仮面ライダーディスティニー   作:茜丸

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カブト編

 

「これ、なんなんだろうね?」

 

「さあ? けど、不思議な物だってのは確かだよな」

 

 ある日、放課後の人気のなくなった教室の中で勇と謙哉はレジェンドライダーのカードを手に話をしていた。

 

 例の白いエネミーと戦う事が出来る唯一の力であるこのカードたちは、一体何なのか? 本来のディスティニーカードの中には、こんなカードは制作されていないはずだ。

 

「オッサンも何も知らねえって言ってるし、どうやって生まれたんだろうな?」

 

「一番最初にこのカードの事を教えてくれた声の人も姿を現さないし……謎は深まるばかりだよね」

 

「あの白いエネミーたちや、そいつらが使うカードもそうだ。また別の化け物に変わっちまうカードなんてどうやって作ったんだ?」

 

「もしかしたら、僕たちと一緒でいきなり現れるのかもね。はっきりとした確証はないけどさ……」

 

 今までに集めた6枚のカードと、そこに描かれている戦士たちの姿を見つめながら二人は考察を続けていた。

 容姿、武器、雰囲気……その全てが違う6人のライダーたちだが、それぞれが世界の平和の為に命を懸けて戦ったと言う事は共通しているはずだ。

 そんな彼らの力を借り受けることに、勇たちが今更ながら重い責任感を感じていたその時だった。

 

『……その答えを知りたいか?』

 

「っっ!? だ、誰だっ!?」

 

 不意に教室の外から聞こえて来た声に驚いた勇は、座っていた椅子から跳び上がりながら叫び声を上げた。

 姿の見せない声の主に警戒心を露にする勇と謙哉が身構えていると……

 

『すいません、出来れば僕たちも君たちに色々な説明をしてあげたいんです。でも、今はそんな時間は無い』

 

「えっ……?」

 

 今度は先ほどの声とはまた別の男性の声が教室のベランダ側から聞こえ、謙哉は反射的にそちらの方向へと顔を向けてしまった。

 最初の男の堂々とした口調に比べるとやや気弱な印象を覚える男の声は、なおも二人に対して話を続ける。

 

『君たちの大切な人に危機が迫っています。急いで駆けつけないと、大変なことになる』

 

「な、なんだって!?」

 

『敵は、俺たちと相反する存在……お前たちが力をつけた様に、相手も更なる力を手に入れた。より強く、恐ろしい力だ』

 

「より恐ろしい力……? それは、一体……!?」

 

『……ダークライダーカード、悪の仮面ライダーの力を得られるそのカードを悪しき者たちが手に入れた。奴らの力は強大だ、一筋縄ではいかないぞ』

 

「ダークライダー……悪の仮面ライダーだと!?」

 

 悪の仮面ライダー、その言葉を聞いた勇と謙哉は愕然とした。まさか、別世界にはそんな仮面ライダーが存在しているなどとは思いもしていなかったからだ。

 敵が正義と戦う悪のライダーの力を得たとなれば、それは油断ならない相手になるはずだ。その事実に動揺する二人であったが、そんな二人に対して謎の男たちは一枚ずつカードを投げ渡して来た。

 

「っっ!?」

 

「これ、は……?」

 

『持って行け、それが必要になるはずだ』

 

『急いで下さい、手遅れになる前に……』

 

「お、おい! ちょっと待てよっ!」

 

 その言葉を最後に謎の男たちの気配が消える。慌てて教室の外へと飛び出した勇であったが、そこには人っ子一人いない廊下があるだけだ。

 

「くそっ……何なんだよ、これ?」

 

 勇は今手に入れたばかりのカードを見つめながら小さく呟いた。

 赤いカブトムシをモチーフにしたライダーのカード。スマートでスタイリッシュな雰囲気を纏うその戦士の絵を眺めていた勇であったが、そんな勇に対して謙哉が慌てた様子で声をかける。

 

「勇! 今の人たちが言ってたことが本当なら、誰かがピンチなはずだ! 急がないと!」

 

「あ、ああ! で、でも、それって誰の事なんだ……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あの、光牙さん、どこに行くおつもりですか?」

 

「もう少し先だよ。何も怖がる必要は無いさ……」

 

 自分の手を引きながらそう答える光牙に対して言い様の無い不安を感じたマリアは、一瞬だけ体を強張らせてその場で硬直した。

 しかし、すぐさま目の前にいる男性が信頼する光牙であることを思い出し、彼にただついて行く。光牙もそんなマリアの事を見て喜ばし気に微笑んでいた。

 

(……光牙さん、何処に行くつもりなんでしょう?)

 

 学校を出てすぐに光牙に声をかけられたマリアは、彼から話したいことがあると言われて迷いながらも彼と過ごすことを決めた。

 こうやって関りを深く持つと父は怒りそうではあったが、それでも光牙たちと過ごしたいとマリアは思っているのだ。だから、新学期が始まってすぐにこうやって光牙に声をかけられてとても嬉しく思った。

 だが……今の光牙は何かが変だ。どこがと言われれば返答に困るが、何かが自分の知る彼とは違う気がする。

 

(気のせい、でしょうか……?)

 

 記憶喪失の弊害か、単なる気の迷いか……拭いきれぬ違和感を光牙に感じていたマリアは、自分たちが人気のない場所に向かっていることに気が付いて不安を募らせた。

 光牙が邪なことをする訳が無い。だが、今の彼にはどこか妙な所があるのも確かだ。

 どうすれば良いのか分からないマリアは、光牙の手を振りほどくことも出来ずに引き摺られる様にして進み続けていたが……

 

「マリアっ! そいつから離れろっ!」

 

「えっ!? い、勇さん!?」

 

 人気のない路地裏に響き渡った声に振り向いたマリアは、そこに立つ勇の姿を見て驚きの声を上げる。

 鬼の様な形相で光牙を睨んでいる勇は、風の様に駆け出すとその勢いのまま光牙の横っ面を殴り飛ばした。

 

「こ、光牙さんっ!? 勇さん、何を……!?」

 

「違うっ! こいつは光牙じゃねえ! 良く見るんだ、マリア!」

 

 突然の出来事に悲鳴を上げたマリアであったが、勇のその一言に目を丸くしながら光牙の方へと視線を向かわせる。

 地面に倒れた光牙は、ゆっくりと体を起こして勇とマリアのことを見つめ返して来た。口元には不気味な笑みを浮かべており、それを見たマリア背中には寒気と震えが走る。

 

「ふ、ふふ、ふふふふふ……!」

 

<ワーム……!>

 

「えっ!?」

 

 不気味な笑い声をあげた光牙がカードを手にすると、徐々にその姿がおどろおどろしい緑の怪物へと変貌していく。

 その一部始終を見ていたマリアは、あまりの出来事に頭がついて行かずに地面へとへたりこんでしまった。

 

「な、なんで、光牙さんが、怪物に……!?」

 

「逆なんだよマリア。あれは人に擬態出来る怪物【ワーム】、奴は光牙に化けてお前を攫おうとしてたんだよ」

 

「ふふふ、ふふふふふふ……!」

 

 光牙に擬態していたワームは不気味な笑い声を上げながら二人へと接近して来る。

 勇の手で引き起こされたマリアは、彼に連れられるまま路地裏を駆け出して行った。

 

「逃げるぞ、マリア! 俺について来るんだ! 大丈夫、必ずお前を安全な場所に連れて行ってやる!」

 

「は、はいっ!」

 

 力強く自分の手を握る勇の言葉に頷いたマリアは、彼の先導の下に暗い路地裏を駆けて行く。

 後ろから聞こえるワームの笑い声に怯えながら、その恐怖を振り払う様に首を振ったマリアは勇の手を強く握り返して恐れを誤魔化そうとしていた。

 

「もう少しで路地を抜ける! そうすればもう大丈夫だからな!」

 

「はいっ!」

 

 そうやって必死に走っていたマリアは、勇のその言葉と共に目の前に光が見え始めたことに安堵の息を漏らした。

 いつの間にかワームの声も消えていた。ここまで来れば大丈夫だと安心したマリアは、自分を救ってくれた勇に感謝の言葉を述べようと―――

 

「駄目だっ! 行くなっ!」

 

「……え?」

 

 背後から聞こえた声にマリアは再び体を硬直させた。その声が、自分の()()()()聞こえるはずが無いと思い、ゆっくりと振り返る。

 そして、そこに立っている人物を見た時、マリアは目を見開きながら茫然と呟いた。

 

「なん、で……? 勇、さん……!?」

 

「そいつから離れろ! そいつは俺じゃない!」

 

 そこにいたのは勇だった。自分の手を掴み、ここまで自分を連れて来てくれたはずの勇だった。

 突如現れたもう一人の勇の言葉を耳にしたマリアは、自分の手を掴む勇の顔を見つめて唾を飲み込む。

 若干戻って来た冷静な思考が働き始めた時、彼女はここまでに起きた不可解な事実にようやく気が付き始めた。

 

 何故、勇は光牙に擬態したワームの事を詳しく知っていたのか? その姿に驚きもせず、マリアが知らない事実を淡々と語れたのだろうか?

 

 そのワームは何処に消えてしまったのだろうか? 元々、あのワームには自分たちを捕まえようとする意志が見られなかった気がする。ただマリアを驚かすことが出来れば十分だったのだ。

 

 そして、ここは何処なのだろうか? 光牙に連れて来られたこの場所に見覚えがあるわけでは無いが、この場所は自分たちが最初に入って来た場所ではないことは分かる。

 目の前の勇は、マリアをどこに連れて行くつもりだったのだろうか?

 

「まさか、あなたも……!?」

 

 今までの出来事全てが自分を騙す為の芝居だったことに気が付いたマリアは、大きく腕を振って勇の手を振り払った。

 一歩、また一歩と自分から距離を取って後退って行くマリアの姿を見る偽勇は、悲しそうな表情を浮かべながら首を振っている。

 

「もう少し、だったのに……もう少しで、お前を救えたのに……!」

 

「何を言ってやがる!? お前はマリアを何処に連れて行くつもりだったんだ!?」

 

「そんなの決まってるだろ。争いの無い、安全な場所さ。こいつを傷つける者なんて……いや、俺とマリア以外の存在は何も無い、そう言う場所だよ!」

 

「何だと……!? 何でそんな真似を……」

 

「……分からないふりは止せよ。お前だって分かってるだろ?」

 

 勇の言葉を制止した偽勇は、真剣な表情のまま本物の自分の顔を見つめている。その表情には、悪意は一切見られなかった。

 

「お前は俺で、俺はお前だ。俺はお前の考えが分かるし、お前も俺の考えがわかるだろ? 俺が、何でマリアを連れ去ろうとしたのかも……」

 

「どう、言う意味、ですか……?」

 

「……俺は一度お前を守れなかった。迫る悪意からお前を守り切れず、辛い思いをさせてしまった……大切に思っていたのに、俺は何も出来なかった。それは全て、俺が弱いせいだ」

 

「そんな……! そんなことありません! 勇さんは私のことを必死に守ってくれて……!」

 

「良いんだ、マリア。全ては結果が答えてる。俺は弱くて、お前を守ることが出来ない……だから、お前を傷つける者のいない場所へ連れて行くんだよ」

 

 真剣な、本気の思いを偽の勇がマリアへとぶつける。そこには、彼女に対する深い愛情が籠っていた。

 たとえマリアに憎まれ様とも彼女を守る為の行動を取ろうとする偽勇は、ゆっくりと手を伸ばしてマリアの手を掴もうとする。

 

「一緒に行こう、マリア。もう苦しむのは終わりにしよう……これからは、俺がお前の傍に居る。お前のことを一生守り続けるから……!」

 

 微笑みを浮かべながらマリアへと囁く偽勇は、そのまま彼女の腕を掴んで異世界へと彼女を連れ去ろうとした。

 しかし、それよりも早く自分の腕を掴んだ本物の勇によってそこ行動は阻止され、偽勇は僅かに怒りの表情を見せながら彼と見つめ合う。

 

「……何をするんだよ。お前だって分かってるだろ? どうするのがマリアの為になるのかなんて……!?」

 

「ああ、分かってるよ。少なくとも、ここでお前にマリアを預けることだけは駄目だってこと位はな」

 

「なんでだよ!? お前も分かるはずじゃないか! だって俺は、お前自身なんだから!」

 

「人の上っ面だけ真似て良い気になるんじゃねえ! 俺は、俺だ! お前じゃねえ! お前のその考えは、俺の考えじゃねえっ!」

 

 そう叫んだ勇は、もう一人の自分自身を突き飛ばすと彼とマリアとの間に入り込んだ。そして、怒りの形相のまま偽勇へと叫び続ける。

 

「何がマリアの為だ! お前のその考えは、お前の為の物じゃねえか! もうマリアが傷つく姿を見たくないから、マリアを自分の世界に閉じ込めようとしてるだけだろうが!」

 

「っっ……!?」

 

 勇に自身の本心を看破された偽勇は、痛い所を突かれたと言う様な表情でその場に固まってしまった。そんな彼に対し、勇は容赦のない追撃を続ける。

 

「確かに俺は弱いかもしれねえ……でも、その弱さをそのままにしておいて何が守るだ! 一生守るって言うなら、一生かけて強くなれよ! どんな敵が現れても、それを乗り越えられる位に強くなって見せろ! そんなことも言えない奴が、誰かを一生守るだなんて口にすんじゃねえっ!」

 

「黙れ……黙れっ! そんなに言うなら試してやるよ! お前が、マリアを守り抜けるかどうか!」

 

 偽勇が禍々しいオーラを放つカードを手にすると、それを思い切り握り締めた。

 彼の手の中で潰されたカードが黒い光を放ち、その光が偽勇を包み込んで行く。

 

「変身……!」

 

<ダークカブト……!>

 

 やがてその光が消え去った時、偽勇の姿は大きく変わっていた。

 黒いカブトムシの様な機械的なアーマーを纏った偽勇は、僅かに顔を上げて勇の事を睨みつけながら言う。

 

「俺は、お前を倒してマリアを連れて行く! お前がマリア守るって言うのなら、俺を倒してその強さを証明して見せろ!」

 

「ああ、そうさせて貰うさ!」

 

 偽物の自分の挑発に乗った勇は、ドライバーを腰に構えるとホルスターから【カブト】のカードを取り出した。もう一人の自分同様に相手の顔を睨みながら、勇はカードをドライバーへとリードして叫ぶ。

 

「変身っ!」

 

<カブト! キャストオフ! クロックアップ! レッツ・チェンジビートル!>

 

 カードを使用した勇の体を包む重厚な鎧。それは展開が終わると同時に四方へ吹き飛び、その中から赤と銀の鎧を纏ったディスティニーが姿を現した。

 

「ぐうぅっ……!」

 

「……俺の進化は光よりも早いぜ。付いて来られるか?」

 

 弾け飛んだ鎧の破片を体に受けてよろめいたダークカブトを静かに見下ろしながら、勇は威圧感を感じさせる声で彼に尋ねる。

 ダークカブトは、勇の言葉に憤慨して彼に殴りかかって行った。

 

「舐めるなよっ! 俺は、俺はっ!!!」

 

 勇の言葉に激高したダークカブトが猛然と攻撃を仕掛ける。

 コンパクトな、それでいて鋭いパンチを連続で繰り出して勇の体を狙うも、その攻撃はギリギリの所で勇に躱されてダメージを与えるには至らなかった。

 

「くっ! このっ!」

 

 ダークカブトは更に攻撃の速度を速める。彼が繰り出すのは決して大振りになることは無く、着実なダメージを狙ってのパンチの連打だ。

 しかし、勇はその一撃一撃の軌道を読み切り、あえてすれすれの所で回避することで次の攻撃への予測を立てながら戦いを続けている。

 

「こ、のぉっ!」

 

 ダークカブトは攻めているはずの自分が徐々に追い込まれていると言う不思議な状況に苛立ちを隠せないでいた。その状況に苛立ちが募ったのか、彼は戦いが始まってから初めての大振りな一撃を繰り出してしまう。

 今までの攻めのリズムを変える強烈な一撃。勇の顔面目掛けて繰り出されたその拳は、当たれば間違いなく相手をK,O出来る威力があるだろう。

 しかし……それこそが、勇の待っていた行動であった。

 

「はぁっ!」

 

「がっ!?」

 

 ダークカブトの拳が勇に当たる寸前、彼は顔の側面に衝撃を受けて真横によろめいた。

 大きな衝撃を受けた彼が自分に何が起こったのかを理解する前に、勇が自分目掛けて歩んでいる姿を目にしたダークカブトは反撃をすべくまたしても拳を繰り出す。

 

「てやぁっ!」

 

 数歩助走をつけた勢いの乗った拳、しかしそれが勇に当たることは無かった。

 勇は右手を振って自分目掛けて繰り出されたパンチを軽く弾くと、驚くダークカブトの顔面に向けて左手でのアッパーカットを叩き込む。

 

「がぁっ!?」

 

 顎から脳天に突き抜ける衝撃にダークカブトの意識が飛びかける。体が伸び切り、彼は勇の前で無防備な姿を晒していた。

 当然、その隙を見逃す勇ではない。いつの間にか手にしていた短剣型の武器を振るい、勇は猛然と攻撃を繰り出していく。

 

<カブトクナイガン!>

 

「おぉぉぉぉっ!」

 

 逆手に持った短剣の連続での斬撃でダークカブトの装甲を斬り裂く。

 一撃ごとに火花が散り、痛みに顔をしかめるダークカブトは、勇が武器の持ち手を変えてからの強烈な一撃に対して何の防御行動を取ることも出来なかった。

 

「ぐぅぅっ!?」

 

 カブトクナイガン・アックスモードでの強力な一撃を受け、ダークカブトは後方へと吹き飛んだ。勇は数発の銃弾を彼に向けて放ちながら、カブトの特殊能力を発動する。

 

<クロックアップ!>

 

 ドライバーの電子音声が流れると共に、勇を包む世界の速度が変わった。

 飛ぶ弾丸や吹き飛ぶダークカブトの動きがスローモーションになり、勇だけが普通の速度で動ける空間で彼はゆっくりと歩き始める。

 

<1……>

 

 一歩、二歩、三歩……吹き飛ぶダークカブトの横に並び、吹き飛んだ彼の落下地点へと先回りした勇は、そこで脚を止めた。

 

<2……>

 

 ダークカブトの体にカブトクナイガンの銃弾が直撃する。

 それが引き起こした火花を目の前にしながら、勇はダークカブトに当たらなかった弾丸を軽く体を動かして回避した。

 

<3……!>

 

「……悪い、お前の気持ちがわからねえわけじゃねえんだ。でも……それでも、俺は……っ!」

 

 ダークカブトの体が空中で反転する。丁度向かい合う様な体勢になった相手に対して自身の思いを告げた。

 そして、右足に力を込めて仮面の下で強い眼差しを見せる。

 

<必殺技発動! ライダーキック!>

 

 ベルトが電子音声を響かせ、電撃を放つ。

 勇の上半身から頭の先に伸びるカブトホーンへ、そしてそこから右足へと電撃が流れ、彼のキック力をタキオン粒子が強化した。

 

「全てを守り抜くって決めたから! 戦う事を止めはしない!」

 

 左脚を軸に半回転、勢い良く強化された右足を振り抜く。

 腹に必殺の右回し蹴りを受けたダークカブトは、体をくの字に折り曲げながら今までと反対方向へと吹き飛び始める。

 

<クロックオーバー>

 

「が、あ……ぐあぁぁぁぁぁっっ!?!?」

 

 そして、カブトの特殊能力の制限時間が切れ、時間の流れが普通に戻った時……ダークカブトは空中で爆発し、そのまま地面に叩き付けられたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は、はは……やっぱ、強いな……! 流石は、俺だ……」

 

「………」

 

 ボロボロの体で自分のことを称賛する偽勇の姿に何を言えば良いのか分からない勇は、ただじっと彼のことを見つめている。

 戦いに敗れた偽勇は、目の前に立つ勇に対して自身の思いを吐露し始めた。

 

「分かってたんだよな……弱さをそのままにしている俺と、弱さを乗り越えて突き進むお前のどっちが強いかなんてさ……でも、俺も諦められなかったんだ」

 

「お前、は……」

 

「……俺は、お前のもう一つの可能性だ。正しくない道を選ぼうとしたお前は、こうなるってこった……」

 

 自嘲気味に偽の勇が笑う。その表情は苦し気であったが、どこか満ち足りた表情にも見えた。

 

 偽勇は少しの間笑い声を上げると、今度はマリアを見て口を開く。

 

「マリア、ごめんな。お前のことを騙そうとしてさ……」

 

「……確かに、あなたは私を騙そうとしました。でも……それでも、私を傷つけるつもりは無かったんでしょう?」

 

「結果としてお前が望まない道を無理に歩ませようとしたんだ。そんな言い訳は口に出来ねえよ」

 

 もう一度自嘲気味に笑った偽勇は、優し気な瞳でマリアを見つめる。だが、自身の体が指先から光の粒に変わって行く光景を見て諦めた様な表情を見せた。

 そんな彼に対してマリアはその手を取ると、彼へと自分の思いを伝える。

 

「……分かってます、あなたはとても優しい人なんです。ただほんの少しだけ、やり方を間違えてしまっただけの人……それだけなんですよね?」

 

「さあ、な……俺は、何なんだろうな……?」

 

「何でも良いですよ……あなたが優しい人だったと言う事を私は知っています。そして、私はあなたのことを忘れたりなんかしません……ずっとずっと、覚えていますから……!」

 

「……ありがとう、な」

 

 マリアの言葉に微笑んだ偽勇は、続けて本物の自分へと視線を移す。

 真っすぐに勇の顔を見つめながら、偽勇は短い激励の言葉を送った。

 

「強くなれよ……そして、必ず守り抜け! それが、お前の責任だ……」

 

「……ああ、わかってるよ」

 

「それで良い……この世界と、マリアを頼んだぜ」

 

 伝えるべきことは全て伝えた。そんな顔をした偽勇は、瞳を閉じると共に光の粒へと還っていった。

 彼の手にしていた【ダークカブト】のカードも消え去り、この場には勇とマリアだけが残る。

 

「……あばよ、俺」

 

「さよなら……もう一人の勇さん……」

 

 天に昇る光の粒を黙って見送る二人は、暫くの間その場に立ち尽くし続けたのであった。

 

 




―――NEXT RIDER

「僕が辿る運命? それはどう言う意味なんですか!?」

「変えられない運命なんて無いって信じてるから! だから僕は戦うんだ!」

「さあ……キバって行くよ!」

 次回、開演♪魂の狂騒曲

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