仮面ライダーディスティニー   作:茜丸

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今回は凄く短い話ですが、凄く大事な回になっています。

この話から考察を重ねて頂き、楽しんでいただけたら幸いです。


悪の脚本

「ねえ、どうするつもりだい? 仮面ライダーたちは、順調に戦力をつけてるみたいだけど」

 

「…………」

 

 自身の同盟者にそう尋ねるエックスは、どこか楽しそうだ。不謹慎とも思える彼に対して、ガグマは何も言わないでいる。

 沈黙を続けるガグマの様子を見つめながら、エックスは話を続ける。

 

「今更魔人柱を復活させてもデメリットの方が大きいよね。君のレベルを下げるのはまずい」

 

 ガグマの能力【譲渡】について言及したエックスは、そのデメリットを指摘して喉を鳴らして笑った。

 彼の言う通り、再び魔人柱を生み出すにはガグマがレベルを10下げるしかない。敵にレベル80の勇が居る以上、それは危険な行動に思える。

 

 であるならば、今の戦力のまま戦うしか無いのだろう。だが、敵が徐々に力をつけていることに対してもガグマは一切の焦りの色を見せることは無い。

 

「……余裕だねぇ? 何か考えがあるのかい?」

 

「考え、か……それがあるのはお前の方だろう?」

 

「……ふふっ」

 

 ようやく沈黙を破ったガグマの言葉にエックスが不気味な笑みを見せる。

 お互いの腹の中を探り合う様な雰囲気の中、先に口を開いたのはガグマの方だった。

 

「お前にはお前の目的があるのだろう? それがなんにせよ、それを果たす為にわしの誘いに乗ったことは分かっておる」

 

「ふふふ……さてねえ? ボクは、何を考えているんだろうねぇ?」

 

「とぼけるな。わしが倒した仮面ライダーを復活させた事も、パルマにカードを渡した事も、全ては貴様の計画の達成の為なんだろう?」

 

 部下や自分の策を利用して己の目的を達しようとするエックスに対して、ガグマは余裕の表情を見せている。

 全てを利用されている事に関しての怒りなどは感じられないが、その事が逆に不気味さを感じさせた。

 

「……因果な物だよね、ボクはどうしても心躍る物語を楽しみたいんだ。それも観客では無く、それを操る脚本家としてさ……!」

 

「なるほどな……既にその為の仕込みは終えていると言う所か?」

 

「勿論さ! ……後は、時を待つだけ。多少のアクシデントはあるだろうけど、それを楽しみながら話を誘導して行くのがボクの役目だろう?」

 

「……大胆不敵と言うべきか、恐れを知らぬと言うべきか……利用している相手に向けて、その物言いはどうかと思うがな」

 

「そうかい? 利用されていると分かってる相手に堂々と接する君の方が大胆だと思うけどね」

 

 二人の魔王は話を続けながら愉快そうに笑った。だが、そこに円満な信頼関係は無い。

 この二人は互いに互いを利用し、自分の為に扱おうとしているだけに過ぎない。何時か切り捨てる相手だと思っているからこそ、こんな風に話し合う事が出来るのである。

 

「……何を考えている? それを教える位は良いだろう?」

 

「そうだね……君は、ボクの演出に協力してくれる存在だ。それなりの敬意を払わないといけないだろうね」

 

 妙に納得した態度を見せ、エックスが頷く。そんな彼のことをじっくりと見つめるガグマに対し、彼は自分の思い描く物語の構想を伝えた。

 

「ボクが描こうとしているのは……人の愛とそれにまつわる悲しみの物語、かな?」

 

「悲恋か、それに相応しい役者も用意出来ているのか?」

 

「当然、最高のキャストを用意したよ! ……ボクの思い描く通りになれば、この物語はボクの手掛けた中でも最高の舞台となる! ああ、今から完成の時が待ちきれないよ!」

 

 恍惚とした声を出すエックスは、自分の中で作り上げられている物語へと思いを馳せた。そして、再びガグマへと視線を移すと彼に言う。

 

「ああ、言い忘れてたけど君もボクの脚本のキャストの一人なんだよ。舞台の上で存分に踊って頂戴よね」

 

「クカカ! 魔王たるわしを手玉に取るか!? その豪胆さは良し! だが……そう簡単にわしを思い通りに出来ると思うなよ?」

 

「分かってるさ。まあ、ボクたちの同盟関係も一時的な物、現実世界の脅威が消えれば、今度は君とも戦う訳だ。昨日の友は今日の敵、とはよく言ったものだね」

 

「何を言うか、貴様がわしと友であったことなど一度もあるまい。他の魔王も同様よ、己が目的の為に動く、利己的な集団では無いか」

 

「確かにねえ……でもま、とりあえずこう言っておこうか」

 

 ゆっくりと、エックスが闇の中へと歩き出す。その背を見送るガグマは、ただ黙って彼の言葉を待つ。

 やがて一度振り返ったエックスは、ギラリと光る眼を細めてガグマへと告げた。

 

「……()()()()になるのはボクだ。ボクは、世界をボクの劇場にして見せる……! その世界の神として、ボクは在り続けるんだ!」

 

「好きに描け、望むのは誰にでもある自由だ。それが叶うとは限らないがな」

 

「ふふふ……! 楽しみだね。8つある王の座の内、5つはボクたちが埋めた。残りの3つに座るのは誰なのか……?」

 

「もしかしたら……仮面ライダーたちがその資格を得るかもしれんぞ? 我らの予想を裏切ってな」

 

「ははっ! 君にしては面白い冗談だよ! ……あり得る訳が無い、ただの人間たちが王の座に座る資格を得られる訳が無いんだ」

 

 ガグマの言葉を一笑に付したエックスは、意味深な言葉を残して自分の作り出した暗闇の渦の中へと消え去った。

 王の間に一人残されたガグマは、誰も居ない闇の中で呟きを漏らす。

 

「ただの人間、か……奴にしては面白い事を言うな。いや、奴だからこそか? なんにせよ、奴の描く物語には興味がある……楽しませて貰うぞ、暗黒魔王よ」

 

 玉座に座し、ガグマは笑う。この先に何が待ち受けているかはわからないが、あの魔王が手掛ける脚本なら結末は決まっている。

 文句無し、救いも無しのBADEND……その二つ名の様に暗く底の深い悲劇を、エックスは引き起こそうとしているのだ。

 

「さあ、どうなる? お前たちにこの結末を変えることが出来るのか?」

 

 幾度となく戦いを繰り返した宿敵たちの顔を思い浮かべ、ある意味での期待を込めた言葉を口にしながら、ガグマは妖しく笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――暗黒魔王が筆を執る、悲しい劇の指揮を執る。

 人や魔王の思いを操り、喜怒哀楽を利用して、最高の悲劇を彩ろうとしている。

 

 きっとそれは止められない。それはきっと起こってしまう。

 涙と嗚咽と絶望と、大きな後悔を胸に君は蹲るだろう。

 でも、忘れないで欲しい。その後悔は君が生きている証だってことを……

 

 君が諦めないのなら

 君が立ち上がると言うのなら

 君はきっと、限界を超える奇跡を呼び起こす……私はそう、信じているよ。

 

 最後に一つ、伝えておこう。とても大事な事なんだ。

 これは一つの宿題だ、君が答えに辿り着く日を待っているよ。

 さあ、よく考えて答えるんだ……

 

―――君が、一番守りたい物はなんだ?

 

 

 

 

 

 

―――??がゲームオーバーになるまで、あと14日

 


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