念が存在するのだ。
つまり、ルフにも種類が存在する。
そのルフがどのような種類なのかによって扱える魔法は大きく変わってくるらしい。
一型ルフ…熱魔法
二型ルフ…水魔法、氷魔法
三型ルフ…光魔法
四型ルフ…雷魔法
五型ルフ…風魔法
六型ルフ…音魔法
七型ルフ…重力、斥力、磁力などの力魔法
八型ルフ…回復魔法や生命を操る魔法
このように大きく分けることができる。
その中で重力魔法は七型ルフ…七型魔法と呼ばれるわけだが、自然の摂理を捻じ曲げるというとんでもない力を用いる魔法だ。
これは酷い魔法だと一度かけてしまえば一生自然の摂理が捻じ曲げられたままなんてものまである。
魔力を溜め込んで爆発的に加速を続ける僕はいつもなら通る道を通ることなく空からショートカットしてダンジョンの入り口へと急ぐ。
ベルくんの居場所はダンジョンだ。
ルフに聞いたわけでもなんでもないけれど、わかる。
理由はないが、ダンジョンだとそう直感した。
きっとベルくんは悔しくて焦ってるんだ。
早く強くならなきゃいけない、早く認められなきゃいけない…そう思っているに違いない。
そのまま猛スピードでダンジョンがバベルに向かい中へ入っていく。
この時間ということもあって人気はあまりなく、中にいるのは冒険者ではなく上の階に出店している人や換金の関係者だった。
「どこ? ベルくんはどこ? 」
みんなもうダンジョンの探索はやめてほとんどの人が酒場やファミリアのホームに帰っていると推測するなら戦闘をしている音が聞こえてくればわかる可能性があった。
しかしベルくんは相当奥に潜ってしまったのか、はたまた下の階層まで行ってしまっているのか戦闘の音はまったく聞こえない。
杖を一度振って再度空に浮かび下の階層を目指す。
2層…いない。
3層…いない。
4層…いない。
5層…ここもいないの?
先日ミノタウロスと遭遇した場所を通り抜けて僕はさらに奥へと進む。
ベルくんには才能がある。
確かに常識的に考えて、冒険者を始めて間もない彼のステータスは低かっただろう。
たった一人でモンスターと対峙するソロでは危なかったことは事実だろう。
たが、パーティーを誰かと組めさえできれば、ベルくんの実力は5層でも通用すると僕は考えたのだ。
そして連れて行ったこの5層で僕たちはミノタウロスとエンカウントしてしまった。
あれは想定外のことだった。
でも、ここでミノタウロスを倒すことができればベルの経験値に大きくプラスが付くと思っていたのもまた事実だ。
「
時折出てくるモンスターを魔法で屠りながらスピードを落とすことなくダンジョンの奥へと進んでいく。
そうしてようやくたどり着いた6階層。
ここはベルくんが未だに到達したことのない未到達の層。
5層を皮切りにモンスターの出現頻度は大きく変わっていく。
さらに言えばモンスターの強さもそれなりに変わってくる。
冒険者に成り立ての最初の関門が6階層だと言っていい。
ここには新米冒険者の強敵と言っていいモンスターが存在する。
5層までとは比べものにならない攻撃力、防御力、そして素早さを有しているそのモンスターは慢心した新米冒険者をことごとく亡き者にしてきた。
6層に到着した僕はダンジョンの地面に降り立つと手に持った杖を振りルフを集合させ、命令する。
「
命令させられたルフたちが辺り一面に散らばり僕にその場を知らせてくれる。
僕がルフたちに求めたのは音。
どんな些細なものでもいい。
自然に起こることがない戦闘音、剣の音、魔法の音、それらすべてを僕の下へ集める。
音を収集する魔法。
それが
「…ッ!! 」
微かな戦闘音が僕の耳へと届く。
魔法を使用しなければ確実に聞こえなかったであろうその音は微かではあったが明確に僕の耳へと状況を知らせてくれた。
聞こえた音は何かがぶつかり合う音。
ぶつかり合うとは言っても恐らくは金属同士。
音の感じからして魔法によるものではない。
さらにその他に地面とぶつかる音が同時に聞こえてくる。
状況的に数は複数だと予測できる。
それが冒険者2人なのか、ベルくんなのかはわからないがこれ以上手当たりがない以上は信じて現場に向かうしかない。
「ハルハール、ゾルフ」
ハディーカ・ジャマエを使用し続けながら音のする方向へと進んでいき、時々目の前を塞ぐように存在する壁は魔法によって完全に破壊する。
そうしてようやくたどり着いた。
3体のウォーシャドウと呼ばれるモンスターと防戦一方のベルくんの姿が。
どこからどうみても劣勢…そんなことは当たり前だった。
なにせ新米殺しのモンスターを同時に3体も相手すればこうなることは目に見えている。
だが、ベルくんはまだ生き残っている。
それは誰がみても賞賛に値することだろう。
さらに飛ぶスピードを加速させてベルくんの背後に迫り爪を振り上げるウォーシャドウを射程範囲に収め魔力でできた掌大の弾を撃ち出す。
「…ッ、ヨハンさん!? 」
「やぁ、ベルくん。あとでヘスティア様と一緒にお説教だからね? 」
「あ、はい」
有無を言わさないプレッシャーを出しておいて首を縦に振らせると僕は魔力弾を受けて横に吹っ飛んでいったウォーシャドウを一睨みする。
ウォーシャドウ…6階層から出現する人間と似た姿をするモンスターだ。
その見た目は人間に酷似するものの、とにかく黒い、真っ黒だ。
先ほどから見てわかる通り、ウォーシャドウの攻撃方法は自身の鋭利な三本の爪だ。新米冒険者では先ず折ることが不可能な性能を持ったあの爪は直撃すればゴブリンやコボルドのような生半可なダメージでは済まされないだろう。
そして圧倒的なまでのリーチだ。
1階層から12階層の中で最も危険とされるモンスターとしてベルくんも名前くらいは聞いたことがあるだろう。
「ヨハンさんは手を出さないでください」
「…? 」
この状況でそんなことを言ったベルくんに僕は思わず耳を疑った。
手を出さないでください?
ウォーシャドウが3体もいるこの状況で?
まったく本当に君は頭が硬いというかなんというか。
焦る気持ちはよくわかる。
さっき酒場であれほどバカにされて頭にくるのもよくわかる。
だけど…。
「僕は、僕はッ!! 強くならなきゃいけないんですッ!! いつまでも誰かに頼ってるようじゃ僕はダメなんです」
いや、だからこそ…。
今のベルくんを放っては置けなかった。
「だからヨハンさんはそこで…イテッ、ちょ、痛いです!? 」
手に持った杖でベルくんの頭はポカポカ叩く。
「まったく、熱くなりすぎだよベルくん。無謀と勇敢は違う。誰かに頼ることは弱みじゃない、むしろ強みなのさ。今ここで、この瞬間だって君が無茶をしてると知ったらヘスティア様は怒るはずさ」
だけどこれは無茶なんてものじゃない。
それすらも通り越している。
「君がいなくなったらヘスティア様は1人ぼっちだ。だから君が死んだら彼女はどうするんだい?」
起き上がったウォーシャドウが僕に向かって爪を突き刺そうとしてくるが何をするでもなくボルグで弾き、光魔法のレーザーでウォーシャドウを文字通り消滅させる。
「…すみませんでした。少し頭がおかしかったです」
「うんっ。さぁ、説教の続きはヘスティア様にしてもらうとして今はここを切り抜けようか! 」
小さくベルくんが『うぇぇ…』とか呻いていたけれど聞かなかったことにして僕は小さく杖を振るう。
ここまでベルくんがやる気になっているのだから僕はサポートに徹しよう。
「ベルくん。僕が君をサポートする。君は残ったウォーシャドウに思いっきりぶつかっておいで」
「って結局僕が2体相手にするんですか!? 」
「1匹減っただけでも大きな違いさ。サポートに回る人がいるだけで戦況が大きく変わることはよく知ってるだろう? 」
「わ、わかりました。ヨハンさんを信じますッ!!」
大きく息を吐き出してベルくんは2体のウォーシャドウに向かって突っ込んでいく。
僕の役割と言えばベルくんの背後を取らせないこと、それとベルくんに対する付与魔法を使用することだ。
付与魔法には少々コツがいる。
それはなにより自身にかけるのではなく、周りにいるパーティーの冒険者にもかけるからだ。
自分自身にかけるならば、自らの魔力を各々の部位に操作することで高めるような方法がある。
実際、そちらの方が圧倒的にやりやすい。
しかし他の冒険者にかけるならばそういうわけにはいかない。
目に見えない魔力を他人に認知さて、さらにはルフに命令式を与えてルフの加護を与えなければいけない。
これは神が恩恵を与えるのと若干似ていると僕は思う。
だからこそ、僕はこの付与魔法をこう呼ぶ。
「
ルフの羽ばたきが少年を包む。
愚かでも無謀でもなく、少年は勇敢にモンスターへ剣を振るう。
運命の導きは確かに動き始めていた。
◆ ◆ ◆
なんとかその場を切り抜けた僕とベルくんはバベルから出てヘスティアファミリアのホームへと帰った。
帰ったとは言ってもその途中でベルくんが遅いと心配して探していたヘスティア様とばったり会ってそのままベルくんを引き渡した。
ヘスティア様はなんだかニッコリと笑っていてベルくんはガクガク震えていたが、あれこそがきっと主人と子どもの関係なんだろう。
「…で、結局あんた1人で戻ってきたのかい」
「嘘つきはドロボウの始まりニャ」
行き場を失った僕は結局行く当てもなく豊饒の女主人の元へと帰ってきて再度ご飯を食べていた。
あれだけ食べてもまだ食べるのかとクロエさんは若干呆れていたが、ミアさんは朗らかに笑うと大盛りの料理を出してくれた。
なんでも、今日の残飯で作ったものだからお代は半額でいいそうな。
閉店間際のしかも半額なんて申し訳ない気もするが、ありがたい話なので御礼を言って料理をいただいた。
「ベルくんは日を改めて来るはずです…多分」
「ま、こなけりゃこっちからケジメをつけに行くがね。スコップ、磨いとくかね」
そう言ってミアさんは♪マークでも出すかのようなハイテンションで裏へと消えていった。
その姿を見た僕とクロエさんは若干顔色を青くした。
「…あいつ、生きて帰れるといいニャ…」
「頼むベルくん、明日来ておくれよ…」
頼むベルくん、明日になったら必ず来てくれよ!
ミアさんの落とし前は怖い!
どれくらい怖いかというと今日のウォーシャドウが4体一斉に襲ってくるくらいには怖い。
「そういえばもうすぐ
「もうそんな時期か〜。去年を思い出すな〜」
「去年のヨハンは見ていて面白かったニャ〜。どんニャことにも興味津々だったからニャ」
怪物祭とは《ガネーシャ・ファミリア》というファミリアが主催をしている大きなイベントの一つだ。
闘技場を丸一日貸し切って行われるそのイベントではダンジョンで捕獲をしたモンスターを調教するのだ。
モンスターを調教するなんて何を考えているのだか…とか思うかもしれないけれど、そんなに珍しいことでもない。
僕もよくダンジョンにいるからわかるけど、実際に自分が圧倒的や格上だとわからせることによって従順になることは偶にある。
ガネーシャ・ファミリアの人たちはその実力がすごいらしくて比較的調教し難いとされているダンジョンのモンスターですら手懐ける彼らの姿を見に来る人も珍しくはない。
因みにそんなファミリアの主である神ガネーシャの口癖は『俺がガネーシャだ! 』である。
「今年も行くニャ? 」
去年は怪物祭に始めていったから何もかもが新鮮で屋台や出し物を次々にまわっていった。
その時に偶然クロエさんと仲良くなって僕は豊饒の女主人に通いだしたのだが、それまた別の話だ。
「そうだね。怪物祭が終わったらまたダンジョンに潜ろうかな」
「む。しばらく顔出さニャくニャるニャ」
「あ、あはは…大丈夫、前よりは来るようにするから」
「じゃあ手始めに今年も怪物祭をまわることにするニャ」
「仕事は? 」
「休みとるニャ」
「いやでも豊饒の女主人は忙しいはず…」
「休みとるニャ」
これはこちらが引かないと終わらないやつだ。
クロエさんの顔をチラリと見ると口元を吊り上げて『してやったり』とでも言いたそうな表情をしている。
…この人多分Sである。
「わかりました。当日待ち合わせしようか…」
「勝ったニャ」
当日は疲れる1日になりそうだ。