放課後。いつものようにいろはが声を掛けてきた。
「じゃ、部活行こう」
「あーごめん。私、ちょっと寄る所あるから」
「は?」
「いや真面目に。絶対部活後から行くから怒らないでよ」
「………ならいいケド」
いろはは「サボったら殺す」と視線で言いながら去って行った。
心底ビビりながら、私は奉仕部の部室へ向かった。確か、平塚先生に聞いた話だと特別棟だったはずだ。
あそこは人がほとんど来ないから、私にとっても比企谷先輩にとってもオアシスだろう。……あ、でも雪ノ下先輩がいるんだっけ。まぁいいや。元々、あそこには依頼のつもりで行くんだ。
5分ほどかけて到着し、私は部室の扉をノックした。
「どうぞ」
返答が聞こえる。中に入ると、美人で有名な雪ノ下先輩、目の腐った比企谷先輩、そしてもう一人が由比ヶ浜先輩、だっけ?この前、いろはと買い物に行った時に遭遇した葉山部隊の一人。
「あっ、浅野さん」
「えっ、浅野?」
由比ヶ浜先輩と比企谷先輩が声を漏らした。直後、お互いに顔を見合わせる。
「ひ、ヒッキー知り合いなの?」
「いや、何でもない……」
「ヒッキー!」
目を逸らし続ける比企谷先輩。その隠したい気持ち、痛いほどわかりますよ先輩!ここは私も他人のフリしといたほうがいいパターンだよね。
「私、比企谷先輩となんて知り合いじゃありませんよ?」
「あ、そうなん……えっ⁉︎今、比企谷先輩って言ったよね⁉︎」
バレたか。まぁいいや。
「昼休みにたまに一緒に食べてるだけです」
「へぇー。どこで食べてるの?」
「口じゃ説明しにくいところですよ」
「ふぅーん……なんで二人ともそんな複雑なところで食べてるの?」
「……………」
察してよ……。いろは以外の女の子とは仲良くできないんだよ私は。比企谷先輩も私も孤独を求めた結果がこれなんだよ。
「そろそろいいかしら?」
雪ノ下先輩が口を挟んだ。そうだった、依頼に来たんだ。
「あ、えと……」
「雪ノ下雪乃よ」
いや名前を知りたかったわけじゃなくて。
「ここって生徒の悩みを解決しようとするみたいな感じの部活なんですよね?」
「厳密には少し違うわ。私達はその手伝いをするだけ。解決するかどうかは貴方次第よ」
ボランティアみたいな部活だな。比企谷先輩、無理矢理入部させられたって言ってたよね、可哀想に。
「じゃあ、その、良いですか?」
「ええ」
聞くと、雪ノ下先輩は頷いた。
やはり、人に悩みを打ち明けるのは勇気がいる。それも、長年悩んで来たことなら尚更だ。だけど、ここで相談しないといつまで経っても解決しない。
私は意を決して口を開いた。
「………友達に私のオタク趣味を隠したいんですけど、部屋のどの辺りにフィギュアとか隠したらいいですかね」
「………はい?」
通じなかったようで、聞き返されてしまった。
「や、ですから部屋のフィギュアポスター漫画ラノベCDエロ同人DVD隠したいんですけど、どうすればいいですか?」
「……………」
困惑した表情を浮かべられてしまった。比企谷先輩を見ると、おでこに手を当てて「やっちまったな……」みたいな顔をしている。由比ヶ浜先輩は話の内容すら理解してないのか、頭に「?」を浮かべていた。
「……まず、一つ一つ和訳していきましょう」
「いや、何一つ難解な語句は使ってないんですけど」
「フィギュアとポスターと……ラノベ、というのは……?」
「本です」
「なるほど……それとCD、エロ同人、というのは……?」
「おい待てよせ、雪ノ下」
比企谷先輩が口を挟んだ。
「それはお前が知るべきものじゃない」
「どういう意味かしら?」
「お前も由比ヶ浜も知ってはならないものだ。だから、うん、この依頼は破棄したほうがいい」
「そんな比企谷先輩!本気で悩んでるんですよ!もし、『エロ本探す』なんて言われてエロ同人見つけられたらどうすればいいんですか⁉︎」
「エロ本探されてエロ本が出て来ただけだろそれ」
「困ってるんですよ、本当に‼︎」
「困ってるなら、奉仕部として手を貸さないわけにはいかないわね」
雪ノ下先輩が肩の髪を払いながら立ち上がった。
「うん、何だかよくわからないけど、私も手伝うよ!」
由比ヶ浜先輩がギュッと握り拳を作る。良かった、これで助かる。
「それで、私達はどうすればいいのかしら?」
「えーっと、今度ウチに来て下さい。それで実際にどこをどうするか見てもらった方が早いと思います」
「分かったわ。今日で良いかしら?」
「いや、今日は部活なので……。土曜日はどうですか?」
「分かったわ。由比ヶ浜さんは大丈夫?」
「うん、平気だよ」
「なら、決定ね」
「おい待て、俺にも聞けよ」
「どうせ予定なんてないでしょう?」
「いや、まぁその通りなんですが」
「じゃ、土曜日に駅前でお願いします」
そんなわけで、部屋のレイアウトを変えることになった。