魔法少女なんてガラじゃない!   作:行雲流水

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第五話:バレてないったらバレてない!

――土曜日

 

 

時間が経つのは早いもので、お茶会をしようと誘われた土曜日になった。

最初、迎えをよこすと言う話だったのだけれど、すずかの家の場所も解っていたし、

自転車で行ける距離だったので断った。

バイトも終わり、手ぶらですずかの家にお邪魔するわけにもいかない。

何か良い物が無いかと街中を移動用にと買ったマウンテンバイクでひた走る。

そうしてたまたま訪れたのが、海鳴商店街。

たしかこの商店街には有名な喫茶店があったはず。

そしてその喫茶店は、洋菓子類も売っていると聞いた。

 

――其処でいいか。

 

店を目指しようやく見つける。

自転車を邪魔にならない様に店前の片隅に止めて中に入った。

鳴り響くカウベルと店員さんのお決まりの台詞。

店を見渡すと、雰囲気の良い内装とBGM。珈琲の良い香りが店に漂っていた。

そうして私の眼に入った、ショーケースに陳列された沢山の洋菓子。

陳列にも拘りが有るようで、見栄え良く並べられたケーキやシュークリームたち。

余りこういう店には寄り付かないので、何を購入しようか迷ってしまう。

流石に人気店らしく、お客の出入りも多い。

私は邪魔にならない様に、隅へと移動して何を買おうかと思案していた。

 

「お悩みですか?」

 

そう声を掛けてきたのはパティシエの恰好をした柔和な若い女性だった。

声を掛けられて無視する訳にもいかないし、話のネタには丁度良いかと、

恥を忍んで聞いてみた。

 

「ええ。此処が美味しいと聞いて手土産にと思ったのですが、

どれも美味しそうで迷ってしまって…」

 

苦笑するしかない。私が迷っている間に何人ものお客さんが、

商品を選び会計を済ませ、店を後にしているのだから。

恐らく、それを見かねた目の前の女性がたまりかねて声を掛けてくれたのだと思う。

 

「自分で言うのも何ですが、どれも美味しいですよ」

 

くすくすと笑う、若い女性。

確かに彼女の言うとうり、どれも美味しそうなのだ。

更に頭を抱えてしまう、彼女の回答には困ってしまった。

 

「ふふ、シュークリームはいかかでしょうか?

ウチで一番の人気商品ですよ」

 

決めかねている私を見つめる瞳は優しい。

そうして一層笑みを深めた女性がシュークリームを進めてくれた。

 

「えと、じゃぁお願いします。十個ほど欲しいのですが、

まだ数は有りますか?」

 

そう言えば、今日来る人数を把握していなかった。

私とアリサ、すずかは確定。クロは猫の姿だから除外。

アリサとすずかの幼馴染が来ると聞いてはいるが、人数までは知らない。

流石に大勢来るという事は無いハズ。

適当に予想を付けて足りなくはないであろう無難な数と、

残っても月村家に迷惑が掛からないであろう数を言ったつもりだ。

 

「ええ、ありますよ。十個でよろしいですか?」

 

「あ、はい。お願いします」

 

少しお待ちくださいね、と女性が店のカウンターへと引っ込んで行った。

無事に選べた安心感が湧いた途端、店の喫茶店側に目が行った。

金髪の髪の長い女の子の姿が否が応うにも目に入ったのだ。

一瞬、クロが人の姿に戻ったのかと思ったが、クロは今私の家に居る筈。

目を凝らして、ちゃんと見ると全然違っていた。

けれど、クロの人の姿の時と負けず劣らずの美人だった。

そうして金髪の女の子一緒に座っている、亜麻色のサイドポニーテールに結わえている女の子も綺麗な子だった。

お互い楽しそうに笑っていた。

きっと女子トークに花を咲かせているのだろう。

海鳴市に越してきて数か月。

この街はやたらと、美男美女が多い気がする。

 

「お待たせしました。こちらになります」

 

先程のパティシエの女性が、箱を持ってこちらにやって来た。

受け取った箱の中身はもちろんシュークリーム。

十個ともなれば、それなりにずっしりと重い。

皆が喜んでくれればいいけれど。

 

「すみません、ありがとうございます」

 

「また来てくださいね」

 

会計とお礼を言い、店を出た。

そう言えば、さっきの店員さんとサイドポニーテールの女の子は顏が良く似ていた気がする。

 

――姉妹かな。

 

何の根拠も無いけれど。

翠屋で長く悩んでしまったので、少し急がないと時間が押している。

自転車のペダルを一生懸命に漕ぎ家へと急ぐ。

 

「ただいま」

 

「おかえり」

 

何時もの様に出迎えてくれたクロ。

最早このやり取りは習慣化している気がする。

 

「何だ、その箱は?」

 

玄関まで出迎えてくれたクロが、猫の姿で目敏く見つけた箱を見上げている。

 

「これ? すずかの家にお邪魔するから、お土産にね」

 

「甘い良い匂いがするぞ」

 

すんすんと、首を長くし鼻を鳴らすクロ。

猫は甘い物には興味が無い筈だが、クロは違うようだ。

リビングを目指し廊下を歩く私の足に踏まれない距離で、足元をうろついている。

 

「シュークリームだよ」

 

「何だそれは?」

 

「洋菓子の一種かなぁ。猫にお菓子あげるわけにはいかないから、クロは駄目」

 

「何故だ!」

 

最近、クロの食欲旺盛っぷりには目を見張るものが有る。

助けた頃のクロはあまり食べ物に興味を示さなかったのだけれど、

一緒に居る時間が長くなるにつれ、興味を引くものが多くなってきているのだ。

健啖な事に悪い事は無いけれど、猫に人間の食べ物を与えるのは気が引けた。

といってもクロは猫でもないし人でもないそうなのだが。

 

「猫の姿で食べきれるの?」

 

「…無理だ」

 

人の姿ならば、床に跪きそうな勢いのクロ。

クロ曰く、取っている形に引っ張られるそうなので、人の姿の時ほど食べられないそうだ。

しかし、こんなにも食い意地が張っていただろうかと、ふと思う。

思うのだけれど、食べきれないと判断した時は手を出してこない。

この辺りのクロの判断は好ましいと思う。

 

「また今度買ってくるから、今は我慢してね」

 

クロの頭を軽くなでて、持っていた箱をリビングのテーブルの上に置いた。

テーブルの箱が気になるのか、クロは箱の傍に居る。

 

「それじゃぁ、クロ。すずかの家に行こう。

ケージ用意しておいたから、中に入って」

 

「嫌だ」

 

…拒否された。

一応、クロも一緒に行くことは伝えているのだが、そういえばクロからの色よい返事は無かった。

此処に来て、完全に拒否の言葉が出てきたのだった。

 

「もしかして、お預けされたの怒ってる?」

 

「怒ってはいない。その狭い籠の中にはいるのは気に食わん」

 

さて、そろそろ時間が差し迫っているのでここで時間を取る訳にはいかない。

物事はスマートに解決するものである。物理的でも精神的にでもどちらでも構わない。

ただ物理的に行動に出た場合、今回はクロの爪という難敵が居るのだ。

では精神的にという事になるのだが、まぁ簡単である。

 

「クロ。ごねるとご飯抜きにするよ」

 

「…わかった」

 

クロ曰く、兵糧攻め。

食事事情には滅法弱いクロだった。

仕方がない、と無い肩を下げて大人しくケージに入るクロ。

すこし可哀そうなことをしたかと思うが、許してほしい。

恐らく連れて行かなければ、すずかが落ち込むのが間違いないのだ。

普通の家庭では、まず飼う事が無理なほどの猫を飼っていた。

そして予防接種や避妊・去勢もきちんと受けているようだった。

あれだけの数を、世話しているのだ。尋常じゃない程の手が掛かっているだろう。

 

「ゴメン。狭いと思うけど、しばらく我慢して」

 

ケージの扉を閉めて、しっかりと握る。

流石に落とすと、クロが大変なことになってしまう。

シュークリームも大事ではあるが、クロは今では立派な同居人なのだ。

粗末に扱う訳にはいかない。

そんな私の心配をよそにクロはどうにも拗ねているようで、

返事もせずケージの奥で丸まってふて寝をしているようだった。

そうして翠屋で買ったシュークリームとクロを抱えて玄関を出る。

 

「いってきます」

 

返事が返ってこない事に違和感を覚える。

数週間前まで当たり前だったことが、今は寂しく感じてしまうのはこの同居人のおかげだろう。

その事に寂しさよりも嬉しさがこみ上げる。

そうして家を後にして、私は月村家を目指した。

 

 

 

 

 

第九十七管理外世界―地球―

其処は私の故郷で、大切な場所。

唯一つの帰るべきところ。家族の笑顔、皆の笑顔。

何もかもが大切で、何もかもがかけがえのないものなんだ。

そんな場所で今起きている昏睡事件。

奇しくも、私の生まれ育った海鳴市だった。

 

「なのは、久しぶり」

 

「フェイトちゃん、久しぶりだね」

 

金色の長い髪を靡かせて、フェイトちゃんが私の元へと歩み寄る。

こうして会うのは久しぶりだった。

年々、フェイトちゃんは綺麗になっていく。

一緒だった背格好もいつの間にか追い越されて、今ではフェイトちゃんの方が背が高い。

あともう一つ。胸も大きい。

未だ成長中らしい彼女の胸。羨ましいかぎりだ。

けれどもこれは口には出せない。

何故なら以前、その事をフェイトちゃんの前で口走ってしまったら、

フェイトちゃんの思う私の良い所を全力で羅列され、かなり恥ずかしい思いをしてしまった。

その場に誰も居なかったので、まだ良かったのだけれど苦い思い出でもある。

 

「どうしたの? なのは」

 

「ううん。なんでもないの」

 

そんな思いを誤魔化し笑う私を見て、“行こうか”とフェイトちゃんが私の横に並び、道を進む。

目指すのは私の家族が営んでいる喫茶店『翠屋』だ。

地球に帰るのは久しぶりなのだから、家族に会って来いとクロノ君が時間をくれた。

翠屋に顔を出した後は、アリサちゃんとすずかちゃんにも会う約束もしている。

学校で新しくできたお友達を紹介してくれるそうだ。

新緑の季節も過ぎ去り、蒸し暑い日本独特の梅雨の時期。

今日は珍しく晴れていて、汗ばむ陽気だけれど気持ちの良い土曜日だった。

 

「ただいまー」

 

「「「なのは!」」」

 

「おねーちゃん、おかーさん、おとーさん。ただいま」

 

「「「おかえり」」」

 

「フェイトちゃんもいらっしゃい」

 

「お邪魔します」

 

笑顔で出迎えてくれる家族。

嗚呼、此処が私の帰る場所なんだ、と心に沁みわたる。

中学を卒業して、管理局へと入局した私。

魔法と出会って、フェイトちゃんと出会い、はやてちゃんとも出会った。

沢山の人、沢山の仲間。守るべきものは増えていく。

それは重荷でも何でもなく、私の力の源となるもの。

強くなるために、前に進む為に必要なもの。

私の世界を形どるもの。

 

――この世界は何時だって暖かい光に溢れている

 

何時もの光景。久しぶりに戻ったウチの家族はいつも通り。

お店に来たお客さんの接客をしている姿に安心した。

そうして、お店の一角を借りて席に座る。

 

「おかえり、なのは。フェイトちゃんも」

 

「ただいま。おとうさん」

 

「お久しぶりです」

 

席に座った幾分もせず此方に来たのはお父さんだった。

使い込んだシルバーアローの上には珈琲が二つ。

 

「どうぞ」

 

僕からのおごりだよ、とおとうさんがウインクして置いていった。

きっと、ゆっくりしていきなさいと言う事なのだろう。

飲むものがジュースから珈琲に変わった事にくすぐったさを感じながら、

フェイトちゃんと本題に入る。

 

――海鳴市昏睡事件

 

原因不明。不特定多数の昏睡者。

数か月前から、徐々に昏睡者が増えているそうだ。

流石にこの内容を、こちらの世界の人たちに聞かれるわけにはいかないので、

マルチタスクを使用してフェイトちゃんと会話をしている。

周りから見れば、私とフェイトちゃんが普通の会話をしている様にしか見えない。

 

「フェイトちゃん、私とはやてちゃんが呼ばれた理由って?」

 

基本、管理外世界で起きた魔法に関係する事件は本局、所謂海の管轄。

教導官である私に声が掛かる事はまず無いと言っていい。

 

「うん。この事件の犯人だけど、きっとロストロギアが絡んでる」

 

「…どうして解るの?」

 

真剣な表情で事件の内容を話すフェイトちゃん。

それもそうだ。世界を簡単に壊してしまう力があるロストロギア。

 

「ユーノにね、調べてもらったんだ。そうしたら酷似した事件が何件か該当したみたいで」

 

「その事件っていうのは…」

 

「うん。十数年前と数年前に管理世界で起きた事件なんだけど、特徴があるんだ。

リンカーコアから魔力を奪われるのは、魔法関連の事件でお決まりなんだけど、

今回は魔力と“生命力”って言えばいいかな。それも奪われてるんだ」

 

「え…それって大丈夫なの?」

 

「ううん、良くは無いかな。直ぐに影響が出るわけじゃないけれど、

多分その人が生きる筈だった時間を奪っているから…」

 

「そう、なんだ…。それじゃぁこの事件も?」

 

うんと無言でフェイトちゃんが頷いた。

ぎゅっと拳を握りしめる。この世界の人たちは魔法の存在を知らない。

何も知らないまま、理不尽に何かを奪われる。

そんな事は許せなかった。

私には誰かを助ける力がある。

 

――この事件を解決しなくちゃ。

 

そうして私はこの事件を解決する決意をした。

 

 

 

翠屋を後にして、すずかちゃんの家へと進む。

土曜だと言うのに、人通りが少ない気がする。

昏睡事件のせいなのか、少し汗ばむ陽気のせいなのかはわからない。

 

「ごめんね、なのは。巻き込んじゃって」

 

整った眉尻を下げて、フェイトちゃんが謝ってきた。

困った事が有るのなら協力することは当たり前。

それよりも目の前の友人が困っているのなら、全力で助けるのが私の主義だ。

 

「ううん、フェイトちゃんのせいじゃないよ!

それに頼ってもらって嬉しいし!」

 

フェイトちゃんより数歩先に進み、振り返り笑う。

ぽかんとした顔をするフェイトちゃんに、更に笑いかけた。

 

「絶対に解決しようね!」

 

「うん、なのは!」

 

やっと笑ってくれたフェイトちゃんに安心しながら、月村家へとたどり着く。

大きな門扉の前で呼び鈴を押して、返事を待つ。

約束の時間の少し前。丁度良い時間だった。

 

「ようこそいらっしゃいました。高町様、ハラオウン様」

 

そう言って出迎えてくれたのは、この家のお手伝いさんのファリンさんだ。

小さい頃からの知り合いで、顔を見せれば月村家に入れてくれる。

恐らく、すずかちゃんとアリサちゃんはもう居る筈。

久しぶりの友人との再会に胸が躍る。

 

 

ファリンさんに案内されたのは月村家の庭だった。

木陰にテーブルセットが用意されていて、暑さをしのげるように心配りをしていた。

 

「なのは! フェイト! 久しぶりね!」

 

「アリサちゃん!」

 

「アリサ。久しぶり」

 

そう言ったのはアリサちゃん。

何時もの調子だった。変わらない様子で何よりだ。

 

「なのはちゃん、フェイトちゃん。アリサちゃん程やないけど、久しぶりや」

 

「はやてちゃんも元気そうで何より」

 

「はやて」

 

そしてもう一人、中学を卒業して管理世界へと一緒に渡ったはやてちゃんが、

椅子に座って、紅茶を飲んでいた。

独特な関西なまりは相変わらず。

仕事は忙しいようだけれど、はやてちゃんが目指している目標には順調に進んでいるようだ。

 

「あれ、すずかは?」

 

今回のお茶会の主催者であろうすずかちゃんが居ないのに気が付いたのは、フェイトちゃんだった。

きょろきょろと周りを見回して、姿を探していた。

 

「ああ、すずかはアイツを迎えに行ってるわ」

 

「「アイツ?」」

 

声がフェイトちゃんとシンクロした。

アイツと言うのはきっと今日、紹介すると言っていた

どうやらアリサちゃんとはやてちゃんは理由を知っているようで、

アリサちゃんは怒りと呆れ、はやてちゃんは苦笑いをしていた。

 

「この辺りで迷ったらしいで?」

 

「迎え寄越すって言ったのに、最初からそうしないからよ!」

 

「この辺り、土地勘がないと迷いやすいから…私も中々慣れなかったし」

 

「フェイトちゃんも、そういえばこの辺り苦手だったっけ」

 

「うん。慣れるまで、ちょっと大変だったかな」

 

「ま、そのうち来るでしょ。すずかも上総も携帯持ってるんだし。

取り敢えず、先にお茶会やってましょ。時間がもったいないわ」

 

そう切り出したアリサちゃんは、この家の主の様だった。

それだけ、すずかちゃんとの付き合いが長いという事だろう。

 

「ただいま」

 

「おかえりなさいませ。お嬢さま」

 

遠くからすずかちゃんの声。

どうやら無事帰ってきたようだ。

 

「久しぶりだね。なのはちゃん、フェイトちゃん」

 

「すずかちゃん!」

 

「すずか、久しぶり」

 

「さっきぶりやけど、おかえりや」

 

微笑みながらこちらにやって来たのは、本来のこの家の主、すずかちゃんだ。

アリサちゃんと同じで変わらず元気そうだった。

そして少し後ろに控えている女の子。

 

「えーと。初めましてでいいかな。佐藤上総です。

アリサとすずかから話は聞いてると思うけど、友達やらせてもらってます?」

 

「ぶっ!」

 

「っ…」

 

アリサちゃんが紅茶を吹き出し、すずかちゃんがお腹を抱えて笑うのを我慢した。

 

「ちょっ! 笑わなくてもいいじゃん! 緊張してるんだから!」

 

「何で、疑問形なのよ! 自信持って言いなさいなっ!」

 

「そうだよ、上総ちゃん」

 

「そんな事いわれても、“友達”だなんて面と向かって言わないでしょ!」

 

少し顔を紅潮させてアリサちゃんたちに抗議している彼女。

黒髪でミディアムのウルフカット。細身のジーンズにTシャツに薄手のパーカーを羽織っていた。

パッと見何処にでも良そうな子だった。

そして彼女の腕の中には、小さな黒猫が大事そうに抱えられていた。

そんなやり取りを見て、この子と仲良くできそうだと笑みがこみ上げて来た。

 

――余談だけれど彼女が持ってきたシュークリームがウチの両親が営んでいる店だと言いそびれてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

三人寄れば女は姦しいだなんて言うけれど、

それ以上集まっている私達の会話が尽きる事は無かった。

アリサとすずか、そして初めて会う目の前の三人。

会話は弾み、時間は無情にもすぎていく。

 

「あれ、クロちゃんは?」

 

「あれ、本当だ居ない…何処行ったんだろ」

 

その事に最初に気が付いたのは、すずかだった。

私達の周りに、猫は沢山居るがクロの姿がない。

クロのことだから、そのうちひょっこりと戻ってくるだろう。

 

…多分。

 

「ごめん、ちょっと探してくる。すずか、ちょっと庭ウロウロさせてもらうね」

 

「うん。気を付けてね?」

 

「ん」

 

結局心配になり、すずかに断って庭の奥に広がる森へと入る。

すぐ見つかればいいけれど、この森はどこまで続くのだろうか…。

むやみに探しても見つからない気がする。

 

『クロ―、クロ?』

 

『なんだ?』

 

以前にクロに教えてもらった念話という物を使ってみた。

どうやらクロに届いたようで、魔法を使えてことに少し感動を覚える。

 

『何処に居るの?』

 

返事が返ってくる前に、草むらを分け入ってクロが現れた。

 

「あ、良かった。居た」

 

「私が迷子にでもなると思ったか?」

 

「ちょっと心配になったから探した」

 

「そうか」

 

しゃがんでクロを抱き上げる。

歩くのが面倒になったのか、クロはそのまま私の腕の中で大人しくなった。

来た道を帰ろうとしたその時だった。

 

『『『上総(ちゃん)…』』』

 

三人同時。

なのは、フェイト、はやての声だった。

周囲を見渡すけれど、彼女達の姿は見えない。

 

「え…?」

 

「…間抜け。全方位で念話を飛ばしたな」

 

呆れた声を出して、深い溜息を吐くクロ。

 

「うぇ…なんだかごめん。」

 

面倒なことになったと言いたそうに私を見つめるクロ。

そういえば、魔法がある事がばれてしまうのは駄目だったんだけか。

逃げ出すわけにもいかず、私は皆が居る場所へと戻るのだった。

 

――まいったな。どうしよう。

 

 

 

 




ちょっと、長々と書きすぎたかもしれません。
やっとなのはさん登場・・・

12/18追記 鳴海→海鳴に訂正orz 報告くれた方、感謝です。

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