総武高校の廊下。私は帰ろうとしてると、後ろからズビシッとチョップされた。
「ストップ、葵」
いろはの声だ。はぁ……捕まったか。
「部活の時間だよ?葵」
「………見つかったか」
「やっぱ逃げようとしてた。まったく、一年生から部活サボってたら周りから浮くよ?」
「そしたらやめるだけだもん。ていうかマネージャーに浮くも何もないと思うけど」
「ああもうっ、良いから行くよ」
「………はぁ」
「ため息つきたいのはこっちだから!」
いろはに手を引かれて、私はサッカー部の部室へ連れて行かれた。
いろはとは幼稚園からの付き合いだ。いつもいつも私と一緒にいてくれて、コミュニケーションをとるのが苦手な私に友達を作ってくれたりした。外見はいろはは可愛くて、私は地味なので、中学の捻くれていた頃は、私を引き立て役にしてるんじゃないかとも思ったりしたが、影で私の悪口を言う友達や男友達とかとはさりげなく縁を切っていた。だから、私の被害妄想だった、
とにかく、私といろはは友達なのだが、そんないろはが唐突に言い出したのが、「彼氏作ろう」との事で、一緒に入部させられたのがサッカー部のマネージャーである。
サッカー部の部室に到着したわけだけど、いろはは上手く愛想を振りまきながら、集ってきている男子を相手にお喋りしていた。
私はそれを遠くで見ながら本来のマネージャーの仕事であるボールの数などのチェックをして、練習で使われると思われるカラーコーンの設置、スポドリとお茶のタンクを作り、救急箱を用意した。
ようやく仕事を終えて、ベンチの上で一息ついた。
「………ふぅ、」
「あ、葵。お疲れー」
「お疲れーじゃないよ。仕事してよ」
「ごめーん、先輩たちが思ったよりしつこくてさ」
おおう……しつこいとか言っちゃうのか……。相変わらずあんま自分が好きじゃない人には怖いなこの子。
ちなみに、その先輩達はこれから練習である。真ん中に立ってるのは三年生の主将で、今年最後の試合だからか気合が入っている。その前で話を聞いてる群れの中で、一人際立ってイケメンがいた。それが、隣でニコニコ笑顔を振りまいてるいろはのお目当の葉山先輩だ。
確かにイケメンだとは思うけど、別に私は興味ない。色恋だなんだより、まずは安定した人生が欲しい。
「………で、どうなの?あの先輩とは」
「まだまだ何もしてないよ。ていうかそんな早くがっついたら引かれるに決まってるじゃん」
「ふぅん……恋愛っていうのも大変だね」
「そういうのは一度でも恋愛してからいいなよ。人がどんなに男の子紹介しても断ってきた癖に」
「断ってたのは向こうでしょ。まぁ、私も付き合う気とかなかったけど」
「そんなこと言って。そもそも、何のためにマネージャーやってるの?彼氏作るためだよ?」
サッカー部にとってはたまったもんじゃないマネージャーだなぁ。というか、私が一緒にいなかったら、多分一年生の子達がマネージャーやってたんだろうなぁ。
「私はいろはと違ってそんなに顔がいいわけでもないから、サッカー部の人達もみんないろはの方行くし」
「うー……ん、そんなはずないんだけどなぁ」
唸りながら、私の顔をペタペタと触るいろは。ちょっ、近い近い近い、何この子、百合なの?私が女の子で愛せるのは艦娘だけよ?
「………よしっ、」
「何?」
「美容室に行こう」
「………は?」
今なんて?
「だから、美容室。ていうか、こんなボサボサな髪型じゃそりゃ誰も寄らないって」
「ボサボサじゃないよ、毎朝寝癖直してるもん」
「じゃあちゃんと寝る前とか髪乾かしてる?」
「……………」
目を逸らした私の両頬を挟み、無理矢理正面向かせるいろは。
「………乾かしてないです」
「ほらー。そういうところからだよ」
「やだよ。面倒臭い」
「ダメ!せっかく可愛い顔してても髪型がこんなんじゃ誰も相手にしないよ」
いやそれ流石に酷すぎやしませんかね。
「でも、私そんなお金ないよ」
「嘘だね。さっきお昼の時に何枚かお札見えたから」
「ダメだよ。アレ、明日発売するラノベ用なんだから」
「そんなのいつでもいいじゃん。ていうか700円もあれば買えるし」
無理無理無理、ドラマCD版だから2000円は掛かるって!とは言えなかった。
「あとメガネも外して、化粧は……まぁいいか。爪とかにもマニキュアを……」
「ま、待って待って!そこまでやるの?」
「スカート短くして、第二ボタンも外そっか」
「露出魔⁉︎」
「ぐへへー、今夜は寝かせませんぞ」
嫌な予感しかしなかった。