仮面ライダーディスティニー   作:茜丸

89 / 100
少し早いですが、明日分のお話を投稿します!

これが、謙哉と玲が作り上げた物語です!



創世の騎士王

 暗黒城……その名の通り深い闇に包まれた暗き城。その城主であり、この世界のエネミーを支配する魔王であるエックスは、自分の居る玉座の間に続く扉が開いた事に笑みを浮かべた。

 

 開いた扉の先から姿を現したのは、仮面ライダーを始めとする現実世界側の戦士たち。予想以上の数が集まった若者たちは、全員がエックスを倒して玲を救い出すと言う目的の下、固い結束に結ばれている。

 彼らの軍団から一歩前に出た勇は、鋭い視線をエックスに向ける。そして、仲間たちの思いを代表して、彼に告げた。

 

「エックス……お前を倒してみせる! 水無月は返して貰うぞ!」

 

「……虎牙謙哉は居ないのかい? 《狂化》の力抜きで、ボクに勝てるとでも?」

 

「うるせえ! 何が何でも勝つんだよ!」

 

「絶対に玲を助け出す! その為に皆が協力してくれてるんだ! アンタなんかに負けないんだから!」

 

 ドライバーを構えながら叫ぶ葉月の背後では、三校の生徒たちが思い思いにカードを使って戦闘態勢を整えていた。

 武器を召喚する者、エネミーを呼び出す者、攻撃や補助の魔法を大量に展開する者……それぞれが自分の出来る事を行い、この戦いに勝利しようとしている。

 勇たちドライバ所持者たちもまた変身の為のカードを構えると、同時にそれを使用して戦いの為の鎧を纏った。

 

「変身っっ!!」

 

《ディスティニー! チョイス ザ ディスティニー!》

 

《ブライトネス! 一生一度の晴れ舞台! 私、幸せになります!》

 

《ディーヴァ! ステージオン! ライブスタート!》

 

《キラー! 切る! 斬る! KILL・KILL・KILL》

 

「良し……行くぞっっ!!」

 

 セレクトフォームに変身した勇を筆頭にブライトネスの葉月、接近戦が得意な光圀、援護役のやよいと隊列を整えた仮面ライダーたちは、それぞれの武器を手に死ながらエックスを睨む。

 数は十分に揃えた、これならば謙哉が居なくても十分に勝算はある筈だ。

 

 だが、エックスは圧倒的に不利な状況にも関わらず余裕を崩さないまま笑い続けている。

 まだエックスが何か奥の手を隠し持っている事を感じ取った勇が、その不気味さに背筋を凍らせていると――

 

「……しょうがないなぁ。君たちがそのつもりなら、ボクも少し遊んであげるよ」

 

「!?!?!?」

 

 何やら意味深な呟きを口にしたエックスが立ち上がると、同時に彼の周囲に黒い影の様な兵隊たちが現れた。

 その数は多く、勇たちがかき集めた戦力とほぼ同じほどまで存在している。突如として出現した敵兵に驚かされつつも、しかしその程度の事で勇たちは怯む訳が無い。

 

「全員、油断するなよっ! かかれっっ!」

 

「おおーーっっ!」

 

 改めてエックスを睨みつけ、叫んだ勇は先頭を切る形で駆けだした。仲間たちもその背に続き、エックスとの戦闘がついに始まる。

 

 真っ先に敵の集団に辿り着いた勇は、目の前の影の兵を一刀の下に斬り捨てた。その後、続くもう一体を返す刀で両断し、次々と屠って行く。

 優位に雑魚の群れを打倒していく勇。それは他の仲間たちも同様で、仮面ライダーだけでなく一般の生徒たちですらも容易にエックスの召喚した兵たちを倒し続けていた。

 

「おい、こいつら滅茶苦茶弱いぞ!」

 

「この程度なら、仮面ライダーの力を借りるまでも無いわ!」

 

「行ける……行けるぞ! 俺たち勝てる!」

 

 ほぼ一方的な戦いを繰り広げる仲間たちは、また一体の敵を倒して歓喜の声を上げた。

 自分たちが優勢である事で生徒たちの士気が上がり、更に戦局を有利にしていく。

 

「てぇやぁぁぁぁぁっっ!!」

 

 勢いに乗る仲間たちの様子を見た勇は、気合の雄叫びと共に立ち並ぶ兵隊を一気に叩き切った。5,6体並んでいた兵たちは、その一撃を以って全員が消滅してしまう。

 

 行ける、勝てる……戦況も有利で、仲間たちの士気も高い。策士であるエックスを相手に油断は出来ないが、それでも十分に勝算はある。

 希望を感じ、また一歩前に出た勇はこれで何体目か分からない数の影の兵を斬り捨てた。もう少しでエックスの下に辿り着く、直接攻撃を仕掛け、この剣で叩き斬る事が出来る。

 

「うおぉぉぉぉぉぉっっっ!!」

 

 また一体、もう一体。ディスティニーソードの刃が敵を捉え、無慈悲にもその体を引き裂く。

 この兵たちは自分たちの相手にならない、そんな思いを胸に勇はまた一歩前に踏み出す。 

 

 そして、違和感に気が付いた。

 

「せっ! たぁっ!!」

 

 また一体、勇は敵を倒した。葉月や光圀も次々と敵を倒し、他の生徒たちも兵たちを順調に倒している。

 戦況は自分たちが有利だ、敵は自分たちに倒され続けている。なのに、()()()()()()()()のだ。

 

「勇ちゃん! なんか変やでっ!」

 

「ああ、俺もそう思っていたところだ!」

 

 また数体、勇たちは敵を斬って捨てた。倒した敵は消滅し、その場で雲散霧消する。だが、すぐに他の兵たちが勇たちの元に向かって来るのだ。

 倒しても倒してもきりがない、何時までもエックスの元に辿り着く事が出来ない。自分たちは先ほどからずっと、この雑魚たちの相手を続けさせられているのだ。

 

「な、なんだ……? まだ終わらないのか!?」

 

「もうかなりの数を倒した筈でしょ? なのに何でまだあんなに居るのよ!?」

 

 生徒たちの中にもその異変に気が付く者が現れた。彼らの中で生まれた不安はすぐに伝播し、他の生徒たちにも広がって行く。

 その不安に拍車を掛けたのは、終わらない戦いを続けているが故の疲労だった。いかに雑魚であろうとも、相手をすれば間違いなく消耗はする。体力も精神力も、じりじりと削られ続けているのだ。

 

「どうなってるのよ、これ!? 敵が全然減らない……!」

 

「私、もう30体は倒したよ? 最初に見た時、それで半分くらいだったよね?」

 

 葉月とやよいも疲労が蓄積して来た様だ。減る気配の無い敵に対して恐れを抱きつつある彼女たちは、同様による呼吸の乱れを必死に整えながら戦いを続けていた。

 

 終わらない、先に進まない……一体何がどうなっているのか分からない勇たちは、それでも敵を倒し続けるしかない。

 エックスはそんな勇たちの様子を見て大きな笑い声をあげると、減らない敵のからくりを説明し始めた。

 

「あ~、面白い! 無駄な頑張りをする君たちは非常に滑稽だよ! これね、いくら頑張っても数は減らないんだよね!」

 

「何っ!? どう言う意味だ!?」

 

「こいつらの名前は『暗黒兵』、ボクの能力で生み出した意思の無い兵隊さ。こいつらの強さはレベルで言えば10にも満たない雑魚中の雑魚なんだけど、その代わりにリソース無しで無限に呼び出せると言う特性があるんだよ」

 

「む、無限に、呼び出せる……!?」

 

「そう。君たちが一体倒した次の瞬間には、もう別の一体が生み出されているんだよ。こいつらの生成には一瞬あれば十分だし、ボクも力はほぼ使わない。だから、ボクがその気になれば君たちは一生こいつらの相手をし続けなくちゃならないってことさ」

 

「そんな……! 何よ、それ……?」

 

 あまりにも絶望的な暗黒兵の特性にやよいが苦しい声を漏らした。次々に出現する敵は力こそ弱いものの、延々と戦い続けられる相手では無い。

 このままでは自分たちはじわじわと消耗し、何時か戦えなくなる時が来るだろう。そうなったら全てが終わりだ。だが、この状況の解決策は思いつかなままだ。

 

「あっはっは! せいぜい頑張りなよ! ほら、ボクの所までやって来てご覧?」

 

「クソっ! 調子に乗りやがって……!」

 

 余裕のエックスに悪態をついた勇はまとめて数体の暗黒兵を斬り倒すも、次々と敵は襲い掛かって来る。ここまで戦いが続けば、流石に精神的な疲労は隠しきれなかった。

 精神的な疲労は肉体の疲労を呼ぶ。暗黒兵との戦いが終わらない事が、生徒たちの気力を徐々に奪って行く。

 

 勇たちが気が付けば、優勢だった戦況は逆転されていた。暗黒兵の物量作戦に飲まれつつある勇たちは、この状況に更に焦りを募らせる。

 

「あははははは! あはははははっっ! 水無月玲を助け出すんだろう? そんなんじゃあ到底ボクに勝てっこ無いよ!」 

 

 自分の仕掛けた策が効力を発揮する様にエックスは高笑いを上げた。まるで弱い毒が徐々に獲物を弱らせて行く様に敵を殺す様子は、いつ見ても楽しい物だ。

 

「あはははははははははっっ! は~っはっは!」

 

 エックスは笑う。あまりにも圧倒的なこの戦いに。

 このまま戦いが続けば、勇たちは勝手に消耗して倒れてくれるだろう。自分は指一本動かさないまま勝利出来ると言う訳だ。

 

「くははははははははははっ! あはははははははっ!」

 

 あれだけ意気込んで自分に挑んで来たくせに、自分に手傷一つ負わせられない勇たちを嘲笑するエックスは、倒されて行く暗黒兵を再生しながら笑い続ける。

 結局、最初から結果は決まっていた。多少の暇つぶしにはなったが、その程度だろう。そんな思いを心の中で浮かべたエックスは、拳を開き、そして――

 

 そこで、違和感に気が付いた。

 

「ん……?」

 

 暗黒兵を生み出し続けていたエックスは、その再生スピードが落ちている事に気が付いて首を傾げた。最初は気のせいかと思ったが、今は確実にその速度は遅まっている事がわかる。

 再生の速度が遅くなれば、元々弱い暗黒兵は簡単に倒されてしまう。敵の数が減っている事に気が付いた勇たちは、再び勢いを復活させて暗黒兵たちを押し始めた。

 

「行けるっ! 行けるぞっ! 踏ん張れ、皆っっ!!」

 

 勇たち仮面ライダーを先頭にして盛り返し始めた生徒たちは、エックスに向かって快進撃を始めた。

 どうして暗黒兵たちの生成が遅くなったのか? その疑問にエックスが首を傾げていると――

 

「……調子に乗り過ぎましたね、エックス。タネが分かれば、能力の対策なんて簡単なんですよ」

 

「ちっ……! 天空橋、貴様か……!」

 

 得意げな笑みを浮かべて自分を見つめる天空橋を見たエックスは、苛立ちが籠った呟きを吐き捨てた。彼の手にはノート型のPCがあり、それがフル起動している事が見て取れる。

 どうやら天空橋は、倒される暗黒兵からそのデータを収集する事で、生成を遅らせるプログラムを構築した様だ。自分の能力を封じに来た天空橋の行動にもう一度舌打ちを打ちながら、エックスは勇たちへと視線を移す。

 

「エックス! これで終わりにしてやるぜっっ!」

 

「俺も付き合うで、勇ちゃん!」

 

「やよい、手を貸して! アタシの合体必殺技で行くよ!」

 

「うんっ! 私たちで玲ちゃんを助けようよっ!」

 

 気が付けば、暗黒兵たちはその数をほとんど減らしていた。残る数体も生徒たちが相手しており、仮面ライダーたちは完全にフリーな状態になっている。

 勇が、光圀が、葉月とやよいが……それぞれの武器を手に必殺技を発動する構えを取る。

 本気の一撃でエックスを倒そうとする4人は最強の一撃を繰り出すべく、武器を握る手に強く力を込めていた。

 

《必殺技発動! 血風・五月雨斬り!》

 

《合体必殺技発動! ウェディングケーキ・カット!》

 

《超必殺技発動! ギガ・ディスティニーブレイク!》

 

 それぞれのドライバーから電子音声が響き、4人の仮面ライダーたちの必殺技が発動の準備を終えた事を告げる。後は、その手を振るって攻撃を仕掛けるだけだった。

 

 光圀の手にする妖刀・血濡れが紫色の妖しい光を宿す。葉月とやよいが共に掴むロックビートソードが祝福の光に包まれる。

 そして勇が頭上に構えたディスティニーソードには竜巻の如く風が纏われ、激しい暴風を巻き起こしていた。

 

「こいつで……終わりだぁっ!!」

 

「やぁぁぁぁぁぁっっ!!」

 

 気合の雄叫びと共に繰り出される三つの必殺技。それらは真っすぐにエックスへと向かい、彼の作り出した防御壁にぶち当たる。

 バチバチと火花が弾け、甲高い音を響かせ、長い様で短い攻防の激突の後、ライダーたちの必殺技は見事に結界を破壊し、エックスへと直撃した。

 

「や、やったぁっ!」

 

「どないや!? やったか!?」

 

 爆発によって巻き起こった煙の内部はまだ見えない。だが、確かな手応えを感じた勇たちは笑みを浮かべながらエックスの反応を観察していた。

 多少防御によって威力は軽減されたとは言え、強力な必殺技を三つ同時に喰らえばいかに魔王と言えど無事では無いだろう。大きなダメージを負わせることに成功している筈だ。

 

 もしかしたら……この攻撃で戦いの決着がついたかもしれない。希望的観測かもしれないが、その可能性も十分にある程の手応えであった。

 

 だが――

 

《超必殺技発動 ダークバレットストーム》

 

「!?!?!?」

 

 煙の中から姿を現したのは、傷ついたエックスでは無く無数の黒い弾丸だった。勇たちに向けて真っすぐに飛来するその弾丸の数は、到底数えきれる物では無い。

 

「ぐわぁぁぁぁぁっっ!!」

 

 必殺技を放った後の隙を見逃さずに放たれた反撃に何の防御も起こす事が出来ないまま、勇たちは連続して弾丸を食らってしまった。

 大きく背後に吹き飛ばされ、地面に転がった四人の体からドライバーが剥がれ落ちる。変身を解除させられてしまった四人は、痛みを堪えながら弾丸の発射先を睨めば、そこには何てこと無い様な様子で杖を構えるエックスが立っていた。

 

「いやぁ、危ない危ない……でも、ピンチの後にはチャンスがあるって言うのは本当だねぇ!」

 

「な、何で……? 私たちの必殺技は、ちゃんと当たったはずなのに……?」

 

 エックスは勇たちの必殺技を受けてもなお平然とした様子のままだ。多少のレベル差があるとは言え、四人の全力の技を受けて無事と言うのは明らかにおかしい。

 その疑問を口にしたやよいに視線を向けたエックスは、ニンマリと笑ってその予想通りの反応を喜び、種明かしを始めた。

 

「ああ、実はこれもボクの能力なんだよ。ボクの能力の名は『改竄』、文字通りエネミーたちのデータを改竄し、能力を付け加える事が出来ると言う物さ。そして、改竄出来る対象には、このボクも入っている。だから、ボクは自分のデータを改竄して超強い能力を付与したってわけさ!」

 

「何、だと……?」

 

「……ノーコスト、タイムラグ無しで行える暗黒兵の召喚もその一つ。君たちの攻撃を防いだのはね、『攻撃の威力を属性一つにつき半減する』って能力さ。例えば、風、斬撃、運命の3属性を持つ君の攻撃なら、当初の威力の半分の半分の半分……つまり、八分の一の威力になるってこと!」

 

「待て、待て待て待て! それって何か? お前に対する攻撃全部は、最低でも半分の威力になってまうってことかいな!?」

 

「そう言う事! ……後、ボクの攻撃は『全て対象の弱点属性になり、敵の弱点を突く』って言う攻撃能力もあるよ。まあ、これがボクが付与できる能力の限界って所かな? その分、他の魔王たちに比べればステータスは低いんだけどさ……」

 

「何すか、それ……? まるっきりチートじゃないすか!?」

 

 エックスの解説を聞いた夕陽は、顔を真っ青にしてそう呟いた。体は小刻みに震え、瞳には涙すら浮かんでいる。

 無限に手駒を召喚出来る上、攻撃と防御に関しても完璧に隙が無い。他の魔王よりステータスが低いと言っても、エックスは自分たちより圧倒的に能力値は上だ。

 生徒たちがその事実を知って愕然とする中、エックスは更に絶望を与えるべく杖を一振りする。そうすれば、天空橋のプログラムで抑えられていたはずの暗黒兵たちの召喚が、再び行われ始めたでは無いか。

 

「な、なんですって!? そんな、どうして……?」

 

「……あんまりボクを甘く見ないでよね。一つの構築プログラムを抑えられた所で、その内容を変えちゃえば何の意味も無い……お前程度の浅知恵で、魔王たるボクの能力を封じ込められるなんて思い上がるなよ」

 

「そ、そんな……どう、すれば……?」

 

 一度は希望が見えたはずだった。しかし、それはエックスが与えたまやかしの光であった。自分たちは彼の手の上で転がされていたにすぎなかったのだ。

 兵力も個人的な戦闘能力でも敵わない。突破口も見えない。自分たちの置かれた絶望的状況を理解しつつある生徒たちは、徐々に戦意を喪失しつつある。だが、それでも仮面ライダーたちは諦めようとはしなかった。

 

「へっ、おもしれえじゃねえか……! ゲームは難しい方が攻略し甲斐があるってもんだ!」

 

 傷だらけの体に鞭打って立ち上がった勇は、威勢の良い言葉を口にしながら不敵に笑う。彼の周囲で倒れていた葉月達もまた、彼と同様に立ち上がって再び戦う構えを見せた。

 

「なんやタネが分かれば簡単なこっちゃ、何時もの二倍斬ればええんやろ? やったろうやないかい!」

 

「玲を、助けるまでは……絶対に、諦めないっ!」

 

「まだ戦える! まだ諦めない! 私たちは、玲ちゃんを助け出すんだからっ!」

 

 光圀が、葉月が、やよいが、己の誇りを込めて叫び声を上げる。しかし、彼らの体は既にボロボロで疲労も蓄積しており、戦える状態では無い事など誰が見ても明らかだ。

 それでも諦めない勇たちの事を見下した様な視線で見つめていたエックスは、溜息を吐いて杖を構えた。多少順番が前後してしまうが、謙哉の前に勇たちをゲームオーバーにしてしまうのも悪く無いだろう。

 

 彼がそう考え、再び必殺技を発動させようとした、その時――

 

「待てよ、エックス……お前の狙いは、僕だろう?」

 

 開いたままになっている扉の向こう側から聞こえたその声に魔王も生徒たちも全員が顔を向けた。そして、そこに立つ男を視界に捉え、それぞれの反応を見せる。

 多くの視線を受けながらゆっくりと歩み出した謙哉は、ドライバーを腰に装着するとホルスターから《狂化》のカードを取り出してエックスを睨む。その様子を見たエックスは、戦いの対象を勇たちから謙哉に変えて彼を歓迎した。

 

「やあ、待っていたよ! さあ、早く戦おうじゃあないか! ……もう君の邪魔をする奴はいない。愛しのお姫様を助け出す為には、ボクを倒すしかない……なら、手段は一つだろう?」

 

「……ああ、その通りだ。僕の取る手段は一つしかない……!」

 

 狂化のカードを手に、エックスを睨む謙哉は瞳を閉じて深呼吸をする。心を落ち着かせ、覚悟を固めた謙哉は、瞳を開くと共に強い光を瞳に灯らせていた。

 

「駄目です、謙哉さん! 狂化のカードを使っては駄目だ!」

 

 謙哉は再び狂化のカードを使ってエックスに挑むつもりなのだろう。しかし、体に多大なる負担を懸けるそのカードを使えば、今度こそ謙哉の命は無い。

 そう予感した天空橋が大声で叫ぶも、謙哉は躊躇い無く狂化のカードを右手で掴んだ。その状態で再び深呼吸をし、そして――

 

「やぁっっ!!」

 

「……は?」

 

 短い叫びを上げ、カードを真っ二つに破り去った。

 

 目の前で、自分に勝てる可能性を文字通り破り捨てた謙哉の行動にエックスは間抜けな声を漏らす。それは、自分が長らく企てて来た計画が水の泡になった事も意味している。彼も当然、困惑と失望に茫然とする他無い。

 謙哉はそんなエックスの心中を知ってか知らずか荒い呼吸を繰り返すと、僅かに微笑みを浮かべた後で口を開いた。

 

「ふぅ……ちょっとすっきりしたかな」

 

「お前、自分が何やったか分かってる訳? 狂化のカード無しでボクに勝てるとでも思ってるの?」

 

「……わからないさ。確かにボクがこのままお前と戦って勝つ可能性は限りなく0に近いんだろう。でも、ボクがあのカードを使って勝ったとしても、誰も笑っちゃくれないんだ」

 

「はぁ……?」

 

 エックスにとっては理解出来ない謙哉の言葉。しかし、彼がここに辿り着くまでに導き出した答えは、今度こそ彼にとって最高の答えだった。

 謙哉は叫ぶ、思いを胸に。多くの仲間に、目の前の敵に、そして、()()に向けて胸の中の思いを叫び続ける。

 

「僕がお前に勝ったとしても、僕が死んだら誰も笑っちゃくれない! 勇も新田さんも片桐さんも、水無月さんだって……皆、皆、誰も笑顔になんかなれない! 僕が守りたいのは皆の笑顔なんだ! だから、もうこのカードは使わない! 可能性が僅かでも、ボクはお前に勝ってみせる! そして、水無月さんの笑顔を取り戻す!」

 

 叫びを上げた謙哉が取り出したのは青の騎士が描かれたカード。一番最初の瞬間から共に戦い続け、苦楽を共にし続けて来た《サガ》のカード。

 もう自分の命を犠牲にはしない。そして必ず勝つ。決意と共にカードを握り締めた謙哉は、《護国の騎士 サガ》のカードをドライバーへとリードした。

 

「変身っっ!!」

 

《ナイト! GO ファイト! GO! ナイト!》

 

 堅牢なる鎧を身に纏い、蒼く輝く盾を光らせ、謙哉はエックスに向かって突撃する。その先に居る玲の事を心の中に思い浮かべ、謙哉は床を蹴って大きく跳躍した。

 

「はぁぁぁぁぁぁっっ!!」

 

 拳を振り上げながらエックスへと落下する謙哉。そのまま勢いを付けた右ストレートを食らわせるつもりで飛び掛かった謙哉は、エックスが微動だにしていない事を見て攻撃の成功を確信していた。

 しかし――

 

「……ふざけるなよ、お前」

 

「!?!?!?」

 

 エックスの呟きと共に、謙哉の体は重力に逆らって浮かび始めた。ジタバタと空中でもがく事しか出来なくなった謙哉に対し、エックスは明らかに怒りの籠った視線を向けて吼える。

 

「何が笑ってくれないだ、何が可能性は低くとも勝つだ……そんな下らない理由で、ボクの脚本を壊しやがって!」

 

「ぐぅぅっっ!?」

 

 腹部に魔王での一撃を受けた謙哉は、苦し気な呻きを漏らして後方へと吹き飛んだ。体がくの字曲がる程の衝撃は簡単に回復せず、床に崩れ落ちた謙哉は顔をしかめて痛みに耐えている。

 

「お前の勝手な行動のお陰でボクの脚本は全てパーだ。お前たちキャストは、ボクの手の上で踊り回ってりゃいいんだよ! なのに、勝手な真似をしやがって……! もう良い、お前のデータなんか要らない。当然、水無月玲のデータもだ!」

 

「がぁぁっっ!!」

 

 魔法弾での追撃を受けた謙哉は、再び吹き飛ばされて地面を転がった。エックスは変身を解除した謙哉の周囲に暗黒兵を召喚し、彼を取り囲んだ状態で指示を下す。

 

「八つ裂きにしろ、見るも無残に殺してやれ! ……お前が死んだら、すぐに水無月玲のデータを消去してやる。二人仲良くあの世で過ごすんだな!」

 

「ウゥゥゥ……ッ!」

 

 じわじわと暗黒兵が輪を縮め、中心の謙哉に向かってにじり寄る。エックスの指示通り、謙哉を引き裂こうとしているのだ。

 

「謙哉っ! 待ってろ、すぐに助けてやるっ!」

 

 親友のピンチに居ても立っても居られなくなった勇は体の痛みを無視して謙哉の下へと駆け出そうとした。しかし、後ろから光圀に羽交い絞めにされ、その無謀な行動を咎められてしまう。

 

「勇ちゃん、アカン! そんな状態で行っても勇ちゃんも一緒にやられてまうだけや!」

 

「だからって謙哉を見殺しに出来るかよ! 放せっ! 放してくれっ!!」

 

 絶体絶命のピンチに陥った謙哉は、気を失ってしまったのか微動だにしていない。このままでは暗黒兵に殺されてしまうだろう。

 だがしかし、他の仮面ライダーたちもまともに動ける状態では無い。謙哉を助け出そうとする生徒たちもいたが、暗黒兵に阻まれて救出は叶わなかった。

 そして、ついに謙哉の体が暗黒兵の渦に埋もれて見えなくなる。その絶望的な光景に誰もが言葉を失い。茫然と立ちつくしてしまう。

 

 只一人、戦いを続けようとカードを手にしたちひろは、涙を溢れさせたまま絶叫にも近しい叫びを上げて謙哉の名を呼んでいた。

 

「嘘だろ? こんな所で死ぬタマじゃあ無いよな? 何とか言えよ……水無月を助けんだろ? 何とかいってくれよ、虎牙ーーっっ!!」

 

「……無駄な事を。何をした所で運命は変わらないと言うのに……」

 

 ちひろの叫びと必死の行動をエックスは一笑に附した。何をしたって謙哉は助からない。今頃、暗黒兵の手で八つ裂きにされているだろう。

 次は玲のデータを消去し、勇たちに完全なる敗北を味合わせようとするエックスは、杖を掴んで早速行動に移ろうとする。しかし、そこである事に気が付いた。

 

「暗黒兵の数が減っているだと……?」

 

 自分だけが知る暗黒兵の残数のカウントを確認したエックスは、その数が徐々に減っている事に気が付いた。減った分を召喚すれば済む話なのだが、問題は誰が暗黒兵を倒しているかだ。

 ちひろの様に戦いを続けている生徒たちもいるが、せいぜい一体や二体を倒すのが精いっぱいだ。しかし、減っている数はそんなのんびりとした速度では無く、まとめて数体が一瞬の内に消え失せているのだ。

 

「何だ? 何が起きている……?」

 

 ついには目で見て分かる程まで暗黒兵の数は減っていた。敢えて後続の暗黒兵を召喚せず、何が起きているかを確認しようとしたエックスに釣られて他の生徒たちも成り行きを見守り始める。

 やがて、十数体まで減った暗黒兵たちを斬り裂き、輪の中から姿を現した男の姿を見た時、誰もが己の目を疑った。

 

「あれは……?」

 

 床に倒れたままの謙哉、彼を守る様に戦う騎士が一人……青い鎧を纏い、盾と剣を駆使して暗黒兵たちを斬って捨てるその騎士の姿には、誰もが見覚えがあった。

 《護国の騎士 サガ》……謙哉が変身に使って来たカードに描かれているキャラクターである彼が今、謙哉を守る為に戦っている。その光景に驚く一同であったが、真の驚きはここからであった。

 

『立ってくれ、謙哉。私一人では、彼女たちを救う事は出来ない』 

 

 なんとカードのキャラクターであるサガが、謙哉に向けて語り掛けたのだ。その表情にも必死さが表れており、まるで本物の人間の様な印象を感じてしまう。

 目の前で何が起きているのか分からないままの一行を他所に謙哉へと叫ぶサガは、暗黒兵たちとの戦いを続けながら謙哉に激を送っていた。

 

『私はずっと君と戦って来た。長い戦いの中、私は君と言う青年の心を知った……君は、私と同じだ。何かを救い、守る事の尊さを知っている。だからこそ私は君と戦い続けて来たんだ』

 

 サガが暗黒兵をまた切り捨てる。暗黒兵の再召喚を始めたエックスは、早くサガを消滅させようとやっきになっていた。

 それでも、多くの敵に囲まれ、苦しい戦いを続けながらも、サガは謙哉への叫びを止めようとはしない。

 

『私は一度見失った。大切な物を守る事を第一と考え、一番守らなくてはいけない自分の命を見失ってしまっていた……その結果が、彼女の涙だ。君もそうなんだろう? 失いかけてようやくその事に気が付いた、だからここまで来たんだろう!?』

 

 必死の戦いを続けるサガであったが、ついに無数に増える暗黒兵たちを前に膝をついてしまう。だが、それでもその瞳からは光が消えることは無く、最後の力を振り絞って立ち上がると今までよりも大きな声で叫んだ。

 

『立ってくれ、謙哉! 私一人では彼女たちを……ファラと玲を救う事は出来ない! 君の力が必要なんだ! 君が諦めないと言うのなら、私たちの手は彼女に届く! だから立ってくれ、謙哉!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ねえ、聞いて欲しい事があるよ。凄く不思議で、何てことでも無い様な、でも、僕が君に伝えたいことなんだ。

 

何でかは分からないんだ。理由も皆目見当つかなくて、自分でも不思議に思う事なんだ。でもね、これは確かな事なんだよ。

 

水無月さん、僕はね……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

それはレベルで言ったら1くらいの物で、ほんのわずかな物なのかもしれない。だけど、絶対に勘違いなんかじゃ無いんだ。

 

なんでかな? 君には分かるかな……? 僕にはわからないや、やっぱり僕って馬鹿なんだろうね。

 

ねえ、水無月さん。こんな僕を許してくれるかな? 君は、また僕に笑顔を見せてくれるかな? それだけの為に戦って良いかな? もう一度、君の笑顔を見る為だけに戦っても良いかな?

 

……ああ、うん、やっぱりそうだ。うん、間違いないや。あのね水無月さん、僕はね――

 

いつだって、君の笑顔で無敵(イージス)になるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《LIMITOVER EVOLUTION》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なん、だ……? 何が起きている……!?」

 

 何度目になるかわからないその言葉を口にしたエックスは、目の前の光景を震えながら見つめていた。

 視線の先に居るのは虫の息まで追い込んだ取るに足らない存在のはずだ。なのに、自分は彼から目を離せないでいる。

 

 暗黒兵に囲まれた謙哉がサガの援護を得て立ち上がるまでは見た。その後、ひとりでにホルスターから飛び出して来た飛び出して来たカードを掴んだところもだ。ここまでは理解出来た。だが、その次が問題だった。

 謙哉がそのカードを使った瞬間、暗黒兵たちは全て天から降り注いだ雷に撃たれて消滅したのだ。しかも、何故か再召喚を受け付けないでいる。

 そして何より、謙哉がそのカードを使ってから、今もなお彼のドライバーからは勇ましいファンファーレが鳴りやんでいない。あのカードは、まだ真の能力を発揮していないのだ。

 

「リミットオーバー、エボリューション……?」

 

「限界を超える、進化……」

 

 葉月とやよいはドライバーから響いた言葉を繰り返し、ただ謙哉を見守っていた。勇も唖然としたまま彼女たちと同様の反応を見せていたが、隣に居た天空橋が小さく首を振りながら何かを呟いている事に気が付いてそちらを向く。

 

「オッサン? どうかしたのか?」

 

「……奇跡だ。こんな、こんなの、天文学的な数字ですよ……! まさか、そんな事が……!?」

 

 独り言を呟く天空橋の表情は、先ほどとは打って変わって笑顔になりつつあった。勇からの視線に気が付いた天空橋は、興奮の冷めやらない震えた声で彼へと囁く。

 

「あれなんですよ、勇さん……! あのカードなんです!」

 

「え? な、なんだよ? 何がだよ!?」

 

「言ったでしょう!? エックスを倒せるカードがあるって! 入手が困難で、到底用意出来ないカードだから諦めて下さいって言ったあのカードなんですよ! 謙哉さんが持っているのは!」

 

「はぁっ!?」

 

 あまりにも突拍子なその言葉に驚いた勇は、改めて謙哉へと視線を送る。天空橋の言葉では、そのカードは世界に5枚ほどしか存在していないはずだ。一体どうやって謙哉はそんなカードを入手したのだろうか?

 

 ……勇は知る由も無いが、その入手先は非常に単純だった。海里と悠子が購入し、謙哉に手渡したあのパック。謙哉が中身も確認せずにホルスターに突っ込んだあのカードの束の中に、このカードは入っていたのだ。

 

 ずっと前から繋がれていたバトン。玲と共に悠子を助け、眠る謙哉を海里と共に玲が見守り、そうして紡がれた絆の果てに、謙哉が生き残っていたからこそ起きた奇跡……玲が謙哉を守ったからこそ、この場に奇跡が舞い降りた。

 

『……行こう、謙哉。大切な人が待っている』

 

 笑みを浮かべたサガもまた、光の粒となってそのカードに同化した。手にしたカードが青く光ると同時に、謙哉の瞳の中にも一瞬だけ蒼い光が灯る。

 

「ディスティニーカード第三弾『暗黒の魔王と創世の歌姫』のシークレットカードにして、私の作ったディスティニークエストでエックスを倒すキャラクター! 全ての騎士の原初としての力を手にした彼の名は、《創世騎士王 サガ》! 世界最強、無敵の騎士です!」 

 

「《創世騎士王 サガ》……エックスを倒せる、切り札……!」

 

 天空橋の叫びが木霊した瞬間、生徒たちの目が輝き出した。もう希望は無いと思われたこの状況に最大の朗報が飛び込んで来たのだ。

 誰もが謙哉に視線を送り、期待を胸にする。だが、謙哉は仲間たちから贈られる様々な感情など、まるきり頭に入っていなかった。

 

「……待ってて、今行くから……! 必ず君を救い出すから……!」

 

 ここには居ない、だが、目の前に居る彼女へと言葉を送る。今はただ、それだけの為に戦う。

 自分にとって大切な物が次々と心の中に溢れる。友人たちの笑顔を、未来を守る為の力が湧き上がって来る感覚を胸に、謙哉はカードを構えた手を伸ばして交差し、叫んだ。

 

「変身ッッ!!」

 

 謙哉がドライバーにカードをリードした瞬間、巨大な雷が天空から降り注いだ。暗黒城を明るく照らす程の眩い輝きを目にした勇たちは、顔を伏せて目を閉じる。

 その光は激しく力強くありながら、どこか優しさを感じる光だった。瞼の裏に焼き付く光が治まって来た事を感じた勇たちは顔を上げ、雷の中心に立つ騎士の姿を目にする。

 

《オリジンナイト! GO! GO! FIGHT! GO! GO! KNIGHT! MAKE LEGEND&SAGA!》

 

 一回り大きくなり、より重厚になった蒼の鎧。銀の外蓑を纏い、頭部には西洋龍の意匠が施された兜を被っている。

 最大の武器であり、最強の防具でもある左腕の盾は五角形のカイトシールドへと変化した。腕全体を覆ってしまいそうな程の大きさを持つそれを悠々と持ち上げられる力強さを感じさせる謙哉の姿に誰もが息を飲んでいる。

 

「あ、ありえない……! こんな、こんなことがあって良い筈が無い……!」

 

 自分の目の前で進化を遂げた謙哉の姿を見つめながら、エックスは何度も首を左右に振って現実を否定していた。しかし、謙哉は彼に向かって悠然と歩みながらもう一枚のカードを使う。

 

《創世騎士槍 サーガランス》

 

 カードを使った謙哉の真横に雷が落ちる。光が消えた落下地点には、力強く美しい西洋槍が突き刺さっていた。

 地面から武器を抜き取った謙哉は、再びエックスへと歩み出す。無言のまま戦いに臨もうとする謙哉の姿を勇が固唾を飲んで見守っていると――

 

「う、そ……? なにこれ……!?」

 

「ど、どうしたの、夕陽?」

 

「け、謙哉さんのステータスを調べたくって、《スキャン》のカードを使ってみたんすよ! そ、そしたら、そしたらっ!!」

 

 興奮気味に語る夕陽の言葉を受けた勇たちもまた、彼女同様に謙哉をスキャンしてそのデータを観測した。

 暫しの計測時間の後、ゲームギアの画面に映し出された数値を見た勇たちは、全員が驚愕の表情を浮かべる。

 

「え? え? え? ど、どう言う事!?」

 

「これって……なにが……?」

 

 誰もがその意味を理解しながらも完全に理解出来なかった。勇もまた、自分のゲームギアに映し出された文字を茫然とした声に出しながら首を振る。

 

「レベル……100だって?」

 

「レベルの最大数値って99だよね? 何で謙哉っちはそれを越えちゃってるのさ!?」

 

 今まで自分たちの知っていたレベルの上限99を超えた謙哉に対して驚きを隠せないでいる勇たち。そしてそれは、彼と相対するエックスも同じであった。

 いや、彼は少し違った。驚きの感情もあるが、それ以上に何かを許せないと言う怒りの感情の方が強く感じられるのだ。

 

「……ありえない、あって良い筈が無い。お前みたいなガキが、ボクたちと同じ()()()に目覚めるなんて! ボクの描いた脚本を上回るなんて、許される事じゃあないんだぞ!」

 

 王の器……その部分に力を込めた叫びを上げるエックスは、何かに焦っている様にも見えた。しかし、謙哉はそんな彼の様子を無視して手にしている槍の切っ先を向ける。

 その重圧、威圧感にエックスは声を詰まらせた。周囲で見守っているだけの生徒たちもまた、味方であるはずの謙哉から畏怖を感じて押し黙ってしまう。

 ざわめきが治まり、静まり返った王座の間。その中で口を開いた謙哉は、エックスに向けてのはっきりとした宣戦布告を口にした。

 

「エックス、お前の描く三流の脚本は終わりだ。お前の描く悲劇なんて、誰も望んじゃいなんだ」

 

「ボクの脚本が三流だと……!? 思い上がるのもいい加減にしろ!」

 

「……もうお前に何も奪わせない。大切な友達の命も、世界の運命も、彼女の笑顔も……僕が守ってみせる」

 

 新たなる王として目覚めた騎士は言う、ただ前へ、後ろに在るかけがえの無い命を守るべく戦いに臨む。

 この世界を守る者として、騎士は世界を暗黒に誘おうとする悪しき者へと牙を突き立てる。光を奪う者を打倒すべく前へ進む。

 そして、騎士は一人の男として大切な人を取り戻す為に彼女の元へと歩む。恐れは無い、明確に、自分のすべきことは見えている。

 

「さあ……ここからは、()()()()()()だ!」

 

 悲劇的結末(バッドエンド)では終わらせない。幸福な結末(ハッピーエンド)は己の手で創り出すのだ。

 

 自分の運命を描けるのは自分だけ、歩む道を創れるのも自分だけ……その事を知っている騎士は仮面の下で僅かに笑い、そして駆け出した。

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。