「龍堂! どこに居やがるっ!? とっとと出て来て俺と戦えっ!!」
「イージス……魔人柱の誇りにかけて、今度こそ君を倒してやる!」
エネミーたちと共に病院を破壊しながら宿敵を探し叫ぶ二人の魔人柱。怒髪天を突くとばかりに怒りのオーラをまき散らす彼らの姿は、見る者全てを威圧していた。
病人や怪我人、年老いた人々などの体が上手く動かない患者たちは必死になってエネミーたちから逃げ惑う。そんな患者たちを掻き分けてエネミーたちの前に姿を現したのは、ドライバーを構えた勇たち五人だった。
「そこまでにしとけよ、櫂! んな暴れまわらなくても俺は逃げたりしねえよ!」
「パルマ! 病院の人たちに手を出すことは許さないぞっ!」
威勢良く飛び出して来た勇たちを見た櫂とパルマは、倒したい相手を見つけ出すことに満足した笑みを見せた。そして、お互いに協力する気配を見せないまま戦闘態勢を取る。
「龍堂……! ここでてめえをぶっ飛ばしてやるぜ!」
<アグニ! 業炎! 業炎! GO END!>
アグニのカードを使って変身した櫂がイフリートアクスを勇に向けながら首を回し、ポキポキと音を立てて骨を鳴らす。パルマもまた周囲のエネミーと共に戦いの構えを見せながら謙哉を睨んでいた。
「……謙哉、櫂の奴は俺に任せろ。お前はパルマを頼む!」
「了解! ……水無月さん、援護を頼めるかな?」
「当たり前でしょ? あなた一人で戦わせて、無茶なんかされたらたまったもんじゃないわよ」
「それじゃあ、アタシとやよいは勇っちの援護と行きますか!」
「玲ちゃん、今回のブライトネスは玲ちゃんが使って!」
5人は各自の会話を通じて戦略と戦う相手を定めて行く。勇と葉月、やよいは櫂と謙哉と玲はパルマと戦うことを取り決めた後、5人はカードを片手に次々と変身していった。
「「「「「変身っっ!!!」」」」」
<ディスティニー! チョイス ザ ディスティニー!>
<ドラグナイト! GO! ナイト! GO! ライド!>
<ディーヴァ! ステージオン! ライブスタート!>
黒の航海士、蒼の竜騎士、三色の歌姫、それぞれに姿を変えた5人は武器を手にエネミーの大群へと駆け出して行く。
雑魚を蹴散らし、それを指揮するボス格の相手へと突っ込んだ勇と謙哉は、雄叫びを上げながら強烈な一撃を繰り出して飛び掛かった。
「うおぉぉぉっ!!」
「はぁぁぁぁっ!!」
ディスティニーソードが、ドラグファングセイバーが、櫂とパルマの頭上に迫る。あわや直撃と言う所でその一撃を斧と光輪で受け止めた二体の魔人柱は、激しい鍔迫り合いを繰り広げながら左右に走り出して行った。
「龍堂……っ! 絶対にてめえを、ぶっ飛ばすっ!!!」
<フレイム!>
勇に対する憎しみの呪詛を吐きながら炎属性付加のカードを使用した櫂は、燃え盛るイフリートアクスを振るって次々に勇へと攻撃を仕掛ける。強力なパワーと激しい炎を組み合わせた櫂の攻撃を何とか凌ぐ勇は、大振りの一撃がやって来たことを見て思いっきりバックステップを踏んでそれを回避した。
<チョイス ザ フューチャー!>
「でりゃぁぁっ!!!」
そのまま空中でディスティニーホイールを回転させた勇は、強化されたディスティニーブラスターを召喚して櫂へと狙いを定める。空中から落下するまでの間に連続して引き金を引けば、紅の弾丸が櫂へと雨の様に降り注いで行った。
「ぐおぉぉっ!?」
「良し、今ならっ!」
「食らえーーっ!」
自分の体を叩く弾丸の痛みに呻く櫂。彼の攻撃の手が緩んだことを見たやよいと葉月が同時に跳躍し、櫂目掛けて飛び蹴りを放つ。
両肩に息ぴったりのタイミングで炸裂した二人の攻撃を受けた櫂は、そのまま叫び声を上げてエネミーの大群の中へと吹き飛ばされてしまった。
「がはぁっ!!! くっ、この野郎がぁ……っ!」
「野郎じゃないし、レディだし! 女の子にそんな口を利く奴には、葉月ちゃんからのお仕置き行っちゃうからね!」
<エレクトリック! サウンド!>
<必殺技発動! エレクトロックフェス!>
カードを二枚使って必殺技を発動させた葉月がロックビートソードの弦を掻き鳴らす。ギターの音と共に繰り出される電撃と衝撃波を受けたエネミーたちは、次々と光の粒へと還って行った。
「この、アマぁぁぁっ!!!」
強靭な防御力を持って葉月の必殺技に耐える櫂は怒りの咆哮を上げて彼女に突っ込む。ショルダータックルを繰り出して葉月を吹き飛ばそうとした櫂であったが、その行動に対して何のアクションも起こさない程勇とやよいも馬鹿ではない。
「そう言う汚い言葉遣いが駄目って言ってるんです!」
「お仕置きパート2だ! 派手に吹っ飛びなっ!」
<必殺技発動! プリズムレーザー!>
<超必殺技発動! ワールドオブエンド!>
「何っ!? ぐおぉぉぉぉぉっっ!?」
猪突猛進する櫂へと撃ち出される二本の光線。光り輝くレーザーと紅と黒の混じった混沌とした光線を受けた櫂はまたも吹っ飛び、病院の床を二転三転して膝を付く。
「がっ、はぁっ……! まだだ、まだ、俺は……っ!」
「ったく、しつこさは変わらねえな! それなら、お前が満足するまで相手してやるよっ!」
怒りから来る興奮で全身の痛みを忘れた櫂がぎらついた眼光を勇たちへと向けながら立ち上がる。全身に力を滾らせ、まだ戦えることをアピールする彼の姿を見た勇もまた彼との決着をつけるべく挑みかかって行く。
「龍堂……龍堂ぅぅぅぅっっ!!!」
「人の名前を大声で叫ぶんじゃねえ! 気持ち悪いだろうが!」
拳と拳をぶつけ合う激しい肉弾戦を繰り広げながら、勇と櫂はかつてと同じように激しい火花を散らして争い合っている。憎しみと憐憫と言う相反した感情のままに戦う二人は、自分の全力を拳に乗せ、殴り合いを続けるのであった。
「どうしてオールドラゴンを使わない!? 僕を舐めているのかっ!? 本気で戦えっ!」
一方、謙哉と戦うパルマは、彼が本気を出さないことに苛立ちを募らせていた。
自分を何度も破ったオールドラゴンとの再戦を望むパルマは、謙哉にその姿に変身する様に求める。しかし、謙哉は仮面の下で笑みを浮かべるとその要求を断った。
「悪いね、あれはそう簡単に使う訳にはいかないんだ。僕のことを心配してくれる人の為にもね!」
「あぐっ!?」
ドラグファングセイバーを振るい、パルマの脇を斬り抜ける謙哉。その動きに合わせて反対側から繰り出された銃撃を受けたパルマは、痛みに呻きながら攻撃を放った相手の姿を探して方向転換をした。
「……少しは考える様になったみたいね。ビンタの甲斐があったわ」
「あはは、洒落にならないレベルで痛いからね、あれ」
援護射撃を飛ばした玲は、軽いジョークを口にしながら謙哉の頭を小突いた。謙哉もまた苦笑しながら彼女の隣に並び立つ。
先日から自分と謙哉の戦いを邪魔する玲に対して怒りの感情を露にしたパルマは、その胸の苛立ちのままに彼女に向って叫んだ。
「邪魔するなよっ! これは僕とイージスの戦いだ! 関係ない奴は引っ込んでろ!」
「そう言われて、はいそうですかって引っ込む訳が無いでしょう? 引っ込むのはそっちの方よ!」
メガホンマグナムの銃口をパルマに向けた玲は彼に向けた言葉と共に銃弾を見舞う。それを回避したパルマはお返しとばかりに光輪を作り出して玲へと飛ばすも、間に入った謙哉の盾によって全て防がれてしまった。
「……それじゃあ、本気で行くわよ? 覚悟は良い?」
戦いの決着をつけるべくブライトネスのカードを取り出した玲は、カードを掴んだ手をパルマに向けながらそう問いかけた。
苦々し気な思いを胸に浮かべながら玲の姿を見守るパルマの前でカードをドライバーに通した玲は、両手を軽く広げてその場で直立する。
<ブライトネス! 一生一度の晴れ舞台! 私、幸せになります!>
玲の周囲に舞うは青い薔薇、甘い香りと美しい花弁を回せながら体を光らせた玲は、新しい衣装をその身に纏う。
薄い青色のウエディングドレスは、動きを阻害しない様な細身のマーメイドタイプだ。しかし、花嫁としての美しさを損なうことなく玲を彩るそのドレスは、外見だけでなく内部にも新しい力を与えてくれていた。
(空間把握システムと計算能力の性能上昇! これならっ……!)
自分が欲していた能力を得た玲は、ここ最近ずっと試していた戦い方を実演すべくカードを取り出す。二枚目のメガホンマグナムのカードを使って二丁目の銃を取り出した玲は、それを構えながら堂々とした態度でパルマに叫んだ。
「ここからは
「っっ!?」
戦いの口火を切る啖呵と共に駆け出した玲のスピードにパルマは面食らった。3タイプの中で最も機動力に秀でたタイプγの強化されたスピードはまさに目にも止まらぬほどであり、あっという間に有利な位置取りをした玲が引き金を引けば、二丁の拳銃が絶え間なく火を噴いて弾丸をパルマへと浴びせた。
「ぐっ! くぅっ! このぉっ!」
弾丸を浴びたパルマの反撃。光輪を作り出したパルマはそれを玲に向って飛ばすも、玲は焦る事無くそれを迎撃する。
片方の銃で光輪の破壊を、もう片方の銃で継続した攻撃を繰り出す玲は、攻防一体の戦術を披露してパルマを追い込んで行った。
「これで、どうよっ!?」
「うわぁぁぁぁぁぁっっ!?」
光輪を全て撃ち落とした玲が二丁の銃をパルマに向けて激しく連射する。顔面、胴、下半身……全身に雨の様に浴びせられる弾丸の連射を受けたパルマは大きく吹き飛び、呻きながら地面に倒れた。
「凄い……! 水無月さんがこんな戦い方をマスターしていたなんて……!?」
「当然でしょ、私はただ守られるだけのか弱い女の子じゃないの。あなたのお荷物で居続けるつもりなんてさらさら無いわ!」
予想以上の強さを見せる玲に驚きの表情を見せる謙哉。そんな彼に向けて自分の意思を伝えた玲は、もう一度彼の頭を小突くと仮面の下で笑みを浮かべた。
「さあ、決めるわよ! 付き合ってくれるわよね、謙哉!」
「勿論! 派手に決めちゃってよ!」
「なら、遠慮なく……行くわよ!」
気合の籠った言葉を口にした玲は、手にした銃を二つとも空中へと放り投げた。そのまま胸の前で手を組み、何かを掴む様な姿勢を取る彼女の手の中に白い
手の中に出現した花束をしっかりと握り締めた玲は体を反転させると、ちょうどパルマの頭上に向けてその花束を放り投げた。結婚式で花嫁が行うブーケトスに似たその行動にパルマが目を奪われていると……
「……ラストナンバーよ、アンコールは無しでお願いするわ!」
<必殺技発動! ブーケトス&シュート!>
「良しっ! 僕も!」
<必殺技発動! グランドサンダーブレス!>
必殺技の発動を告げる電子音声をドライバーから響かせ、先ほど落下して来た二丁の拳銃を掴んだ玲がブーケに向けて狙いを定める。謙哉もまた盾をパルマに向けると、二人同時に攻撃を放った。
「これで……」
「ショーダウンだっ!」
「がっ!? ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」
花束に向けて放たれた弾丸は正確にそれを射抜き、パルマの頭上から文字通り雨の様なエネルギー弾を降り注がせる。正面から放たれる雷撃の咆哮もまたパルマを攻め、逃げ場のない攻撃にただ苦しむ事しか出来ないでいる。
大きな爆発を起こすと共に地面に膝を突いたパルマは、苦しみを耐える様な声を出しながら謙哉と玲に向けて憎しみの言葉を投げかけた。
「お前たち……絶対に、許さない……! この僕を怒らせたこと、必ずや後悔させてやる……!」
その言葉を最後にパルマの姿が消える。だが、彼は消滅したのではなくこの場から逃げ去っただけだ。
またしても宿敵を仕留めきれなかったことを悔しがる謙哉であったが、変身を解除した玲に三度頭を小突かれてつんのめって床に倒れてしまった。
「あいたたた……酷いよ、水無月さん……」
「どう? これでも私のことを信用出来ないかしら?」
痛む鼻を抑えながら顔を上げた謙哉の前にしゃがみ込んだ玲は、珍しく笑みを浮かべながらそう問いかけた。謙哉は恥ずかしそうに目を逸らしながらその質問に答える。
「……ううん、そんなこと無いよ。凄く頼りになった」
「そうでしょ? ……約束しなさいよ。今度から、私が傍に居る時は無茶しないこと! 良いわね?」
「う、うん……」
ぎこちなく玲の言葉に反応する謙哉だったが、玲は彼のその態度が気に入らないのか剣呑な表情をしたままだ。
玲は少し怒気を強めると、厳しい口調で謙哉に対して詰め寄る。
「……約束をする時は相手の目を見なさい。そっぽ向いたままの約束なんて信用性0でしょ?」
「あー、うん……わかったから、少し離れて……」
「いいえ、あなたが私の目を見て約束するまでは離れないわ! こっちを向きなさい!」
「……それは無理、です……」
「どうして!? まさかあなた、また無茶するつもりじゃ……!?」
頑なに自分の目を見ようとしない謙哉の態度に彼がまた無許可でオールドラゴンを使おうとしているのでは無いかと考えた玲が大声で叫ぶ。そんなことは許さないとばかりに怒りの表情を見せて謙哉に詰め寄る玲は、もう一度彼に約束をすることを求めた。
「私の目を見て約束しなさい! 目を逸らさないの!」
「む、無理……それは、無理……離れてくれたら約束するから、一度距離を……」
「はぁ? それどういう意味よ!? まさか距離を取った瞬間に逃げるつもりじゃないわよね?」
「いや、そうじゃなくて……」
「なら何よ!? きちんと納得できる説明をしなさい!」
青の花嫁から一変して青鬼に変わった玲は表情もまた鬼の様な形相を浮かべて謙哉を睨んでいる。彼が頑なに自分を見ないことに怒る玲は、ほとんど本気で切れかかっていた。
このままでは再び喧嘩になってしまう……観念した謙哉は大きくため息をつくと、顔を地面に突っ伏したままぼそぼそと話し始める。
「……あのね、僕はこうやって地面に倒れてるわけじゃない? それで、水無月さんはしゃがみ込んで僕の前にいるわけでしょ?」
「……それが何よ?」
「水無月さんは学校の制服を着てるわけでしょ? それで、薔薇園の制服って下はスカートじゃない?」
「ねえ、意味のないことを延々と言って時間を稼ごうとしてるなら怒るわよ?」
「……見えるんだよ、この位置だと……」
「……見える? 何が?」
「だから! 水無月さんのスカートの中身が丸見えなの! 顔を上げると見えちゃうから、離れて欲しいって言ってるの!」
もはや直球で言葉にしなければ自分の置かれている状況を伝えられないと踏んだ謙哉は、やけくそ気味に叫んでから玲の裁きを待った。
取り合えず、自分が顔を上げられなかった理由はわかってくれただろう。しかし、それとは別の問題が生まれてしまった訳である。
(水無月さんのビンタ、痛いんだよなぁ……)
何発引っ叩かれるだろうか? 出来たら温情を期待したいと願う謙哉は、やはり顔を上げられないまま床に突っ伏している。
硬直したまま動かない玲の様子を察した謙哉が、心臓の鼓動を恐怖で早鳴らせていると……。
「……あなたって人はねえ……そんな、下らないことで……!」
「く、下らないって、僕にとっては結構だいもんだ、いだだだだだだっ!?」
玲の言葉に反論しようとした瞬間、謙哉は彼女に腕の関節を取られて極められてしまった。結構本気の極め技を繰り出しながら玲が謙哉に向けて叫ぶ。
「あなたは! もう! 私の! 水着姿を! 見てるでしょうが! 今更パンツの一枚位で動揺するんじゃないわよ!」
「いや! 水着とパンツは大違いでしょ!? って、あいたたたたたたっ!?」
「何!? 私の水着姿は動揺するほどの物じゃなかったってわけ!? 乙女の柔肌を見ておいて、その反応はなんなのよ!?」
「ギブ! ギブっ! 僕が悪かったから! 許して水無月さん!」
プロレス技をかけられる謙哉とかける玲。傍から見ればただじゃれついているバカップルなのだが、本人たちからしてみれば重大な問題だ。
そんな風に大声で怒鳴り合う謙哉と玲の様子を物陰から見守る勇たちは、呆れた様な溜息の後で顔を見合わせる。
「完っ全に尻に敷かれてるな、あれは」
「でも、二人が仲良しに戻って良かった!」
「分かるよ謙哉っち……玲のプロレス技、痛いんだよね……!」
「あだだだだだっ! み、水無月さん! 当たってる! 色々当たってるからっ!」」
「だから何よ!? 少しはそれで耐性付けなさいっ!」
なおも続く二人のじゃれつく声を聞きながら、どうせそのうち戻って来るだろうと判断した勇たちは病院で患者の避難を誘導しているマリアの元に戻って行く。
なんにせよ二人の関係が元通りになってよかったと思いながら、勇たちは背後から聞こえる謙哉の悲鳴を聞こえないふりをして歩き去って行ったのであった。
「……ああ、うん。こんな感じか……うん、役者は揃ったね」
闇の中で満足げに微笑むエックスは、自分の手元にあるボードと駒を見てそう呟いた。
準備は着々と進んでいる。自分の思い描いた絵が出来るまで、あともう少しだ。
「さあ、ゲームを始めよう。最高に楽しく、心を揺さぶるゲームを!」
魔王、魔人柱、そして人間……そのすべてを掌の上で転がしながら、暗黒の魔王は怪しい笑みを浮かべた。
更新が遅れてすいません! 出来る限り追いつけるように頑張ります!