新月は機甲兵を照らすか   作:大空飛男
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軍令との相互

初月はふと、意識が覚醒して目覚めると、上空には白い風景が一面に広がって居た。

いや、あれは天井だ。初月は自分が仰向けになっている事を理解し、体を起きあげる。

「初月ちゃん!気が付いたの!?」

置きあがろうとするや否や、鈴の音がなるような美しい声が耳に入る。この声は、おそらく照月だろう。どうやら自分は、気を失っていたらしいと初月は認識する。

「よ、よかった…気が付いたんだね?」

同時に、秋月の声も聞こえてくる。初月は起きて間もない故に、なぜ自分がここにいるのかわからず、辺りを見渡した。

「ここは病院。初月、あなた病院の前で倒れていたそうよ?」

「僕がかい?」

秋月の言葉に、初月は頭を抱え思い出そうとするも、やはりそんなはずはない。最後の記憶に残るのは確かに執務室のはずで、記憶と違うことを言われ混乱する。

だが、次第に記憶のパズルが組み合わさるようにはっきりとし始めて、初月はようやく記憶の整理が着いた。あの後、自分は気絶した。男に首を絞められ、地面へと落下したのだ。あの目は、殺そうとはせずとも確実に敵意が存在し、その現実を突きつけられた初月は、じわりと目頭が熱くなってきた。そう、あの自分を絞殺しかけた人物はー

「トシくん…」

か細く、蚊の鳴くような声でつぶやき、ぐっと握り拳を初月は作る。彼女の目に映ったのは、記憶に残るあの勇猛果敢だった岬守の男ではなく、暗闇の室内でただ腐り、変わり果ててしまった男の姿だった。ただ、自分の行いを否定し、負い目を感じ、世論からの一方的な攻撃により、かつての真っ直ぐな姿勢はもはや影も形もなかったと言える。

だからこそ、初月にとってその反動は大きかった。自分の考えを根底で支えていた存在そのものが、あの始末であったからだ。これでは、岬守は決してクズや役立たずではないと訴えたくとも、その自信を持つことができなくなってしまった。

初月が落ち込んでいるのを見て、秋月が何かを口走ろうとしたその時。病室の扉が開いたと思うと、一人の女性が入ってきた。三人は自然に振り返り、彼女が誰かを確認する。

彼女は二十台前後の容姿をして、軍帽を被りロングヘアとは言えないがほどほどに長い黒髪。また白を基調にした軍服―海軍二種軍服を肩に掛けており、その下からは露出度の高い、とある艦娘専用の制服が見える。軍刀は腰から掛けるように帯刀しており、そのアンバランスな組み合わせを見て、初月は彼女がうすうす誰なのかを察することができた。

「ふん、起きたようだな」

そう、黒髪の女性は冷酷な声量でつぶやくと、初月のベッドへと歩み寄ってくる。

「お前、執務室へと足を運んだらしいな。その首元のアザは、その所為か?」

どうやら、自分の首元にはアザがあるらしいと、初月は理解する。おそらく首を絞められた際に、できたのだろう。

「…いや、わからないな」

だが、初月は首を横に振り、しらばっくれる。すると黒髪の女性は「そうか」と一言つぶやくと、腕を組んだ。

「コンテナ群で物資搬入を行っていた一等陸士に、話は聞いているはずだ?どうして執務室へ向かった?理由を教えろ」

そう、きつい口調で女性は言うが、初月もまた凛々しい顔つきを崩さず、言い返した。

「待ってくれ。一方的すぎやしないかい?こっちも質問させてほしい。貴方は、長門ということでいいのかい?」

「そうだ。長門型戦艦一番艦長門。お前が聞いたであろう通り、司令代理を行っている。それで、どうしてあのクズの元へと向かったのかと聞いている」

長門は冷たい口調を崩さず淡々と、作業を熟すかのように名乗る。初月はやはりかと内心でつぶやき、再び口を開いた。

「うん、じゃあ改めて答えさせてもらうよ。僕が執務室へ向かった理由は一つ。それが軍令だからだ。間違ったことを行ったとは、思わない」

真っ直ぐと陸奥の目線を見て言う初月に長門もまた見返し、口を開いた。

「なるほど。まあ、確かに軍令上はそう書いてあるな。だが、ここは此処の方針に従ってもらう必要がある。私が艦隊を任されている以上はな。勝手な行動はするな」

 その言葉に初月はむっとした顔つきになり、凛々しさに冷たさを足したような口調で言い返した。

「勝手な行動?ここは日ノ本の領地だ。ならば日ノ本の軍令に従うのが当たり前だろう?それを違反するのは、間接的に神皇様に逆らうことになる。違うかい?」

「ちょ、ちょっと初月ちゃん!?」

まさか言い返すとは思わなかったのか、秋月と照月は青ざめた表情をして、初月を止めようとする。だが、もう遅い。長門は鋭い顔つきをさらに歪め険悪な表情になると、厳しく言い返した。

「そんな訳がない。私は確かに代理だが、おおよその指揮系統を持っている。つまり実質的な指揮官は私だ。それにお前を着任登録するのも、この私だ」

確かにその隊から師団までの責任者が再起不能、戦線離脱、ないしは指令系統を放棄した場合。次に階級の高い人物、あるいは指揮能力の高い人物に指揮系統を任されることがある。おそらく長門はそうしたことを根底において話しており、その考えは間違いではない。現に長門が羽織る海軍二種軍服は、そうした経緯を物語っている。

「だが、提督は現にここにいるじゃないか。それに―」

「二人とも落ち着いてください」

それでも初月が言い返した最中、それを遮るように誰かが声をかぶせてきた。

「高雄…?」

長門の言葉に初月も目線を寄越すと、病室の出入り口に青色のスーツのような服を着た黒髪の女性―高雄が立っていた。彼女は息を少々荒げていることから、ここまで走ってきたのだろう。

「長門さん。一度落ち着きましょう?」

「落ち着いてだと?私は冷静だ。ただ新人の艦娘に対して、ここの決まりを教えているだけだが」

そういいつつも、長門は先ほどまでの険悪な顔を少し緩め、初月のベッドから一歩下がる。高雄はそれを確認すると、初月のベッドまで歩み寄ってきた。

「えーこほん。それで初月ちゃん…よね?本日着任予定の、秋月型駆逐艦四番艦の…」

「ああ、そうだ。その…こちらもヒートアップしてしまったよ。申し訳ない」

後悔の色を含めた表情で初月はうつむき、そう答える。すると高雄は、一つ息を漏らして口を開いた。

「まあ、秋月ちゃんのいう事も間違いではないかと。そもそも、ここラバウルは現在オーストラリア軍から借り受けているため、一時的に日ノ本領となっていますからね。しかし、こちらもこちらで艦隊を円滑に動かすために、独自の決まりも設けています。最初は慣れないかとは思われますが、どうか了承していただけないでしょうか?」

こうも丁重に言われては、初月も言い返す気力は起きなかった。むしろこれ以上言い返せば、自分だけではなく姉たちにまで迷惑をかける恐れがある。故に初月は、しぶしぶ「わかったよ」と了承をした。

「よかった。ではこれで、初月ちゃんも立派なラバウル所属の艦娘です。登録了承はこちらでやりますので、それでよろしいですよね?」

「うん。問題はない。しかし…認めたくないが勝手な行動をしたのは確かなんだろう?僕は着任早々、謹慎処分なのかい?」

少なくとも初月は着任の了承をしたため、高雄が言ったようにラバウル所属の艦娘となる。つまりここの取り決めを初月は破ってしまった故に、それは命令違反となり、初月も言うように謹慎など何かしらの処罰を下されるはずである。しかし長門は首を横に振り、高雄はそれに答えた。

「いえ、それはありません。そもそも提督に面会するのは違反ではありませんので。もっとも命令違反は致しましたが…それは着任前ですので適応外ですね。それに、あなた達には早速艦隊に所属してもらうことになりますし」

その言葉に初月だけではなく、外野と化している秋月と照月も目を見開いた。

「早速かい…?ずいぶんと早急に感じるのだが」

「いえ、これは前々から決定していたことです。実は今後の作戦を踏まえ、私たちラバウル所属の艦隊は部隊を再編し、第二艦隊を増設しようと考えていたのです。許可申請は三か月ほど前に送ったのですが、おそらくたらい回しにされて、ずいぶんと遅くなってしまいましたが」

そういう事かと、初月は一つ頷き理解した。確かに最前線であるこのラバウルに損失の危険を負ってまで、護国の要となる艦娘をやすやすと送りたくはなかっただろう。内地に艦娘を配置し、制海権だけは国の存亡を掛け守りたいはずである。

しかし国のスローガンである『護国絶対』を掲げている以上、国をさらに安全にすべくための絶対防衛権を、無視することはできない。そこで却下ではなく延期として長い間先延ばしにし、その伝令が舞鶴へ回ると鎮守府にただ置かれ、かつ岬守の尊重思考を持つ初月に白羽の矢が立ったのだろう。おそらく誤算だったのは、芋づる式に秋月と照月もついてきたことなのだろうが、当初の目的である三隻を達成したため、都合が合ったと言える。

「所属艦隊は明日の朝礼で伝えます。本日はゆっくりと休み、体を癒してください。心も…ですかね?」

どこか意味深に高雄は言うと、長門に目線を寄越し「行きましょう」と声をかける。長門も頷いてそれに応じ、二人は病室から出て行った。



その後、初月と姉二人は病院を後にし、今後自分が住まう兵舎へと足を運んだ。

長門と高雄が病室を立ってすぐに、初月はベッドから起き上がり、姉二人に大丈夫だと伝え、制服に着替えた。二人はどこか不安なのか初月の着替え途中に安静にしていろと伝えたが、そもそも初月は病気や怪我などで倒れたわけではない。あくまでも建前上は病院の前で気絶し、運ばれたことになっているのだ。故に初月は別段どこも悪いわけではなく、彼女は二人の意見を心配性だと突っぱねた。

さて兵舎は少々高い位置にあったが、難なくたどり着いた三人は、兵舎長をしている兵士から部屋の振り分けを教えられると、その待遇に驚いた。なんと三人一緒というわけではなく、それぞれ個室であったのだ。一兵士にはもったいない―むしろ贅沢極まりないだろうが、ここラバウルでは長門の計らいらしく、艦娘は特別待遇を与えられるのだという。理由としてもちろん、ラバウル自体に艦娘が少ないこともあり、舞鶴や横須賀など艦娘が多く所属して運営される内地の場合はそうはいかない。これも、この基地の特異性を見ることができる一部分であろう。

「夢の一人部屋だぁー!私憧れてたのよねー」

兵舎長からその事を聞くや否や、照月は心底嬉しそうに飛び跳ねた。対して秋月はどこか苦い顔をし、乾いた笑を漏らしている。

「一人部屋ですかぁ。いや、まあ寂しいってわけじゃないけど、やっぱり姉妹で一緒にいた方がいいかなーって」

「うん。僕は秋月姉さんの意見に賛成だ。やっぱり大人数の方が、心地よく感じるよ」

初月が秋月の意見に賛成する意思を見せると、照月はかわいらしく頬を膨らませ、すねたような口ぶりで言う。

「ぶー。どうせ私は大家族でしたよー。一人部屋とかありませんでしたよー」

おそらく彼女が語るのは、艦娘になる前の事だ。照月は兄弟姉妹合わせて五人であり、上に兄がいたこと、また弟や妹が下にいる事など、舞鶴で語っていたことを初月は思い出す。

そもそも、艦娘も元を辿ればれっきとした人間である。艦娘になる前には普通の人間として生まれ、普通に一般人として生活をする。

しかし、日ノ本の行政機関である『陰陽省』が特定の秘術を使い、艦娘の根本となる艦の御霊定着に適した人材探し出し、艦娘徴兵を通達する『御霊之札』を送りつける。その徴収に応じることで、そこから初めて人から艦娘となるのだ。つまり彼女らは、艦の御霊に選ばれた存在なのである。なおこの御霊之札は反発などは少なく、むしろ日ノ本の象徴である神皇から直々に送られるものであり、むしろ誇らしいものとされている。ゆえに艦娘は国の花形であり、あこがれの的であった。

「もうその話はいいよ照月。次女には次女なりに辛い所があるって話でしょ?」

「もー先に言わないでよ!」

そんなやり取りをしている二人を見て初月は微笑んでいると、照月に向かい合っていた秋月がふと目線を彼女へと寄越した。

「そういえば、初月ってどんな家庭だったの?三年も姉妹艦やってるのに、聞いたことないや。兄弟とか姉妹とかいた?あ、一人っ子?」

「あ、私も気になるなー。お金もちだったりした?最初聞いたときはまだこの場所になれてなくて、語るのはまた今度にしてほしいとか言ってたけど…」

二人の興味が初月の方へと向かい、思わず初月は苦笑いを漏らす。

「えっと…正直言いたくないんだ。おそらく、気を使わせちゃうと思う」

「え、そんなに深刻な家庭だったの?気になるけど…気になっちゃいけないけど…」

「でもそういわれるとなぁ…やっぱりねぇー。初月ちゃん」

かえって言わない理由が裏目に出たようで、堪らなく気になるそぶりを見せる二人に初月はもういいかとため息を漏らすと、口を開いた。

「うん、じゃあ答えるか。僕は五歳から孤児院で育ったんだ。だから兄弟とか姉妹とかいなかったな。ふむ…五歳より前の記憶はあまり鮮明に覚えていないけど、確か一人っ子だったか。もともと住んでいた場所は港近くの、過ごしやすい場所だったのは覚えている。孤児院はそれこそ、緑に囲まれたお寺だったが―」

思い出しつつ、初月は特に言葉の抑揚なく述べていると、途中で秋月があわてたようにそれを制止させる。

「あ、も、もういいよ!うん!聞いた私たちがバカだった!」

初月は「え、いいのかい?」と若干戸惑うような表情をするが、秋月と照月の様子を見て、今度は小さく苦笑いを漏らした。

「はは、だから言ったじゃないか。気を使わせちゃうからって」

その言葉に、秋月と照月は小さく「ごめんなさい」と謝罪の言葉を漏らしたのだった。



どうも、飛男です。連続投稿は今回で終わりと書いていましたが、次こそラストになるかと思われます。

今回はこの小説においての設定が、ちらほらと出てくる話でしょうか。艦娘の設定に、初月の過去などでしょうか。そのため字の分が少々多いですね。
もっともまだまだ書ききれてはいませんが、開示できる設定が現状ではこれだけということになります。今後どんな設定が出てくるのかは、お楽しみといったところでしょうかね。

では、今回はこのあたりで。また次回お会いしましょう。