仮面ライダーディスティニー   作:茜丸

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カイの真実

 

「憤怒の魔人……仮面ライダーアグニだと……!?」

 

 月英学園に到着し、真美と合流した勇を待っていたのは、あまりにも衝撃的な出来事だった。

 かつての戦いで魔王に敗れ、ゲームオーバーになったはずの櫂が敵として復活していたのだ。これには流石の真美ですらも言葉を失って茫然と立ち尽くしている。

 

 櫂の足元で転がっている光牙を見るに、彼は櫂に倒されてしまったのだろう。

 油断ならない強敵の出現、それも元は仲間である櫂の離反に動揺する二人だったが、櫂のその隙を見逃すわけも無く、雄叫びを上げながら突っ込んで来た。

 

「お前たち二人も叩き潰してやる! ぶっ潰して、叩きのめしてやるっ!!!」

 

「くっ!? 美又、逃げろっ! ここは俺が何とかする!」

 

 紅蓮の炎を纏いながら迫り来る櫂の姿を見た勇は真美を逃がすと、自分もまたディスティニーに変身して彼の前に立ち塞る。

 猛烈な勢いがついた櫂のタックルを全身で受け止めた勇は、体を焦がす熱を感じながらも必死になって櫂に語り掛けた。

 

「おい筋肉ダルマ! こんなバカなことはもうやめろっ! 何でこんなことしてやがるんだよ!?」

 

「何でだと!? そんなもん、お前たちがムカつくからに決まってんだろうが!」

 

「あぁ!? どういう意味だ!?」

 

「ムカつくんだよ……! 後ろからのこのこ現れて、さっさと俺を追い越していったお前が! 俺のことを馬鹿にする奴ら全員が! ムカついてムカついて堪らねえんだよっ!!! だからぶっ潰すんだ! 俺を苛立たせる奴は全部! 俺がこの手でぶっ潰してやるんだよ!!!」

 

「!?!?」

 

 心からの咆哮を上げた櫂が勇の体を掴む。櫂は、その馬鹿力によって持ち上げた勇の体を大きく振り回すと、思い切り遠くへと投げ飛ばした。

 

「がはっ!!」

 

「まだだ! まだおねんねするには早えっ!」

 

 崩壊した校舎の壁に叩きつけられた勇の口から呻き声と空気が漏れる。

 凄まじい衝撃に意識を手放しそうになった勇だったが、懸命に自分を奮い立たせると斧を手に迫る櫂への防御の構えを取った。

 

「ぬらぁっ! おらぁっ!!!」

 

「ぐっ、ぐぅぅっ!!?」

 

 繰り出される炎の斧をディスティニーソードで受ける勇。燃え盛る斧での一撃は、見た目以上の威力を誇っていた。

 鎧越しにも伝わる炎の熱と力自慢の櫂の剛力によって、剣を支える腕に負担が蓄積されていく。腕が痺れ、焼き焦がされる痛みに必死に耐えながら、勇は防御を続ける。

 防戦一方の勇に向って斧を振り下ろしながら、櫂は狂った様な叫び声をあげていた。

 

「俺はっ、お前より強いっ! お前ごときに負けるはずがないっ!」

 

 櫂の放つ気迫が、熱が、威圧感が、勇を追い込んでいく。攻勢に出ている櫂は、大きく斧を振りかぶると渾身の力を込めて勇へと攻撃を放った。

  

「ぐっ!? ぐはぁっ!!!」

 

 バキッ! と鈍い音がして、勇の体に激痛が走った。櫂の攻撃が自分の防御を打ち砕いたのだ。

 先ほど投げ飛ばされた時よりも長い距離を飛んだ勇は、地面を二度三度と転がると力なく地面に倒れ伏した。

 

「くっ、そ……! この、やろうが……!」

 

 痛みに呻きながら勇は憎々しげに櫂を睨む。今の櫂が手加減できる相手ではないことはわかっているが、どうしても仲間が相手だと思うと手加減をしてしまうのだ。

 

「どうだ、見たか!? これが俺の実力だ!!」

 

 勇のそんな葛藤を知らない櫂は得意げになりながら勇へと詰め寄って来る。

 この強敵に対してどんな対応をすることが正解なのかを探りながら戦う勇は、とにかく時間を稼ぐべく防御に専念しようとした。

 

「い、勇さん……? 光牙さん!? こ、これって、一体……!?」

 

「えっ!?」

 

 その時だった。自分の背中に向けて聞き覚えのある声が投げかけられたのは。

 驚いた勇が声のした方向を見ると、そこにはここに来る前に安全な場所に置いて来たはずのマリアの姿があった。

 どうやら居ても立っても居られなくなって現場に駆けつけてしまった様だ。彼女の姿を見た勇は、必死の表情を見せて叫ぶ。

 

「マリア、逃げろっ! 急いでこの場所から離れるんだっ!」

 

「えっ!? で、でも……」

 

「良いから! ここは危険なんだ! 早く離れてくれ!」

 

 困惑するマリアに向けて勇は必死に叫び続ける。

 マリアは知らない。今、勇が相対している相手がかつてのクラスメイトであることを。そして、彼が自分の命を狙っていることなど思いもしていないのだ。

 だから勇は懸命にマリアに叫び続けた。櫂の興味がマリアに向かう前に彼女がこの場を離れてくれることを祈っての行動であったがしかし……

 

「マリア……! お前も、ここに居やがったのか……!!!」

 

「えっ!? そ、その声は、櫂、さん……!?」

 

「ああ、そうだ……! お前たちを叩きのめす為に地獄から舞い戻って来た、この俺だよ!!」

 

「っっ!? よ、よせっ!!!」

 

 マリアの姿を見た櫂は、すぐさま勇から彼女へと標的を移し替えた。手から大きめの火球を作り出した櫂は、それをマリアに見せつける様にして高く掲げた後で思い切り投げ飛ばす。

 唸りを上げて放たれた火球は真っすぐにマリアへと飛んで行く。突然の攻撃に何の対応も出来なかったマリアは、咄嗟に地面に伏せて身を守ることが精いっぱいであった。

 

「きゃぁぁぁぁぁぁっっ!?」

 

「ま、マリアっ!!!」

 

 響くマリアの悲鳴。黒々とした煙が彼女の居た場所を覆い、勇の視界を遮る。

 最悪の事態を想像した勇だったが、巻き起こった風が煙を払い、その中で蹲るマリアの姿を見て取ると安堵の溜め息をついた。

 

「か、櫂、さん……なんで、こんな……!?」

 

「簡単には殺さねえよ。じわじわ痛ぶって、苦しめて、恐怖させて……その果てに、一番苦しむ方法で息の根を止めてやる!」

 

「そ、そんな……!?」

 

 仲良くしていた級友の変貌に衝撃を隠せないマリア。そんな彼女に対して拳を掲げた櫂は、先ほど投げたものよりも一回り大きな火球を作り出すとそれを投擲する構えを見せた。

 

「さ~て、次はさっきのよりもデカいのが行くぜ。今度も無事でいられるか、試してみろよ!」

 

「っっ!!?」

 

 仮面の下で悪どい笑みを浮かべながら、櫂は腕を振りかぶる。

 彼がそのまま二発目の火球を発射しようとしたその時、異変は起こった。

 

「なっ!? ぐうぅっ!!?」

 

 振り上げた腕をマリアの方向へと振ろうとした瞬間、その腕に激痛が走ったのだ。痛みは同時に自身の体にまで走り、櫂は堪らず膝をついてしまう。

 荒い呼吸を繰り返し、何が起きたのかを確認しようとした櫂が顔を上げると、そこにはディスティニーソードを構えて立つ勇の姿があった。

 

「龍堂、てめぇ……っ!!?」

 

 痛みの原因を見つけ出した櫂は再び胸の中の苛立ちを燃え上がらせた。自分の復讐を邪魔する勇に対して憤怒の感情を募らせる櫂であったが、勇は静かに顔を上げると真っすぐに櫂の目を見つめて来た。

 

「……お前には同情するよ。救えなかったことも悪いと思ってた。だからさっきまでは迷ってたんだ。いくら良好な関係じゃなかったとはいえ元はクラスメイト、そんな奴と全力で戦うなんて出来やしないってな……でもな」

 

 櫂は、自分に対して話し続ける勇の雰囲気が変わったことを感じ取っていた。

 彼の言う迷いが消えてなくなり、完全に意思を固めた瞳を見せている。ホルスターから一枚のカードを取り出した勇は、それをドライバーに通しながら櫂の声量にも負けない声で叫んだ。

 

「お前がマリアに手を出すってんなら話は別だ! 光牙や真美は止めるかもしれねぇが、俺はそんなに甘くねえ! 全力で、お前を倒してやるよ!」

 

<運命乃羅針盤 ディスティニーホイール!>

 

 飛来した円盤が勇の左腕に装着される。そこにホルスターから飛び出したカードが装着されたことを確認した勇は、取っ手を掴んでディスティニーホイールを回転させた。

 

「行くぜ櫂! 全力で相手してやるよ!」

 

<ディスティニー! チョイス ザ ディスティニー!>

 

<舵を切れ! 突き進め! お前の運命(さだめ)はお前が決めろ!

 

 巻き起こる旋風に目を細めた櫂が次に見たのは、自分の知らない姿に変身したディスティニーであった。

 またしても自分を超えて先に進もうとする勇に対して憎しみを募らせた櫂は、怒りの叫びを上げながら勇へと駆け出す。

 

「またお前は俺を下に見るつもりか!? そんなことさせねぇ! 俺が……俺の方が強いんだよっ!」

 

 イフリートアクスを構え、全身に力を漲らせながら突撃する櫂。勇はそんな彼の姿を黙って見つめると、ディスティニーホイールを回転させる。

 

<チョイス・ザ・パスト!>

 

「……この運命、断ち切らせて貰う!」

 

 「運命の剣士 ディス」のカードを選択した勇の目の前に二振りの刀が出現する。

 切っ先に黄金の刃が取り付けられ攻撃範囲が広がったディスティニーエッジを構えた勇は、櫂が全力で振るった斧をその刀で受け止めた。

 

「なっ!?」

 

 地響きを起こし、地面に亀裂を入れるほどの衝撃を与える自分の一撃を勇に受け止められた櫂は、戦いが始まって初めて驚きの感情を露わにした。

 パワーならだれにも負けないと自負しているアグニの一撃を簡単に受け止めた勇に連続して攻撃を繰り出す櫂だったが、その全てをディスティニーエッジを振るう勇に簡単に受け流されてしまう。

 正面から受け止めるのではなく、力の方向を上手くずらす勇の技術を前にした櫂は完全に攻撃を防がれてしまっていた。予想外の技術を見せる勇に対して怒りの感情を湧き上がらせていると……

 

「……はぁっ!!」

 

「あぐっ!?」

 

 まさに一瞬、ほんの瞬き一つの間に見つけ出した櫂の隙を突き、勇が手痛い一撃を繰り出したのだ。

 ディスティニーエッジによる鋭い斬撃を受けた櫂は、自分の防御力を超える勇の攻撃力を知って愕然とした。と、同時にさらに強さを増した勇に対して怒りの炎を燃え上がらせていく。

 

「こん……畜生がぁぁぁっ!!!」

 

<必殺技発動! レイジ・オブ・インフェルノ!>

 

 櫂の両手に燃え盛る豪炎が纏われる。光牙を倒した必殺技を発動させた櫂は、遠距離から炎を纏った拳を振るい、それを勇へと発射した。

 右と左、合計二発の炎のパンチが勇目掛けて飛翔する。だが、強烈な威力と熱を持つそれを前にしても、勇には怯む様子は一切見受けられなかった。

 

<チョイス・ザ・アナザー!>

 

 勇は武器を捨てるとディスティニーホイールを回転させて新たな武器を呼び出した。4つ目のフォーム、マジカルフォームで使っていたディスティニーワンドだ。

 杖の頂点に付けられている宝珠に金の装飾が纏われ、強化されたことを示しているそれを構えると、電子音声と共に杖の新たな能力が発動した。

 

<マジカルドレイン!>

 

「なにぃっ!?」

 

 杖の宝珠が光るや否や、櫂が放った炎がそこに吸い込まれていった。自分の必殺技が呆気なく破られたことに驚きの表情を見せる櫂だったが、ディスティニーワンドの真の能力はここからだったのだ。

 

<フレイム! フレイム!>

 

<トリプルミックス!>

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ……っ!!」

 

 櫂の必殺技を吸い込んだ宝珠が紅に輝く。その状態の杖に炎属性付加のカードを二回使用した勇は、高くそれを掲げると櫂目掛けて振りかぶった。

 

<必殺技発動! プロミネンスバースト!>

 

「なにぃぃっ!?」

 

 電子音声と共に発動される必殺技。三つの炎の力を解き放った杖からは、まるで太陽の様な輝きを放つ巨大な炎の球体が出現した。

 燃え盛る熱と陽光を櫂に煌かせながら落下する炎を見ながら驚愕した櫂は、それを睨みつけて憎々し気な叫びを上げる。

 

「くっそぉっ! 龍堂! また、俺はお前に……っっ!!!」

 

 櫂がその言葉を言い終わる前に炎は彼へと落下した。その身を押し潰し、全身を灰にせんばかりの熱を放ち、炎は爆発する。

 

「ぐおぉぉぉぉっっ!!!」

 

 その中心で叫び声を上げながら、櫂は必死に必殺技を耐えていた。

 勇に負けてなるものかと言う意地だけでその場に立ち、目を見開いて宿敵の姿を見つめる。

 

「負けるかぁぁっ!! 俺は、俺はまだ戦えるっ! お前に負けて堪るかよぉぉっ!!!」

 

「ぐっ……!? なんてしぶとい奴だよ、お前はっ!?」

 

 杖を握る手に力を込めながら、勇は再び櫂に対して意識を集中させる。

 これ以上の被害を出させる訳にはいかない。この場に居る人々の為に、そして櫂自身の為にも彼を止めると固く決意した勇が杖を構えた時だった。

 

「……まったく、無理しすぎじゃないかな? まだ君は生まれたばかりなんだから、ここで死なれたら困るんだよ」

 

「!?」

 

 天から響く声に勇が顔を上げて見れば、そこには黒い影の姿があった。

 昔一度見たその姿を目にした勇は咄嗟にその場から飛び退くと、乱入者と櫂から距離を取る。

 

(まさか、あいつは……!?)

 

 ゆっくりと黒い影が地面に降り立つ。巨大な杖を手にした黒ずくめの神官の様な姿をした彼の姿を見た勇は、自分の想像が正しかったことを悟った。

 

「暗黒魔王エックス……!? 何でお前が……!?」

 

「ああ、製造責任ってやつかな? 彼はボクが作り出した存在だから、すぐに消えて貰ったら困るんだよね」

 

「お前が櫂を作り出した……? 何を言ってやがる!?」

 

「ああ、説明しても良いんだけどさ。流石にこのまま彼を放置していたら面倒なことになりそうだから今日は帰るね。多分だけど、君のお仲間が彼の秘密を解析してる頃じゃあないかなぁ?」

 

「なっ!? 待てっっ!!!」

 

 撤退の意思を口にしたエックスを勇は引き留めようとした。だが、瞬時に発生した闇の波動に押されて後ろに押し飛ばされてしまう。

 瞬時に体勢を立て直して櫂たちの居た方向を見るも、もう既に二人の姿は無かった。あと一歩まで追い詰めた櫂を逃がしてしまったことを悔やむも、もう後の祭りだ。

 

「……くそっ! 何がどうなってるんだよ!?」

 

 廃墟と化した月英学園の中、光牙や学園の生徒たちが倒れ伏している姿を見た勇は悔しさに吠える。

 守ることも櫂を助け出すことも出来なかった。その事を悔しがる勇は、強く拳を握り締めて被害に遭った学園の残骸を見つめていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの櫂は櫂じゃない、だって?」

 

「ええ、今回月英学園に現れた櫂さんは、私たちの知る櫂さんとは別の存在なのです」

 

「ちょっと待てよオッサン! あの櫂は間違いなく櫂だった! ドライバーだって使えたし、それがアイツが本物だって証明じゃあないのかよ!?」

 

 天空橋の言葉に勇が反論する。月英学園襲撃事件から数時間後、天空橋に集合をかけられた勇と謙哉、そしてマリアの三人は彼の元に集まっていた。

 そこで天空橋が口にしたのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言う衝撃の一言であった。

 当然、勇はその言葉を否定した。今日戦った櫂は勇やマリアのことを覚えていたし、何より櫂しか扱えないはずのギアドライバーを扱っていたはずだ。

 もしあの櫂が偽物だとしたならば、色々な点が不可解ではないか。そんな勇の疑問に対し、天空橋は自分の解析したデータを見せて説明する。

 

「これが勇さんの戦闘データを解析した情報です。この櫂さんのデータを解析した結果、()()()()()()()()()()と言う事がわかりました」

 

「は、はぁっ!? あ、あの櫂は死んでるってことなのか!?」

 

「いいえ、違います。あの櫂さんは、()()()()()()と言うことなのです」

 

「え……? そ、その、それはどう違うのでしょうか?」

 

 天空橋の発した言葉に謙哉が当然の反応を返す。天空橋は謙哉に向き直ると、二つの言葉の違いを説明した。

 

「あの櫂さんは、人間では無いんです。恐らくですが……彼は、エネミーになっています」

 

「え、エネミー……!? あの櫂さんは、エネミー……!? そんな、そんなことって……!?」

 

 マリアが信じられないと言った表情を見せて驚愕した。かつての友人が人ではなく、文字通り敵であるエネミーになっていると言う現実を受け止められない様子だ。

 そんなマリアの姿を見て少し辛そうな表情を見せた天空橋だったが、気を取り直すとかつてガグマに櫂が倒されたシーンをPCに映し出した。

 

「このシーンの解析をした結果、櫂さんが倒された瞬間に謎のデータが出現したことがわかりました。私がそのデータを調べてみると……それは、櫂さんの情報が詰まったデータだったんです」

 

「櫂の、データ……?」

 

「ええ、ガグマに倒された櫂さんは、死んだのではなく()()()()()()()()()()()()()()

 

「城田くんがデータになったですって!?」

 

「……そうか、だからあいつは死体も残さずに消えちまったのか!」

 

 勇の脳裏にあの光景が蘇る。ガグマの必殺技を受けた櫂が消え失せ、ドライバーだけを残して消滅してしまったシーンだ。

 ガグマの必殺技の威力が桁外れだったから、もしくはゲームの世界だったからそうなったのだと思い込んでいたが……その真の理由を知った勇は、驚きと共に全てに納得が出来ていた。

 

「……で、でも……それがどうして櫂さんがエネミーになることに繋がるんですか!? データになったからって、どうしてエネミーなんかに……?」

 

「……魔人柱の素体」

 

「えっ?」

 

「魔人柱の素体! それとエックスだ! そう言うことだったんだ!」

 

「い、勇? 何かわかったの!?」

 

 謙哉の言葉に勇は大きく頷く。そして、興奮気味に自分の見つけ出した答えを解説し始めた。

 

「ガグマの能力、譲渡のことは覚えてるよな? あれは、自分のレベルを犠牲にして魔人柱の素体を作り出す能力だ」

 

「う、うん……生まれた魔人柱のレベルは、ガグマの消費したレベルと同じ10……だったよね?」

 

「ああ……じゃあ、そこに()()()()()()()()()を送りこんだらどうなると思う?」

 

「!?」

 

 謙哉とマリアは勇の言葉を聞き、彼の考えたことを理解した。天空橋もまた頷き、話の続きを引き受ける。

 

「はい。勇さんの言う通り、魔人柱の素体に櫂さんのデータを送り込んで融合させれば、レベル50の櫂さんのデータを持つ魔人が誕生します。櫂さんの記憶や性格はそのままに、自分たちの都合の良い駒が出来上がるのです」

 

「そっか……レベル99の魔王がドライバーを使っても意味は無いけど、レベル10の魔人なら……」

 

「十分に意味がある。一気に40もレベルアップ出来る上に、エックスがデータを弄ればさらにそこから強化出来るだろうしな」

 

「櫂さんが凶暴になっていたのはエックスにそう設定されたから……だから、私や光牙さんにもあんなに苛烈に接して……!」

 

 導き出された答えに4人は愕然とした表情を浮かべた。

 ガグマに倒された櫂は死んではいなかった。だが、その力を敵に利用されてしまっているのだ。

 そのことを喜ぶべきか、それとも悲しむべきなのか……複雑な思いを胸にする勇たちに対し、天空橋は力強い表情を見せながら言う。

 

「……あの魔人を倒せれば、もしかしたら櫂さんは戻って来るかもしれません。逆に言えば、あの櫂さんを倒さない限り、彼は……」

 

「戻って来れない、ってことか……」

 

「でも、今の城田くんは強敵だよ。同じレベル50の白峯くんをあっさり倒して、名門校の生徒たちも次々と撃破してる。しかも、まだ生まれたばかりってことは、これからレベルアップして強くなるわけだし……」

 

「……関係ねぇよ、んなもん」

 

 謙哉の言葉を途中で止め、勇は一言呟く。瞳に鋭い光を浮かべながら、彼は自分の決意を口にした。

 

「あいつを取り戻せる可能性があるなら、それに賭けるだけだ。あの馬鹿をぶん殴って、さっさと目を覚まさせてやる……それに、魔人を全員倒さない限りは、ガグマに挑むなんて夢のまた夢だからな」

 

「勇さん……」

 

 マリアの呟きを耳にしながら、勇は櫂との思い出を頭に浮かべていた。

 正直、良い思い出があった訳ではない。顔を合わせれば喧嘩ばかりで、ぶつかり合っていた記憶しかない。

 だが、それでも勇は櫂のことを友人だと思っていた。その友人が敵に利用されていると言うのなら、そこから助け出さなければならないだろう。

 

「……やってやるよ、櫂。お前の憤怒、俺が受け止めてやる!」

 

 闘志と燃やし、胸に覚悟を固めながら、勇は拳を叩き合わせて憤怒の魔人となった旧友との戦いを決意したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻、園田が社長を務める芸能会社のオフィスにて、彼女と彼女に集められたディーヴァの三人が話をしていた。

 緊張した面持ちの三人に対し、園田はテーブルの上に三枚のカードを置いてそれを彼女たちに差し出す。

 カードの名は『ブライトネス』……見たことの無いカードを手に取った三人は、園田に視線を向けて彼女が口を開くのを待った。

 

「……ディスティニーカード第三弾の収録カードだ。天空橋からフライングゲットさせて貰った。それがあれば、お前たちも強くなれる」

 

「ブライトネス……ディーヴァの強化カード!」

 

「やった! これがあれば、勇っちに追いつける!」

 

 自分たちの新たな力となるカードを手に入れられたことに喜ぶ玲と葉月。これで想い人たちの力になれると思い、笑顔を浮かべて顔を見合わせるが……

 

「待て、そのカードには制約が一つある。それは、()()()()()()()()()()()()()()()()だと言う事だ」

 

「え……? じゃ、じゃあ、アタシがこのカードを使っている時は、玲とやよいはパワーアップ出来ないってことですか!?」

 

「そう言う事だ。これから先は更に綿密な作戦と的確な判断が必要とする厳しい戦いになるぞ。それに、このカードにもデメリットが無いとは限らない。実験も必要だ」

 

 デメリット……園田が発したその一言を耳にした葉月と玲は表情を強張らせた。

 だが、多少のデメリットを乗り越えてでも新たな力を手に入れたいと言う覚悟はある。二人はそんな思いを胸に、園田へと一歩近づいて言った。

 

「どの道、今のままじゃあアタシ達は戦いについていけない……なら、冒険してやろうじゃん!」

 

「義母さん、私たちは覚悟は出来ています。一刻も早くこのカードを使いこなせるようにならないと……!」

 

 園田は恐怖を乗り越えて先に進む覚悟をした二人の瞳を見て、大きく頷く。だが、それと同時に自分が危惧していた状況を迎えていることも確認していた。

 ブライトネスのカードを手にしたまま、小さく震えているメンバー最後の一人へと視線を向けた園田は、彼女に対して冷たい声でこう尋ねる。

 

「やよい……お前はどうなんだ? これから先も戦う覚悟はあるのか?」

 

「え……? あ、あの、私、は……」

 

 急に声をかけられて驚いたやよいは、真っ青な顔を園田達三人へと向ける。園田の問いに答えられない彼女は、しどろもどろになりながら視線を泳がせていた。

 

「……ディーヴァの強化カード使用実験は、お前を対象にして行うつもりだ。どの程度の力を引き出せるのか? そんな能力があるのか? それを知る為には、最も平均的なお前を対象にするのが一番良い」

 

「えっ!?」

 

 葉月でも玲でも無く、自分が真っ先にこのカードを使う。その宣告を受けたやよいの瞳に迷いの色が映りこんだ。

 どんなデメリットがあるかもわからない。これからの激しい戦いに巻き込まれる可能性が跳ね上がるこのカードを自分が実験台となって使う……その言葉は、やよいの弱っていた心に深く不安の感情を植え付ける。

 

「わ、私が、一番最初に……」 

 

 真っ白な花嫁衣裳が描かれたカードを掴むやよい。その手は小刻みに震え、恐怖に怯えている。

 園田はそんなやよいの様子に不安を抱えながらも、彼女を信じるしかない現状に心の中で溜め息をつき、小さなやよいの姿を見つめ続けていた。

 

 


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