仮面ライダーディスティニー   作:茜丸

97 / 100
大変長らくお待たせいたしました。
先月から続く体調不良とそれを原因とする更新の一時停止ですが、どうにかこうにか復調の目安が立ちました。恐らくですが、8月の半ばからは今まで通りの毎週日曜日の投稿ペースに戻せると思います。
完全復活までもう少々お待ちください。

……そして、このお話の後書きには重大なお知らせを記載しておきました。是非とも最後までご覧になって下さい。



陰謀の影(後編)

 

 

 虹彩学園の会議室に集まった生徒一同は、緊張を露にした表情を顔に浮かべている。当然だ、この集まりは、今までの会議とは事情が大きく違うのだから。

 今まで自分たちが戦いを繰り広げて来たエネミーたちの長、魔王。何もかもが謎に包まれていた彼らの秘密が一つ暴かれようとしている。それも最も気になる正体がわかったと言うのだから、勇たちが驚くのも無理は無いだろう。

 なんにせよ、今回の会議は普段とは全く違う物になる……そう確信する生徒たちの前に姿を現した天空橋もまた、彼らの緊張感を肌で感じ取っていた。

 

「……会議の内容は既に伝えた通りです。回りくどい話も面倒でしょう。端的にお話させて頂きます」

 

 PCを操作し、スクリーンに一人の男性の写真を映し出す天空橋。勇たちはその男性へと視線を注ぐ。

 容姿から察するに、年齢は20代の後半から30の前半の様に思える。不健康そうにこけた頬と不揃いな頭髪が男性を不気味に見せており、加えてぎょろりとした眼がどこか彼を化物じみた存在の様に演出している。シックな黒色を基調とした出で立ちをしている男性は見方によっては良い男にも見えるが、どうしても不穏な雰囲気を拭いきれないでいた。

 

「こいつ……!? 確かに、エックスが消える寸前に姿を現した奴だ!」

 

「ええ、画像認証で確認しましたが、顔と体形の特徴はほとんど一致しています。彼の名は黒須柾木(くろすまさき)、10年前に失踪届けが出されていることが警察で確認されており、行方不明になる前は伝説的な脚本家として有名な方だったそうです」

 

 脚本家、という言葉を耳にした一同の表情が強張る。エックスもまた自分を脚本家と捉えていた節があった。その点もまた黒須と酷似している。

 容姿と性格が一致している以上、黒須=エックスであることはほぼほぼ間違い無いだろう。問題は、彼が魔王へと変貌するまでの経緯だ。

 勇たちが動揺と困惑をそれぞれに見せる中、天空橋からバトンタッチした命が彼らの前に立つと黒須の経歴について淡々と語り始めた。

 

「黒須柾木……大学生の時に公募のシナリオコンクールにて優秀賞を受賞。そのままシナリオライターとして活躍し始め、舞台の脚本を中心として大活躍を続ける。ただ、本人がメディアへの露出や人間嫌いだったこともあり、業界外での知名度はほぼ皆無に等しかったそうだ」

 

「聞く限りでは順風満帆な生活だった訳じゃないですか。何でそんな人が魔王に……?」

 

「そこに至るまでの詳しい経緯は分からない。だが、黒須は元来の拘りが原因で所属していた劇団を追い出されてしまうこととなった。劣悪な人間性を加味しても彼を欲しがった会社や劇団は多く在ったそうなのだが……黒須はその全てを断り、その数日後に姿を消すこととなる。その直前に彼は気になる言葉を残しているんだ」

 

「気になる言葉……?」

 

「ああ……『もう人に使われるのは終わりだ。ボクは、世界全てを動かす王となる』……そう、言っていたそうだ」

 

「王……! 黒須は、魔王の存在をその時点で知っていた!?」

 

「ちょちょちょ! ちょっと待ってや! 確かにこの黒須っちゅうおっさんがエックスの正体っぽいってことは納得出来る。でも、ソサエティが生まれたんは12,3年前やで? 魔王であるエックスは、ソサエティが出来た後に誕生したってことかいな?」

 

「それは……確かに変だねぇ……」

 

 黒須についての話で盛り上がる中、光圀が一つの疑問を一堂に投げかける。言われてみればとその疑問に首を傾げる勇たちであったが、どっかりと構える大文字が低く唸る様な声で場をまとめ始めたことで全員が彼の言葉に耳を傾ける様になっていた。

 

「分らぬことも多くある。だが、逆に分かったこともあるだろう。まずは我らが知り得る限りの情報を整理してみてはどうだ?」

 

「そうだな……! えっと、じゃあまずは――」

 

「エックスは元は人間の黒須柾木だった。これはもう、ゆるぎない事実だよね?」

 

「もう一つ、そうして魔王になった黒須は王の器を手に入れた。もしかしたら順番は逆かもしれないけどね」

 

「王の器を手に入れたから魔王になったのか? 魔王になってから王の器を手に入れたのか? ……判断はつかないね」

 

 ディーヴァの三人が口にした言葉を天空橋がスクリーンに表示していく。分かり易く情報を纏めようと努力する彼の横では、今度は光圀と仁科が意見を口にしていた。

 

「黒須の失踪は10年前。対してソサエティの誕生はそれより前だ。つまり、エックスはソサエティの後に生まれた魔王ってことになる」

 

「他の魔王もそうなんか? それともエックスが特別なんか? これも疑問の一つやな」

 

 スクリーンに映し出される新たな情報。一つ一つの手がかりからソサエティや魔王の正体に迫っていく勇たち。じりじりと真実へ距離を詰めて行く中、光牙が呟く様な大きさの声を発した。

 

「もう一つ、忘れてはいけないことがある。エネミーを生み出すウイルス『リアリティ』の元となった『エンドウイルス』の抗体を作り出した女性……龍堂くんの母親である龍堂妃さんが亡くなったのが15年前だ。どうにも、ソサエティの謎に関わる事件はこの10数年前に密集してると思わないかい?」

 

 光牙の言う通りだった。龍堂夫妻が事故で死亡したのが15年前。その数年後に『リアリティ』と『ソサエティ』が誕生し、その後に黒須は失踪、魔王エックスへと姿を変えた。この数年の間にソサエティ絡みの事件が起き続けているのである。

 この数年間には何かがある……この場に居る全員がそう思わざるを得なかった。同時に、命もまた調査をこの年代に絞って続行することを心の中で決心する。

 そんな中……会議を纏めていた大文字が瞳を開き、ぐるりと周囲の生徒たちを見まわした後で口を開く。その表情には、何か重々しい感情が含まれていた。

 

「……ここまで出た情報を纏めた我の考えを述べさせて貰おう。これはあくまで推測だ、何の根拠もない。だが、決してあり得ない話でも無い筈だ」

 

「……君の考えを聞かせてくれますか、大文字くん」

 

 天空橋の促しを受け、大文字が首を縦に振る。そうした後、彼は再び口を開いて自分の考えを語り始めた。

 

「龍堂夫妻の死、ソサエティの誕生、そして黒須の変貌……この事件はすべて繋がっている、我はそう思う。この事件の裏では、何者かが糸を引いているのだ」

 

「な、なんです、それ……? 謎の陰謀論ってことですか……?」

 

「事はもっと単純だ。ソサエティを生み出したのも、黒須を魔王に変えたのも、その暗躍者だとすれば納得がいくのだからな」

 

「あぁ? どういう意味っすか?」

 

 大文字の話を理解出来ない仁科は首を傾げて間抜けな声を漏らした。だが、光圀を始めとする聡明な生徒たちは、これまでの話で大文字が何を言いたいのかを理解した様だ。

 

「暗躍者は、エンドウイルスの情報をどこからか聞きつけた。そして、それを利用する計画を立てた……!」

 

「エンドウイルスを入手、それを改良してリアリティを生成した暗躍者は、それを世界に放った……! 本当はここで世界を征服したかったけど、エネミーたちを『ディスティニークエスト』の中に封印されたことで侵略は中途半端な結果に終わってしまう。だから、計画を変更してソサエティと現実世界を戦わせることにした!」

 

「そのエネミーを指揮したり、各ワールドに分かれたソサエティを統治させるために魔王を作り出した。暗躍者は適当な人間を見繕って、そいつにエンドウイルスを投与したんやろ。んで、戦争の準備を整えたってことやな」

 

「そんな……!? そんな、怖いことを計画出来る人が居るって言うの!? 世界征服を目論んでる人が、世界のどこかに居るってこと!?」

 

「……全ては推測の域を出ない話だ。しかし、可能性はかなり高い。否定材料も無いのだからな」

 

「嘘……! じゃあ、エネミーを生み出したのは人間ってことなんですか!? 悪意を持った誰かが、世界を滅ぼそうとしてこんな事件を引き起こしたってことなんですか!? 私たちの真の敵は……エネミーじゃなくって、人間ってことなんですか!?」

 

 やよいの悲痛な叫びには、悲しみと困惑の色がありありと現れていた。無理もない、今までずっと彼女は外界からの侵略者と戦って来たつもりだった。しかし、そのエネミーを作り出したのは人間である可能性があると知り、動揺してしまっているのだ。

 なにもそれはやよいだけではない。葉月や謙哉、玲や光牙もまた動揺を露にしている。しかし……そんな中でまた違う意味での動揺を胸にしている人物が一人いた。

 

「待って、下さい……もし、その話が事実だとしたら、そしたら……!」

 

「マリア……? 一体、どう――」

 

 他の生徒たちより明らかに大きな動揺を見せているマリアを案じた光牙は、彼女の顔色が真っ青であることに気が付いて紡いでいた言葉を途切れさせた。一体、何が彼女をここまで追い込んでいるのか? 声を詰まらせた光牙をよそに、マリアは大文字へと自らの思いを確かめる様にして語り出す。

 

「もし、もし……ソサエティを生み出した暗躍者が本当にいるとするなら、そう、だったら……!」

 

「……気が付いたか。恐らくは、その想像通りだ」

 

「ああ、そんな……!?」

 

 大文字の返答を受け、マリアはその場にガクリと膝から崩れ落ちた。青ざめ、目に一杯の涙を浮かべるマリアと大文字を交互に見比べるメンバーは、唐突に口を開いた大文字の声に耳を傾ける。

 

「……もし、暗躍者がソサエティを生み出すためにエンドウイルスを使おうと考えた場合、一つ大きな障害が生まれることとなる。それは、抗体を生み出した者の存在だ。細菌兵器の抗体を作られてしまっては、それに価値がなくなってしまう。故に……暗躍者は、その障害を取り除かなければならなかった」

 

「え……?」

 

「この場合の障害とはつまり、抗体を作り出した龍堂妃に他ならない。彼女が存在していては、間違いなくエンドウイルスの完璧な対策を作り上げられてしまう。だからこそ……暗躍者は、彼女を排除した」

 

 しん、と空気が静まり返った。誰かの荒い息遣いとすすり泣く様な声だけが響く部屋の中で、誰もがそのことを言葉にすることを恐れていた。しかし、ただ茫然とした様子の葉月が信じられないとばかりに首を振り、マリア同様に瞳に涙を一杯に浮かべながら……ついに、誰もが思い描いた言葉を口にする。

 

「殺されたってこと……? 勇のお父さんとお母さんは、暗躍者の野望の邪魔になるから殺されたってことなの……!?」

 

「……その可能性はかなり高い。全てが繋がっているとするならば、それが一番しっくり来る解答だ」

 

「そ、んな……? そんな、ことのために……!?」

 

 未だに想像の範疇を出ない答え。だが、ほぼ現実に起きたとしか考えられない答えでもある。ここまで集めた情報が、この答えを導き出しているのだ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだと……。

 

「世界さんと妃さんが殺された……!? まさか、そんなことが……!」

 

「……結論を急ぐのは危険だ。しかし、暗躍者の存在やエックスを魔王に変えた存在が居ることはほぼ間違い無いだろう。であるならば、これは――」

 

 天空橋も命も、こうして導き出された答えに動揺を隠しきれてはいない。ここに来て噴出した新たな可能性に狼狽しつつも、大人として出来る限り冷静になろうと努めていた。

 だが、そんな彼らの耳に響いたのは鈍く大きな打撃音だった。音の発生源に視線を向け、硬直する天空橋たちの眼には、拳を震わせて立ち上がっている勇の姿が映っている。

 

「……誰だ……? その暗躍者ってのは、誰なんだ!? 誰が親父とお袋を……俺の家族を奪ったんだっ!?」

 

「勇、落ち着いて! まだそうだって決まったわけじゃ――」

 

「ソサエティの裏には悪意を持った何者かの影がある! それは紛れも無い真実だ! なら、そいつと俺の両親の死が無関係な訳がねえ! 抗体を作れるお袋がたまたま死んで、その数年後にパンデミックが起こるなんて偶然にしても出来過ぎだろうがよ!」

 

 冷静さも落ち着きもかなぐり捨て、勇は謙哉に向かって叫ぶ。その眼には涙が浮かぶと共に怒りの炎が燃え上がっていた。今まで事故だと思われていた両親の死が何者かによって引き起こされた事件だとするならば、これまでやこれからの戦いの意味が変わって来る。

 もしも、何者かがエンドウイルスを使って世界を征服しようとしているのならば。もしも、その何者かが勇の両親を暗殺したとするのならば。勇にとってこの戦いは……親の仇を討つ戦いになる。両親を殺し、世界を我が物にしようとする悪を滅ぼすための戦いになるのだ。

 

「大文字! 誰が暗躍者なんだっ!? お前なら目星もついてるんだろっ!?」

 

「……候補は二人だ。一人目は、大魔王と呼ばれている存在……その名前からして、一番最初の魔王は奴である可能性が高い。つまりはソサエティを作り出した存在だとも言えるだろう」

 

「なら、もう一人は誰だ? お前の考えるもう一人の暗躍者の正体は!?」

 

「……龍堂、忘れた訳ではあるまい。我々が初めてエンドウイルスに遭遇した時、その事件の裏で糸を引いていたのは誰だ?」

 

 大文字の言葉を受けた勇は、過去の記憶を遡ってエンドウイルスとの邂逅の時を思い返し始める。自分が初めてエンドウイルスの存在を知った時、それは悠子がエネミーに変貌した時だったはずだ。

 悠子をエネミーにしたのは今は亡き『色欲のマリアン』だった。彼女が悠子にエンドウイルスを感染させ、事件を巻き起こしたのだ。つまりは、マリアンを操っていた存在がもう一人の暗躍者候補である。マリアンを操れる人物など、一人しか存在していない。

 

「『大罪魔王 ガグマ』……! 奴がもう一人の暗躍者候補……!」

 

「うむ……何故、奴はエンドウイルスを持っていたのか? そこにも疑問が残っている。しかしそれも奴が暗躍者だとするならば容易く答えが出るだろう。なんにせよ、奴からも詳しく話を聞かねばなるまい」

 

「あぁ……! 何としてでも口を割らせてやるよ……! もし、ガグマが俺の両親を殺したとしたら、そん時は……っっ!!」

 

 煮え滾る怒りの炎を胸に抱き、勇はガグマへの憎しみを募らせる。新たに浮かび上がった事実は、これから先の戦いにどう影響するのか? その答えを知る者は今は何処にも存在していないのであった。

 

 





――夢を見る。とてもとても楽しい夢を見る。夢の中では何でも出来て、不可能なんて一つも無い。幸せで、最高で、ずっとずっとこうしていたいと私は思う。
 でも、夢は終わってしまう。目が覚めれば悪夢の様な現実が目の前にある。私はただ、絶望することしか出来ない。
 ……そんな私の前に、彼はやって来た。

「君を辛い現実から連れ出そう。私はヒーロー。子供たちのヒーローだ」

 彼は、私に力があると言ってくれた。その力で同じ様に苦しむ子供たちを救えると言ってくれた。
 彼は、私を夢の国に連れて行ってくれた。私の力と重なれば、どんな夢だって叶う素敵な世界を教えてくれた。
 彼は、私たちのヒーロー。子供たちの夢を守り、笑顔を守る最強のヒーロー。私たちは彼に名前を付けた。最高のヒーローに相応しい、最高の名前を……

 彼の名は、()()()()()()()()()()()。私たちのソサエティ、『ドリームワールド』を守る戦士。
 私たちはこの夢から目覚めない。永遠の幸せの中で微睡み、生き続けるのだ……。



『劇場版 仮面ライダーディスティニー HERO IN THE DREAM』 今冬公開予定

 世界の危機に『無敵の運命』が覚醒する。



続報は後書き及び活動報告にて公開予定!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。