魔法少女なんてガラじゃない!   作:行雲流水

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文章を書くのは難しいですが、楽しいです。
どう書けば読んで下さる皆様にきちんと伝わるのかと四苦八苦しております。

やっとこさヒロインの一角に出番が。
まだまだ序盤で話が少ししか動いておりませんが気長にお付き合いください。

クロノの階級や口調がいまいち分らない・・・orz
なのは達が16歳の時ってもう提督業をしていたはず・・・


第三話:日常ほど大切なものはない!

――時空管理局・巡航L級八番艦 アースラ・管制室

 

 

広い艦橋に鳴り響く計器類の機械音。

慣れ親しんだアースラに乗船し、私たちは第九十七管理外世界・地球を目指す。

 

「提督、現在アースラは予定の航路を順調に進んでいます。

何事も無ければ、数日後には第九十七管理外世界に到着出来ます」

 

艦長席に座るクロノにオペレーターから定時連絡が入る。

航路は順調。無事に地球に辿り着けそうで一安心だ。

 

「そうか。何事もなく、無事に着いて欲しいものだ」

 

「お兄ちゃん」

 

「んン」

 

軽く咳払いをするクロノ。そうだった、今は勤務中。

流石に『お兄ちゃん』はいけなかった。

 

「クロノ提督」

 

「何だい? フェイト執務官」

 

クロノはこの船の艦長だ。

艦長席に座るクロノを見上げ、不思議に思っている事を聞いてみた。

 

「そろそろ、私たちが呼ばれた理由を教えてくれてもいいんじゃないのかな?」

 

「…そうか、そうだな。分かった。事前ミーティングを兼ねて武装隊も参集させよう。

そこで今回の任務の目的を話す。必要最低限の人員を残してブリーフィングルームに集めてくれないか?」

 

「了解です」

 

私達の話を一緒に聞いていたオペレーターが頷いた。

そう、今回の航海は特別だった。私だけじゃなく、なのは、はやても召集されている。

明らかにオーバースペックだった。

本来なら執務官である私が居れば十分のはず。

そして本局から任務が発令され、クロノたちアースラ乗員と地球に降りる手筈になる。

けれど今回の任務。もう一度言うけれど、私となのは、はやて、高ランク魔導士が集まるのは異例中の異例。

実戦から離れているクロノも数に入れると四人だ。

そんな異常な状況に不安になる気持ちと、なのはやはやても居る心強さを感じながら、

私はブリーフィングルームへと向かった。

 

 

 

ブリーフィングルームの入り口前。

照明の落とされた、暗い部屋には武装局員とアースラスタッフ。

皆、緊張の面持ちで、この船の最高指揮官であるクロノを待っていた。

 

「みんな集まったかい?」

 

「うん。なのは、はやては後から合流になるから無理だけど、

武装隊メンバーと手の空いているアースラスタッフはもう来てるよ」

 

なのはとはやてはアースラに乗船していない。

仕事の都合もあり、アースラが地球に到着次第、すずかの家に設置されたポーターを利用して、

此方に合流する手筈になっている。

 

「そうか。じゃぁ今回の航海の目的を説明しよう。

本局からの情報開示許可も下りた。丁度いいタイミングだ」

 

そうして広いブリーフィングルームの一段上がった場所へとクロノが進む。

私も執務官で提督に次ぐ指揮権を持っている為、クロノの横に並ぶ。

未だにこの瞬間は慣れてない。眼前には私が守るべき仲間。

そして、今は此処に居ないなのはとはやて。

それに、今は顔も知らない私たちが救うべき人達も。

失うかもしれないと言う恐怖。

簡単には慣れないし、慣れたくは無いモノだ。

 

「今回の目的、第九十七管理外世界で起きている魔法事件の解決だ。

場所は日本の海鳴市」

 

「…っ」

 

一拍置いて、クロノが申し訳なさそうな目でこちらを見る。

なのはとはやての地元だった。

私だってその名前に思う所はある。

そしてアースラスタッフの古参メンバーも困惑した感情が露わだった。

 

――PT事件、闇の書事件。

 

私にとっても、なのはにとっても、はやてにとっても忘れる事の出来ない二つの事件。

そして、学生時代を過ごした大切な思い出の場所でもあるんだ。

 

「そこで今起きている、昏睡事件。

おそらく魔法によるものだ。現地の諜報員からの連絡で本局が魔法事件の可能性が高いと判断した」

 

諜報員と言えば聞こえが悪いと思うかもしれない。

けれど、時空管理局は次元世界全体を統括し、管理外世界に対する魔法の露見を由としていない。

そうして、管理局から管理外世界に人知れず派遣された人や現地の協力者たちの事を指す。

人の目につかないところで、日夜働いているのだ。

 

「そしてもう一つ。今回の事件はロストロギアによる可能性がほぼ確定しているそうだ」

 

一気にブリーフィングルーム内がざわついた。

それもそうだろう。ロストロギアは次元世界をも崩壊させる力を持っているのだから。

そして、先ほどまで抱いていた疑問は消失した。

私となのはとはやてを呼んだ理由はこれしかない。

大事にならなければ良いと願いながら、私は両手をぐっと握りしめた。

 

「…これが今回の事件の対象だ」

 

そういってモニターに映し出された画像。

一冊の古ぼけた分厚い本。

 

「『名も無き教典』それが今回の目的のモノだ。

どうにか僕たちで封印できれば良いが、契約者が存在すればやっかいな事になるかもしれない」

 

「どうして?」

 

単純な疑問をクロノに投げかける。

 

「ユーノに頼んで、無限書庫で調べてもらったんだ。

そして、最も可能性の高いロストロギアがこれだ」

 

モニターが切り替わり、『名も無き教典』の文字と出自が詳しく記された。

古い時代から存在し、宗教の教えを記した物から長い年月を経て、その性質が変わっていったようだ。

 

「ユーノ曰く、これまでの事件の過程からこれが該当するとの事だ。

類似する事件は多々あるが、特徴がある。被害者の命までは奪っていないんだ」

 

「それって、闇の書事件でも同じじゃない?」

 

「そうだね。闇の書の時は、リンカーコアの魔力しか奪わなかった。

けれど今回の事件はリンカーコアの魔力と『人の生命力』、とでもいえばいいか。

それさえも奪っているんだ。ようするに魔力を持っている人も、持っていない人も襲っている。

そして人以外は襲撃していない。魔力が必要なら、魔法生物でも構わないからね」

 

どうやら犯人は無節操に現地の人たちを襲っているようだった。

 

「それとさっき言った、契約者の事だけれど。

『名も無き教典』は主が居なくてもある程度の活動はできるんだ。

そのロストロギアの本質は自らの宗教の教義を広める事。

それが時代と共に変化して、世界の情報とでも言えばいいかな?

教義を広めると共に事が変わっていって、世界の知識をも求めたんだ。

無節操に何でもね。そうなってしまった理由は解らないが…」

 

古い物には曰くがあるのは仕方の無い事だろう。

何せ魔法世界の物だ。力のある人が欲し、改悪してしまった可能性もある

 

「そうして、適格者と呼ばれる人が居れば契約し、その契約者の影響を色濃く受けるんだ。

善い人ならばいいけれど、悪い人なら?」

 

疑問形にして、クロノがブリーフィングルームの皆を見渡した。

皆、引き締まった表情だった。

状況次第で、どうとでも転がる。

殉職者が出るかもしれない。みんな真剣だった。

 

「ハラオウン提督、対処法は?」

 

そんな重い空気を払拭するように、何処からともなく声が挙がった。

 

「うん。それなんだけれど、はっきり言ってしまえば無い。

今、無限書庫でユーノに調べてもらってるんだけれど、今の所良い情報は無いかな」

 

また室内がざわつく。

当たり前だ。

何も策がないのでは、手の出しようがない。

更に重くなる空気にクロノは仕方ないと言う様に息を吐き出した。

 

「けれど僕たちは怯む訳にはいかない!

僕達は次元世界の秩序を守る法の番人だ!

それを破るものは決して許さない!

その為の力が僕たちにはある!」

 

声を張り上げて、クロノが部屋の皆を鼓舞する。

 

「それと、ここに居るメンバー以外の参集もある。

決して、無茶な事ではない。諸君らの力を発揮すれば、必ず任務は遂行出来る!

諸君らの健闘を祈る!」

 

おお、と沸く声と今以上の戦力が望める事に困惑した声。

そうして、ぴしりと敬礼をするクロノ。

クロノの敬礼に全員が答礼して、クロノが部屋を後にした。

未だザワつく室内は、異様な緊張感が漂っている。

 

 

 

――どうか無事に事件が解決しますように。そう願うしかなかった…

 

 

 

 

 

 

 

 

窓から差し込む光に、目が覚めた。

酷く体が怠い。

昨日、夜遅くまで起きていたからなのか。

 

――魔法、か。

 

今まで、お伽噺や空想の世界のモノだと思っていた。

けれども実際、クロが猫の姿になっていた訳だし、昨日は念話という物を教えてもらった。

信じるしか無かった。

けれど、魔法が存在していると知ったところで、私の日常が変わる筈もない。

この世界―地球―だってそうだ。

私は学校に登校しなければと思い、ベットから抜け出し目の覚めない頭で着替えを済ませてキッチンへと向かう。

 

「おはよう」

 

「おはよう、クロ」

 

キッチンで朝食を作っていると、ひょっこりとクロが現れた。

時折、クロはどこかへ消えてしまうのだが、こうして戻ってくる。

何処で何をしているのか、不思議だ。

けれど、詮索するつもりはなかった。今の距離感でいい。

そして、知ってしまえばクロが居なくなるかもしれないという恐怖。

一人は慣れたつもりだったが、どうやらクロとの数週間の奇妙な共同生活ですっかり駄目になったらしい。

 

「眠そうな顔だな? 平気か?」

 

「そう言うクロは、大丈夫そうだね?」

 

「人の形を模しているから、ある程度は引っ張られてしまうが、人間ではないからな。

人間より多少の無茶は効くんだよ」

 

鼻を鳴らして笑うクロ。

ふと、何かを思い出したように真剣にこちらを見た。

 

「腹が減った」

 

そうして何時もの台詞である。

苦笑いをして、用意していた朝食をクロに差し出した。

シリアスなんて縁遠いものだ。

しかし、御飯を食べるクロの所作は綺麗なものだと思う。

触れれば壊れそうな氷細工の様な美貌にこのしぐさだ。

何処かの良い所のお嬢様の様だが、元は古本。

いや、違うか。

由緒ある教典でいいんだっけ?

その辺りの影響を受けているのかもしれない。

 

「…おい、今不謹慎な事を考えていないか?」

 

「そ、そんな事ないよ!」

 

鋭い目でこちらを見る。ぶんぶんと顔を振って否定する。

心を読んでいるんじゃないかとふと思う。

魔法が存在するんだからもしかすれば出来てしまうのかもしれない。

 

「む。そうか」

 

流石に心の中で考えている事は読めないらしい。

心や頭の中で考えている事だダダ漏れなら、すごく恥ずかしい思いをするところだった。

そうして何時もの様に朝食を済ませ、洗い物をすれば何時もの登校時間。

就寝が遅くても目が覚める体質はありがたいものだ。

 

「それじゃぁ、学校行ってくるから」

 

クロに声を掛けて、玄関へと行く。

私の後ろを何時もの様にクロが付いてきた。

 

「わかった。あまり遅くなるなよ?

妙な事件が頻発しているらしいからな」

 

クロが言っているのは最近この辺りで話題の昏睡事件の事だろう。

昨日の夜、真剣な目で見ていたがどうやら心配してくれたようだ。

 

「うん。でも今日もバイトがあるから何時もの時間だよ。

なるべく早く帰るけど、お腹すいたならおにぎり置いてあるからそれ食べてね」

 

我ながら甘いと思いつつ、クロにお昼ご飯と間食用におにぎりを朝食を用意している間に作っておいた。

 

「ああ、すまんな」

 

「クロも外に出るのは良いけど、ちゃんと服着てね」

 

「…私を何だと思っているんだ」

 

「ん? 猫のイメージの方が強いかな」

 

因みに今のクロの恰好は、兄のワイシャツ一枚である。

女性としては背の高いクロ。兄と身長が同じくらいなので兄の服で似合いそうなものを見繕ってそれを着ろと昨晩言ってある。

未だ、猫のイメージが抜けないのだからいらない心配だと言われても信じられないのである。

警察の御厄介にならない様にと祈りながら、学校指定の革靴をはいて家を出る。

 

「それじゃあ、いってきます」

 

「ああ、いってこい」

 

クロの声を背にマンションを出て、聖祥大付属高校へと向かう。

昨晩はクロに非現実を突き付けられ動揺したが、日常という物はとてもいいものだと思う。

同じことの繰り返し、という人も居るかもしれないけれど、それがどんなに大切なものかは、

両親を失った後に身に染みて実感している。

…誰が信号待ちに止まったトラックから、鉄パイプが無数に後ろに停車した自分たちの車に降り注ぐなんて思うのだろう。

 

「っ!」

 

一瞬。フラッシュバックした映像が頭によぎり激痛が走る。

後部座席に座っていた私を守ろうとした、父と母。

真っ赤になる視界。

そうして奇跡的に助かった私は父と母の葬儀に出ることも無く、失っていた意識を取り戻し、後悔だけが残っている。

唯一の救いは、歳の離れた兄の言葉だ。

 

――上総が助かって、本当に良かった。

 

泣き顔なんて見た事がなかった兄の言葉でどれだけ救われただろう。

塞ぎこんでいた私に生きる活力をくれたのは間違いなく兄だった。

何時もの日常が、簡単に失われるのはもう嫌なんだ。

だから私は願う、同じことの繰り返しでいい。

平和な日常が送れるように、と。

 

そうして、考え事をしながら歩を進めていると学校に着いていた。

無意識でも、学校に行ける事に笑いそうになるのを堪えて校門をくぐる。

何時もの教室。何時もの席から見る外の景色。

変わらなく、当たり前に過ぎていく時間。

 

「何、ニヤニヤ笑ってるの? 気持ち悪い」

 

朝の始業のチャイムが鳴る前。

アリサが声を掛けてきた。その隣にはすずかの姿も。

何時もこの二人は一緒で仲がいい。

 

「ん、私そんな顔してた?」

 

窓の外へと向けていた視線をアリサとすずかに向ける。

片手を腰に当て、呆れた顔でこちらを見るアリサ。

そしてその横で苦笑しているすずか。何時もの光景だ。

 

「ええ! 何かいいことでもあったのかしら?」

 

首を傾げるアリサの姿は可愛いものだ。

口調は強い物の、威圧感は無い。 

 

「うん。アリサとすずかがいつもどおりで安心してた」

 

「なによっ! それ! ばっかじゃないの!」

 

アリサは顔を真っ赤にして顔を逸らす。

可愛いものだ。怒るから本人には絶対に言わないけれど。

 

「まぁまぁ、アリサちゃん。話があるんじゃなかったの?」

 

苦笑しながらアリサを宥めているすずかも、何時ものすずかだ。

外からの人間にはアリサの金魚の糞と言われることがあるらしいが、

アリサのストッパーとして手綱を握っているのはすずかだ。

多分これは極一部の人しか気が付いていないと思う。

 

「そうだったわね、すずか。アンタ、今週の土日どっちか空いてる?」

 

はっとしたように、アリサが本題に入ったらしい。

 

「ん? 土日なら午前中はバイト。午後からでいいなら、二日とも大丈夫だよ」

 

「またバイトなの! まあそれは追い詰めるとして今はいいわ。

それじゃぁ、土曜日で良いかしら。

すずかの家でお茶会をするの。アンタも来なさい」

 

アリサから不穏な言葉が出るが、今は置いておくらしい。

後が恐ろしく怖いかも知れないが、アリサが後にすると言ったので、私も深くは突っ込まない。

すずかの家ならすずかから声が掛かるべきでは?と思うがそこは言わない。

多分口を出せばアリサが先程より顔を真っ赤にするだろう。

好きな子をからかう小学生じゃあるまいし、ここは大人の対応だ。

 

「いいの?」

 

「良いも悪いもアンタが主賓なんだから! つべこべ言わず来なさいな!」

 

「わかった」

 

「いい返事ね!」

 

「あ、上総ちゃん。クロを連れて来てくれると嬉しいな。

久しぶりに会いたいし」

 

私とアリサのやり取りを見守っていたすずか。

クロを連れてきてとの事だけれど、クロは来てくれるだろうか?

そもそも猫の姿に戻らなきゃいけないし。

 

「どうだろう? ケージに入ってくれれば連れて行けると思うけど。

もし駄目だったらゴメンね。すずか」

 

思いつきで言った割には我ながら機転の効いた言葉効かもしれない。

すずかの頼みを無下にはできないからクロに頼み込んで、猫になってもらうしかないと思いつつ。

 

「あ、うんうん。無理矢理じゃなくてもいいよ。流石に可哀そう」

 

そう言って笑ったすずか。その顔は天使そのものだ。癒される。

 

「もし連れて行けなきゃ、今度家に来てよ。

それなら会えると思う」

 

少し沸いた罪悪感に、代替案を提案した。

 

「ちょっと私は!?」

 

「もちろんアリサも。何のお構いも出来ないかもしれないけどね」

 

「よろしい」

 

その言葉に満足した様子のアリサ。

また笑うと怒られるのは確実なので我慢する。

 

「あ、上総ちゃん。土曜日は私達の幼馴染も紹介するね。

久しぶりに、こっちに帰ってくるみたいだから」

 

「え? あ、うん。でも私が居てもいいの? 

久しぶりなんでしょ?」

 

「もちろんだよ。皆には上総ちゃんの話もしてあるから。

楽しみにしてるって」

 

にっこりを笑みを深めるすずか。

これは断れそうにないかな。断れば、アリサより怖いモノが降臨しそうだ。

 

「皆って事は、何人かいるの?」

 

「その時までの秘密よ! 楽しみにしてなさい!」

 

両腕を組んで、誇らしげにアリサが答えた。

そうして始業のチャイムが鳴り、それぞれの席へと向かう。

友達が増えるのは悪い事じゃない、か。

 

 

――土曜日が楽しみだ。

 

 

 




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