魔法少女なんてガラじゃない!   作:行雲流水

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やっと2話です。なかなか原作キャラが出せませんが、次話には必ず


第二話:魔法なんて興味ない!

 

「ただいま」

 

クロの下着と晩御飯を引っ提げて、何時もの様に玄関を開けて中に入る。

出迎えてくれるはずのクロが珍しく、玄関に来なかった。

 

「クロ?」

 

名前を呼ばれ、ひょっこりと私の部屋から顔を出したクロ。

何時もの猫の姿ではなく、人の姿ままだった。

見慣れない光景に、苦笑しながら買ってきたものを渡した。

 

「すまない、気付かなかった。おかえり」

 

今まで見下ろしていたはずのクロ。人の姿だと私より大分背が高いので、見上げる形になる。

 

「何だ? 私の顔を見つめて。何かついているか?」

 

「そうじゃなくて。本当にクロなのかなって。

今まで猫だったのに、いきなり人間になったら誰だってびっくりするよ」

 

「そういうものなのか?」

 

「そういうものだよ」

 

口角を釣り上げてクロは笑い、私の部屋へと引っ込む。

そうしてパソコンの前へと座り、インターネットブラウザを開く。

暇だといつも吠えるクロにパソコンを教えてインターネットを与えたのは間違っていたのかもしれない。ここの所ほぼ毎日、パソコンの前にいる。

 

「何してるの?」

 

「調べものだ。猫の姿では不自由だったのでな。魔力も大分回復してきたし、元の姿に戻った。このぱそこんとやらは素晴らしい。検索すれば魔法を使わないというのに、知りたいことが山ほど出てくる。もっと労力が必要かとも思ったが、この世界の文化レベルは高いようだな」

 

「ん? この世界って事は他の世界が有るってこと?」

 

「察しが良いな。それと先程の質問の答えを言おう。この地球には魔法の存在は有るにはあるが、大多数の人間に認知されていない。だが管理世界、と言っても解らんか。別世界には魔法が存在して、運用方法が確立されている。そんな世界を管理世界と人は呼ぶ」

 

ということは、クロが猫から人の姿へ変わったのも魔法を使ったのか。いや、逆か。人から猫の姿に変わっていたのだ。

 

「ふうん。じゃぁ地球にも魔法があるんだ?」

 

「ああ、さっきも言った通り一応存在はする。しかし、この星は魔法の存在を秘匿しているようだがな。どうしてなのかと問われれば解らないが、必要ないのだろうな。これだけの文明と質量兵器が発展しているのなら、魔法も魔導士も要らぬ存在だな」

 

パソコンのディスプレイには戦闘機や戦車の画像。

それらを興味深げにクロは眺めていた。

 

「興味が無いと言うよりも、あまりにも現実味が無いって感じかな。魔法なんてお伽噺の世界だし。その世界を見たって言うならまだ信じられるんだろうけれど」

 

「私から言わせればこの世界こそ異常なのだがな。魔法を確立せず、これだけ文化が発展している世界は珍しい。それよりも貴様は私の様な存在を信じるのか?」

 

「目の前で起きた事だから、それは信じるよ。クロがどんな存在だろうとね」

 

「ふむ。前向きな意見だな。常識に左右されず受け入れる柔軟な思考は好ましい事だ」

 

私の方に向き直り、真剣なまなざしでクロが私をみる。

 

「だが、この世界で魔法や他世界が存在している事は誰にも言うなよ?この地球は管理世界では無いからな。おおっぴらに吹聴すれば管理局の人間が飛んでくるぞ?」

 

「何それ?」

 

クロの話は少しばかり難しい。なにせ日本、いや地球の常識が通じないのだ。

目新しい言葉に私はついて行けず、質問で返してしまう。

 

「魔法文化が発展した世界を統治する機関とでも言えばいいか。

管理外世界に管理世界の事が露見することを極端に恐れている連中だからな」

 

クロが先ほど言った管理局。

連中って事はある程度の規模がある組織なのだろう。

でも何故、管理世界が露見することを恐れるのだろうか?

その世界の文化や技術が知れ渡る事は、地球にとって良い事だと思う。

そして、そのまた逆。管理世界に無い文化や技術が広まる事がどうして駄目なのだろうか?

 

「どうして? 世界が広がるのなら、それは好ましい事じゃないの?」

 

「そういう考えの人間ばかりなら楽なのだろうな。良く考えてみろ? 領地や国土を広げる為の手段は?」

 

「あ…」

 

「気が付いたか。そう、戦やら戦争だ。規模の大小があれど、人が居て集団になれば必ず起こる。話し合いで済めば良いのだろうが、どんな世界でも結局はそうなる事が必然だ。国土を得る為に、資源を得る為に、利を得る為に。それを愚かだとは言わんが、巻き込まれる側の気持ちなど指導者どもには解らんのだろうな」

 

一瞬目を細めて、クロは顔を逸らした。

目の前のクロの過去なんて知らないから、何を思っているのか解らない。

けれど、何かあった事だけは事実なんだろう。

 

「わかった。魔法の事やクロの事は言わない。

それにね、そんな事を言っても誰も信じてくれないよ」

 

肩をすくめて無理やりに笑った。

 

「そうか」

 

「だって日本、というか地球には魔法なんて無いのが常識なんだもの」

 

そうしてクロも肩をすくめて、パソコンへ向き直る。その瞬間、腹の虫の音。

そういえばいつもの晩御飯の時間は大分過ぎていた。

 

「お前か?」

 

「違うよ。クロでしょ。そろそろ切り上げてご飯食べよう。作る時間が無かったから

コンビニのお弁当だけど。というか、食べられるの?」

 

「人間の口に入るものなら、いけるぞ。味の好みはあるがな」

 

そう口にしたクロは何時ものクロだった。

 

「頂きます」

 

そうして一口だけ口にして、クロの箸が止まった。

眉間にしわを寄せ、何とも言えない顔をしていた。

 

「不味い。貴様の作った飯の方が美味い」

 

「…ありがと」

 

――褒められて、いるのだろうか?

 

 

 

 

文句を垂れつつクロはコンビニのお弁当を完食。

私も食べ物は残さない主義なので少しばかり食べ過ぎてしまった感はあるが、どうにか食べきった。

重くなったお腹を抱えて、食後の休憩にと暖かいお茶を淹れたのだった。

 

「はい、どうぞ。気になったんだけど、クロはどうして猫の姿に?」

 

ずず、と音を鳴らして、クロはお茶を飲んだ。

少し前まで猫だったので熱いものは平気なのか心配だったのだが、どうやら杞憂だったらしい。

飲んでくれたことに安心して、私も両手で湯呑を持ち上げて一口だけ含み嚥下する。

 

「ん? ああ、この星の魔法や文化に興味があったのでな。調べていたら、この世界の魔導書に返り討ちにあった」

 

「魔導書に返り討ちにされたって…なにしたのさ?」

 

魔導書だなんて聞くと、私の頭の中にはヤバイ物だと言うイメージしかない。

『えろいむえっさいむ』とか『いあいあはすたー』とか。

中身までは詳しく知らないが、この程度ならば誰でも知っているのではないだろうか。

でも、返り討ちって事は物理的に手を出したって事になるような気がするんだけれど。

本気で目の前のクロは普通の人なのだろうか?

いや、猫になってた時点で普通ではない気がするが、管理世界ではそれも当たり前なのか…良く解らない。

 

「いや、なに。その魔導書の秘術を少し頂こうと、な? そうしたら反対に私が頂かれるところだったよ。どうにかなったが、魔力が足りなくなってな。それであの姿だ」

 

「何、無茶してるの! まさか、まだそんな事するつもり?」

 

それって、すごく大変な事の様な気がする。けれど、クロ本人は悪びれた様子もない。

至って普通に、さも当たり前の様に言い放った。

 

「機会が有ればな。しかし、ああも強力では太刀打ちできんな。私にマスターが居れば可能かもしれんが…」

 

少し考えた様子で、そこで言葉が途切れた。

喫茶店のマスターくらいしか思いつかないが、先ほどの口ぶりからその可能性は全くないだろう。

 

「マスター?」

 

「ん? ああ言ってなかったか。私は人間ではないぞ。さっき言った魔導書の類だ。内容が余りにも多岐にわたり過ぎてな。私は、困り果てた何代目かのマスターに作られた存在だ。」

 

さらっと、すごく問題発言をした上にさらに予想の斜め上の言葉がクロから飛び出た。

そうしてクロはダイニングの椅子から立ち上がり、リビングへ。

立ち止まり何かを短く言葉にした瞬間、クロの前に一冊の古びた厚い本が現れた。

クロが手に取ることも無く、その本はただ空中に浮いている。

そうしてその一冊で終わるのかと思えば、クロの背後にまた本が現れる。

それも、数を数えるのが億劫になるほどに。

 

「私の目の前の一冊が本書。後ろの有象無象は、本書に収まらなくなったものだ。元は教義を複写したものだがな。原典すら消え、何故かこちらが残った。そうして長い年月を経て変質した。教義だけではなく、世界の理を貪るように欲し、求めた。その成れの果てが、これらだ」

 

後ろを向いて、無造作に浮いている本達に目を向けた。

そうして本書と呼ばれた、クロの目の前にある本を無造作に開いて捲る。

はたと何かに気付いたように、蒼い瞳で私を見つめた。

 

「物は試しだ。触れてみろ。害は無い」

 

こちらを見て、不敵にクロは笑う。

きっと馬鹿にされているのだろうけれど、クロよりも目の前にある物の方が怖い。

威圧感、とでも言えばいいのだろうか、並々ならぬものを放っている。

 

「貴様、先ほどから私の服の裾を握っているが、私もその魔導書の一部だぞ?」

 

「クロより、この本の方が怖い感じがするんだけど…」

 

余程可笑しかったのか、クロが手で口元を抑えて笑っていた。

まだ動かない私にしびれを切らしたのか、クロが私の腰に手を回して、本の前へと押し出した。

害は無いから大丈夫、と言い聞かせて恐る恐る洋書の様な本に触れる。

 

――熱い。

 

手に伝わる熱が熱い。

触れられない程に熱い筈なのに、触れていても平気という不思議な感覚。

これが魔法の力なのかどうかは私には解らない。

そうして意を決して、厚い表紙を開いて数ページ捲る。

そのページには私には理解できない文字が記号がびっしりと書き込まれており、

並々ならない雰囲気を醸し出していた。

 

「ほう、開けたか」

 

「え?」

 

「貴様には、どうやら資格が有るらしい」

 

「資格って?」

 

「私、いや『名も無き教典』のマスターになる資格がな」

 

腕を組んで黙って此方をみていたクロがそう言った。

 

「そうなの?」

 

「何だ、興味ないのか?」

 

「うん。いきなり資格が有るなんて言われても、さっぱり解らないし。

そのマスターってのに成ったとして、何をするのか、何が出来るのかさえ解らないし」

 

私が興味が無いと言った事に、少し驚いているクロを見て苦笑した。

さっきも言ったが魔法なんて地球には無いのだ。

それに今は、学業とアルバイトで精一杯だ。

魔法を覚えろなんてクロに言われた日には、多忙死してしまいそうだ。

 

「ふむ。過程を端折って結果だけ言うなら、どんな魔法でも使えるようになるぞ。コレに記されている物ならな」

 

そう言ってクロは『名も無き教典』を見る。

クロの後ろに浮かんでいた沢山の本はいつの間にか消えていた。

 

「マスターになるための条件が、『名も無き教典』に認められる事。リンカーコアが有る方が好ましいが、無くても構わん。契約した後に無理やりにでもねじ込むからな」

 

クロの口から不穏な発言がされたが、今は無視する。

 

「リンカーコア?」

 

「む? ああ、すまん。リンカーコアとは、魔力を持つ者が所持している器官だ。役割としては、大気中の魔力素を吸収し体内に魔力を取り込む為のモノだ」

 

「私にもそのリンカーコアって言うのが有るの?」

 

「少し待て」

 

そう言って、私の前に立ちクロの右の掌が、私の胸の真ん中へと触れる。

クロの指先が淡く光り、熱を帯びる。

今までにない感覚だ。胸の中央、心臓じゃない何かが熱い。

 

「…っ」

 

「どうやら貴様にもリンカーコアは有る様だ。だが今まで使用していなかったからな。幼い頃から訓練でもしていれば、良い魔導士になっただろうな」

 

少し残念な気持ちと、魔導士とやらに成った所で何の役に立つのかと言う気持ち。

妙な気持ちが混ぜこぜになって、頭が上手く回らない。

 

『まぁいいさ。これくらいなら貴様にも出来るだろうし。覚えておいても損はあるまい』

 

クロの言葉が直接頭の中に響く。

空気が振動して耳の鼓膜が拾った音では確実にない。

 

「何、これ…」

 

『念話だ。魔法の初歩の初歩と言うべきものか。リンカーコアを所持していれば、余程のセンスの無い者でもない限り出来る』

 

「どうすればいいの?」

 

『話したい相手に意識を集中して、心で話せばいい。後は慣れだ』

 

脳に直接流れ込むような声に違和感を覚えながら、とりあえずクロの言った事を試してみる。クロを見据えて、意識を集中する。

 

『クロ、聞こえる?』

 

『ああ、聞こえるぞ』

 

どうやら成功したらしい。

 

「そっか良かった」

 

『おい、気が抜けてるぞ』

 

「あ…」

 

どうやら、口から出てしまっていたようだ。普段の癖、というか習慣は中々に抜けるものでは無い。

だから、笑ってごまかした。

 

「まあ、いいさ。離れた場所からでも使える。気が向いたら使ってみると良い」

 

「使う相手がクロしか居ないよ…」

 

「だな」

 

けれどもこれが広がれば便利では無いだろうか?

リンカーコアを持っていないと無理だそうだが、携帯電話の様に端末を持つことも無い。

料金だって払わなくて済む。けれど地球にはリンカーコアを持っている人が希少だとの事だから、世間一般に広く普及するというのは無理か…。

魔法が便利と言っても一長一短なのだろう。

地球には本当に必要ないのかもしれない。

 

「今日は遅いから、もう寝ようか。クロ?」

 

「……」

 

つけっぱなしだったテレビから流れてきた、私たちが住む地域のローカルニュース。

最近、この辺り一帯で起きている事件の続報だった。また、昏睡した人が発見されたらしい。だんだんと、発生頻度も多くなり初期の頃よりも症状が重くなっているとの事。

 

「どうしたの?」

 

「いや、何でもないさ」

 

目を細めて真剣にニュースを眺めていたクロ。

ニュースの内容が切り替わると興味を失った様でテレビから視線を外していた。

 

「今日はもう遅いからもう寝るよ」

 

「わかった。おやすみ」

 

クロはまだ起きているつもりなのか、またパソコンの前を陣取った。

 

「おやすみなさい」

 

そうして怒涛の一日が終わりを告げた。

 

 

 

――ミ ツ ケ タ 

 

 

 

 




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