<チョイス・ザ・エヴァー!>
「おぉぉりゃぁぁっっ!!!」
ディスティニーチョイスで呼び出した愛剣【ディスティニーソード】を振るった勇は、目の前に居るエネミーを思い切り斬りつける。
確かな手ごたえと共に火花が散り、攻撃を受けたエネミーが数歩後ろに下がったことを見た勇は、続けて剣を振るい続ける。
「はっ! せやぁっ!!」
再びヒット、鋭い斬撃が肩口から腰を斬り裂き、エネミーにダメージを与えた。そのまま剣を突き出した勇は、敵の胸に目掛けてディスティニーソードの先端を繰り出す。
ガキィンッ! と言う音が響き、今までで一番重い手応えを感じた勇の目の前では、渾身の一突きを受けたエネミーが大きく後ろへと吹き飛んでいた。
「グ、オォォォォォッ……!?」
「ったく、いつでもどこでも湧いて来やがる……こっちの都合も考えろってんだ!」
<フレイム! スラッシュ!>
うんざりとした口調でエネミーに文句をつけた勇は、ホルスターから二枚のカードを取り出した。
そして、そのカードを手にしたディスティニーソードへと通し、必殺技を発動させる。
<必殺技発動! バーニングスラッシュ!>
「おっしゃ、行くぜ!」
燃え盛る炎を纏ったディスティニーソードを斜めに一閃。もう一度構え直し、更にもう一閃。二連続で振られた剣の軌跡をなぞる様に生み出された炎の斬撃が宙を飛び、エネミー目掛けて突き進んで行く。
「ガ!? ガガゴッ!?」
ダメージを受けて身動きが出来ないエネミーの体を斬り裂いた二つの炎の斬撃は、その身体にX状の傷を残して爆発四散した。
その一瞬後、エネミーの体もまた灼熱の炎に包まれて見えなくなり、最後には光の粒となって消滅して行く。
「ふぃ~……これで終わりっと!」
戦いの終わりを見て取った勇は変身を解除すると深く息を吐いた。そして、まだ高い位置に昇っている太陽に視線を移し、目を細める。
買い出しの最中にエネミーに遭遇した時は驚いたが、周囲の被害が少なくて良かった。そう思った勇であったが、自分が買い出しの最中であったことを思い出すと慌ててバイクを走らせてスーパーに向かう。
「やっべぇ! 急がねえと夜に間に合わなくなっちまう!」
予想外の手間を取らせてくれたエネミーに苛立ちつつ、勇は大急ぎで買い物を済ませるべく目的地へと向かって行った。
「……ええ、はい……無事、納品も完了ですか。シークレットレアも問題無し……それは良かった」
電話で会話しながら笑顔を浮かべた天空橋は、無事にディスティニーカードの新弾が発売する為の準備を整え終わったと言う報告を受けてほっと一息をついた。どうやら、忙しかった最近の日々の努力が実を結んだ様だ。
数日後には全世界でディスティニーカード第三弾【暗黒の魔王と創世の歌声】が発売されるだろう。今回もまた沢山の人たちに喜びと驚きを届けられることに満足感を抱いた天空橋は、電話を切って天井を見上げる。
「これで一安心……って、行かない所が悲しい所ですよね」
そう呟いて苦笑した天空橋はすぐさま自前のPCを起動すると作業を再開した。
フォルダから今回の新作パックの高レアカードの一覧の画像を呼び出すと、それを見ながらまた別のPCに文字列を記入していく。
「このカードと、ソサエティのクエストクリアで貰える素材を組み合わせれば……うん、これでディーヴァのお三方用の装備も作れる。後は、出来たらこのカードも光牙さんたちに差し上げたいですね……」
政府の協力者として、そしてディスティニーカードの生みの親として、天空橋は自分に出来る仕事を続ける。今は、勇たちに自分の作ったカードの力を最大限に引き出して貰う方法を考えることが彼の仕事だ。
新たなカードパックが発売されれば、新たな力が彼らの元にやって来る。その力を最大限に使わなければ、新たな脅威に立ち向かうことは出来ないだろう。
ガグマとエックスが手を結んだことは分かっている。今は静観しているマキシマやシドーもいつ動き出すかわからない。彼らに対抗する為にも、戦力の増強は必要不可欠だ。
「……後は、このカードが皆さんの手に渡ってくれればいいんですけど……」
最重要、と書かれたファイルの中にあった一枚のカードを眺めた天空橋は、入手しにくいこのカードを何とか勇たちが手に入れてくれないかと天に祈る。強力なカードであるこのカードは、それに比例して非常に入手しにくい物なのだ。
今回の第一陣の出荷でも合計10枚しか出荷していないこのカードは、日本だけで見れば2、3枚程度しか流通しないことになるのだろう。
流石にこれを入手するのは不可能かと考え直した天空橋は、取り合えず企業との連絡を続けてこのカードを勇たちに出来る限り早く譲渡することを決めた。今までのフライングゲットとは違い、このカードだけはすぐに公開できない理由があるのだ。
「……まだ実験データも取れていませんが、これを使ったらどれだけの力が計測出来るんでしょうかね?」
今は手元に無いそのカードの絵柄を眺めながら、天空橋はその力を想像して楽しそうな声を漏らしたのであった。
「……終わるのね、夏休みが……また、学校が始まる、か……」
ゲームギアを弄っていた真美がカレンダーを見つめてから呟きを漏らす。
長い休みが終わることを悲しむと言うよりかは、今後の動きをどうするべきかを迷っている様な意味合いが強いその言葉を口にした彼女は深く息を吐いてからもう一度ゲームギアへと視線を移した。
「どうすれば良い? どうすれば戦力を立て直せるの……?」
甚大な被害を負ったA組を立て直し、もう一度戦いへの準備を整える為の策を考える真美は、夏休み明けの行動を頭の中でシュミレートしていた。だが、そのどれもがしっくりと来る効果を挙げられないでいる。
魔王、櫂、マリア、光牙の精神状態……解決するべき問題は山積みだ。だからこそ、その全てを解決する方法は簡単には見つけ出せない。
ただ一つ……たった一つだけだが、一応の効果はあるであろう策はあった。だが、それにはまた光牙のプライドを傷つける必要がある。
「……もうこれしかないわ。今は我慢して、光牙……必ず、必ずあなたを勇者にしてあげるから……!」
ここには居ない光牙に対しての言葉を口にした真美は、危険な光を瞳に灯しながら覚悟を決めた。
この策を実行するために光牙を説得することこそが自分の役目なのだと信じる彼女は、もう一度自分の策に不備が無いかどうかを確認し始める。
「今は我慢の時……でも、あなたが勇者になる日は必ず来るわ……! その日まで私があなたを支えてみせるから……!」
これから始まる新たな戦いに思いを馳せながら、もう一度真美は呟き、そして笑った。
夜、希望の里で子供たちに作った料理を振舞う勇は、まだ暑い外の気温に汗を流しながら外を見る。
遠くの方に見える明かりと聞こえて来る喧騒に笑みを見せながら、勇が外の会場の設置を終えて一息ついた時だった。
「勇さん、お待たせしました」
自分を呼ぶ声に勇が振り返れば、そこには浴衣姿のマリアが居た。赤と黒の綺麗な浴衣を身に纏った彼女の姿に心臓を跳ね上げた勇は、少し緊張した面持ちで彼女を迎える。
「お、おう、丁度良かったな。今、準備が終わった所なんだ」
「今日はお招きくださってありがとうございます。楽しみにしてました」
「うちのチビ共もおなじさ。一緒に楽しんで行ってくれよな」
きゃいきゃいと騒ぐ子供たちに連れられて庭に敷かれたシートまで歩くマリアの後ろ姿を見つめた勇は、数日前から楽しみにしていた花火大会を鑑賞すべく自分もそれに倣う。
この希望の里の一大イベントを楽しむ準備を終えた勇は、子供たちや職員たちに囲まれるマリアの隣に腰を下ろした。
「……浴衣、似合ってるな。綺麗だぞ」
「あ……ありがとう、ございます……変じゃ無いと良いんですけど……」
頬を赤らめるマリアの横顔にドキリとした勇は、それを隠すべく空を見上げた。
空中を見つめつつ、横目でマリアの様子を探る。綺麗な横顔を見せるマリアの表情は、どこか晴れやかであった。
「……勇さん、花火が始まる前にちょっとだけ良いですか?」
「あ……? どうかしたのか?」
急にマリアに話しかけられた勇は、声を少しだけ上ずらせて返事をした。緊張感を隠せないでいる勇に対してクスクスと笑みを笑みを見せたマリアは、ほぅと息を吐いてから話を始める。
「……残ることになりました。日本に」
「は……?」
「二学期も、虹彩学園に通う事になったんです」
「え……? えええぇっ!?」
予想外、そうとしか言い様の無いマリアの言葉に驚愕の表情を見せる勇は、何故そうなったのかと言う疑問を心の中に浮かべた。マリアはそんな勇の疑問を読み取ったのか、理由の説明を始める。
「……お父様がまだ日本に残るって言いだしたんです。何か調べたいことがあるとかで滞在するって言ってて、最初は私だけでも国に帰そうとしてたんですけど……」
「説得したのか?」
「説得……と言うよりもごねましたね。私も知りたいことがある、記憶だって取り戻したい、って言って散々我儘を言いました。それで、根負けした感じでしょうか?」
「お、おいおい……良いのか、それで……?」
「……多分、お父様も自分が日本に残ることを決めた時からこうなることは分かってたんじゃないかと思うんです。私を残すことを考慮しても、調べたいことがあったんでしょう?」
「そう、なのか……」
あのエドガーがマリアの危険を考慮してまで知りたいと思った事柄とは何なのか? 彼の心の中など読めはしない勇であったが、なんにせよまたマリアと共に学校に通えるようになったことを素直に心の中で喜ぶ。
しかし、マリアは真剣な表情で勇のことを見つめると、静かな声で自分の意見を口にし始めた。
「……お父様がそこまでして知りたいこと……それはきっと、二つあるんだと思います。一つは私の記憶喪失の真相、そしてもう一つは……勇さん、あなたのご家族のことです」
「え……? 俺の家族についてだって?」
「……実は、聞いてしまったんです。お父様が部下の方に勇さんのご家族の情報を調べさせた所、一切の情報が秘匿されていたって……勇さんの家族にはまだ何かがある、お父様はそう考えているみたいです」
「情報が秘匿……? なんで、そんな……?」
「わかりません。でも……お父様は、自分のしてしまったことに責任を感じているみたいなんです。自分のせいで勇さんは、突然真実を知ることになった。天空橋さんの考えをふいにしてしまったことに責任を感じている様で、出来ることならもっと勇さんのご家族についての情報を集めたいと思っているみたいなんです」
「そんな……気にしなくて良いって! 俺もマリアのお父さんのお陰で家族について知れたし、むしろ感謝してるって!」
そうやって正直な思いを口にする勇であったが、マリアはそんな彼に対して小さく首を振ってみせた。恐らく、暗にそんな単純な話ではないと言いたいのだろう。
気にかけて貰っていることを感謝する様な、また新たな謎が生まれてしまった事に困惑する様な、そんな複雑な思いを胸に浮かべた勇であったが、突如として夜の闇が明るくなったことに驚いて顔を上げると……
「うわぁ……! 綺麗、ですね……!」
空に打ちあがる綺麗な花火が夜の闇を照らし、華麗に天空を彩っていた。その美しい光景に息を飲むマリアが笑顔を見せる。
先ほどまで心に浮かんでいた暗い感情を掻き消す様な花火の光に照らされた勇は、一度顔を伏せた後でマリア同様に笑顔を見せた。
「ま、なんにせよだ! ……また、一緒に学校に通えるんだよな?」
「はい! ……ソサエティの攻略には加われないかもしれませんが……まだもう少し、一緒に居られることは間違いないです」
今の自分たちにとって大事なことはそれだけだ。
まだ一緒に居られる。まだ共に過ごせる……それさえ分かれば十分だ。
まだまだ自分たちの抱える問題には解決が見えない。暗い話題も多く、この先を楽観視することは出来ないだろう。
だが、明るいニュースが無い訳でも無い……こうやってマリアと共に過ごせる時間が伸びたことは、間違いなく良い話だ。
「……光牙にも教えてやんねえとな。あいつもきっと喜ぶぜ」
「はい! ……勇さん、二学期もどうぞよろしくお願いしますね!」
「こちらこそよろしくな!」
差し出された手を取り、勇はマリアと握手を交わす。楽しい一時を過ごす二人は、再び夜空を見上げて美しい花火を眺め続けたのであった。
こうして、様々な驚きを勇たちに与えた夏休みが終わろうとしていた。仮面ライダーたちは再び集い、新たな戦いを始めようとしている。
だが、彼らの前に最初に立ちはだかる暗黒の脅威は、その思惑を着実に現実の物とするべく行動を続けていることをまだ勇たちは知り様が無かった。
―――???がゲームオーバーになるまで、あと???日……