あれから数日後、マイルナの表情は日に日に暗く、そして悩みでいっぱいになっていた。
時々つくため息、哀愁の漂う背中。
そのどれもが、マイルナの精神的異常を伝えてくれる。
束「ねぇちーちゃん。義姉さんって、最近元気が無いというより、おかしいよね?」
千冬「あぁ…。やはり、幸太郎が狙われるとわかったからな。マイルナさんも気が気で無いんだろうな。」
二人がそう納得していると、職員室のドアが開きアルベルトが入ってきた。
アル「違うぞ二人とも。あいつがあんなのになってるのは、幸太郎が最近一人で外に出掛けてるからだよ。」
千冬「幸太郎が一人で?いったい何処にいってるんですか?」
マイルナ「それが…、それが教えてくれないのよ!
ついて来ないでって言われてるし、理由を教えてくれないから、心配で仕方ないのよ!」
マイルナは泣きながら、千冬にしがみついてきた。
千冬「落ち着いて下さいマイルナさん。私に言っても、何もわかりませんよ。」
山田「もしかして、学園外で彼女でも出来たんじゃ無いですか?
ほら、駆け落ちするカップルって、親に内緒で会うじゃ無いですか?」
山田先生の発言に、その場の空気が凍った。
そして千冬と束は、すぐにマイルナを止めれる様に身構えた。
マイルナ「山田先生…、世の中には言って良い事と悪い事があるですよ?
教育者足るもの、それくらいわかりますよね?」
明らかに怒りを露にして、マイルナは山田先生に近づいて行った。
その恐怖と迫力に、山田先生は後退りをする事しか出来なかった。
束「義姉さん!落ち着いて下さい!幸太郎がそんな事する訳無いじゃないですか!」
千冬「そうですよ!マイルナさんが、幸太郎を信じてあげなかったら、どうするんですか!?」
アル「全く、外に出るくらいでこれとは…。知らずに楽しんでる幸太郎は、ある意味幸せ者だな。」
アルベルトのこの発言を、マイルナは聞き逃さなかった。
マイルナ「ねぇアル?貴方のその言い方、幸太郎の外出の理由を知ってるのね?」
アル「まぁまぁ、一旦は落ち着けよ…。お、おい…。
怖いなこれ。お前らがマイルナを怒らせたくない訳だぜ。」
アル「別に口止めはされてないが…、どうせだったら直接見たらどうだ?
明日も、どうせあいつ出かけるだろうし。こっそり尾行すればバレないかもな。」
そう言ってアルベルトは、職員室から出ていった。
マイルナ「尾行か…、そうよ、そうよね!大事な弟を汚ならしい雌狐から護るためだものね。」
千冬「ですが、尾行なんかしてもし幸太郎にバレたら、嫌われるかもしれませんよ?」
マイルナ「何言ってるのよ千冬。私が尾行なんてするわけ無いでしょ?
私がするのは、幸太郎の護衛よ?言葉を間違えないでちょうだい。」
マイルナは不気味な笑いを浮かべていた。
~~~次の日~~~
この日も、例のごとく幸太郎は外へと出掛けていった。
マイルナ「さて千冬に束。急いで幸太郎を追いかけるわよ!
昨日も言ったけど、これは尾行じゃ無くて護衛だからね。」
そう言ってマイルナ達は、幸太郎を見失わない様に後をつけていった。
アル「あいつら、本当についていきやがった…。はぁ…、面倒事にならないと良いけどな。」
溜め息を吐いたアルベルトは、幸太郎の目的地までの近道を歩き出した。
歩いている幸太郎は、辺りを警戒する事なく楽しそうな足取りだった。
マイルナ「鼻唄なんか歌ってるわ。そんなにそいつの会うのが楽しみなのね。
フフッ、私の大切な幸太郎をたぶらかすなんて、死にあたいするわよ?」
そして幸太郎は、河川敷の橋の下へと入っていった。
幸太郎「今日も会いに来たよ。もうそんなに慌てなくても、ちゃんと遊んであげるよ。
もう!そんなに顔を舐めないでよ。くすぐったいよ。」
幸太郎の言葉に、我慢の限界だったマイルナは大急ぎで幸太郎のいるところに飛び出していった。
マイルナ「私の大切な弟を弄ぶなんて、良い度胸だな!
今すぐここで、私が殺してあげる…よ…。」
目の前の幸太郎の相手に、マイルナは怒りと勢いを無くしてしまった。
幸太郎「お…お姉ちゃん!なんでここがわかったの?」
なぜなら、その相手は幸太郎が抱き上げている、産まれたばかりの、小さな豆柴だったからだ。
女だと思ったら、犬でした!
って、わかりますかったですかね?
ですが、これでひとまずは大事件は避けられた様ですね。