魔法少女なんてガラじゃない!   作:行雲流水

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第六話:訳が分からない!

――拝啓、兄さん。

 

人生で初めて、私は針のむしろの上と言う状況を味わっています。

 

クロに飛ばした念話が、私のミスでクロ以外にも聞こえていたらしい。

クロが言うには、こちらの世界に魔力を持つ人は少ないと聞いている。

なら、三人から念話が私に届いたのはどうしてだろう。

只単に、偶々リンカーコアを持っていたのか。

それともクロから聞いた話に間違いがあったのか。

庭へと戻る間に、私の頭の中に沢山の疑問が浮かんでくる。

そうして歩みを進めていると、日差しが差し込み森が切れた。

どういう顔をすればいいか解らない私が、気まずく庭に戻ったその時だった。

 

「クロちゃん、居たんだね」

 

「よかったじゃない。見つかって」

 

「…うん」

 

笑顔で迎えてくれたアリサとすずか以外の顔は怖かった。

…特になのはが、なんて本人には一生言えない秘密だ。

そうして月村家のお茶会も終わり。

アリサは迎えが来るようで、車で帰るそうだ。

残った私となのは達。

 

「少し、お話しよっか?」

 

あまり土地勘のない私は、黙ってなのは達の跡を自転車を押しながら黙って着いて行く。

そうして向かった先は海岸に沿うように併設されている広い公園の一角。

暑さの為か人の姿は時間の割には、少なかった。

 

「上総ちゃん、どうして魔法が使えるの?」

 

とあるベンチの一つを陣取って、そんな事をなのはが聞いてきた。

私の右になのは。左にフェイト。

そうして立ちふさがる様に、私の前にはやてが立っている。

どう考えても、私が逃げられない様にしか見えない。

 

「どうしてと言われても、教えてもらったから」

 

「誰に?」

 

そう聞かれたら、私の膝の上に大人しく乗っかっているクロに勝手に視線が行った。

嘘を吐く気なんてなかった、と言うよりも今の状況に頭がついて行かず、

クロに助け船を求めたと言った方が正しいのかもしれない。

その瞬間、なのは達三人の視線がクロへと向く。

 

『はぁ、仕方がない…そうだ、コイツに魔法の存在を教えたのは私だよ』

 

「そうなんだ。クロちゃんは管理世界出身なのかな?」

 

『嗚呼、此処の世界の出身ではないよ』

 

クロが喋る事に何の違和感を抱いていない私以外の三人。

猫が喋るだなんて、かなりの常識破りな事態だと言うのに落ち着いている。

それと何故かクロは念話で話しているがよくよく考えれば、

猫が喋る訳がないのだから念話を使っているのかと納得する。

 

「じゃぁ、どこの世界から?」

 

『それを貴様らに話さなければいけない理由が私にあるのか? 管理局でもあるまい』

 

「えと、私達その管理局なんだけど…」

 

『やはりか』

 

「…どうして解ったの?」

 

『念話を使った時点で露見している。

仮にこちらの世界の出身だとして、普通の人間が魔法を使える事はまずない。

なら、魔法世界に関わった人間だと考える方が妥当だ。

それに貴様らの魔力量は尋常ではない。そんな人間を管理局が見過ごす訳がないだろう?』

 

「「「…」」」

 

三人が押し黙る。

沈黙は肯定だと、どこかで誰かが言っていた。

私は管理世界にも魔法にも精通していない。

すずかの家の森から庭へ戻る時に、クロが余計な事は言わなくていい、

念話が使える事だけ言っておけ、と前もって言われている。

 

――後は私がどうにかするさ、と。

 

管理世界や魔法の事なら、クロの方が詳しいのだろう。

クロが管理局を嫌がっている節があるけれど、それを知る理由を判断するには、

私に情報が無さすぎた。

目の前で繰り広げられている会話に私が入れない事に疎外感を覚える。

 

「それはええとして。クロは変身魔法使っとるんやろ?

元の姿には戻らへんのん?」

 

沈黙を破ったのははやてだった。

 

『戻りたいのは山々だが、流石にこの場ではな。

機会が有ればいずれ、な』

 

「わかった。けど、緊急の事態以外で地球出身の上総ちゃんに魔法の存在を教えた事と、

魔法を教えた事は、管理局法を犯してることになるんや。だから…」

 

はやては、私にも話が分かる様に説明してくれているようだった。

クロは管理世界の関係者で、管理局法も知っているのだろうから。

 

『知っているさ。だが、それは私には当てはまらん。

私は人間ではない。コイツの使い魔だ』

 

クロが私を見上げる。

そんなの事は初耳だし、『使い魔』だなんて恐ろしげなものを持った記憶は私に無い。

どうにかする、と言っていたのでクロの方便だろうけれど、アリサとすずかの友人に嘘を吐くのは、どうにも申し訳ない気持ちで一杯になる。

 

「上総ちゃんと契約したんか?」

 

『ああ。以前の主人から契約を切られたのでな。

たまたまこの世界に飛ばされて、拾われた先の人間が魔力を持っていたから、再契約した』

 

「仕方ないとは言え、もう少しやりようはあったんと違う?」

 

『いや、あれ以上時間が経てば私が持たなかったのでな。

魔法を知らない人間を巻き込むのは心苦しいが、それしか方法が無かったのだ。』

 

クロの命が危なかったことは事実だ。実際、泳ぐ力も無く溺れていたのだから。

クロを私が助けた事も本当。けれど、根本的な所で嘘を吐いている。

本当にこれでいいのかな、と内心冷や汗を掻きながら、話に耳を傾けるしかない。

話の中心にいる筈なのに、クロにまかせっきりの状態にやるせなさが沸き起こる。

 

「はぁ。しゃーないけどなぁ…うーん」

 

なにかを考えあぐねているように、はやてが唸る。

短い時間ではあったけれど、きっとこの三人は悪い人達じゃないと思う。

それにアリサとすずかの友達だって言うなら、きっと良い人達の筈だ。

ずっとクロに向けていた視線を外して、はやてを見上げる。

 

「あのさ、私管理世界の事は良く解らないけど、はやて達が私の事で困ってるってのは解る。

だから、出来ない事も有るかもしれないけれど、出来る事なら協力するよ?」

 

ごくりと喉が鳴る。

クロが出しゃばるなと言っていた事を無視してしまった。

けれど、私にも関係のある事だしだんまりを決め込むの事は出来なかった。

 

「あーごめんな…上総ちゃんは管理外世界の人や。

だからよっぽどの事をしない限り管理局法に当てはめることは、出来ん。

此処で問題になるのは、クロの事なんやけど上総ちゃんの使い魔って事やから、

ちょっと特殊な事情過ぎて、現行法に当てることが出来ん。

クロが人だったら、管理局法で裁かれんといかんのんやけどね」

 

「どうしてクロが?」

 

「管理外世界の人に管理世界と魔法の存在を教えた事。

管理局は、魔法が存在しない世界に基本的に介入はしないんやけど、

こういう場合は別や。魔法が無い世界で魔法の存在が公になるのは不味いやろ?」

 

「えっと、悪用されない為って言う認識でいいの?」

 

「そやね。魔法を使う人たちが皆善い人ならええけど、悪い人なら?

もっと最悪の場合、力を持ち過ぎた人が悪い人なら不味い事になりかねんやろ」

 

「…うん」

 

「それを止める為に私達管理局が居るって訳やね」

 

「そっか。じゃぁクロはどうなるの?」

 

「さっき言った通り、クロは上総ちゃんの使い魔やから判断に困るってとこやね。

溺れてたクロを助けたんよね?」

 

「うん、見てられなくて…」

 

「上総ちゃんにもクロにも悪気が無いのは解った。

上総ちゃんとクロが管理世界の事と魔法世界の事を言わんちゅーなら、私達は見てなかったことにする」

 

片目を瞑って、はやてがウインクした。

嗚呼、アリサとすずかと一緒でこの人達もきっと“お人好し”だ。

そんな三人の気持ちを無下にするわけにもいかず、私はうん、と頷いた。

 

そうして三人と別れた私は家へと帰路に着いた。

 

 

 

 

――時空管理局・巡航L級八番艦 アースラ・管制室

 

 

アリサちゃん達と久しぶりの再会に喜んでいたのもつかの間。

私達が呼び出された理由以外の事案が、振って掛かってきた。

本当に人生は“こんな筈じゃない”事ばかりだ。

 

「問題が増えただけやったな。なんの偶然やろね。

魔法を使える子が、まだこの街に居るなんやなんて」

 

「そうだね」

 

フェイトちゃんが同意する。

事件の捜査で前に立って指揮するのは、フェイトちゃんだ。

私となのはちゃんはその補佐と言っていい。

前線に出るようなことにならなければいいけれど、と願いつつ今日初めて出会った彼女についてまとめる。

 

「けど、魔法については超が付くほどの初心者。基礎の基礎と言っていい念話を失敗してた時点で、昏睡事件には関係無いと思う。

逆にワザと失敗して私達の注目をひきたかったのなら相当の策士やなぁ。でも私達が管理局だってことをあの時点で知らん筈やし」

 

「そうだね。事件に無関係の筈だから、巻き込まれる可能性は高いよ」

 

「せやね。なんとか対策打っておかんと、何か起こってからじゃぁ遅いもんなぁ」

 

今まで彼女が昏睡事件の犯人に出会わなかった事は奇跡だったのかもしれない。

魔力を持つのだ、とうの昔に事件に巻き込まれてもおかしくは無い。

 

「ハラオウン執務官、八神捜査官。先程ご依頼を頂いた“佐藤上総”についての、現地情報が入手できました。どうなされますか?」

 

「ん、ありがとうな。モニターに出せる?」

 

オペレーターの男性が声を掛けてきた。

先程頼んでおいたものだ。アースラスタッフの仕事の早さに感心しながら中央モニターに目を向けた。

 

「了解」

 

本来の指揮官であるフェイトちゃんより、私が話の主導権を得ているような気がするが気にしない。

恐らくなのはちゃんとフェイトちゃんは、今日初めて出会った彼女に気を取られているのだろう。

優しい二人の事だ。アリサちゃんとすずかちゃんの事も含めて、上総ちゃんのこれからを考えているのだと思う。

 

中央モニターに映し出された彼女の経歴。

といっても、そんなに大したものでは無い。公的機関で得られる程度の情報のみだ。

出身地、生年月日と大まかな経歴が写真と共に表示されていた。

 

「九歳の時に、ご両親亡くしとるんか…」

 

「…」

 

「…」

 

なのはちゃんとフェイトちゃんが押し黙る。二人ともこういう話は苦手だ。

私も家族はいるが親は居ない。どこにでもある話なのだ。

ただ、大多数ではなく少ない方という事で目立ってしまうだけ。

 

「奇跡の生還、なぁ…」

 

当時の新聞も添えられていた。

トラックから鉄パイプが荷崩れし、偶々後ろに停車した車。

それが、上総ちゃんの所の車だった。上総ちゃんのご両親は上総ちゃんを庇って亡くなったと記事にある。

上総ちゃんも大怪我を負い、直ぐに意識が戻らなかった様だ。

そうして暫くして意識不明の重体から奇跡の回復。

なんともB級メディアが好みそうな内容の話だった。

 

「お兄さん居るんやな…」

 

それが唯一の救いだろうか。

 

「仕事が忙しくてほとんど家に居ないって言ってたね」

 

寂しくない筈なんて無いのだ。

一人の辛さはきっと、此処に居る三人とも知っている。

そして恐らく、クロの存在は彼女の中で大きくなっているはず。

大した罪を犯していないクロを彼女から奪う事など、出来る筈も無い。

 

「…」

 

沈黙が落ちる。

知らない方が良かったのかもしれない。

けれど知ってしまった以上、なのはちゃんとフェイトちゃんは肩入れするんだろう。

それは二人の役目だ。私はそんな二人が、悲しい思いをしないように立ち回るだけ。

未だモニターを見つめる二人を残して、私はクロノ君の元へと向かった。

 

 

 

 

 

「疲れた…」

 

そう言って、自分の部屋のベッドへと飛び込んだ。

クロがいそいそとベッドへ飛び乗って、私の枕元にちょこんと座る。

 

「災難だったな。まさか紹介された人間が管理局員だったとは誰も思いはしないさ」

 

「一体何なの? 管理局って」

 

「此方の世界に照らし合わせれば、警察・軍隊・救急・裁判その他諸々を纏めて運営している組織とでも言えばわかりやすいか?

管理世界を管理・統治する組織。質量兵器を禁止して魔法をクリーンなエネルギーとして運用している」

 

「それって、権力が一極に集中し過ぎじゃない? あと質量兵器って、こっちの世界でいう拳銃とか大砲とか?」

 

「確かに、過度に偏っているな。だが次元世界は広大だ。迅速に物事を解決する為に必然的にそうなってしまったのだろう。

質量兵器は貴様の解釈で間違っていない。実弾兵器とも言えるか。誰にでも扱えるという点で危険視され使用を不可にし、魔法を代替え品とした」

 

「それって、リンカーコアを持たない人、自衛する手段を持ってない人達はどうするの?」

 

「よく気が付いたな。奴らは、その為の管理局だ、と言い張っているぞ。管理局に所属する全ての者がそういう考えではないだろうが、な」

 

やれやれ、といった様子のクロ。

クロが管理局を嫌っている一端が少し見えた気がした。

 

「しかし、彼女達が過激な連中でなくて助かった」

 

「どういう事?」

 

「管理局は組織として大きい。必然的に派閥なんてものも生まれる。魔力至上主義な連中が、自分たちは選ばれた人間だと勘違いして、管理世界の法やルールを無視し過激になる連中も居るんだよ。

恐らく、彼女達は穏健派なのだろう。でなければ私たちはあの時点で、問答無用でしょっ引かれていたぞ」

 

なのは達が良い人で良かったと心底思う。

なのは達以外の人が此方に来ていたら、今頃手錠をはめられて取り調べの真っ最中だろうか。

テレビドラマの見過ぎなのかもしれないけれど。

 

「…そっか。でも、此処って管理外世界なんだよね? なんでその管理世界の管理局がこっちの世界に来るの?」

 

ふと不思議に思った事をクロに聞いてみる。

 

「確か前にも言ったが、管理局は魔法が管理外世界に露見することを良く思っていない。

恐らくそれの未然の防止か、はたまた魔法に関する何かが起こったか。だろうな」

 

「うーん。なんで魔法に関してる事が解るんだろう…管理されてない筈なのに」

 

「管理外世界と言っても、管理局の力が及んでいないだけで、管理局の人間は存在している。

恐らく、偵察・諜報とかの意味合いでな」

 

「それって、地球を侵略しようとしてない? なにそれ、怖い…」

 

あまり考えずクロに聞いたのだけれど、よくよく考えると恐ろしい事だ。

私達が住む日本は比較的平和で安全に暮らせる国だと言っていいと思う。

けれど世界に目を向ければ、紛争や内戦は沢山起こっている。

哀しい事だけれど、それは目を背けてはならない事実だ。

そんな地球に、管理局が乗り込んで来れば世界は滅茶苦茶になってしまう筈。

 

「いや、その可能性はほぼない。これだけ質量兵器が発展している世界だ。逆に管理世界にしてしまえば、管理世界が危険になる」

 

「どうして?」

 

クロが即座に否定して、内心安堵するけれどどうしてそう言い切れるのだろう。

 

「仮にこの世界を管理し始めた場合、リンカーコアを持たない人間、ようするに魔法が使えない人間に質量兵器を簡単に手にすることが出来るようになるだろう?」

 

「あ、そうなるのか…」

 

管理されるのだから、地球の技術は管理世界に広がるのだろう。

逆に言えば地球に、管理世界の技術が広がる事にもなるけれど。

 

「魔力至上主義の管理世界に不満を持つものも少なからず居るからな。この世界は管理局にとって劇薬なんだよ。

金と技術と道具さえあれば、質量兵器は造れてしまう。そうして起こるのは争いだ。魔法と質量兵器、どちらが優れているかはやってみなければ解らんが、泥沼化するのは目に見えている」

 

「難しいなぁ…」

 

「此処でこんな事を考えても仕方ないさ。大局的に見れば世界は存外、自分の知らない所で勝手に上手く回っている物だ」

 

鼻で笑ってクロがそう言った。

確かに管理局が此方の世界に手を出すのならとっくに出しているのかな、と思う。

もしくは私達一般市民が知らないだけで、政府とか雲の上の存在の人たちは管理局の存在を知っていて、只秘密にしているだけなのかもしれないし。

そんなオカルト的な事を考えて、そんな馬鹿なと私も鼻で笑う。

 

「…腹が減った」

 

「…ぶ」

 

いつものクロの調子に、日常に帰ってきたんだなと笑って安心する。

外はまだ明るいが、もうじき夕食の時間だ。

 

「笑うな」

 

「いいじゃん。ご飯作るから、もう少し待ってて」

 

そう言いながらベッドから立ち上がり、キッチンへと向かう。

 

「ああ、待つぞ。私は待つぞ」

 

そんな大仰なクロの態度に、私はまた笑い冷蔵庫を覗いて今日のご飯の献立を考え始めたのだった。

 

 

 




あんまり話が進まない・・・
けど、オリ主とクロとの会話が書いてて楽しいんですorz

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