仮面ライダーディスティニー   作:茜丸

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戦 IXA

「……問おう、龍堂勇。貴様は何の為に戦う?」

 

「……守りたい物を守る為、受け継いだ悲願を果たす為だ」

 

「なら、貴様にはそれを実現出来るだけの強さがあるのか?」

 

「はっ、それを今から確かめるんだろ? 違うのか?」

 

 勇の挑発的な口ぶりに口元を歪めた大文字は小さく笑って見せた。そして、これ以上は語り合いよりも自分の得意とする分野でお互いを理解し合う方が早いと判断し、その口車に乗る。

 

 ドライバーを手にした大文字は、それを腰に装着した後でもう一度勇を睨む。

 熊でさえ怯みそうな鋭いその視線にも負けず、勇は真っすぐに大文字のことを見つめ返していた。

 

(大胆不敵な奴だ。恐れ知らずというよりも、全てを覚悟している目をしている。困難を乗り越える覚悟もある、か……)

 

 深く息を吐き、全身に闘気を漲らせる。

 神経を研ぎ澄ませた大文字は、手にしたカードを強く掴み叫んだ。

 

「変……身っっ!」

 

<ロード! 天・下・無・双!>

 

 電子音声が響くと同時に大文字の体に纏われる鎧。赤揃えのまるで炎の様な真紅の鎧に身を包んだ大文字は、大太刀を手にするとその切っ先を勇へと向ける。

 

「さあ、始めるぞ。遠慮なくかかって来い!」

 

「そうさせて貰うぜ、なにせお前は手加減出来る相手じゃなさそうだからな!」

 

<運命乃羅針盤 ディスティニーホイール!>

 

 左腕に呼び出したディスティニーホイールを装備した勇はその取っ手を掴んだ。拳に力を籠め、呼吸を整えてからその腕を回す。

 

「変身っ!!!」

 

 羅針盤が回り、竜巻が巻き起こる。その中心に飲み込まれた勇が次に姿を現した時、彼は漆黒の装いを身に纏っていた。

 そのままディスティニーホイールを回転させた勇はディスティニーソードを呼び出してそれを手にする。武器を装備した二人はお互いに睨み合うと、短く声を発した。

 

「始めるか」

 

「ああ」

 

 たったそれだけの会話の後で同時に駆け出す。瞬間、金属がぶつかり合う重厚な音が響き、火花が散った。

 剣劇の嵐の中、真剣な表情を浮かべる二人は、渾身の力を込めてぶつかり合い続ける。相手の力量、そして思いを計り知る為、手の抜かない文字通りの真剣勝負を繰り広げていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たぁぁぁぁっっ!!」

 

「どうした!? んなもんかぁ? 今度も勝つんじゃなかったのかよっ!」

 

 咆哮を上げた仁科が大槌を振り回す。エクスカリバーを盾代わりにしてそのその重い一撃を受け止めた光牙だったが、勢いに押された身体は後ろへと吹き飛ばされてしまった。

 

「ぐっ……!?」

 

 膝を曲げて地面に着地し、衝撃を膝から逃がす。瞬時に体勢を立て直した光牙は地面を滑りながら剣を構え直し、再び仁科を睨んだ。

 

「はっ! まさか俺があの日の俺のままだと思ってたのかよ!? レベルが上がったのはテメーだけじゃねえんだよっ!」

 

 巨大な武器を持っていると言うのにも関わらず脅威的な速度で光牙へと接近して来た仁科は、武器を光牙へと振り下ろす。

 遠心力を活かした大槌での攻撃は的確に光牙の頭を狙って繰り出されるも、光牙はギリギリの所でそれを抑えると仁科の懐へと潜り込んだ。

 

「たぁぁっっ!!!」

 

「ちぃっっ!?」

 

 スライディング気味に繰り出される斬り抜けでの一撃が仁科の胴を捉える。体に走る鋭い痛みを覚えた仁科が呻き声を上げた時には、光牙は反転して次の攻撃に移っていた。

 

「せっ、やぁっ!」

 

 右上から左下へ、左下から直角に上へ……二連続の斬撃が仁科を襲い、その身体に残光を走らせる。

 厚い装甲の上からでも感じる痛みに苛立ちを感じながら、仁科は一度バックステップを踏むと光牙から距離を取った。

 

「どうした? 強くなったんだろう? このままだと結果は変わらなそうだけれど?」

 

「このっ……! 良い気になりやがってっ!」

 

 実直な熱くなりやすい性格の仁科は光牙の挑発に乗って猪突猛進を続けた。真っすぐ突っ込んで来る仁科の姿を見ながら、光牙は冷静に隙を見出す為に相手の様子を伺う。

 ビクトリーブレイバーの演算能力によって見つけ出された幾つかの弱点を把握し、そこを突く最適な行動パターンを頭に叩き込んだ光牙は、強くエクスカリバーを握り締めると前へと駆け出した。

 

「こんにゃろうがぁぁぁっっ!!!」

 

<必殺技発動! 大槌大回転!>

 

 突撃を続ける仁科はその勢いのまま回転、遠心力を乗せた強烈な必殺技を発動する。

 だが、唸りを上げて自分に迫る大槌を見ても、光牙は一切焦ることは無かった。

 

「……たぁっ!」

 

<必殺技発動! ビクトリースラッシュ!>

 

 仁科に一拍遅れて必殺技を発動させた光牙は、相手の必殺技の軌道をビクトリーブレイバーの演算能力によって計算して回避行動を取る。

 完全に予想通りの軌道を描いて振るわれた大槌を最小限の動きで避けた光牙は、自分の手に握られているエクスカリバーをすれ違い様に仁科の胴に叩き付けた。

 

「ぐおぉぉぉっっ!?」

 

 光が弾け、小さな爆発が何度も起きる。仁科の目の前で大きく輝いた斬撃の軌跡は、やがて大爆発を起こしてから徐々に収まって行った。

 

「が、はっ……」

 

<GAME OVER>

 

 変身を強制解除された仁科は、光牙に斬られた腹を抑えながらその場に崩れ落ちた。戦国、虹彩両校の生徒たちがその光景を見守る中、光牙もまた変身を解除すると周囲に呼びかける。

 

「勝負は俺の勝ちだ。彼を手当てした方が良いんじゃないのかい?」

 

 余裕を見せる光牙に憎々し気な表情を見せながらも彼の言う事に従った戦国学園の生徒たちは、仁科を連れてこの場から去って行った。

 残された虹彩学園の生徒たちは光牙の勝利に湧き立ち、口々に戦いの感想を言い合っている。

 そんな仲間たちの様子を見つめた光牙は、自分に視線を送る真美と目を合わせ、彼女が無言で頷いた事に知らず知らずの内に安堵の感情を浮かべていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はははははっ! ほらほら、まだまだ行くでぇっ!!!」

 

「うわわわわわっ!? ちょ、ちょっと待ってくださいよぉっ!」

 

 繰り出される光圀の鋭い斬撃を盾で防ぎながら謙哉が叫ぶ。残像しか見えぬ程の素早い連撃をギリギリで受け止める謙哉と光圀の戦いは、傍から見れば光圀が圧倒している様に見える。

 しかし、狂乱の中でも冷静な思考を持つ光圀は、相対する謙哉が油断ならない相手であることを知っていた。その証拠に、まだ自分の攻撃は一撃も彼の体に当たってはいないのだ。

 

(おかしいやろ、こんだけやったら一発くらいは良いのが入っとるはずやで?)

 

 何度も戦った勇相手ならば、既にお互いに数多く被弾しているはずだろう。しかし、謙哉の場合は違う。光圀も謙哉も、お互いに一撃も攻撃を食らっていないのだ。

 攻めよりも守りに主点を置いた謙哉の戦いが引き起こしたこの現象は、二人の戦いの主導権を謙哉が握っていることを示している。一瞬でも光圀が気を抜けば、抜け目ない謙哉の反撃から一気に状況は逆転してしまうだろう。

 それを許していないのはひとえに光圀が攻めの手を休めることをしていないからだ。反撃の隙も許さず攻撃を続ける光圀は、この戦いの勝敗は謙哉の守りを突き崩せるかどうかにかかっていることも理解していた。

 

(おもろいわ……! 勇ちゃんとは違うが、謙哉ちゃんもごっつ強いやんけ!)

 

 仕留められる、そう思って繰り出した攻撃をいとも簡単に防がれる。隙だと思った場所に不用意に踏み込めば、手痛いカウンターが待っている。

 防御と言う観点から見れば、謙哉は大文字以上の実力を持っている様に思える。この人間要塞を前にした光圀は、愉快そうな笑い声をあげて攻撃の手を更に激しくした。

 

「きえぇぇぇぇぇぇいぃっ!!!」

 

 斬撃の軌道が見えなくなる。刀がぶつかる音は早すぎるが故に一つしか聞こえなくなり、衝撃も増す。

 旋風が吹き荒れる程の斬撃を受け止める謙哉であったが、流石にこの猛攻の前に完璧な守りは出来なくなっていた。それでもトドメとばかりに繰り出された刃を盾で防ぐも、勢い余って後ろへと押し飛ばされてしまう。

 

「~~~っっ!!」

 

 盾を構える左腕がジンジンと痺れていることを感じながら、謙哉もまた光圀が強敵であることを再確認していた。

 勇より荒っぽく、それでいて冷静だ。隙を見せれば一瞬で飲み込まれ、何が何だかわからないうちに敗北しているだろう。

 

 まるで蛇の様な戦い方を見せる光圀を相手にどう戦うべきか悩む謙哉であったが、そんな時、彼の背後から少し苛立った様な声が響いた。

 

「何やってんのよ、謙哉。いつまでもグダグダしちゃって……」

 

「えっ……? あっ、えっ!?」

 

 急に自分に投げかけられた声に振り向いた謙哉は、そこに玲の姿があったことに驚いて情けの無い声を上げた。

 腕を組んでしかめっ面を見せる玲は、制服姿で謙哉のことをじっと見つめている。なんだがばつが悪くなって小さくなった謙哉の姿を見た光圀は、からからと笑って彼に声をかけた。

 

「ちょっとタンマにするか? 俺は一向にかまへんで」

 

「あ、す、すいません……」

 

 小さく頭を下げてその申し出を受けた謙哉は、変身したまま玲へと近づく。

 彼女からの冷ややかな視線を浴びたことで背中に変な汗をかいている謙哉は、戦々恐々といった様子で玲に話しかけた。

 

「あの……ど、どうしてここに?」

 

「あなたたちが戦国学園に行くって話を聞いたから、授業後にわざわざこうして出向いてあげたのよ。で、着いたら着いたで喧嘩が始まってて驚いてるってわけ」

 

「い、いや、喧嘩してるってわけじゃ無いんだけど……」

 

「どうでも良いわ。そんなことより苦戦してるじゃないの。まさか負けるんじゃ無いわよね?」

 

 ギロリと自分を睨む玲の姿に背筋を凍らせた謙哉は、手を振り回しながら一生懸命に自分の意見を主張した。

 

「み、光圀さんは強いし、絶対に勝てるとは言えないよ! ほんと、どうしようか悩んでる位で……って、あだっ!?」

 

「気持ちで負けてどうするのよ!? 絶対に勝つ位のことは言って見せなさい、このヘタレ!」

 

「ひ、酷いよ、水無月さん……」

 

 頭を叩かれた謙哉は涙目になりながらそう呟いた。変身しているので痛みは殆ど無いが、容赦のない玲の言葉に心が抉られたのは事実だ。

 そんな風に傷ついた姿を見せる謙哉から目を逸らした玲は、そっぽを向きながら小さな声で話し始める。

 

「……私のパートナーはそんな簡単に負ける人間なの? 少なくとも、私はもう少しあなたのことを信用している訳なんだけど」

 

「えっ……?」

 

「呆けた顔してないで、きっちりやることをやって来なさい! 龍堂の考えていることを実現させるんでしょ?」

 

「……うん、そうだね。僕は勇を支えるって決めたから……だから、負ける訳にはいかないんだ!」

 

 玲に発破をかけられ、自分の戦う理由を思い出した謙哉は拳を握り締めて光圀へと再び向き直る。そして、彼を見つめて頭を下げた。

 

「すいません、お時間を取らせました」

 

「ええんやで! にしても、大分尻に敷かれとるなぁ、謙哉ちゃんは!」

 

 仮面の下で屈託のない笑顔を見せた光圀は、素直な感想を口にした後で長刀を構えた。その表情は笑みこそ浮かんでいるが、雰囲気は真剣そのものだ。

 謙哉もそんな光圀と向き合いながら、全身に力を込めて深く息を吐いた。一拍の呼吸の後、謙哉は光圀目掛けて駆け出す。

 

「正面突破か!? それにしちゃあ無謀なんやないか!?」

 

「多少の無茶は承知の上ですよっ!」

 

 先ほどまでの防御主体の戦い方を捨てた捨て身の戦法へと切り替えた謙哉は、繰り出された刀での一撃を盾で受け止めるとそのまま拳を振りかぶる。

 体を捻り、謙哉の攻撃を躱した光圀は、もう一度刀を振るってカウンター気味の攻撃を繰り出した。

 

「しゃらくさいっ!!」

 

「なんやとっ!?」

 

 今度は謙哉は攻撃を躱そうとはしなかった。高い防御力を活かし、光圀の攻撃を受けながら自分も攻撃を繰り出すと言う選択肢を取ったのだ。

 戦い方が先ほどとは真逆になった謙哉の姿にわずかな動揺を感じる光圀。しかし、攻め合いだったら自分の十八番だと思いなおし、この乱打戦に嬉々として望んで行く。

 

「しゃあぁぁぁぁぁっっ!!!」

 

「はぁぁぁぁぁぁっっ!!!」

 

 刀が光り、拳が唸る。嵐の様な連撃を互いに繰り出しながらも、謙哉と光圀は一切に怯む様子はない。

 しかし、とうとうこの猛打が続く戦いにも転機が訪れた。謙哉の左拳を胸に受けた光圀が苦し気に表情を歪めて動きを止めたのだ。

 

「ぐぅっ!?」

 

 強烈な拳での一撃に流石の光圀も表情を歪ませる。彼の戦い方は攻め『100%振り』、この状況には一見して適している様に見える。だが、実際はそうでは無かった。

 なぜならば、光圀の戦い方における勝利のパターンは『攻めの連続で徹底的に相手を蹂躙する』か、『自分の攻撃の嵐に耐えきれらなくなった相手の不用意な一撃をカウンターする』と言う物だからだ。つまり、今の謙哉の様に『自分の損傷を度外視して攻め続ける相手』とは非常に相性が悪いのである。

 しかも謙哉は光圀よりも圧倒的に装甲が厚い。単純に殴り合えば謙哉の方が有利なのだ。

 

「もらったぁぁっ!!!」

 

「なん、のぉっ!!!」

 

<<必殺技発動!>>

 

 電子音声が二重に響き、謙哉と光圀の二人が必殺技を発動させる。謙哉は左の拳に雷光を纏わせ、光圀は刀に鋭い残光を光らせた。 

 

 光圀は体勢を崩しながらも手にした刀を謙哉の首へと振り抜く。鋭さを増したその斬撃は、謙哉の首をあと僅かな所で斬り落とす所まで接近した。

 だが、そこで光圀は腕を止めた。同時に謙哉の動きも止まり、戦いに静寂と均衡が戻る。

 

「はぁ……はぁ……っ」

 

「ふぅ~~……」

 

 荒い呼吸を繰り返す二人は、お互いに相手の攻撃が自分の急所の寸前で止まっている事を見て取ってから手を下げた。

 先ほどまでの激しい戦いが嘘の様に落ち着いた二人は、同時に口を開く。

 

「「引き分けにしときます(しとこか)?」」

 

 同じ言葉を口にした二人は少しだけ驚いた顔をした後で同時に噴き出した。

 変身を先に解いた光圀は、いつも通りの笑みを浮かべながら謙哉の肩を叩く。

 

「いや~、謙哉ちゃんもごっついのお! と言うより、俺や勇ちゃんよりもゴリゴリ行くやんけ!」

 

「正直何度も受けたい攻撃じゃあありませんでしたけどね……このまま続けてたら、どうなってたかは分かりませんよ」

 

「嘘こけ! 顔に絶対負けへんかったって書いてあるで! ……ま、俺もそうなんやけどな!」

 

 お互いの強さを認め合った二人は握手を交わした後で頷き合った。光圀はもう一度謙哉の肩を叩くと、彼を勇の元へ行くように促す。

 

「ほれ、そろそろ大将と勇ちゃんの戦いの決着も着く頃やろ。応援に行ったれや」

 

「はい! そうさせて貰います!」

 

 光圀に頭を下げた謙哉は、勇と大文字が戦っている場所へと駆け出して行った。その背中を見送った光圀は、今度は玲へと向き直ると彼女に話し始める。

 

「……なんや、大分良い感じなんやな。アイドルつっても、一人の女の子やもんな」

 

「……なんのお話をしてるのかさっぱりです」

 

「よせよせ、俺もそんな野暮な男や無いし、阿呆みたいに鈍くも無い。玲ちゃんの気持ちもなんとな~く、わかっとるで」

 

 揶揄う様な光圀の言葉に顔を逸らした玲であったが、その頬はわずかに赤みを帯びていた。

 珍しく感情を露にした玲の表情を見た光圀はくっくと喉を鳴らすと、彼女にこう告げる。

 

「……手綱、握っといたれや。今んとこ、それが出来んのは玲ちゃんと勇ちゃんだけや」

 

「どう言う意味ですか?」

 

「わかっとると思うが、謙哉ちゃんは自分の痛みに鈍い。その癖他人の痛みには敏感やから、すぐに他人の為に無茶してまう……そう思う事、あるやろ?」

 

「………」

 

 光圀の言葉に玲は肯定も否定もしなかったが、彼女が自分の話を聞いていることが答えであると判断した光圀はそのまま自分の意見を話し続けた。

 

「今の戦いもそうや。俺の攻撃は大分きつかったはずやが、それでも受け続けた。勇ちゃんの為に勝ちたい、その一心でな。……謙哉ちゃんは強いが、その強さは()()()()()()や。下手すると、自分の痛みに気が付かん間に唐突に壊れるで」

 

「……わかってるわ。あなたに言われなくてもね」

 

「けど、実際どうすれば良いのかが分からへん。違うか?」

 

 自分の心の中を見透かした様な光圀の言葉に、玲は少し戸惑った後で素直に頷いた。

 

「は~、やっぱりなぁ……こんな美少女を放って置くなんて、謙哉ちゃんも罪な男やで」

 

 光圀は、頭をぽりぽりと掻きながら困った様に言う。その声には珍しく、他者を心配する様な感情が込められていた。

 まあ、彼の事だから強い謙哉が居なくなってしまったら、彼と二度と戦えなくなってしまうことを心配しているのだろうが……それでも、自分同様に謙哉を危うく思う人間がいてくれたことが、玲は嬉しかった。

 

「助言を下さってありがとうございます。肝に銘じておきます」

 

「かまへんよ、俺は思ったことを言うたまでやしなぁ……でもま、一つアドバイスがあるとしたらアレやな。直接言ってしもた方が良い! なにせ謙哉ちゃんはむっちゃ鈍いみたいやからなぁ……」

 

「……心配しているってことは伝えたんですけどね。でも、あの性格は変わらないみたいです」 

 

「あ~、そうやなくてやな……ま、ええか! その辺は自分のペースですんのが一番や!」

 

 光圀が何を言いたいのかを察した玲はその話題から逃げる様に顔を背ける。そんな彼女の様子を見る光圀はとても楽しそうだ。

 

「お似合いやと思うで、冗談抜きにな。お得意の銃撃と一緒で、玲ちゃんなら一発で仕留められるやろ」

 

「……そう言うのじゃ無いんで」

 

「カカカ! 立場上はそう言うしかあらへんもんな! ……でも、後悔はせんようにな? うかうかしてたら他の誰かに取られてまうかもしれへんよ?」

 

「……大丈夫です。では、私はこれで失礼します」

 

 あくまでクールに光圀をあしらった玲は、彼に別れを告げると謙哉の後を追って駆け出して行った。

 前に見た時よりも柔らかな雰囲気を纏う様になった彼女の背中を見送りながら、光圀は心の中で思う。

 

(ほんま、不器用なんやな~。惚れたら惚れたでちゃっちゃと言ってまえば良いのに)

 

 単純明快・行動即決な光圀からしてみれば、あの二人の恋路はまどろっこしいことこの上ない。好き合っているのだから、さっさとくっつけば良いのにと思ってしまう。

 しかし、そう単純に行かないのも恋の面白さだ。自分はただの観客として、この愉快な見世物を楽しませて貰う事としよう。

 

「ええなあ! 俺も恋、してみたいなぁ……!」

 

 きゅんと来る甘酸っぱさを感じ、青春を羨ましがる光圀は、そんな心にも無い言葉を発した後で自分で自分のことを笑ったのであった。

 

 


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