アナザーラバー   作:なめらかプリン丸

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第132話

宗次郎「すまんな、こんな格好で。それにこんなボロくさい道場なんかに呼び出して。」

 

秋水「いえとんでも御座いません。父上からの呼び出しとあれば、例えゴミ山であれ駆けつけますよ。」

 

寿家にある道場に、宗次郎は秋水を呼び出した。

スーツケース姿の秋水とは対照的に、宗次郎は柔道着を来ていた。

 

その立ち振舞いは、齢70を越えた老人には思えない程の凛々しさと逞しさが漂っていた。

 

宗次郎「ここじゃあこの格好じゃなきゃ、落ち着かないんでね。それよりも、安酒だが飲むか?」

 

秋水「柔道着姿の父上と安酒を飲む。これ以上の贅沢はありませんよ。お言葉に甘えさせて戴きます。」

 

宗次郎から渡されたグラスに酒をつぎ、二人は静かに乾杯を交わした。

そして会話をするわけでもなく、ただ静かに酒を飲みグラスに酒を注ぎあった。

 

秋水「俺は止まるつもりはありませんよ。」

 

呼ばれた理由を理解していたのか、宗次郎が本題を切り出す前に答えた。

その答えをわかっていたのか、宗次郎は表情を変えなかった。

 

宗次郎「お前は変わった。奈々が死んでから歯止めが効かなくなったな。まぁ、それでこそ寿とも言えるがな。」

 

宗次郎は笑いながら答えた。

 

秋水「父上に幼き頃から、『誇りを護るために、誇りを棄てる』その精神を叩き込まれましたから。俺なりの親孝行って奴ですよ。これでも。」

 

宗次郎「確かに。そう言い聞かせたな。己の誇りを保守した時点で、誇りでは無いと。その思いで俺はお前達を自由にしてきた。」

 

宗次郎「幸太郎の病気を治すのなら、寿家の病院に入院させればいい。奈々を護るためには、沢山のSPをつければ良かった。お前を止める為には、張り倒してでもこの家から出さなければすんだ。」

 

宗次郎「だが、それは愚かな選択だ。そんな事をすれば愛するお前達を殺す事と同義だ。お前達を愛しているのなら、俺は手を出す訳にはいかなかったからな。」

 

秋水「後悔は無かったのですか。その愛する息子が、こんなのになって。」

 

宗次郎「全く無い!!無理やり俺の思う秋水にしても愛を注げないさ。良い子が好きなんじゃない。お前達が好きなんだ。」

 

その言葉を聞いて、秋水は大笑いをした。

 

秋水「やっぱ、寿は・・・、俺達は狂ってるな。だからこそ、俺は寿家が大好きなんだよ。

俺は姉さんが死んでから、自分が死んだ。だが!幸太郎が産まれてから、俺にも護りたい誇りが産まれたんだ!!」

 

秋水「幸太郎を護り抜く。それが俺にとっての誇りだ。だから棄てる。護りたい誇りだからこそ棄てるんだよ!!父上がそうした様に、幸太郎がより幸太郎らしく。より逞しく。より美しく。より神々しく。より支配者らしくなるために、俺は幸太郎の敵になる。それが出来るのは、俺だけだからな。」

 

そう言って空になった酒瓶を宗次郎に投げた。

そしてその酒瓶を、宗次郎は手刀で割った。

 

宗次郎「哀しいな。そうでなければ、幸太郎の為にならない。お前が最も望んでいない邪道を進まざるをえないとはな。」

 

秋水「えぇ。世界の未来と、たった一人の心。天秤にかける気にもなりませんよ。俺しか出来ない事ですから。」

 

ニッコリと笑った秋水を見て、宗次郎は涙を堪えることが出来なかった。


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