魔法少女なんてガラじゃない!   作:行雲流水

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なのはとフェイトとオリ主できゃきゃうふふをしたかっただけなんだ。本当に。
初投稿、処女作ということで稚拙な部分は多々あると思いますが、温かく見守っていただければと思います。ご意見、ご感想は遠慮なく頂けると助かります。

注意事項
 ・アニメの1~3期の知識しかありません。force、vividその他の知識はなし。
 ・自己満足、遅筆
 ・捏造設定多数あり

それでも良い方、読んでいただけると幸いです。

2016/10/18:第一話投稿・タイトル改訂 
2016/10/21:第二話投稿
2016/10/23:第三話投稿
2016/10/30:第四話投稿
2016/11/05:第五話投稿
2016/11/12:第六話投稿
2016/11/15:第七話投稿
2016/11/20:第八話投稿
2016/11/23:第九話投稿
2016/11/27:第十話投稿
2016/12/02:第十一話投稿
2016/12/07:第十二話投稿
2016/12/11:第十三話投稿
2016/12/18:第十四話投稿
2016/12/25:第十五話投稿
2016/12/29:第十六話投稿
2017/01/22:第十七話投稿
2017/03/02:第十八話投稿
2017/03/30:第十九話投稿
2017/04/10:第二十話投稿
2017/06/11:Epilogue投稿

取りあえず完結です。



第一話:非日常なんてガラじゃない!

桜の花も散り、夏の匂いが微かに香り始める六月下旬。

梅雨の季節の湿気に少しばかり嫌気がさしつつある今日この頃。

眠気の覚めない眼のまま、教室の窓側の一番後ろの自分の席から外を眺めていた。

 

「おはよう、上総ちゃん」

 

「おはよう。月村さん」

 

落ち着いた声色で私に声を掛けてきたのはクラスメートの月村すずか。

綺麗な黒髪ロング、整った顔立ち。そして良いとこのお嬢様ときたもんだ。

どうしてだか彼女との縁が出来たのは、数週間前に遡る。

 

「・・・・・・」

 

無言の威圧感。笑っているのに笑っていない月村さんの顔。

逆らえないと思ってしまうのは、お嬢様パワーと言うやつなのか。

思い出したように、私は言葉を絞りだした。

 

「・・・・・・おはよう。すずか」

 

「おはよう」

 

私の言葉に満足して、もう一度挨拶を交わす。

彼女の名前を呼び捨てにするようになったのは切っ掛けが有る。

その事が無ければきっとすずかは唯のクラスメートだっただろう。

唯の偶然だったけれども、その偶然には感謝している。

聖祥大付属に高校から編入した私に友人なんて勿論いないし、知り合すら居なかった。

入学早々、ぼっちになってしまう所だったのだから。

 

「この間助けた猫は元気になった?」

 

「うん。家で元気にしてる。あの時は本当に助かったよ。

濡れ鼠のままで帰ったら兄さんに心配かけるところだったし」

 

少し前に私が助けた猫の事だった。

川で溺れて流されていたのを、見かねて飛び込んで助けたまでは良かったのだけれど、

びしょ濡れのまま家に帰れば、珍しく仕事が休みだった兄に心配を掛けてしまう所だった。

兄は私の唯一の家族だ。幼い頃に両親が亡くなった為に歳の離れた兄が私の保護者であり両親の変わりだ。

少しばかり過保護な面がある兄には迷惑なんて掛けられない。

困っていた所にすずかが偶然通りかかって声を掛けられ、すずかの家に招待されたのだった。

それからだ。彼女と学校でこうやって会話をするようになったのは。

元々物静かなすずかと私の会話は専ら最近読んだ本の話になる。

作者の作風や文体、どこどこが好きだのそんな感じだ。

そうやって話してしばらくすれば、もう一人がやってくるのだから。

 

「おはよう、すずか。ついでに上総」

 

「アリサちゃん、おはよう」

 

「ついでって酷いな。おはよ。バニングスさんじゃない、アリサ」

 

タイミングを計ったように、教室のドアを開け真っ直ぐにこちらにやってきたアリサ。

両腕を組みフンと鼻を鳴らし、金色の髪を靡かせそっぽを向いた。

すずかからの紹介でこうやって話すようになった。

最初のこのつっけんどんな感じから、私は嫌われているんじゃないのかとも思っていたのだけれど、どうも違うと気が付いたのは極々最近だ。

彼女は世間でいう所のツンデレと言うやつである。言葉と態度が伴っていないのだから、可笑しなものだ。それが、彼女の魅力でもあるのだけれど。

 

「それで? すずかと楽しそうに何話してたのよ?」

 

少しばかり不機嫌にそうに聞いてきた。

 

「この間、上総ちゃんが助けた猫の話だよ。アリサちゃん」

 

「ああ、言ってたわね。で? 大丈夫なの、その猫」

 

「うん。家で元気にしてるよ。兄さんに飼ってもいいって許可も貰ったし」

 

「そう。良かったじゃない」

 

私達の会話を遮るように時間を告げるため鳴り始めた予鈴。

 

「また後で」

 

その合図をきっかけに私たちは自分の席に戻った。

正直助かったと思う。これ以上助けた猫の話題は避けておきたいところだったのだから。何故と問われれば、正直答えようがないと思う。

目の前の二人には言えない事だし、仮に言ったとしても信じてくれないだろう。

出会って話し始めて数週間。

知り合いではあるが、友人と呼んでいいのか悪いのかの境界線上だ。

彼女達には黙っていた方が心象は良いだろう。

 

――助けた猫が喋った、だなんて誰に言えるだろうか。

 

 

 

 

教室の片隅。窓側の一番後ろの席に座り、物憂げに外を眺めているアイツ。

唯のクラスメートであった彼女が、数週間前からちらほらとすずかと話している姿を見る様になった。

悪く言ってしまえば人との関わりを持とうとしないすずかが声を掛けたのだ。

気になった私はすずかに紹介を頼んだ。

佐藤上総。

第一印象は普通。ようするに何処にでもいるようなヤツだった。

成績の方は、高校から聖祥に編入したのだから、それなりなのだろう。

なのは、フェイト、はやてが魔法世界に行ってしまい、すずかも寂しかったのかもしれない。

それに友人が増えるのは悪い事じゃない。

すずかに害が有るのなら、私が全力で排除すれば良いだけだ。

 

――でもまぁ、悪い奴じゃないわよね。

 

それが、ここ暫くアイツと接した感想だ。

本当に何処にでもいる普通の女の子なのだ。

両親を幼い頃に亡くして、兄が親代わりだと聞いた。

その事を笑って話せるのはアイツの強さなんだと思う。

私なら、笑って話せる自信は無い。

放課後はアルバイトもしているらしい。進学校のウチでは珍しい事だ。

兄に迷惑を掛けたくないからと言っていたが、甘えられるのなら甘えればいいと思うのに。

それが保護者の義務であり責任でもある。それに受けた恩は返せばいいだけなのだから。

もう一度アイツの方を盗み見る。

 

――あぁもう!全く。授業聞いてないじゃない!後で叱らなきゃ。

 

遠く離れた危なっかしい友人達と姿を重ねて、私が確りアイツをみてあげなきゃ。

それと今度、私もアイツを家に招待しようと心に誓う私であった。

猫も良いけれどワンコの魅力もアイツに教えなきゃ!

 

 

 

何時もの帰路。何時もの風景。

何も変わらない日常が、とても大切な事だと気が付いたのは何時だっただろう。

高校生になって変わった事と言えば、なのはちゃんたちが魔法世界に行ってしまった事だ。

少しさみしい気もするが、本人たちが決めた事。

強く反対できる理由なんて無かった。

 

――ドポン

 

何かが水の中に落ちた音。

小さな石が落ちた音とは全然違う。何か大きい物、重い物が落ちた音だ。

何事だろうと、川縁から覗き込む。

そこには、聖祥大付属高校の制服を着た女の子が泳いで何かを追いかけていた。

そうして暫く泳いで、追い付いた先には小さな黒猫の姿。

優しく救い上げた女の子は、安心したように微笑んで川岸へと泳いで行った。

 

「あの人は、クラスの…」

 

確か佐藤上総ちゃん、だったか。

話した事はないが、クラスメートの顔くらいは覚えている。

そんなクラスメートの女の子と猫が気になって、気が付けば私は走っていた。

 

「参ったな。ずぶ濡れだ…」

 

川岸へとたどり着いた彼女は、投げ捨てた自分の鞄と荷物の元へと歩いていた。

川に飛び込んで泳いだのだから当然だろう。

濡れた髪をかき上げて、間抜けな言葉を聞きながら、私は彼女に声を掛けた。

 

「あの・・・・・・佐藤さん、だよね? よかったら家に来ないかな?

少し歩くけれど、濡れて帰るよりは良いだろうから…」

 

「? 確かクラスの月村さん、だっけ?」

 

「良かった。覚えててくれたんだ」

 

「一応ひと月以上経ったしね。名前と顔、一致させるの大変だけど、クラスメートの顔は覚えてるよ」

 

私の方に振り向いて、微笑んだ。

彼女と同じクラスになりある程度経っているが、彼女が誰かと一緒にいる事なんて無かった。

何時も窓際の席で退屈そうに無表情で外を眺めて話しがたい雰囲気を醸し出していたから。

 

――話しにくい人じゃなくて良かった。

 

 

「家に行こう?」

 

「迷惑じゃないかな?」

 

「平気だよ。さっき家にも連絡入れたから。それに猫の手当てもしてあげないと」

 

「ゴメン助かる。あ、ちょっと待って」

 

そう言って彼女は、足元に置いていた鞄からタオルをだして猫を包んで水気を取ってあげている。

自分もずぶ濡れで、気持ち悪いだろうに。

何か彼女を拭くものは無いかと探してみるが生憎とハンカチ位だった。

 

「月村さん、汚れるよ」

 

「すずか、でいいよ?」

 

「それじゃ私も上総でいい」

 

彼女の濡れた顔をハンカチで拭いているとそんな言葉が降りかかる。

あまり綺麗な川では無い。飛び込むには勇気がいる。

私には出来ないから、このくらいは何でもなかった。

だから私はその言葉を無視して名前で呼ぶことを彼女に願った。

 

「行こうか」

 

「うん」

 

そうして家に帰って、彼女にお風呂に入ってもらっている間に猫の手当てを済ませた。

衰弱しているだけで、怪我もなかった。

その事を彼女に報告すると、安心したように息を吐いて、自分の家で飼うと言った。

飼う気もないのに助けないと言い切った彼女。

逆に言ってしまえば、飼う気が無ければ助けなかったという事だ。

酷い、と言う人も居るかもしれない。けれども私はそれが彼女の強さなんだと思った。

 

その事がきっかけで、クラスで声を掛けるようになった。

彼女から声が係る事は滅多にないけれど、大好きな本の話が出来ると知ったのは嬉しかった。

アリサちゃんとも出来るのだけれど、少しジャンルが違ったりする。

私と彼女の本の趣味は一致するらしく、話が合うのだ。

そうして彼女と話している事を不思議に思ったアリサちゃんに紹介しろと言われ、今に至る。

まだ少しぎこちない距離だけれど、時間がきっと解決してくれる。

そして、なのはちゃんたちにも紹介しなければと、アリサちゃんと準備をしているところなのだから。

 

 

 

 

 

セキュリティのしっかりした玄関ロビーを抜け、エレベーターに乗る。

マンションの上層階。

部屋前の門扉を開けて、玄関のロックを開錠する。

兄は仕事が忙しく、月に二、三度帰ってくれば良い方だ。

ほとんど一人暮らしと言っていいくらいなのに、広い間取りで無駄にしている部分が多い。

勿体ないから引っ越そうと何度か兄に言ってはいるが、聞き入れてくれない。

女の子が一人暮らし状態なんだからセキュリティくらい確りしている所じゃないと駄目の一点張りだった。

お金に関しても、ちゃんと稼いでいるし両親の残してくれたものもあるから心配するなとの事。

本当に兄には感謝するしかない。

 

「ただいま」

 

「遅かったな。お帰り」

 

声を掛けると、私の部屋の奥から小さな黒猫がトコトコと軽快な足取りで私の足元に来る。

私を見上げる姿はとても愛らしいのだが、猫が喋っているのである。

 

――ありえない。

 

そう思いながら、目の前で起こっている現実なのだから受け入れなければならない。

テレビにでも投稿すれば話題になって一攫千金が出来るかもしれない。

そんな生な考えをかなぐり捨て、今まで兄以外の会話何てなかった家に声が響く。

 

「バイト行ってた。ちゃんと大人しくしてた?」

 

「していた。していたぞ。ものすごく暇だったがな」

 

小さな子猫の癖に、態度というか言動はとても大きい。

えへん、と言わんばかりに胸を張って私の足元をぐるりと回る。

行動は愛らしい。本当に。

 

「腹が減った。何か食いたい」

 

この調子だ。私の都合は無視されることが多々あるような気がする。

既に尻に敷かれているような気もしなくもないが、飼うと決めたのだ。

面倒はちゃんとみなければ…

 

「・・・はぁ。ご飯作るから少し待ってて」

 

「あぁ、待つぞ? 待つさ」

 

「ご飯あげないよ?」

 

「兵糧攻めとは、貴様やるな!」

 

猫が言う台詞じゃないよね・・・全く。

 

 

 

 

 

「頂きます」

 

何時もの様に手を合わせて声をだす。この瞬間は日本人だな、と思い知る。

たしか、海外は神様に祈る所が多いと聞いた。神様が居るのか?と聞かれれば、私は否だと言う。

居るのなら、私から両親を奪いはしなかっただろうし、普通の親のいる家庭というやつを築いている。

両親が健在ならば、兄もいい歳なのだから結婚もしていたのかもしれない。

 

「何を難しそうな顔をしている?」

 

床で私のご飯のおすそ分けを食べていた猫が声を掛けた。

艶やかな黒い毛並に良く映える蒼い瞳が私を射抜く。

 

「え? そんな顔してた?」

 

「していたぞ。無自覚か」

 

「ちょっと考え事」

 

「そうか」

 

それで会話は途切れた。私の横で食べている猫は私の事を深く聞かない。

それがこの猫の性格なのか、はたまた遠慮しているだけなのか。

 

――コイツに限ってそれはないか。

 

私も猫についての事は深く聞かない。

聞いた事と言えば何故喋れるのかという事だけだ。

その問いの答えは至極簡単なものだった。

 

『知らん。いつの間にか喋っていた』

 

・・・だそうだ。

何の解決にもなっていないような気もするけれど、それでもいいかと思う。

遠すぎず、近すぎず。それが数週間共に過ごした私とこの猫の距離だ。

けれども最近になって思う事が有る。

何時までも、お前では流石に不都合だ。

 

「ねぇ、そういえばお前の名前は?」

 

「ん? 私に名前なんて無いぞ。名前を呼びたければ貴様が好きに付けて呼べばいい」

 

「名無しか。どうしよう? 何て呼んでほしいか希望はある?」

 

「そんなものは無い。識別が出来れば番号でも何でも良いさ。私に名前なんて意味は無い」

 

そう、なのだろうか?

名前は、この世界に存在する証明だと思う。

名前が無いのならば、戸籍も存在しない。世界に存在しない、という事になる。

それに、親しい人達に名前を呼ばれることは嬉しい。

居なくなってしまった両親から私の名前を呼ばれることは無くなってしまった。

もう一度呼んでほしいと願っても、叶わない。

月日が経つにつれ、父と母の姿も声も霞んでいく。

それはとても哀しい事だと自覚しているのに、仕方の無い事だと諦めている自分が居る。

刹那、胃の奥からせり上がる、吐瀉物の様な感情を無理やりに抑えて蓋をした。

 

――どうしようもない事だ。

 

生憎、この猫にはそういう感情はないらしい。

猫だからなのか、それとも目の前の本人の性質なのか。淡白なものだ。

 

「黒猫だからクロは?」

 

「安直だな」

 

「名前なんて何でもいいんじゃなかったの?」

 

文句を垂れた猫に思わず苦笑いをする。

案外この猫も拘りというものが有るのかもしれない。

 

「そうだったな。好きに呼んでくれ」

 

「それじゃぁ、クロで」

 

ふい、と顔をそらして、クロは私の部屋へと戻って行った。

名前が気に入らなかったのか、それとも照れただけなのか、猫の表情からは窺えなかった。

もし不評なら、あの猫の事だ。文句の一つでもあるだろう。

浅い溜息を吐いて、食事の後片付けを始めた私だった。

 

 

 

 

それから数日、何の変化もない日常を送っていた。

クロが居る生活にも慣れ、クロが喋ることに関しても受け入れている自分が居た。

今まで殆ど一人で生活していた反動か、クロが居なくなる事に寂しさと恐怖を抱いている事も。

玄関の扉を開けて、クロが出迎えてくれる事を当たり前だと受け入れてしまっている。

 

「ただいま」

 

扉を閉めようと、玄関に振り返ろうとした瞬間だった。

金髪巨乳の素っ裸の女性が私の目の前に居た。

 

――家を間違えた。

 

きっとそうに違いない。

瞬時に三歩後ろへ後退。

近所への迷惑も考えずに、ドアを思いっきり閉める。

早鐘のように鳴る心臓。浅い息を繰り返す肺。

そうして、思考の回らない頭でどうにか考える。

何処の家にも在るであろう表札には『佐藤』と言う名の文字。

流石にマンションを間違えたという事は無い筈だ。

部屋番号を確かめ、意を決してもう一度玄関の扉を開ける。

 

「おかえり。何、珍妙な事をしている?」

 

聞き慣れた声だった。

きっと私は間抜けな顔をしていると思う。

 

「え? あ、え?? もしかしてクロ?」

 

「何を言っている。もしかしなくても貴様がいつも呼んでいるクロだが?」

 

クロが呆れた顔で、そう言った。

 

「え? え??? ええええええええええええええええええええええ!!!」

 

喉が引きちぎれそうになるほどに叫んだ。

何で、猫が、人の姿をしているのだろうか。

猫が、何で、女性になってるんだよ!

しかも今までに見た事が無いほどの、超が付く美人である。

 

「うるさいぞ。近所迷惑だろうが」

 

「クロに常識を問われるなんて…」

 

嬉しいやら悔しいやら、複雑である。

と言うか、服を着てほしい。動くたびに胸が揺れているし、見てはいけないところが目に入る。

いくら同性とはいえ、目のやり場に困るものなのだ。

クロは右手を顎に当てて、考え事をしていた。

私はこの状況に追い付けそうもない。だからクロの言葉を待つ。

 

「そうか。貴様の世界では魔法が存在しないのだから、ありえない事だったな」

 

「猫が人に成るなんて聞いたことないよ。有るとしたら化け猫とかそういう類だと思う。

ていうか、魔法って?」

 

「ふむ。面白いな」

 

ニヤリと不敵な笑みを浮かべて、私の言葉を無視し、クロは思考の海へと行ってしまったようだ。

取り敢えず、目のやり場に困る状況をまずどうにかするべく動く。

 

「とにかく、服着よう。兄さんの借りてくる」

 

女性の姿をしたクロは背が高い。私の兄と背丈は変わらないかもしれない。

私の服では、丈が絶対的に足りない。

女性に男物の服を着てもらうのは少し忍びないが、仕方ない。

兄の部屋に入り、クローゼットを漁り適当なものを引っ張り出す。

 

「下着・・・どうしよう」

 

買いに行くしかないか。

折角稼いだバイト代がとも思わなくないが、自分の精神衛生上の為でもある。

諦めて、クロに服を渡して自分の部屋に入り財布を握る。

 

「クロ?」

 

服を渡して私の部屋に来ないクロを探す。

そうしてリビングのソファーに足を組んで座るクロに声を掛ける。

 

「その格好で外に出たら駄目だからね。私が帰ってくるまで大人しくしてて。

外に行きたいのなら、私が帰ってきたら案内するから、絶対だよ」

 

兄の黒色のワイシャツ一枚を羽織ったクロに忠告する。

そのままで外に出れば確実に公序良俗罪で警察の御厄介になる事が確実だ。

何せ、ワイシャツ一枚だけなのだ。ノーパンノーブラである。

見た目が成熟した女性の姿である。痴女でしかない。

その辺りをクロが理解しているのかと言えば、出来ていなだろう。

クロの身分証明をする物も無いのだから、公的機関に関わる事は絶対に避けたい。

 

「わかっているさ。此処で大人しくしている。

あと、腹が減った。何か食い物を所望する」

 

猫の姿とは打って変わって、今度は人の姿である。態度も言動も大きかった。

 

――大分慣れてきている自分もどうかと思う。

 

触れれば壊れそうな氷細工の様な美貌なのに、口が悪いのは如何なものか。

クロがその気になれば、男の人を籠絡するのは安易だろう。

まぁ、この口ぶりじゃぁ夢のまた夢なのかもしれないが。

 

「了解。大人しくしててね?」

 

「ああ」

 

クロは浅く鼻で笑ってリビングのテレビに目を向ける。

大人しくしていることを願って私は外へと歩を進めた。

 

 

 

 

時間も遅いので、衣料量販店はもう閉まっていた。

閉じているシャッターに溜息を吐いて夜の街をまた歩き出す。

 

「此処でいいか」

 

辿り着いたのは、家の近くのコンビニ。

こんな事なら最初から来ておけばよかった。

コンビニならば数は少ないが、下着が置いてある。

自分と兄以外の買い物なんて久しぶりだと頭の片隅にふとよぎる。

コンビニの店員に変に思われなければ良いけれどと思いながら、

下着と何かお腹に入れる物を手に取って、コンビニを後にした。

 

深夜、とは言わない時間帯ではあるものの夜の帳は深い。

肌に張り付く不快感。梅雨の時期特有の湿度の高さには慣れる事は無い。

早く帰って、冷房の効いた部屋に入ろうと心に決めた時、私の目の前を黒い何かが横切った。

 

「何、今の?」

 

何が横切ったのか判断が付かないほどの、一瞬の事だった。

 

「・・・気のせいか」

 

心に湧く恐怖心を誤魔化すようにそう呟いて私は家へと急いだ。

 

 

 




女オリ主ものって少ないですよね。
ほぼ読み漁ってしまったので、自分で書いて自給自足であります。
なのはとフェイトときゃきゃうふふしたかっただけ。
ちゃんとオリ主が背負っているものとかが書き切れればいいのですが、なにぶん素人なので上手い人や書き馴れている人との差が確実にあります。
少しでも上手くなれるように努力する次第です。
さて、頑張って完結にまで持っていければいいなぁ(遠い目



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