仮面ライダーディスティニー   作:茜丸

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ウエディング・カット!

「だ~め~だ~! 全然わからないよ~~~っ!!!」

 

「……ここまで色々試してみて何も変わらないなんて……本当に必殺技は発動するの?」

 

「それはアタシが知りたいって~!!! も~、なんでなのさ~!?」

 

 机に突っ伏して頭を抱える葉月は未だに発動しないブライトネスの必殺技にやきもきして叫んだ。やよいと玲に手伝って貰いながら色々と試行してみたが、まったくもって必殺技が発動する気配は見えない。

 体勢を変えてもダメ。動きを変えてもダメ。考え付く限りのことはやってみたが、それでも必殺技は発動してくれないのだ。

 

「もうダメだ~! このまま必殺技を使えないダメダメヒーローとしてアタシは生きて行くことになるんだ~!」

 

「おいおい、そんな世界の終わりみたいな顔すんじゃねえよ」

 

「大袈裟だって。まだ何か方法があるかもしれないし、試してみようよ」

 

 あまりにも悲観的な意見を口にする葉月の事を勇と謙哉が慰めるも、彼女にはあまり効果が無いようであった。

 葉月は我儘を言う子供の様に手足をじたばたさせながら、ブライトネスディーヴァに関しての愚痴を喚き散らしている。

 

「だいたいおかしいんだよ! 何で花嫁にギターなのさ!? 完全にミスマッチじゃん!」

 

「いや、それを言ったら花嫁に戦わせることが間違いだと思うけど……」

 

「……まあ、新婦がギターをかき鳴らす結婚式は嫌よね。やよいの必殺技みたいにゴスペルでも鳴ってくれてた方が現実的だわ」

 

 葉月の叫びに対して勇と玲が的確な突っ込みを入れる。なおも葉月は文句を言い続けていたが、次の瞬間に彼女が口にした言葉を聞いた途端、全員の動きが完全に止まった。

 

「そもそも、花嫁が何かをぶった切る結婚式なんてある訳ないじゃん! そんな暴力的な式、アタシはごめんだよ~!」

 

「「「「……ん?」」」」

 

 勇が、謙哉が、やよいと玲が、今の葉月の一言に何か違和感を感じ、考え込み始める。

 自分の周囲で押し黙る友人たちに驚いた葉月は、慌てながらも4人に対して声をかけてみた。

 

「い、勇っち~? アタシ、何か気に障る事言った……?」

 

「結婚式? 花嫁……?」

 

「やよい~? 玲~? 何を考えてるのかアタシにも教えて欲しいな~……」

 

「結婚式で、花嫁が切る……?」

 

「ゴスペル……結婚式の催し……切る……」

 

「け、謙哉っち~! 優しい謙哉っちなら、アタシのこと無視しないよね!?」

 

「何か……何か、引っかかるんだよね……」

 

 4人の頭の中で、この問題の答えが見え隠れしている。結婚式らしい必殺技で、花嫁が切る物……とんでもないヒントを貰った事で必殺技発動への考えを巡らせる4人は、自分たちに話しかける葉月の言葉など耳に届いていない様だ。

 葉月は暫く4人に話しかけていたが、自分の事を無視する仲間たちに対して頬を膨らませると部屋の中に備え付けてある冷蔵庫の前に立ち、そこから何かを取り出しながら拗ねた口調で叫んだ。

 

「良いもん、良いもん! みんなしてアタシの事を仲間はずれにしてさ~! 理事長から貰った美味しいケーキ、アタシ一人で全部食べちゃうもん!」

 

「ケーキ……?」

 

「そうだよ! 話題の名店のとっても美味しいケーキだよ! たくさん種類があるけど、全部アタシ一人で食べちゃうもんね~! 今日はカロリー制限なんて気にせずに……わぁぁっ!?」

 

 冷蔵庫からケーキを取り出し、ぶー垂れながら振り返った葉月は、自分のすぐ傍まで近寄って来ていた仲間たちの姿を見て悲鳴を上げながら跳びあがった。

 全員が全員、真剣な顔をして自分の事を見つめている。食べ物の恨みは恐ろしいと言うが、ここまでのものだとは想像出来なかった葉月は大慌てで今の自分の言葉を訂正する。

 

「じょ、冗談だって! ちゃ~んと皆の分も取っておくし、お茶目な葉月ちゃんの可愛い冗談として、許してちょ~だい!」

 

「……葉月」

 

「そ、そんな怖い顔しないでよ~! まだ食べちゃったわけじゃないじゃんか~!」

 

「いや、そうじゃなくて……それだ、必殺技」

 

「へ……? それ、って……ケーキの事?」

 

 謝罪する自分に対して投げかけられた予想外の言葉。発動しない必殺技の正体はケーキであると言われた葉月は、それがどういう意味なのかを理解する為に勇の顔とケーキを交互に視線に映す。

 暫くその意味が分からず困惑していた葉月だったが、そんな彼女に対して玲が助け舟として一つのヒントを出した。

 

「良い、葉月? 結婚式、切る、ケーキ、花嫁……このキーワードを組み合わると、何か思いつかない?」

 

「へ? ……あ、ああっ!!! そう言う事かぁ!」

 

 玲のヒントを受けた葉月もまた、ようやくその答えに辿り着いた。しきりに感心した様子で頷く彼女は、仲間たちに向けて自分の出した答えを口にしてそれを確認して貰う。

 

「ウエディングケーキ! それが答えってこと!?」

 

「そうだと思うよ。結婚式で花嫁が切るものと言ったら、これしかないもんね」

 

 自分の答えを肯定してくれた謙哉の言葉に安堵しながら、葉月は結婚式の恒例行事であるケーキ入刀の事を思い浮かべる。

 確かにあれは()()がケーキを()()()いる。斬撃必殺技である自分の必殺技にぴったりなものなどこれしか無いだろう。

 であるならば……必殺技を出すために足りなかった物の正体自ずとわかって来る。ようやく必殺技の出し方を理解した葉月が大喜びで叫ぼうとした瞬間、部屋のドアが開いて天空橋が駆け込んで来た。

 

「み、皆さん! 訓練でお疲れでしょうがエネミー出現です! 急いで現場に急行してください!」

 

「OK! 最高のタイミングで来てくれたじゃん!」

 

「うん! これで葉月ちゃんの必殺技のお披露目が出来るね!」

 

「そういうこっと~!!! さあ、派手に行っちゃうよ~~っ!」

 

 訓練の疲れもなんのその。元気よく駆け出した葉月に続いて部屋を飛び出した勇たちは、急いでエネミーたちが暴れる事件現場に向かったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 閑静な住宅街、平日の昼下がりのそこは、夏休みと言う事もあって家で休んでいる母親や子供の姿が多々存在している。そこに出現したエネミーは数こそ少ないものの、戦う力のない一般市民からしてみれば十分な脅威だ。

 暴れまわるエネミーたちから逃げ惑う人々の合間を縫って現場にやって来た葉月たちは、暴れているエネミーたちが前回の戦いで逃がしてしまった相手だと言う事に気が付いてがぜんやる気を見せた。

 

「よっしゃ! リベンジマッチと行くよ~! 今度は逃がさないんだから!」

 

「油断しないの! 前に勝てたからって今回も絶対に勝てるとは限らないんだからね!」

 

「分かってるよ! ……でもさ、アタシたちが固い表情してたら、皆も不安になるじゃない? ステージの上でも、戦いの場でも、笑顔でいた方が周りの皆も安心するでしょ?」

 

 ちらりと周囲を見渡した葉月は、不安に怯える子供たちに向けて満開のスマイルを見せた。緊張感の感じられない彼女の行動に面食らう子供たちだったが、葉月の笑顔を見て安心感が生まれたのも確かだ。

 

「……ヒーローでしょ、アタシ達? なら、やって来ただけで皆が笑ってくれる様なスーパーなヒーローになってやろうよ! もう2度と負けない! 世界を守る為にアタシだって強くなって見せる!」

 

 葉月の瞳の中でメラメラと燃える闘志の炎。ノリは軽く、されど至って本気(マジ)な彼女は、彼女なりの思いを抱いて戦いに身を投じているのだ。

 やよいと玲は、いつでも真剣なチームリーダーに信頼を込めた視線を送る。葉月の肩を叩いた二人は、彼女の背を押す言葉を口にして戦いの場へと送り出す。

 

「さあ、やっちゃいなさい。あなたの力、見せつけてやりなさい!」

 

「新必殺技も一緒にね!」

 

「OK! そんじゃ、ノリノリで行っちゃうよ~!」

 

 懐からドライバーを取り出した葉月がそれを腰に構える。勇と謙哉、ディーヴァの二人もそれに続いてホルスターからカードを取り出した。

 

「変身!」

 

<ブライトネス! 一生一度の晴れ舞台! 私、幸せになります!>

 

 ブライトネスのカードを使用した葉月の周囲を花びらが舞い、中心から花嫁衣裳を纏ったディーヴァβが姿を現す。2度目の変身に慣れた様な素振りを見せながら、葉月はロックビートソードを構えてエネミーのリーダー目掛けて突っ込んだ。

 

「アンコールライブ、ヒィア・ウィ・ゴー!」

 

「ドロロロロロウゥッ!?」

 

 威勢の良いセリフと共に自分の目の前に出現した葉月を見たエネミーの脳裏には、つい先日彼女にやられた時の記憶が蘇っていた。

 ほとんど一方的にやられ、命からがら逃げだしたことを忘れていなかったエネミーは葉月の姿を見ただけで及び腰になってしまう。対して、今度こそ逃がしはしないと熱意に燃える葉月はエネミーに向けて積極的に攻撃を仕掛けて行った。

 

「ちょいさぁっ! 最初っからフルスロットルで飛ばすよーっ!」

 

 振り上げたロックビートソードを思い切りエネミーの脳天に叩き落す。強烈な一撃を貰ったエネミーの頭の上には星が飛び、意識が一瞬飛びかける。

 葉月は隙を見せたエネミーに連続して剣を振るい、怒涛のラッシュを叩きこんだ。火花が舞い、鋭い斬撃の音が響くと共にエネミーの体力が的確に削がれて行く。

 

「そらっ、よっと!」

 

 数歩後退したエネミーに向けて跳びかかった葉月は、空中で体を反転させてソバット気味の飛び蹴りを叩きこんだ。

 側頭部に強力な後ろ回し蹴りを食らったエネミーは意識を昏倒させ、完全にグロッキー状態になっている。

 

 その隙を見た葉月は今がチャンスと見るやロックビートソードを構え、前回発動出来なかった必殺技をエネミー向けて繰り出した。

 

<必殺技発動! ウェディングケーキ・ホールド!>

 

「よいしょっと!」

 

 電子音声が響くと共にロックビートソードに溜まって行くエネルギー。葉月がそれが最高潮に高まる前に剣を振るえば、切っ先から地面を這って真っ直ぐにエネルギー波がエネミーの元へと突き進んで行く。

 やがてエネミーにぶち当たったエネルギー波はその形を変えると、三段重ねの巨大なウエディングケーキへと姿を変えた。その中心に拘束される形になったエネミーがもがく様をしっかりと確認した後、葉月は大声で勇を呼ぶ。

 

「勇っち~~っ! 新郎さんの出番だよ~~っ!」

 

「はいよ! んじゃまぁ、初めての共同作業と行きますか!」

 

「いやん! 勇っちったら大胆!」

 

 拘束されたエネミーの正面に立ち、二人は両側からロックビートソードを掴んで二人でそれを振り上げる。

 剣の刃には黄色と黒のエネルギーが混ざり合い、切っ先からそれが入り混じったエネルギーの刃が伸びて眩い光を放っていた。

 

「……ケーキ入刀は一人じゃ出来ねえ。なにせ新郎新婦の初めての共同作業なんだからな」

 

「まさか、デフォルトの必殺技が合体必殺技だったなんてね!」

 

 予想外だが、気が付いてしまえば簡単な話。別段特殊な条件は必要無い。葉月が必殺技を出すには、人数が足りてなかったと言うだけなのだ。

 至極簡単なその答えに辿り着いた二人は、お互いに仮面の下でまんざらでもない笑みを浮かべながらロックビートソードを振り上げる。そして、その切っ先から伸びるエネルギー波をケーキの中に拘束されるエネミーに向けて振り下ろした。

 

<合体必殺技発動! ウェディングケーキ・カット!>

 

「これでっ……!」

 

「終わりだよっ!」

 

「ガギャァァァァッ!?!?」

 

 ウェディングケーキの中に捕らえられたエネミーは、自分目掛けて振り下ろされる黄色と黒の刃を見て何とかここから脱出しようとした。だが、次の瞬間には頭から真っ二つに体を両断され、ケーキの中で爆発四散してしまう。

 周囲に居たエネミーたちもまた葉月と勇の必殺技の余波を受けて次々と消滅していく。レベル80と75の戦士である二人の合体必殺技だけあって、その威力は驚異的なものであった。

 

「……アタシ達のセッション、楽しんで貰えた?」

 

「アンコールをお望みならくれてやるぜ? 消えてなければの話だけどな!」

 

 二人で決め台詞を口にして、勝利のポーズを決める勇と葉月。お互いの拳をぶつけ合った二人は、必殺技の発動と戦いの勝利に満足げな笑みを浮かべて笑いあったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝った、勝った! 必殺技も無事に発動して、もう言う事無しだよね!」

 

「うん! 良かったね、葉月ちゃん!」

 

 戦いの後、虹彩学園でシャワーを浴びて汗を流した一行は、クーラーの効いた涼しい部屋の中で園田からの差し入れであるケーキを頬張っていた。

 この夏限定のマンゴーのケーキを食べながら上機嫌で笑う葉月は先ほどの快勝にご満悦だ。ケーキと紅茶で乾杯する彼女たちを見ているとアイドルと言えどもやっぱり女の子なのだなと思いながら、勇もまた好物のチョコレートケーキを口に運ぶ。

 

「このケーキ、美味しいね!」

 

「本当、義母さんに感謝しなきゃ」

 

 ショートケーキとレアチーズケーキを頬張るやよいと玲も幸せそうだ。チームメンバーと楽しくお互いのケーキをシェアし合う三人の様子を眺めながら笑っていた勇は、一件落着で終わりそうな今日に思いを馳せながらカップの中の紅茶を飲み干す。

 

「新しい力のブライトネスもガンガン使って、これからの戦いに備えて行こーーっ!」

 

「「おおーっ!」」

 

 お茶会と戦いの中で結束を深めたディーヴァの三人は楽し気に笑い合いながら談笑している。

 そんな彼女たちを微笑ましく思いながら見守っていた勇だったが……突如として、彼の隣に座っている謙哉が、不安そうな口ぶりで口を開いた。

 

「本当に多用して大丈夫なのかなぁ?」

 

「何? デメリットの心配をしてるわけ? 言っておくけど、あなたのオールドラゴンに比べたらその危険性は遥かにまし……」

 

「い、いや、そうじゃなくってさ……。その、結婚前に花嫁衣裳を着ると婚期が遅れるって言うじゃない? ただの迷信だけど、気になる人は気になるかな~って……」

 

 謙哉がその言葉を口にした瞬間、葉月たちの間に謎の緊張感が走った。

 部屋の中にピシッと言う亀裂が入る様な音が鳴り、女子たちの顔は笑った顔のまま凍り付いている。何か厄介なことが起き始めた事を予感した勇は、そっと気配を消して傍観者になる事を決めた。

 

「……その理論で言うと、まだブライトネスに変身してない私はセーフってことよね? 葉月、やよい、二人はもう手遅れだから、私の婚期の為に犠牲になって頂戴」

 

「ええっ! ず、ずるいよぉっ! 玲ちゃんもブライトネスになって、私たちと一緒に長く独身で居ようよ!」

 

「アイドルがほいほい結婚してもまずいじゃん!? だからさ、ほら! 玲もアタシ達の方に来なよ!」

 

 ディーヴァの内紛、勃発。まだ花嫁衣裳を着ていない玲と既に手遅れな葉月とやよいの間に起きた紛争は、怪しい方向へと向かって行く。

 

「玲もウェディングドレス着よう? 何だったら大道具さんとスタイリストさんに連絡して、アタシがやったなんちゃって結婚式をやってあげるからさ!」

 

「相手役は謙哉さんで良いよね? と言うより、謙哉さんが良いよね!?」

 

「えっ? 何でそこで僕を巻き込むの!?」

 

「……何、その反応? あなたは私が結婚相手だと不満ってわけ?」

 

「ええっ!? い、いや、そんなことは……」

 

「そう言う反応をするってことは、そう言う事でしょうが! ちょっとあなたにはお仕置きが必要みたいね……!」

 

「いだだだだっ!? ちょ、止め、水無月さ、色々当たって……あだだだだ! 助けて、勇っ!」

 

 不要な一言を口にしてしまったが故に玲に折檻を受けることになった謙哉。彼女に密着された状態でプロレス技をかけられると言うのは見方によってはご褒美に見えなくも無いが、今の謙哉にはそんなことは無いらしい。

 名前を呼ばれてしまった以上、傍観者でもいられないなと思いながら苦笑した勇は、賑やかな仲間たちの騒ぎの輪に入り、今日もまた簡単に終わってくれない騒がしい一日を楽しく過ごしたのであった。

 

 

 

 




 エグゼイド、終わっちゃいましたね。
 これを投稿している時点では見ていませんが、最終回が素晴らしいものになる事を信じています!

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