仮面ライダーディスティニー   作:茜丸

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鮮烈! セレクトフォーム!

「……さあ、ゲームスタートだ。かかって来い!」

 

 新たなる力、ディスティニーセレクトフォームへと変身した勇がクジカに吠える。数えきれないほどのエネミーを目にしても怯むことなく敵を睨み、戦いの構えを取っている。

 

「なるほど、新しい力を手に入れたか……ならば、その力がどれほどの物か試してやろう!」

 

 今までよりも覇気を漲らせて自分へと向かってくる勇を前にしたクジカは、まずは小手調べと言わんばかりに数体のエネミーを向かわせる。魔人柱ほどではないが十分な強敵であるエネミーたちは、一斉に勇へと跳びかかり攻撃を仕掛ける。

 正面から一体、上空から一体、そして右側側面からもう一体と合計三体のエネミーの連携攻撃が勇へと迫る。だが、勇は一切の焦りを見せずにその攻撃に対処した。

 

「せやぁぁっ!!!」

 

 まずは正面の敵を迎撃し、思い切り振りかぶったアッパーカットを繰り出す。強烈な威力を持ったその一撃を顎に受けたエネミーは仰け反りながら空中へと打ち上げられ、ジャンプして勇を襲おうとしていた仲間の体にぶち当たった。

 

「ギャギッ!?」

 

「グギャァァッ!?!?」

 

 二体のエネミーは空中でぶつかり合い、お互いに絡まりながら地上へと落下してきた。その間に側面から攻撃してきたエネミーを掴んだ勇は、それを落下してきた二体のエネミーの方向へと投げ飛ばす。

 

「おっ、っしゃぁっっ!!!」

 

 気合一発、三体のエネミーが重なり合った一瞬に強烈な右回し蹴りを繰り出した勇は、その一撃でいっぺんにエネミーたちを撃破してみせた。

 冷静な対処と強力な攻撃を以ってあっという間にエネミーたちを撃破した勇を見たクジカは、その強さに衝撃を受ける。

 

(一撃!? 一撃だと!? 決して低級ではないエネミーたち三体をまとめて一撃で撃破するだけの攻撃力があると言うのか!?)

 

 一瞬の戦闘で向かって来た敵を撃破した勇は、そのまま前進を再開する。自分目がけて突き進んで来る勇の姿にわずかな恐怖を覚えながら、クジカは彼に向って叫んだ。

 

「龍堂勇! お前はすべてを守ると言ったな!?」

 

「………!」

 

 クジカの叫びを耳にした勇は動きを止めた。クジカの背後に居るエネミーたちが一斉に戦闘の構えを取り、動き出す準備をしていることを目にしたからだ。

 今にも動き出しそうなエネミーたち、しかし、その狙いは自分ではない。自分の背後にいる戦えない人々を映しているエネミーたちの瞳を見た勇は、クジカが何をしようとしているか理解した。

 

「ならば、守って見せよ! その二本の腕で、一体どれだけの命を救えるか試してみろ!」

 

「グラァァァァッッ!!!」

 

 クジカの叫びを合図にエネミーたちが一斉に動き出す。宙と地を埋めつくす様に進撃するエネミーたちは、勇を無視してその背後にいる人々に襲い掛かろうと走り出す。

 30は下らないであろうエネミーたちの数。それらすべてを勇一人で相手することなど不可能に思えた人々は悲鳴を上げながら逃げ惑う。エネミーたちによる一方的な蹂躙を予想していた人々だったが、勇はなんら焦ることなく左腕のディスティニーホイールを掴んだ。

 

<ディスティニー・チョイス!>

 

 ディスティニーホイールの周囲に生えた四本のレバーを掴み、それを回転させる勇。電子音声が響く中、<運命の銃士 ディス>のカードをホイールの内側に取り付けられた矢印部分に合わせた勇は、そのまま掴んでいたレバーを押し込んだ。

 

<チョイス・ザ・フューチャー!>

 

 再び流れる電子音声。同時に勇の前にガンナーフォームの武器であるディスティニーブラスターが出現する。

 いつもと違い、銃口の下部分に黄金の刃が取り付けられ、銃剣となったディスィニーブラスターを掴んだ勇は、それを向かってくるエネミーの集団目がけて構えると引き金を引いた。

 

<スーパーマシンガンモード!!!>

 

 ディスティニーブラスターから放たれる銃弾の嵐。ガンナーフォームが使っていた時よりも素早い連射、しかも強力になった弾丸が文字通り嵐の様に飛び交い、たった一撃でエネミーたちを爆散させた。

 大量に居るエネミーたちは前に進もうとするも、一体として勇の居る場所より先へは進むことは出来ない。守護神の如く立ちはだかる勇の守りを崩すことが出来ないのだ。

 

「す、すごい……! 攻撃がパワーアップしてる!」

 

「いや、それよりも狙いの正確さよ。あれだけの連射で一撃も銃弾を外していないわ!」

 

 玲の言う通り、勇は凄まじいまでの連射攻撃を放っているにも関わらず、一撃も攻撃を外していなかった。周囲の被害を抑えながら完璧にエネミーたちを駆除する勇の姿は、仲間である謙哉たちですらも戦慄を覚えるほどだ。

 

「うっらぁっ!!!」

 

 やがて目の前まで迫ったエネミーを銃口の下についた刃で切り捨てた勇は、立ち尽くしているクジカへと視線を向けた。そして、静かに口を開く。

 

「……残るはクジカ、お前だけだ!」

 

「ぐっ……!?」

 

 あれだけいたエネミーたちをほんの数分で全滅させた勇の強さにクジカは驚愕する。しかし、その恐れを振り払うと自分の武器である双剣を構えて勇へと挑みかかって行った。

 

「良いだろう! このクジカが直々に引導を渡してやる!」

 

 一発、二発と撃ち出された弾丸を斬り払い、クジカは勇へと接近する。勇もまたクジカとの戦いを接近戦に切り替えることを決めるとディスティニーホイールを再び回転させた。

 

<チョイス・ザ・エヴァー!>

 

 今度は「運命の戦士 ディス」のカードを選択した勇の手にディスティニーソードが出現する。切っ先に黄金の刃が取り付けられ攻撃範囲が延長されたそれを構えた勇は、挑みかかって来るクジカの双剣を受け止めた。

 

「ぬっ! ぐぅぅぅっ!!!」

 

 二本の剣を振り回し、次々に勇へと攻撃を繰り出すクジカ。しかし、その全てを勇は冷静に斬り払い、防いでいく。

 手数では勇の防御を崩せないと悟ったクジカは攻めの方法を力押しに変えると、双剣を一息に勇へと叩きつけた。

 

「ぬぉぉぉぉっっ!!!」

 

 二つの剣の力を合わせた強烈な斬撃が勇に迫る。勇が剣で防ごうとも防御ごと叩き斬る勢いで繰り出されたその攻撃は、間違いなくクジカの最高の一撃だった。

 

「……ふっ!」

 

 だが、勇はそれをこともなげに剣で打ち払う。ディスティニーソードの一振りで自分の渾身の一撃が崩され、弾き飛ばされたことにクジカは驚きの叫びを上げた。

 

「なっ!? 馬鹿なっ!?」

 

「たぁぁぁっっ!!!」

 

 驚き、動きが固まったクジカに繰り出される返しの二刀目。鋭い軌跡で振るわれたその一撃はクジカの胴を斬り裂き、大ダメージを与えた。

 

「があぁっ!?」

 

 勇の攻撃を直に受けたクジカは、その強力さを身をもって体験した。素早く重いその一撃は、今までの勇の攻撃とは段違いにパワーアップしている。

 下手をすれば……いや、間違いなく自分よりも今の勇は強い。レベル50の魔人柱である自分よりも強くなった勇に対し、クジカは疑問を投げかけた。

 

「何故だ……!? 同じレベル50ならば、魔人柱である我の方が強いはず……! なのになぜ、貴様に押されているんだ!?」

 

「……確かにお前の言うとおりだ。同じレベル50なら、俺はお前に勝てるわけがねえ。だが、()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「な、なにっ!?」

 

 ディスティニーソードの切っ先を自分へと向けながら語る勇の言葉に驚きを隠せないクジカ。そんなクジカに向けて、勇は今の自分のレベルを告げた。

 

「……セレクトフォームのレベルは()()! 4枚のディスのカードから最も優れた部分を20レベルずつ取り出した最強の力だ!」

 

「レベル……80だと!?」

 

 レベル80……それは自分よりも30レベル、そして主であるガグマよりも11レベルも高い。

 ただの人間である勇が自分たちを超える力を手に入れたことに驚きと屈辱を感じたクジカは、首を振りながら小さく呟いた。

 

「こんな、こんなことが……!? 馬鹿な!? お前は一体……!? まさか、ガグマ様と同じ王の器なのか!?」

 

「……そんなんじゃねえよ。俺は、仮面ライダーディスティニー! この世界と、そこに生きる人々を守る戦士だ!」

 

 勇者でも王でも無い。世界を守るヒーロー、仮面ライダーとしての覚醒を始めた勇は大声でそう叫ぶ。人々の心に熱さと頼もしさを感じさせる雄姿を見せながら、勇はディスティニーホイールへと手を伸ばした。

 

「……さあ、終わりにしようぜクジカ! この運命、断ち斬らせてもらう!」

 

「ぬぅぅぅぅぅっ……! 我は傲慢の魔人、クジカ! 例え敵が如何に強大であろうと、背を向けることはこの誇りが許さん! 受けてたとう、その勝負をっ!!!」

 

 全身から覇気を漲らせ、双剣を握る力を更に強めながらクジカが必殺技を発動する構えを取る。剣の刃には黄金のエネルギーが溜まり、その輝きを増させていく。

 空港の中の空気が震え、窓ガラスが次々と割れていく。凄まじい緊迫感に包まれる戦いの中、勇もまた必殺技を発動しようとした時だった。

 

「うわぁぁぁぁんっ! おかーさーんっ!!!」

 

「!!!」

 

 自分の背後から聞こえる声。振り返った勇が見たのは、頭から血を流して倒れる女性と彼女を揺さぶる子供の姿だった。

 親子と思われる二人、母親は完全に気を失っており、逃げることは出来なさそうだ。目の前で繰り広げられる戦いの余波から逃げようと、子供は母親を必死に起こそうとしている。

 

 もしもここで勇がクジカとの必殺技の撃ち合いに負けたなら、あの親子はただでは済まないだろう。それがわかっているからこそ、小さな手で必死になって母親を起こそうと息子は尽力しているのだ。

 

「起きてよ! このままじゃ死んじゃうよっ!!!」

 

 恐怖に涙を流しながら母親に叫ぶ。先ほどクジカにいとも容易く倒された光牙の姿を思い返すと、その恐怖はさらに大きくなって心を押し潰して来る。

 勝てない。死んでしまう。大好きな母が、このままでは命を落としてしまう……そんな恐怖に支配された小さな心が、真っ暗な闇に塗り潰されそうになった時だった。

 

「大丈夫、必ず守る……!」

 

 凛とした、力強い声が耳に届く。顔を上げた子供が見たのは、自分たちを守る為にクジカに立ち向かう戦士(ヒーロー)の姿だった。

 振り向かず、敵の姿を見ながらも自分へと声をかけてくれた勇の背中は、とても大きく見えた。その姿を見ていると心の中に希望が生まれて来る。

 

「守るから……! 絶対に、守ってみせる!」

 

 自分を見つめる小さな瞳。そして、この場にいる人々の期待を背中に感じながら勇は覚悟を固め、ディスティニーホイールを回転させる。一、二、三……レバーを押し込まずに回転を続けるディスティニーホイールに異変が起きた。

 回転を続けるディスティニーホイールから、黒と紅の風が舞い上が始めたのだ。竜巻の様に吹き荒れる風が一度上空に飛び立つと勇の右手に掴まれたディスティニーソードを囲む様にして舞い戻って来た。

 

 黒と紅の嵐を纏ったディスティニーソードを上段に構えて攻撃を繰り出す構えを取った勇は、思い切り腕を振ってその剣を振り下ろした。

 

「はぁぁぁぁぁっっ!!!」

 

「ぬっ!? ぐぅぅぅぉぉぉぉっっ!!!」

 

 剣が振られると同時に放たれた嵐は、真っすぐにクジカ目掛けて飛び立って行く。クジカもまたその嵐を迎え撃つべく双剣を構えると必殺技を発動した。

 

<必殺技発動! プライドスラッシュ!>

 

「おっ、おぉぉぉぉっっ!!!」

 

 暴風吹き荒れる嵐に向けて剣を振るうクジカ。激しい衝撃と轟音を響かせながら嵐と鍔迫り合いを続けるクジカは、自身の誇りをかけて咆哮する。

 

「そう、やすやすと……負けるものかぁぁぁぁっっ!!!」

 

 レベル差があろうとも、そう簡単に敗北を認めるわけにはいかない。自分は大罪魔王ガグマの手で作り出された栄誉有る存在、魔人柱なのだ。

 クジカは己の心を奮い立たせ、誇りと激情を込めて双剣を振るう。嵐と押し合う刃が悲鳴を上げ、腕に激痛が走ろうとも力を抜くことはしなかった。

 

「ぐ、おぉぉぉぉっっ!!!」

 

 雄叫びを上げて最後の力を振り絞ったクジカは、思い切り目の前の嵐を斬りつけた。刃が纏った光が大きく弾け、消え去ると同時に向って来ていた嵐も消滅する。

 相打ち……勇の必殺技を何とか相殺したクジカの全身から力が抜けていく。全力を以って敵の必殺の一撃を破った事にわずかな安堵を胸にした時だった。

 

「なっ!?」

 

 顔を上げたクジカの目に勇の姿が映る。上空に跳び上がり、黒い紅の光を纏ったディスティニーソードを手にした勇が自分目がけて飛び掛かって来ていたのだ。

 それを目にしたクジカは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言うことに気が付いた。

 そう、あの嵐は真の必殺技の為の布石。敵の体勢を崩し、この次の一撃を炸裂させる為の言わば牽制だったのだ。

 

(馬鹿なっ!? ただの牽制であの威力だと!?)

 

 自分の全力の必殺技で何とか相殺出来たあの嵐はただの牽制。その事実に驚愕するクジカだったが、もうすべてが遅すぎた。

 自分目がけて剣を振るう勇の攻撃に対して回避も防御も出来ない。剣を振り下ろす勇の姿を見ながらクジカが耳にしたのは、必殺技の発動を告げる電子音声だった。

 

<超必殺技発動! ギガ・ディスティニーブレイク!>

 

「うおぉぉぉぉっっっ!!!!!」

 

「ぐっ、ぐわぁぁぁぁぁっっっ!!??」

 

 眩い光が輝くと同時にクジカは自分の体に激痛が走ったことを感じた。左肩から右腰へ、ディスティニーソードが纏っていたものと同じ黒と紅の残光が自分の体に刻まれている。

 深く鋭い傷痕をつけられたクジカの手から剣が零れ落ちる。傷痕からは光が泡の様に次々と浮かび上がっては消えていった。

 

「負け、たか……この、クジカが……!」

 

 クジカは必殺技を放った後の体勢のまま、油断なく自分を見つめている勇の姿を視界に映した。そして、その背後にある彼が守ったものを見て、満足げに笑う。

 

「見事……! お前のその傲慢なる夢、しかと叶えて見せよ! 我は、お前の行く末をあの世から見守ってやろう!」

 

「ああ……守って見せるさ! もう二度と悔やむことの無い様に!」

 

「くく……! その力、覚悟、見事なり! さらばだ我が宿敵、龍堂勇! いや……仮面ライダーディスティニーよ!」

 

 断末魔の叫びとしては余りにも清々しいそのセリフを最後に、クジカの体に刻まれた光が大きく弾けた。

 旋風と爆発が空港の中に巻き起こり、衝撃波が人々の体を叩く。やがて、その余波が収まったことを感じ取った人々が顔を上げると……

 

「……良く頑張ったな。お母さんのこと、守ろうとしたんだろ?」

 

 小さな子供の頭を撫で、励ます勇の姿がそこにあった。勇は倒れている母親を担ぎ上げると、周囲の人々に叫ぶ。

 

「誰か、手を貸してくれ! 怪我人を協力し合って安全な場所に連れて行こう! もうエネミーはいないから、落ち着いて行動するんだ!」

 

「あ、ああ! わかった!」

 

 勇の言葉を聞いた人々が次々と立ち上がり、周囲の人と共に怪我人の護送を始める。空港の職員から旅行客、大人も子供も関係なく、自分に出来ることをすべく頑張っていた。

 

「マリア、手を貸すぜ!」

 

 先ほどの親子を他の人に預け、勇は全身傷だらけのマリアへと手を差し伸べた。マリアは少し戸惑った表情を見せた後、勇の手を取って立ち上がる。

 

「大丈夫か? 遅くなって悪かったな」

 

「いいえ、大丈夫です。ありがとうございます、()()()

 

「礼を言うのはこっちの方……って、え? 今、俺のこと、名前で呼んで……?」

 

 丁寧にお辞儀をしながら自分にお礼を言うマリアに対して返答をしようとした勇は、彼女が自分の名前を口にしたことを驚いていた。

 それは勇の名を呼んだマリアも同じだった様で、慌てた様子で口に手を当てて勇に謝罪する。

 

「ご、ごめんなさい! なんだか自然とそんな風に呼んじゃってて……馴れ馴れしかったです、よね?」

 

 勇に謝罪したマリアは、おずおずと彼の様子を伺った。光牙が言う通りの人物ならば、きっと今の自分の馴れ馴れしい態度に怒りを露わにしているのだろう。

 恐怖と緊張で顔が上げられないマリアだったが、その肩を思い切り掴まれ、驚いて跳び上がってしまった。その拍子に前を向いた視線の先に意外なものが映る。

 

「……良いんだ。それで……それが、良いんだ。お前さえ良ければ、これからもそう呼んでくれ……!」

 

「え……?」

 

 笑いながら瞳に涙を浮かべ、嬉しそうな声でマリアにそう告げる勇の顔を見たマリアは、聞いていた情報とは違う彼の温かな姿に困惑した。

 だが、自分の胸の中で何かが鼓動していることを感じ、その感情のままに静かに頷きながら彼の名を呼ぶ。

 

「い、勇、さん……」

 

「っっ……!!!」

 

 自分の一言に涙を流した勇は、俯きながら喜びに体を震わせていた。そして、マリアに顔を見せないまま小さく呟く。

 

「お前が居てくれたから、俺はここに来れたんだ……! お前が、俺に勇気を与えてくれた。だから、俺は……っっ!」

 

 感謝の言葉を口にする勇は、マリアへの思いを声にして話し続ける。マリアは、そんな彼の姿を見て、何か温かい感情を覚えていた。

 何も覚えていない、だが、彼は聞いていた様な人物では無い様な気がする……そんな思いを胸にしながら、マリアはこの日生まれたヒーローの姿をずっと見守り続けたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふ~ん、レベル80かぁ……。現実世界の奴らの中にも、ボクたちに手が届きそうな存在が現れたってことか」

 

「その様だな。しかしレベル80とは、ちと予想を上回っておる。存外、手を焼く相手にもなるやもしれん」

 

「だからボクを呼んだんでしょう? 向こうが連合を組む様に、ボクたちも魔王連合を組んで奴らに当たる……。それが君の目的だろう、ガグマ?」

 

 先日ガグマが入手したギアドライバーを手の中で弄りながら、『暗黒魔王 エックス』は彼に返事を返した。そんなエックスの姿を見たガグマは喉を鳴らして笑う。

 

「察しが良くて助かる。マキシマもシドーもこの計画には乗らんだろうからな、頼みの綱はお前だけだったというわけさ」

 

「まあ、ボクもボクの目的の為に君を利用するだけさ。君もそうなんだろう? 君の望む物の為に、ボクの力を利用するつもりなんだろう?」

 

 そう言いながらエックスは右手を開き、その中に入っていた真紅の玉をガグマへと投げて寄越した。それをキャッチしたガグマは、そのまま玉を自分の体に吸収する。

 

「まったく、人を呼び寄せていきなり滅茶苦茶なことを言うよね。でもまあ、ボクも楽しかったから、良しとさせてもらうよ」

 

 ガグマの姿を見つめていたエックスは、やがて彼が何かを求める様に自分のことを見ていることを察して指を鳴らした。すると、二人の背後にある扉が開き、そこから誰かが部屋の中に入って来た。

 

「……素晴らしいな。流石と言った所か」

 

「お褒めの言葉をありがとうね。さて、と……」

 

 ガグマに気のない返事を返しながら、エックスは手にしていたドライバーを謎の人影へと放り投げた。

 その人物がドライバーをキャッチしたことを確認してから、エックスは彼に語り掛ける。

 

「それ、返すよ。元々は君の物だろう?」

 

 エックスからドライバーを受け取った男がそのホルスターの中身を確認すると、中に自分の見覚えの無いカードが入っている事に気が付いた。

 『憤炎 アグニ』……そう銘打たれたカードを顔の前にかざす男に向けて、ガグマとエックスが口を開く。

 

「それはボクたちからのプレゼントさ。それを使って、思う存分に鬱憤を晴らすと良い!」

 

「期待しているぞ、我が新たなる配下……憤怒の魔人柱よ」

 

 魔王二人に声をかけられたというのにも関わらず、男は何の反応も見せないままドライバーを手に部屋から出ていこうとする。扉を開けて外に出る寸前、彼はこの部屋に入ってから初めて声を発して二人に話しかけた。

 

「……あいつらは俺にやらせろ……! 光牙も真美も、そして龍堂も……この俺が叩き潰してやる!」

 

 激しい怒りの感情を感じさせるその声にエックスとガグマは満足げな笑みを浮かべた。そして、男が出て行った部屋の中で語り始める。

 

「さて、どんな顔をするかな? 相手側の反応が楽しみだね」

 

「ああ、まさかかつての仲間と戦うことになるのだからな……!」

 

 趣味の悪い、黒い笑みを浮かべた二人の声が闇の中に響く。愉悦に満ちたその声は、部屋の中で反響してより不気味さを増していた。

 

 新たなる力、セレクトフォームを手に入れた勇。だが、敵もまた新たなる力を得て、現実世界に襲い掛かろうとしていることを今の彼らは知る由も無かった。

 

 




次回 「憤怒の魔人 出現」

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