少し短いです。
海斗は地元愛知から高速を乗り継ぎ秋田の陽泉高校に向かっていた。
自分は助手席に母が運転席。父は仕事で来れず兄は今では遠くにいるため母と二人で向かう事になった。父は仕事を休んででもついて行くと言いだしたが母の折檻モードに敗北し泣きながら仕事に向かった。
父親の情けないところを見た後の出発ではあったが事故も無く進み秋田県に間も無く入ろうとしている。
ふと横を見ると母は自分に微笑んでいた。何かついてるのかと顔を触れば声をあげ笑った。
「ふふふ、違うわよ。海斗の顔には何もついてないわ」
「何だ、母さんが笑うのは珍しいから何かついてるのかと思った」
「本当に大きくなったと思っただけよ。蹲って泣いていた海斗がもう高校生なんて、本当に早いものね」
「その話はやめろ!…下さい」
「分かればいいのよ」
昔の恥ずかしい話をされて海斗は声を荒げたが、子は親には勝てないものである。それと別に母から氷の様な冷たいものを感じたが気のせいだと思う事にした。
「それにしても今日はよく喋る。何か良い事でもあったか?」
「良い事な訳がないでしょう。息子が自分から離れるのは寂しいものよ、休みは必ず顔を出しなさい」
恥ずかしくなり俯きながらはい、と小さく返事をした。母の方に目を向けると笑ってはいるが本当に淋しそうな顔をしていた。
「あと女はダメよ。こういう時に女を覚えると大体はダメになるし海斗は私に似て良い顔なのだから気を付けなさい。告白や手紙を受け取ったらまず私に連絡をすること。あとアラサーはダメよ特に監督何かをしている嫁き遅れは」
「いや、俺が色恋に興味ないの知っているだろ」
「冗談よ、ふふ。休みには顔を出す事と女遊びをしなければ何も言う事はないわ、頑張りなさい」
「あぁ、俺はもう誰にも負けない」
改めて決意を固めたところで、ナビの機械音声が目的地周辺の知らせをする。
すると見えてきたのは白をベースに屋根は紫色の西洋風の校舎と、その前に聖人の像がある学校、陽泉高校だ。
その前を通り過ぎ白と紫ベースの建物前に止まると一人の女性が待っていた。
「お久し振りです楓先輩。海斗君もな」
「本当に久しぶりね雅子。日帰りだからあまり喋れないけれど、海斗を頼むわね」
「はい。任せて下さい」
トランクから荷物を降ろし母は何も言わず車を走らせて行った。別れは先ほど済ませてはいるが少し寂しい。
「そう寂しそうな顔をするな。ほら行くぞついて来い」
「はい」
陽泉高校学生寮と書かれている建物に入っていく。扉を開けてあらかじめ用意されているのか下駄箱に靴をいれ、監督について行くと107と書かれた部屋の前に止まった。
「ここが渡辺の部屋になる。相部屋になるが、仲良くやってくれ」
「分かりました。ところで誰と相部屋になるのですか?」
「それは、お楽しみだ」
と言いながら荒木は軽くノックをした。すると出てきたのは大男であった。
紫がかった髪色に眠たそうな目、ガッチリとした体格に2mを超える身長。それは海斗の予想していた人物だった。
「久しぶりだな紫原」
「あれぇ〜海ちんじゃん。久しぶり〜」
「これからはチームメイトになるんだ、二人とも頼むぞ。それに明日は午前からだ。遅れるなよ」
ではな、と手をひらひら振りながら荒木は帰って行った。
「とりあえず荷物いれれば?」
紫原に言われ部屋に入る。やはり身長の問題もあるためベッドは相当に大きく椅子や机も大きかった。
「てか海ちんは何で陽泉きたのー?」
「バスケをするためだ」
「そんなの分かってるし。何で陽泉選んだって事だよー」
「そうだな秋田にはやはり美味しい食べ物が多い。きりたんぽに…」
紫原は第二の被害者となった。
「おい紫原、聞いているのか?」
「もう分かったって言ったじゃん。海ちん喋りすぎ!」
何かおかしい事でも言っただろうかと海斗は首をかしげるが、自覚症状がないあたりタチの悪い男である。
「同じチームになるのは嬉しいけどー。海斗ちんをつぶせないのは残念だなー」
「全中でつぶされた覚えがあるのだが」
「何回もブロックされて俺の上からダンク叩き込んでよく言うねー」
「俺もお前にブロックされたのだがな」
「あんなの一回だけじゃん。まぁいいや、これからよろしくね海ちん」
「あぁ、よろしく頼む」
矛盾はこうして出会い、陽泉高校はこの三年間高校バスケのトップクラスの存在たる事を約束された。
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まだ肌寒い空気を肌で感じながら走る。太陽はもう顔を出し時計のアラームが7時を知らせた。
軽くストレッチをし寮に戻ると紫原はまだ寝ていた。
「おい紫原起きろ」
「うぅーん、なに?まだ眠いんだけど」
「寝過ぎだ。食堂に行くぞ、朝食だ」
「お菓子あるからいい。お休みー」
自分の都合に合わせるのはあれかと思うが、今日は練習がある。多少手荒くてもいいか。
先ほど買ったスポーツ飲料の蓋を開け
「つめたっ!…海ちん……喧嘩売ってるの?」
「すまん。手元が滑ってな、こぼしてしまった」
「つぶす。ヒネリつぶしてやる」
「あぁ、そのためにも飯を食べるぞ」
何とも空気が合わない二人だが、紫原からの猛攻を海斗がいなして着替えを終えると食堂に入り朝食を終え寮を出た。
「次からはやめてよねー、本当に」
「すまん。だがなお前も早く起きろ」
「眠いものは眠いの。海ちんが早すぎ」
「練習なのだから当たり前だ。お、あれか」
寮から5分ほど歩き高校の中に入ると体育館が見えた。正面側に十字架のマークがついている。
「ねー海ちん」
「ん?何だ」
「今何時?」
そういえばと時計を見れば時計の針は九時を指していた。
「9時だな」
「集合何時だっけ?」
「8時だな」
「早起きしても遅刻じゃん!」
海斗は無言で走り紫原はそれを追いかけて行った。