IS学園に戻ってすぐに、千冬と一夏は幸太郎に言われた通り、アルベルトと話をする為にマイルナの部屋の前に来ていた。
一夏「千冬姉…、本当に今からアルベルトさんと話をする気なの?
明日でも良いんじゃ…。」
千冬「そんな弱音を吐くな。私達は、私達の人生を変えたあの出来事に対して逃げていた。
もういい加減、正面から向き合うべきなんじゃないか。」
千冬は深く深呼吸をして、ドアノブに手をかけた。
そして、心の中で強く檄を飛ばしてドアを開けた。
ドアを開けて中に入ると、二人が来るのを予測していたのか、アルベルトとマイルナが立っていた。
アル「事情はマイルナに聞いたぜ。あれ以上話す内容はねぇ気がするがな。」
千冬「その、アルベルトさん。今回は…。」
千冬が話を切り出すと、アルベルトは話を遮った。
アル「ここじゃあ、他の生徒に聞かれるかも知れん。詳しい話は、屋上でしよう。」
~~~屋上~~~
アル「今日は、心地いい風が吹いてるな。故郷を思い出すぜ…。」
マイルナ「そうね。あの日も、こんな風だったわね。フフッ、懐かしいわね。」
二人は少しの間、干渉に浸っていた。
アル「すまねぇな。で、俺に何を聞きたい?出来る限りは答えるぞ?」
アルベルトがそう聞くと、一夏は勇気を出して話し出した。
一夏「その…アルベルトさん!一つだけ質問があります!
俺の誘拐の手伝いの依頼を請けた時、アルベルトさんはどんな気持ちだったんですか?」
アル「なるほど…、その質問か。いずれ聞かれると思ってたが、いざ聞かれると戸惑うもんだな。」
アルベルトは、ばつが悪そうな顔をして腕組みをしながら、考え出した。
アル「今から答える事に、気を悪くしないでくれよ一夏。
誘拐の依頼を請けた時、初めに思ったのが『可愛そうだな』って同情だ。」
アル「俺達にとって、その手の依頼は日常茶飯事。それに、どうしても大きな仕事が欲しかったんだ。
二つ返事で了承したよ。だがな、過去の俺にも今の俺にも…、いや今は少しあるか。
まぁ、お前に対しての謝罪の気持ちはハッキリ言って無かった。」
アルベルトの発言に、千冬は反応したがそれでも、アルベルトの話を最後まで聞こうと決めていた。
アル「見知らぬ子供より、俺を慕ってくれてる社員の方が大切だったんだよ。
質問には答えたぞ。俺を罵るのも殴るのも、構わないぜ。」
一夏「そんな事はしませんよ…。聞きたかった事が聞けたので、今は満足です。」
アル「そうか。それはすまなかったな。一夏、お前は随分と大人の様だな。
それで、今度は千冬の番だ。何が聞きたい?」
千冬「私の聞きたい事は決まってます。アルベルトさんが式場でしていた話や、今した話は頭ではちゃんと理解してます。
人には人の、どうしても抗えない事情がある。それはわかってます。」
千冬「でも、わかっていても許せないんです!
どうしたら良いんですか!」
千冬は、少し涙を浮かべながらすがるようにアルベルトに尋ねた。
アル「どうすれば…か。それは俺にもわからん。もしお前がここで許せても、亡国機業の連中が目の前に現れたら、お前の怒りは押さえきれないだろう。
仕事柄、そんな関係を何度も見てきた。」
アル「許すなとは言わん。許せとも言わん。だが、これだけは胆に命じておけ。
世の中、誰かの事故や不幸がきっかけで大きく動くもんだ。
白騎士事件や、一夏の誘拐。もっと極端に言えば、ISの登場もそうだ。」
アル「俺の仕事は、そんな事をしながら世界を調整出来る。そんな仕事だな。
フッ、その仕事のせいで世界中に恨みを買ってるなんて、なんとも皮肉なもんだな。」
千冬「そうか…、ならこれ以上は何も聞かない。だが、私達は強く生きる!
何が合っても、強く生きてみせる!」
千冬の強い熱意に、アルベルトはなぜか救われた様な感覚だった。
アル「そうか、それなら安心だな。それと、一つ頼みがある。
今回の仕事を断ったせいで、もしかしたら俺の関係者…、多分幸太郎が亡国機業に狙われるかも知れん。
あいつは、俺の仕事にはなんの関係も無い。だから、あいつだけは守ってやってくれ!」
そう言ってアルベルトは、深く頭を下げた。
千冬「任せて下さいアルベルトさん。一夏の誘拐の件は、私の中で決着はつきました。
ですから、そんなに気にしないで下さい。幸太郎を守る、それは当たり前の事です!」
アル「そうか…、ありがとな千冬…。」
なんとも世の中は、難しく複雑な存在ですね。
アルベルトが悪なのか、それはわかりませんが、一つ言えるのは、アルベルトも歯車の一つに過ぎないと言う事ですかね。